93 / 120
【三章】技術大国プラセリア
42.圧倒的な力
しおりを挟む
俺はサイクロプスを駆り、遠くに見える巨人の元へと向かっていた。
巨人の周囲では魔力と思われる光がいくつも瞬いている。
「あれは……もう交戦しているのか?」
しばらくして俺が巨人の元へと到着したとき、予想通り数機の魔動人形が既に交戦状態だった。といっても巨人の方は攻撃を受けているにも関わらず、意にも介さぬ様子でその歩みを止めることはなかった。
「あの質量だ……生半可な攻撃はほとんど意味がないみたいだな」
ライフルによる射撃は確かに命中している。だがそれは水面に石を投げ込んだ時のように、泥の表面にわずかな波紋を残すだけだった。
おそらくだが一定以下の出力の攻撃は有効打になり得ないのだろう。
「多分、『限界突破』を使えばダメージを与えられるぐらいの出力は出せるだろうけど……あれは時間制限がある。初っぱなから使うべきかどうか……」
切り札を早々に切るべきか迷っていると、後方から巨大な砲台のようなものが出現した。それは複数の魔動人形で支えられており、ケーブルのようなものが各機に接続されている。
既にチャージが完了していたのだろう。砲台が姿を現わすやいなや、その砲門より激しい閃光が迸った。
おそらくは先日戦ったピーコックキマイラの全集中ビーム砲に匹敵するその砲撃は、巨人の左肩部へ直撃し、着弾点に大きな穴を開けている。
「おお……すげぇ! あれなら――って、ええ!?」
有効打を与えられたと思ったのも束の間、泥がウネウネとうごめき、あっという間に穴が開いた部分を塞いでしまったのだ。
「くそっ、あんな高出力の砲撃でもまったく効いていないのか……!?」
いや、効いていないわけではないようだ。それまで悠々と歩き続けていた巨人が砲台へと振り返った。
それは、無視できる攻撃ではなかったことの証明にほかならない。どの程度の損傷かは計りかねるが、まったくの無傷とまではいかなかったようだ。
「邪魔をするな……愚民共が!」
苛立ちの混ざった低い声が巨人から発せられた。
これが実質的なプラセリアの支配者であるガオウの声か。その姿が見えないにも関わらず、その声を聞いただけで畏縮してしまうほどの威圧感だ。
正面から見た巨人の異様さも相まって、緊張感が高まっていく。
そして、砲台へと振り返った巨人はおもむろに両腕を前へと突き出した。
その両手の指先からは、ポタポタと大きな雫のようなものがこぼれ落ちている。
「なんだ……!? なにをしている?」
数秒もしないうちにその奇妙な行動の理由が明らかになった。滴る雫が地に落ちると、犬のようなシルエットの獣の形を取り、砲台へ向けて走り出したのだ。
「泥の一部を切り離して分体を作り出したのか!? それもこんな数を……!」
一体ごとの大きさはおおよそ三メートル程度と、魔動人形乗っている身からしては決して大きくはないが、問題はその数だ。
両手の指が合わせて十本。それぞれから数秒おきに雫が落ちる。結果、ものの一分足らずで百を超える泥の獣が生成されたのだ。
獣の群れは真っ直ぐに砲台へと走る。操作している様子が無いことから、おそらくは自立しての行動が可能なのだろう。
砲台以外には目もくれないことから、単一の命令しか与えられないのだと予測できる。
「まずいな、砲台を守らなきゃ……!」
命令がシンプルなぶん、その行動は迅速だ。ぼーっと見ている猶予はない。
あの火力を失うのはまずい。砲台の持ち主が誰だかは知らないが、破壊される前に犬っころの討伐に加勢させてもらおう。
俺はサイクロプスを操作し、ライフルを乱射しながら獣の群れの横っ腹に突撃する。
「へへっ、標的が多いと当て放題だなぁ!」
あの獣相手なら一般的な武装でも通用するようだった。適当にぶっぱなした射撃が直撃した数匹の獣は、霧のように消滅していく。
それを見ていた他の魔動人形も、俺に続き獣の群れに向かって攻撃を始めていた。あの砲台を防衛することが重要なのだと、誰もが認識したためだ。
いくら数が多かろうとも、これだけの魔動人形が揃えば殲滅は容易い。ひとまずは砲台の防衛は問題ないと思ったその時だった。
「ぐわぁぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
あちこちから叫び声が上がる。
慌てて周囲を見回すと、砲台の防衛に参加していた魔動人形うち数機が、どこからとなく現れた黒い槍に貫かれていた。
「な、なんだ!? この槍はどこから……?」
よくよく見れば、槍はかなり長い。元を辿るように視線を巡らせると、その槍は巨人から伸びたものだった。
俺は獣の群れに意識を割いていたので、巨人から直接的な攻撃があるなど想定していなかった。
それは他の操縦者も同じだったようで、誰一人として回避ができておらず、刺し貫かれた魔動人形は力なくうなだれている。
「なっ!? これは……魔動人形を吸収しているのか……!?」
黒い槍は貫通して空いた穴から侵食し始めており、数秒後には魔動人形全身を覆う繭のように形を変えていた。
繭は勢いよく巨人の元へと引き戻され、そのまま溶け込むようにして巨人の一部として吸収されてしまったのだった。
ただでさえ厄介な相手だというのに、これ以上強化されてしまうといよいよ手が付けられなくなってしまう。
戦闘が長引くと不利になると判断した俺は、唯一対抗できるであろう切り札を切る決断をする。
正直、少しでも攻略の糸口を掴んでから使うべきではあるが、状況がそれを許してはくれない。
俺は覚悟を決めると同時に、巨人の姿を見据え、深く呼吸を整えた。
巨人の周囲では魔力と思われる光がいくつも瞬いている。
「あれは……もう交戦しているのか?」
しばらくして俺が巨人の元へと到着したとき、予想通り数機の魔動人形が既に交戦状態だった。といっても巨人の方は攻撃を受けているにも関わらず、意にも介さぬ様子でその歩みを止めることはなかった。
「あの質量だ……生半可な攻撃はほとんど意味がないみたいだな」
ライフルによる射撃は確かに命中している。だがそれは水面に石を投げ込んだ時のように、泥の表面にわずかな波紋を残すだけだった。
おそらくだが一定以下の出力の攻撃は有効打になり得ないのだろう。
「多分、『限界突破』を使えばダメージを与えられるぐらいの出力は出せるだろうけど……あれは時間制限がある。初っぱなから使うべきかどうか……」
切り札を早々に切るべきか迷っていると、後方から巨大な砲台のようなものが出現した。それは複数の魔動人形で支えられており、ケーブルのようなものが各機に接続されている。
既にチャージが完了していたのだろう。砲台が姿を現わすやいなや、その砲門より激しい閃光が迸った。
おそらくは先日戦ったピーコックキマイラの全集中ビーム砲に匹敵するその砲撃は、巨人の左肩部へ直撃し、着弾点に大きな穴を開けている。
「おお……すげぇ! あれなら――って、ええ!?」
有効打を与えられたと思ったのも束の間、泥がウネウネとうごめき、あっという間に穴が開いた部分を塞いでしまったのだ。
「くそっ、あんな高出力の砲撃でもまったく効いていないのか……!?」
いや、効いていないわけではないようだ。それまで悠々と歩き続けていた巨人が砲台へと振り返った。
それは、無視できる攻撃ではなかったことの証明にほかならない。どの程度の損傷かは計りかねるが、まったくの無傷とまではいかなかったようだ。
「邪魔をするな……愚民共が!」
苛立ちの混ざった低い声が巨人から発せられた。
これが実質的なプラセリアの支配者であるガオウの声か。その姿が見えないにも関わらず、その声を聞いただけで畏縮してしまうほどの威圧感だ。
正面から見た巨人の異様さも相まって、緊張感が高まっていく。
そして、砲台へと振り返った巨人はおもむろに両腕を前へと突き出した。
その両手の指先からは、ポタポタと大きな雫のようなものがこぼれ落ちている。
「なんだ……!? なにをしている?」
数秒もしないうちにその奇妙な行動の理由が明らかになった。滴る雫が地に落ちると、犬のようなシルエットの獣の形を取り、砲台へ向けて走り出したのだ。
「泥の一部を切り離して分体を作り出したのか!? それもこんな数を……!」
一体ごとの大きさはおおよそ三メートル程度と、魔動人形乗っている身からしては決して大きくはないが、問題はその数だ。
両手の指が合わせて十本。それぞれから数秒おきに雫が落ちる。結果、ものの一分足らずで百を超える泥の獣が生成されたのだ。
獣の群れは真っ直ぐに砲台へと走る。操作している様子が無いことから、おそらくは自立しての行動が可能なのだろう。
砲台以外には目もくれないことから、単一の命令しか与えられないのだと予測できる。
「まずいな、砲台を守らなきゃ……!」
命令がシンプルなぶん、その行動は迅速だ。ぼーっと見ている猶予はない。
あの火力を失うのはまずい。砲台の持ち主が誰だかは知らないが、破壊される前に犬っころの討伐に加勢させてもらおう。
俺はサイクロプスを操作し、ライフルを乱射しながら獣の群れの横っ腹に突撃する。
「へへっ、標的が多いと当て放題だなぁ!」
あの獣相手なら一般的な武装でも通用するようだった。適当にぶっぱなした射撃が直撃した数匹の獣は、霧のように消滅していく。
それを見ていた他の魔動人形も、俺に続き獣の群れに向かって攻撃を始めていた。あの砲台を防衛することが重要なのだと、誰もが認識したためだ。
いくら数が多かろうとも、これだけの魔動人形が揃えば殲滅は容易い。ひとまずは砲台の防衛は問題ないと思ったその時だった。
「ぐわぁぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
あちこちから叫び声が上がる。
慌てて周囲を見回すと、砲台の防衛に参加していた魔動人形うち数機が、どこからとなく現れた黒い槍に貫かれていた。
「な、なんだ!? この槍はどこから……?」
よくよく見れば、槍はかなり長い。元を辿るように視線を巡らせると、その槍は巨人から伸びたものだった。
俺は獣の群れに意識を割いていたので、巨人から直接的な攻撃があるなど想定していなかった。
それは他の操縦者も同じだったようで、誰一人として回避ができておらず、刺し貫かれた魔動人形は力なくうなだれている。
「なっ!? これは……魔動人形を吸収しているのか……!?」
黒い槍は貫通して空いた穴から侵食し始めており、数秒後には魔動人形全身を覆う繭のように形を変えていた。
繭は勢いよく巨人の元へと引き戻され、そのまま溶け込むようにして巨人の一部として吸収されてしまったのだった。
ただでさえ厄介な相手だというのに、これ以上強化されてしまうといよいよ手が付けられなくなってしまう。
戦闘が長引くと不利になると判断した俺は、唯一対抗できるであろう切り札を切る決断をする。
正直、少しでも攻略の糸口を掴んでから使うべきではあるが、状況がそれを許してはくれない。
俺は覚悟を決めると同時に、巨人の姿を見据え、深く呼吸を整えた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる