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【三章】技術大国プラセリア

35.消えた笑顔③

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「……なんか嫌な空模様だな。俺も早く戻ろう」

 いかにも雨が降りそうな天気だった。だが地下にさえ戻ってしまえば雨が降ろうとも関係がない。俺は小走りで地下へのハッチへと向かった。

「えと……たしかここだったよな?」

 地下への入り口はそこかしこにある。もし間違った場所から地下へ戻った場合、まったく知らない所へ行き着いてしまうのだ。
 そうなったら迷子待ったなしだ。その危険性があるので、周りの風景を思い出しながら、このハッチで間違いがないか念入りに確認する。

「……うん。ここだここ。間違いないぞ……ってよく見たら番号振られてるな。行き際に覚えておけばよかった」

 扉にはペンキかなにかで大きく番号が書かれていた。これを覚えておけば迷う必要はなかったのだが、今となっては時既に遅しってやつだ。
 
 ハッチを開けトンネル内を進むと、見覚えのある場所へとたどり着いた。ここまでくればもう安心だ。

「――ん? なんだか騒がしいな。何かあったのか?」

 住宅地を歩いていると、なにやら道行く人々が騒然としている。事件でもあったのだろうか、中には怯えている人もいた。

 不可解なのは、キャッツシーカーへと近付くにつれ人だかりができていることだ。

「まさか――」

 俺は嫌な予感がして、走り出した。

 リンとカティアの家、キャッツシーカーの周りには大勢の人が集まっており、進路を塞いでいた。

「おいおい、ひでえなこりゃ。住人は無事か?」
「GODSの仕業なんだって? あいつら好き勝手やりやがるぜ」
「俺も見たぞ、ありゃ確かにGODSの魔動人形だった。こんな住宅地で魔動人形動かしやがって……おかげでうちの屋根が半分ふっとんじまったよ」

 不穏な会話が耳に入り、背筋に冷たいものが走る。
 俺はいてもたってもいられなくなり、人混みへと突っ込んだ。

「すみません! 通してください! 通してっ……!」

 なんとか人混みを掻き分け、最前列を抜けた先、キャッツシーカーが。本来なら、見慣れた手書きの看板を下げた建物がそこにあるはずなのに、どこを探しても見当たらなかった。

 ただただ、瓦礫の山だけがそこに鎮座している。

「――っ! カティア!」

 瓦礫の近くで膝を突き、何度も地面を殴り付けていたカティアを見つけて、慌てて駆け寄る。

「クソッ……クソッ! なんだってすぐに追いかけなかったんだ! なんでリンを一人にしたんだ……! どうしてオレはこうもマヌケなんだよ……!」

「カティア! やめろ!」

 俺はカティアを羽交い締めにすることで、なんとかカティアの動きを止める。
 カティアの両手は、幾度も地面に打ち付けられてボロボロになっており、出血がひどい。

「落ち着けカティア! これ以上やったら拳が壊れるぞ!? なあ、いったいどうしたんだ? 何があった?」

「オレだってわかんねぇよ! 着いたらこの有り様だった! でも……確かにリンの匂いがする。まだ新しい匂いだ。今は消えかかってるが、リンは間違いなくさっきまでここにいたんだ!」

 鼻が利くカティアが言うのであれば間違いないだろう。リンはキャッツシーカーへと戻ってきていて、一人になったところに何かが起こったということだ。

「だから落ち着けって! ……匂いが消えかかってるってことは、リンは今はここにいない。どこかに移動したのかもしれないぞ!?」

「けどよぉ……! これを見て無事だと思うのかよ!?」

 カティアが指差したのは瓦礫の山だ。もともとは彼女らの家だったもの。もはや、元の形がどのようだったのかわからないほどにバラバラになっている。
 確かにこの有り様では、リンが家の中に居たのならば助かる可能性は極めて低いだろう。だからといって嘆いていても埒が明かない。すぐにでも捜索をするべきだろう。

「あのぉ……」

「ん?」

 魔動人形を使うと危険なので、素手で瓦礫を少しずつどかしていこうかと思案していると、群衆の中から女性が一人、俺たちの近くへ寄ってきた。

「私、見たんです。たまたま近くを通りがかってたんですけど、この建物の中から急に魔動人形が現れたんです。それで……見間違いでなければ、小さい女の子と何かの装置のようなものを手の平に乗せて、あっちの大型ハッチへと向かっていきました」

「ほ、本当ですか!? 教えてくれてありがとうございます! ほらカティア、聞いたか!? リンは無事だ!」

 偶然一部始終を目撃した近隣住民からの情報により、リンが無事である可能性が高まった。

「リンは無事なのか……?」

「さっきGODSの仕業だと言っていた人がいたんだ。多分犯人はGODSの人間だよ。でも、目的がなんなのかがわからないんだけど……カティア、心当たりはあるか?」

「GODS……大型ハッチということは、本社が近い……まさか!?」

 何か思い当たる節があったらしい、カティアはガバッと立ち上がり、倉庫に駐車していたため無事だったバイクを引っ張り出し、間髪を入れずに発車する。

「お、おいカティア!? 待てって――――行っちゃったよ……」

 一人取り残された俺は、カティアを放っておくわけにもいかず、走って後を追いかける。
 
「ったく、カティアのやつ、拳を痛めてるのに無茶しやがって……! っていうか滅茶苦茶遠いなぁ!」

 早々に荒くなる呼吸に、我ながら体力無いなと呆れてしまう。しかし、一刻を争う状況だというのはなんとなく感じている。

 俺は、がむしゃらに大型ハッチがある方角へと走り続けた。
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