85 / 120
【三章】技術大国プラセリア
34.消えた笑顔②
しおりを挟む
「ふぃー、食った食った……」
食事を終え、料理をこれでもかと平らげた俺は、膨れた腹をさすりながら小休止していた。
この店はバイキング形式になっていて、俺なんかは好きなものを好きなだけ食べていたのですぐ満腹になってしまったが、リンやカティアはちびちびと様々な料理を楽しんでいた。
「ケーくんごちそうさま? じゃあリンちょっといってくるね!」
リンが席を立って、すたこらと店内へと消えていった、また別の料理を取りにでも行ったのだろう。
「ったく、アホみたいに食ったな……食べ放題だからいいけどよ」
「いやあ美味かったもんで、ついな。シルヴィアの料理といい勝負してるぞ」
「――――わりぃな、急に連れ出すようなことしちまってよ。アークライトで快適な生活を送っていただろうによ。嫁とも引き離しちまったしな」
「――あっ、いや今のは決して嫌味だとか、そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」
さっき考えていたこともあり、ついポロっとシルヴィアの名前を出してしまった。俺の言葉が嫌味だと捉えられてしまったのか、カティアが神妙な面持ちで謝罪の言葉を述べた。
「ああ、ケイタがわざとらしくそんなことを言うヤツじゃないってのはわかってる。でもな、オレの独りよがりでケイタをこの国へ連れてきたこと、今となっては後悔している。自分の目的のために他人の人生を狂わせるだなんて、GODSの連中とやってることは同じじゃないか……ってさ」
「カティア……でも俺は――」
「言わなくてもいい。アンタがとんでもないお人好しだってのは、十分わかってるよ。オレの責任じゃないって言いたいのかもしれねぇが、ケジメはつけないといけねぇ」
カティアがここまで責任を感じていたなんて知らなかった。気にするなと言いたいところだけど、この感じだと逆効果きもしれない。
「……コンペティションが終わったら、俺が命を賭けてもアークライト王国へ送り届けてやる。もちろんケイタ負けたとしても文句をつけるつもりはねぇ。結果がどうあれそこは約束する。オマエだって家が恋しいだろ?」
「そう……だな。ここでの生活も悪くないけど、俺の帰りを待ってる人がいるから、ずっとここにいるわけにはいかないよ」
パリーン!
そう俺が言い終えると、背後で皿が割れる音がした。
「――リン?」
振り返ると、そこにはリンが呆然と立ち尽くしていた。その足下には二枚の割れた皿と、そこに乗っていたであろう料理が散乱していた。
「リン、大丈夫か? 怪我は――」
「…………ちゃうの?」
「え?」
リンは力なく俯いたままボソッと呟いたので、ほとんど聞き取れなかった。あまり彼女らしくないそのふるまいに心配になり、席から立ち上がった。
「ケーくんも、いなくなっちゃうの……?」
リンは顔を上げてそう言った。今度ははっきりと聞こえたのだが、言葉の意味を理解する前に、彼女の表情に驚き、呆然としてしまう。
その瞳からは涙が溢れていた。大粒の涙が頬を伝い、ポタポタと顎先からこぼれ落ちている。どうして泣いているのか、それがわからないまま、リンへと伸ばしかけた手が中空で静止してしまっていた。
「リン……聞いてたのか? ――あっ、おい!」
カティアが声をかけるが、リンは涙を拭いながら店の外へと走り去ってしまう。消え行くその後ろ姿を見て、俺はようやく我に返った。
「カティア! リンを追いかけないと……!」
「……いや、いい。他に行く当てもないだろうし、多分キャッツシーカーに帰ったんだろう。落ち着いた頃に戻れば大丈夫さ」
「でも、どうして急にあんな……」
直前まではあんなにニコニコとしていたのに、急に号泣するだなんて普通じゃない。俺とカティアの会話を聞いていたようだったけど、何か引っ掛かる部分があったのだろうか。
「リンは『別れ』に敏感なんだ。ケイタが国へ帰ると聞いて、突然いなくなった両親と重ねちまったんだと思う。……ケイタは一時的に協力してプラセリアにいるだけだって、リンにはっきりと言わなかったオレの説明不足が原因だ。あんなに懐いてる姿を見てると、なかなか言い出せなくてよ……すまねぇ」
「カティアのせいじゃないさ。俺からも言っておくべきだった」
「ありがとな、そう言ってくれると少しは気が楽になるぜ。さ……とりあえず汚れた床を片付けないとな」
この後俺とカティアで協力して、汚れた床を掃除した。店の人に任せればよかったかもしれないけど、全面的にこちらが悪いので、そこはきちっと自分たちで処理をする。
そして、しばらくして店を出て帰路に着く。
少し気まずい雰囲気で、お互いに言葉を発することのないまま歩き続けていた。
「……ケイタ、すまねぇ。先に帰るぜ」
平気なふりをしていたけれど、やはりリンのことがずっと気になっていたのだろう。カティアはそう言うと、俺の返事を待たずに走り出した。
「――俺も、あとでリンに謝らなくちゃな」
ふと空を見上げると、快晴だった空に暗雲が漂い始めていた。
食事を終え、料理をこれでもかと平らげた俺は、膨れた腹をさすりながら小休止していた。
この店はバイキング形式になっていて、俺なんかは好きなものを好きなだけ食べていたのですぐ満腹になってしまったが、リンやカティアはちびちびと様々な料理を楽しんでいた。
「ケーくんごちそうさま? じゃあリンちょっといってくるね!」
リンが席を立って、すたこらと店内へと消えていった、また別の料理を取りにでも行ったのだろう。
「ったく、アホみたいに食ったな……食べ放題だからいいけどよ」
「いやあ美味かったもんで、ついな。シルヴィアの料理といい勝負してるぞ」
「――――わりぃな、急に連れ出すようなことしちまってよ。アークライトで快適な生活を送っていただろうによ。嫁とも引き離しちまったしな」
「――あっ、いや今のは決して嫌味だとか、そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」
さっき考えていたこともあり、ついポロっとシルヴィアの名前を出してしまった。俺の言葉が嫌味だと捉えられてしまったのか、カティアが神妙な面持ちで謝罪の言葉を述べた。
「ああ、ケイタがわざとらしくそんなことを言うヤツじゃないってのはわかってる。でもな、オレの独りよがりでケイタをこの国へ連れてきたこと、今となっては後悔している。自分の目的のために他人の人生を狂わせるだなんて、GODSの連中とやってることは同じじゃないか……ってさ」
「カティア……でも俺は――」
「言わなくてもいい。アンタがとんでもないお人好しだってのは、十分わかってるよ。オレの責任じゃないって言いたいのかもしれねぇが、ケジメはつけないといけねぇ」
カティアがここまで責任を感じていたなんて知らなかった。気にするなと言いたいところだけど、この感じだと逆効果きもしれない。
「……コンペティションが終わったら、俺が命を賭けてもアークライト王国へ送り届けてやる。もちろんケイタ負けたとしても文句をつけるつもりはねぇ。結果がどうあれそこは約束する。オマエだって家が恋しいだろ?」
「そう……だな。ここでの生活も悪くないけど、俺の帰りを待ってる人がいるから、ずっとここにいるわけにはいかないよ」
パリーン!
そう俺が言い終えると、背後で皿が割れる音がした。
「――リン?」
振り返ると、そこにはリンが呆然と立ち尽くしていた。その足下には二枚の割れた皿と、そこに乗っていたであろう料理が散乱していた。
「リン、大丈夫か? 怪我は――」
「…………ちゃうの?」
「え?」
リンは力なく俯いたままボソッと呟いたので、ほとんど聞き取れなかった。あまり彼女らしくないそのふるまいに心配になり、席から立ち上がった。
「ケーくんも、いなくなっちゃうの……?」
リンは顔を上げてそう言った。今度ははっきりと聞こえたのだが、言葉の意味を理解する前に、彼女の表情に驚き、呆然としてしまう。
その瞳からは涙が溢れていた。大粒の涙が頬を伝い、ポタポタと顎先からこぼれ落ちている。どうして泣いているのか、それがわからないまま、リンへと伸ばしかけた手が中空で静止してしまっていた。
「リン……聞いてたのか? ――あっ、おい!」
カティアが声をかけるが、リンは涙を拭いながら店の外へと走り去ってしまう。消え行くその後ろ姿を見て、俺はようやく我に返った。
「カティア! リンを追いかけないと……!」
「……いや、いい。他に行く当てもないだろうし、多分キャッツシーカーに帰ったんだろう。落ち着いた頃に戻れば大丈夫さ」
「でも、どうして急にあんな……」
直前まではあんなにニコニコとしていたのに、急に号泣するだなんて普通じゃない。俺とカティアの会話を聞いていたようだったけど、何か引っ掛かる部分があったのだろうか。
「リンは『別れ』に敏感なんだ。ケイタが国へ帰ると聞いて、突然いなくなった両親と重ねちまったんだと思う。……ケイタは一時的に協力してプラセリアにいるだけだって、リンにはっきりと言わなかったオレの説明不足が原因だ。あんなに懐いてる姿を見てると、なかなか言い出せなくてよ……すまねぇ」
「カティアのせいじゃないさ。俺からも言っておくべきだった」
「ありがとな、そう言ってくれると少しは気が楽になるぜ。さ……とりあえず汚れた床を片付けないとな」
この後俺とカティアで協力して、汚れた床を掃除した。店の人に任せればよかったかもしれないけど、全面的にこちらが悪いので、そこはきちっと自分たちで処理をする。
そして、しばらくして店を出て帰路に着く。
少し気まずい雰囲気で、お互いに言葉を発することのないまま歩き続けていた。
「……ケイタ、すまねぇ。先に帰るぜ」
平気なふりをしていたけれど、やはりリンのことがずっと気になっていたのだろう。カティアはそう言うと、俺の返事を待たずに走り出した。
「――俺も、あとでリンに謝らなくちゃな」
ふと空を見上げると、快晴だった空に暗雲が漂い始めていた。
5
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する
大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。
少年の名はユーリ・グランマード。
剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。
先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。
生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。
その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。
しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。
ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。
有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。
【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。
そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。
ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。
そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。
魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。
その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる