118 / 120
エピローグ
⑤
しおりを挟む
「……もう、ケイタさんったらひとりで突っ走っちゃって。心配したんですよ?」
「サンキュー、シルヴィア。助かったよ。アイギスの遠隔操作もばっちりだった」
「ありがとうございます。……ですが、攻撃を逸らすので精一杯でした。あれを連続で撃てるのであれば、アイギスでも防ぎきれるかどうか……」
「マジかー。んじゃあ、最初から本気でいかないとまずいかもな」
アノレスは、新たに現れた魔動人形に驚きを隠せなかった。
ケイタの魔動人形は通常サイズの倍近くあるが、新たに現れた女性が乗っているであろう魔動人形は、それよりも更にふた回りほど大きい。
横幅も相応に長く、見た目から、かなり分厚い装甲を持つことが窺える。厄災竜の攻撃を防いだことから、防御に特化した魔動人形なのかもしれない。
そんな伝説等級にも匹敵しようかという規格外の魔動人形が二機も並んでいるのだ。サガミ家の戦力評価は、ケイタの乗る魔動人形一機が傑出しているものだと思っていたが、その考えを改めねばならないだろう。
そう思考していたのも束の間、アノレスは新たな影が近付いてくるのを察知していた。
「――っ!? なんだあれは!?」
四足獣のような影が三つ、アノレスたちへと接近している。翼がないことから、地竜の類いかと警戒していたが、すぐにそうではないことに気付く。
獣のうち一匹が立ち止まり、口を大きく開いた。獅子のような見た目のその獣は、たてがみを逆立て、口から熱線を放った。
その熱線は厄災竜の頭のひとつに直撃した。痛みの感情を伴う悲鳴を上げながら、厄災竜の身体が大きく揺らぐ。
「おっ、来たな」
他の獣はそのままアノレスたちのところへと直進してきており、合流を果たす。
近くで見るとはっきりわかるが、獣の形をしているものの、生物ではなく魔動人形だということが理解できた。
「とうちゃーく!」
「ったくよぉ……ひとりだけ飛べるからって先に行くなよな?」
「ごめんごめん。つい気分良くなっちゃってさ」
アノレスの脳は、限界を迎えようとしていた。さっきは伝説等級クラスの魔動人形が二機並んでいたことに戦慄していたが、おそらくはそれと同等の機体が、なんでもないことのように二機追加されたのだ。
それに、まだ合流をしていない、先ほど熱線を放った魔動人形も同様の戦力があるに違いない。
「待たせましたわね!」
そう考えていると、少し遅れて獅子の魔動人形が合流した。そして、聞き覚えのある声に、アノレスは魔動人形の中にいるにも関わらず、反射的に背筋をぴんと伸ばした。
そして、恐る恐る声をかける。
「フ、フラムローゼ様……ですか? なぜこのような場所に……?」
「あら、アノレスですの? 久方ぶりですわね。なぜ、と聞かれましても、国の危機に立ち向かうのは当然じゃなくって?」
「しかし、相手はあの厄災竜です! あなたのようなご身分の方が命を捨てるような真似は許容できません!」
「勘違いしないでくださる? わたくし、死地を求めてここへ来たわけではありませんわ。それに、今のわたくしの身分など、それほど大層なものではなくってよ」
フラムローゼが家族の反対を押しきり、家を出たことをアノレスは知っていた。その際に王族としての身分も捨てたことも。
とはいえ、王家との縁が完全に切れたわけではない。国王はいまだフラムローゼを気にかけており、しょっちゅう「娘は元気か」「辛い目にあっていないだろうか」などど、アノレスが知るよしもないことを問いかけてくるほど溺愛している。
そういった事情もあり、同じ戦場に立っていながらフラムローゼに万が一のことがあれば、国王に合せる顔がない。もちろん、厄災竜と戦って生きて帰れるとも思ってはいないのだが。
そんなアノレスの事情を知ってか知らずか、それでもフラムローゼは退く気はないようだった。
「しかし、それでは……!」
「アノレス」
食い下がるアノレスだったが、諭されるように名を呼ばれ、はっと息を飲んだ。
「あなたの立場上、そう言わねばならないのはわかりますわ。でも、心配しないで。わたくしと、わたくしの旦那様を信じなさい」
「…………わかりました」
アノレスはこれ以上、なにも言えなかった。悔しいが、今この場で厄災竜をどうにかできるとしたら、サガミ家をおいて他にない。
部隊を突撃させたところで、多少の時間稼ぎくらいにしかならないだろうということは、アノレス自身がよく理解していた。自分だけならまだしも、部下を無駄死にさせるわけにはいかない。
守るべき対象であるフラムローゼを送り出さねばならないという葛藤で唇を噛みながらも、渋々フラムローゼの戦いを了承する。
「ありがとうアノレス。あなたたちはこの場から下がって、厄災竜以外のドラゴンへの対処をお願い。なるべく人里へ向かわせないようにね」
「わかりました。……ですが、その役目は部下に任せます。私はフラムローゼ様の戦いを、その勇姿を、この目で見届けさせていただきます。どうかお許しくださいませ」
「……好きになさい」
「ありがたき幸せ」
アノレスは魔動人形を跪かせ、忠誠の意を表す。しばらくの間そうしていたが、沈黙を破るように、カティアが真剣な声色で言う。
「……おい、フラムローゼ。もう話し込んでる暇はないようだぜ? 見てみろ」
「サンキュー、シルヴィア。助かったよ。アイギスの遠隔操作もばっちりだった」
「ありがとうございます。……ですが、攻撃を逸らすので精一杯でした。あれを連続で撃てるのであれば、アイギスでも防ぎきれるかどうか……」
「マジかー。んじゃあ、最初から本気でいかないとまずいかもな」
アノレスは、新たに現れた魔動人形に驚きを隠せなかった。
ケイタの魔動人形は通常サイズの倍近くあるが、新たに現れた女性が乗っているであろう魔動人形は、それよりも更にふた回りほど大きい。
横幅も相応に長く、見た目から、かなり分厚い装甲を持つことが窺える。厄災竜の攻撃を防いだことから、防御に特化した魔動人形なのかもしれない。
そんな伝説等級にも匹敵しようかという規格外の魔動人形が二機も並んでいるのだ。サガミ家の戦力評価は、ケイタの乗る魔動人形一機が傑出しているものだと思っていたが、その考えを改めねばならないだろう。
そう思考していたのも束の間、アノレスは新たな影が近付いてくるのを察知していた。
「――っ!? なんだあれは!?」
四足獣のような影が三つ、アノレスたちへと接近している。翼がないことから、地竜の類いかと警戒していたが、すぐにそうではないことに気付く。
獣のうち一匹が立ち止まり、口を大きく開いた。獅子のような見た目のその獣は、たてがみを逆立て、口から熱線を放った。
その熱線は厄災竜の頭のひとつに直撃した。痛みの感情を伴う悲鳴を上げながら、厄災竜の身体が大きく揺らぐ。
「おっ、来たな」
他の獣はそのままアノレスたちのところへと直進してきており、合流を果たす。
近くで見るとはっきりわかるが、獣の形をしているものの、生物ではなく魔動人形だということが理解できた。
「とうちゃーく!」
「ったくよぉ……ひとりだけ飛べるからって先に行くなよな?」
「ごめんごめん。つい気分良くなっちゃってさ」
アノレスの脳は、限界を迎えようとしていた。さっきは伝説等級クラスの魔動人形が二機並んでいたことに戦慄していたが、おそらくはそれと同等の機体が、なんでもないことのように二機追加されたのだ。
それに、まだ合流をしていない、先ほど熱線を放った魔動人形も同様の戦力があるに違いない。
「待たせましたわね!」
そう考えていると、少し遅れて獅子の魔動人形が合流した。そして、聞き覚えのある声に、アノレスは魔動人形の中にいるにも関わらず、反射的に背筋をぴんと伸ばした。
そして、恐る恐る声をかける。
「フ、フラムローゼ様……ですか? なぜこのような場所に……?」
「あら、アノレスですの? 久方ぶりですわね。なぜ、と聞かれましても、国の危機に立ち向かうのは当然じゃなくって?」
「しかし、相手はあの厄災竜です! あなたのようなご身分の方が命を捨てるような真似は許容できません!」
「勘違いしないでくださる? わたくし、死地を求めてここへ来たわけではありませんわ。それに、今のわたくしの身分など、それほど大層なものではなくってよ」
フラムローゼが家族の反対を押しきり、家を出たことをアノレスは知っていた。その際に王族としての身分も捨てたことも。
とはいえ、王家との縁が完全に切れたわけではない。国王はいまだフラムローゼを気にかけており、しょっちゅう「娘は元気か」「辛い目にあっていないだろうか」などど、アノレスが知るよしもないことを問いかけてくるほど溺愛している。
そういった事情もあり、同じ戦場に立っていながらフラムローゼに万が一のことがあれば、国王に合せる顔がない。もちろん、厄災竜と戦って生きて帰れるとも思ってはいないのだが。
そんなアノレスの事情を知ってか知らずか、それでもフラムローゼは退く気はないようだった。
「しかし、それでは……!」
「アノレス」
食い下がるアノレスだったが、諭されるように名を呼ばれ、はっと息を飲んだ。
「あなたの立場上、そう言わねばならないのはわかりますわ。でも、心配しないで。わたくしと、わたくしの旦那様を信じなさい」
「…………わかりました」
アノレスはこれ以上、なにも言えなかった。悔しいが、今この場で厄災竜をどうにかできるとしたら、サガミ家をおいて他にない。
部隊を突撃させたところで、多少の時間稼ぎくらいにしかならないだろうということは、アノレス自身がよく理解していた。自分だけならまだしも、部下を無駄死にさせるわけにはいかない。
守るべき対象であるフラムローゼを送り出さねばならないという葛藤で唇を噛みながらも、渋々フラムローゼの戦いを了承する。
「ありがとうアノレス。あなたたちはこの場から下がって、厄災竜以外のドラゴンへの対処をお願い。なるべく人里へ向かわせないようにね」
「わかりました。……ですが、その役目は部下に任せます。私はフラムローゼ様の戦いを、その勇姿を、この目で見届けさせていただきます。どうかお許しくださいませ」
「……好きになさい」
「ありがたき幸せ」
アノレスは魔動人形を跪かせ、忠誠の意を表す。しばらくの間そうしていたが、沈黙を破るように、カティアが真剣な声色で言う。
「……おい、フラムローゼ。もう話し込んでる暇はないようだぜ? 見てみろ」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~
櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。
チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~
黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」
女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。
この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。
『勇者道化師ベルキッド、追放される』
『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。
戦場で死ぬはずだった俺が、女騎士に拾われて王に祭り上げられる(改訂版)
ぽとりひょん
ファンタジー
ほむらは、ある国家の工作員をしていたが消されそうになる。死を偽装してゲリラになるが戦闘で死ぬ運命にあった。そんな彼を女騎士に助けられるが国の王に祭り上げられてしまう。彼は強大な軍を動かして地球を運命を左右する戦いに身を投じていく。
この作品はカクヨムで連載したものに加筆修正したものです。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる