87 / 120
【三章】技術大国プラセリア
36.追憶
しおりを挟む
「リン、パパとママは一緒にお出かけしてくるから、お利口さんにしているんだぞ?」
「えーっ! お出かけしちゃうの? リンもいく!」
「ごめんねリン、お仕事に関係した重要な用事なの。大丈夫、終わったらすぐに帰ってくるからね」
「……はーい」
「偉いぞリン。なあに、いつも通りたくさん遊んでいたら時間が経つのなんて、あっという間さ。お留守番できるね?」
「遊んでたらパパとママ早く帰ってくるの? じゃあ、いっぱい、いーっぱい遊ぶね!」
「いい子ね、リン。愛してるわ」
「僕もだよ」
「えへへー……」
――両親との最後の記憶。
リンは夢の中でその別れ際のやり取りを思い出していた。
ふと、記憶の中の自分と今の自分とが混ざり合い、衝動に駆られ父と母の背中を追いかける。
「パパ! ママ! 待って、行かないで!」
けれど、追えども追えどもその背中に追いつくことはなかった。あの時より成長し、歩幅が増した今の自分でも、どれだけ速く走ろうとも、その距離が縮まることはなかった。
むしろ、距離は広がり続けている。
「いやぁっ……!」
やがて、リンの両親は闇に飲まれるようにその姿を消した。
◇
「――っ!?」
リンの意識が覚醒する。夢の中で悲しい記憶を呼び起こされたため、その瞳からは涙が溢れていた。
「こ、ここどこ……? あれはなに……?」
精神状態が不安定なのに加え、見ず知らずの場所で目が覚めたので、リンはかつてないほどの混乱に陥っていた。
冷たい床、薄暗い空間、不気味に佇む魔動人形。そのどれもが不安をかきたてる。
「目が覚めたか」
低く響く声を背後から受け、リンは驚き飛び上がる。
振り向くと、背後に立つのは自身の倍を優に越える巨軀。そして、まるで塵芥でも見るような冷めた瞳。
圧倒的な威圧感を放つGODSの社長、ガオウその人だった。
「おじさん……だれ?」
しかし俗世に疎いリンはその顔を知らない。リンにとっては『でかくて怖いおじさん』程度の認識でしかなかった。
しかしガオウはリンの問いに答えることはなく、その首根っこを掴もうと手を伸ばしてきた。
「っ! やだっ!」
リンは伸ばされた手を反射的に躱し、ガオウとの距離をとる。捕まるべきではないと、本能的に感じたのだ。
「手間をかけさせるな。意識が回復していないと意味がないようなので待っててやったのだ。おとなしく我輩の思い通りに動け」
「……? やだよ! だっておじさん顔怖いもん!」
「二度も言わせるなよ……? いいからあそこに座るのだ」
「あっ、あれはパパとママの……!?」
ガオウが指差した方を見ると、そこには見覚えのある機械があった。そこには、かつてリンの両親が手掛けたイマジナリークラフターのプロトタイプが設置されていた。
思いがけないものが目に入り、リンは混乱してしまう。
「なんで? なんでここにあるの……?」
「簡単だ。お前の両親、ニャルディアル博士がここに直接持ち込んだのだ」
「――いつ!? パパとママがここに来たの!?」
危険とわかりつつも、リンはイマジナリークラフターの方に吸い寄せられるように歩き出す。
長年なんの音沙汰もなかった両親が手掛けたものが、このような場所にあるとは思ってもみなかったのだ。
「教えて欲しいか? ならまずはそこに座るがいい」
ガオウは両親と直接会ったと言っている。それがいつの話なのかはわからないが、少しでも情報を得たいリンは、言われるがままにイマジナリークラフターと接続された座席に座る。
すると、座席からリンの両手両足の位置に円環状の拘束具が出現し、体の自由が奪われてしまった。
「えっ!? やぁ……とれないよ……!」
「フハハハハ! 無駄だ、貴様程度の力ではびくともせんわ。さて、仕上げにかかるとしようか。……む? ネズミが紛れ込んだか。役立たずの衛兵どもめ」
この部屋の唯一の出入り口である扉の奥から、なにかがぶつかるような音と喧騒が聞こえてきていた。
それは徐々に近付いてきている。だがガオウは焦るわけでもなく、どっしりと待ち構えていた。
「えーっ! お出かけしちゃうの? リンもいく!」
「ごめんねリン、お仕事に関係した重要な用事なの。大丈夫、終わったらすぐに帰ってくるからね」
「……はーい」
「偉いぞリン。なあに、いつも通りたくさん遊んでいたら時間が経つのなんて、あっという間さ。お留守番できるね?」
「遊んでたらパパとママ早く帰ってくるの? じゃあ、いっぱい、いーっぱい遊ぶね!」
「いい子ね、リン。愛してるわ」
「僕もだよ」
「えへへー……」
――両親との最後の記憶。
リンは夢の中でその別れ際のやり取りを思い出していた。
ふと、記憶の中の自分と今の自分とが混ざり合い、衝動に駆られ父と母の背中を追いかける。
「パパ! ママ! 待って、行かないで!」
けれど、追えども追えどもその背中に追いつくことはなかった。あの時より成長し、歩幅が増した今の自分でも、どれだけ速く走ろうとも、その距離が縮まることはなかった。
むしろ、距離は広がり続けている。
「いやぁっ……!」
やがて、リンの両親は闇に飲まれるようにその姿を消した。
◇
「――っ!?」
リンの意識が覚醒する。夢の中で悲しい記憶を呼び起こされたため、その瞳からは涙が溢れていた。
「こ、ここどこ……? あれはなに……?」
精神状態が不安定なのに加え、見ず知らずの場所で目が覚めたので、リンはかつてないほどの混乱に陥っていた。
冷たい床、薄暗い空間、不気味に佇む魔動人形。そのどれもが不安をかきたてる。
「目が覚めたか」
低く響く声を背後から受け、リンは驚き飛び上がる。
振り向くと、背後に立つのは自身の倍を優に越える巨軀。そして、まるで塵芥でも見るような冷めた瞳。
圧倒的な威圧感を放つGODSの社長、ガオウその人だった。
「おじさん……だれ?」
しかし俗世に疎いリンはその顔を知らない。リンにとっては『でかくて怖いおじさん』程度の認識でしかなかった。
しかしガオウはリンの問いに答えることはなく、その首根っこを掴もうと手を伸ばしてきた。
「っ! やだっ!」
リンは伸ばされた手を反射的に躱し、ガオウとの距離をとる。捕まるべきではないと、本能的に感じたのだ。
「手間をかけさせるな。意識が回復していないと意味がないようなので待っててやったのだ。おとなしく我輩の思い通りに動け」
「……? やだよ! だっておじさん顔怖いもん!」
「二度も言わせるなよ……? いいからあそこに座るのだ」
「あっ、あれはパパとママの……!?」
ガオウが指差した方を見ると、そこには見覚えのある機械があった。そこには、かつてリンの両親が手掛けたイマジナリークラフターのプロトタイプが設置されていた。
思いがけないものが目に入り、リンは混乱してしまう。
「なんで? なんでここにあるの……?」
「簡単だ。お前の両親、ニャルディアル博士がここに直接持ち込んだのだ」
「――いつ!? パパとママがここに来たの!?」
危険とわかりつつも、リンはイマジナリークラフターの方に吸い寄せられるように歩き出す。
長年なんの音沙汰もなかった両親が手掛けたものが、このような場所にあるとは思ってもみなかったのだ。
「教えて欲しいか? ならまずはそこに座るがいい」
ガオウは両親と直接会ったと言っている。それがいつの話なのかはわからないが、少しでも情報を得たいリンは、言われるがままにイマジナリークラフターと接続された座席に座る。
すると、座席からリンの両手両足の位置に円環状の拘束具が出現し、体の自由が奪われてしまった。
「えっ!? やぁ……とれないよ……!」
「フハハハハ! 無駄だ、貴様程度の力ではびくともせんわ。さて、仕上げにかかるとしようか。……む? ネズミが紛れ込んだか。役立たずの衛兵どもめ」
この部屋の唯一の出入り口である扉の奥から、なにかがぶつかるような音と喧騒が聞こえてきていた。
それは徐々に近付いてきている。だがガオウは焦るわけでもなく、どっしりと待ち構えていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる