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【二章:閑話】

シルヴィア回想編⑤

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 帰りの道中、たくさんお話をしました。

 私の暮らすこの国のこと、そして私の家のこと。
 記憶がないこともあってか、とても興味深そうに聞いていたのが印象的でした。

 そして命の恩人であるにも関わらず、年も近いので対等な関係でいたいとおっしゃっていただきました。
 本来なら身に余る光栄なのですが、僭越ながらも『ケイタさん』と呼ばせていただくことになりました。

 家へと帰りケイタさんを両親に紹介したあと、ひとまずはヴァイシルト家の客人として迎え入れることとなります。
 
 そして、ケイタさんを部屋へと案内して別れたあと、朗報が舞い込みました。

「シルヴィア、偶然だがなんとか魔動人形を手に入れることができたぞ」

「本当ですかお父様!?」

 市場から消えていた魔動人形を入手できたのは僥倖です。

「ああ、少し前にドラゴンが近くを通ってな。幸い上空を通りすぎただけなのだが……なぜだかその時スライムが降ってきたのだ」

「スライムが……?」

「ああ、そのスライムが偶然にもアーティファクトを体内に取り込んでいたのだ。一般等級ではあるが……奇跡としか言いようがない」

「まあ……!」

 なんという偶然……いえ、偶然と言うには出来すぎています。
 ケイタさんが現れてからというもの、私にとって幸運なことが立て続けに起きているような気がします。

 それを裏付けるかのように、ケイタさんは人形技師としての実力を発揮し、素晴らしい出来映えの魔動人形を完成させました。

 そしてカマセーヌさんに宣戦布告し、自らが魔動人形に搭乗して、圧倒的不利な状況を覆して見事勝利を収めたのです。

 私たちのために怒ってくれたこと、そして奇跡的な勝利……勝利の歓声が聞こえなくなるくらい、この時私の心はケイタさんへの恋慕の情で満ちていました。

 私などがこんな素晴らしい方を想っても迷惑でしょうし、今はただお側にいることが私の望みです。


 ――ですがある日、第二王女様より決闘を催促する書状が届き、結果次第ではケイタさんが王宮へと行ってしまう可能性が出てきたのです。
 ケイタさんのあの活躍を見れば声がかかるのは当然ですが、私としては複雑な心境でした。

 しばらくの間はお側にいられるものだと思っていたのですが、このままでは離ればなれになってしまいます。

 今回の決闘は二対二の戦い……結果を他人の手に委ねたくなかった私は、突発的にケイタさんのパートナーへと立候補してしまいました。
 でも後悔はありません。私だって訓練は受けているのです、足手まといにならないよう全力でサポートしますよ!

 ――しかし意気込んで挑んだその結果、決闘で見事に勝利を収めることができたものの、結局はケイタさん一人の力で勝ったようなものでした。
 自分の実力不足を改めて痛感します。あの方の隣に立つには、アイギスを使いこなせるぐらいでないと……まだまだ修行が足りないようですね。

 今回はあまりお役に立てませんでしたが、勝ちは勝ちです。これでケイタさんはヴァイシルト家に残ってくれるはず……そう思っていたのですが、数ヶ月後に予想外の事態が起こります。

「――旦那様!」

 え……?

 第二王女のフラムローゼ様がいらしたのですが、なぜだかケイタさんのことを『旦那様』と呼ばれるのです。
 どうもケイタさんに嫁入りするために、王族の身分を捨ててまでここまで来たようでした。

 だ……だめです!

 結婚なんて認められません!

 しかし私の心の中の叫びも虚しく、ケイタさんとフラムローゼ様の結婚の話しはトントン拍子に進んでいきました。
 ケイタさんは優しいですから、身分を捨て着の身着のままでここまで来た覚悟を汲み取ったのでしょう。

 もはやこの婚姻は決定事項のようです……。

 しかも新居まで手配済みだとか。結婚をして新天地へ旅立つ……本来なら祝福すべき場面なのでしょうが、私の心はもやもやとしたまま……。
 
 このままではケイタさんとの縁が切れてしまう。そう思った私はある決意を固めました。
 そしてその事をお父様やお母様に伝えます。

「お父様、お母様、お願いがあります。私……私もケイタさんと婚姻を結びたく思います。このままお別れをしたら一生後悔する気がするんです。突拍子もないお願いですがどうかお許しください」

「……シルヴィア、前にも言ったが私はお前の気持ちを尊重するよ。お前の思うように行動しなさい」

「ふふ……シルヴィアったら、ここ最近ケイタくんにぞっこんだったものね。いいこと? フラムローゼ様が相手だからって遠慮しない方がいいわよ。ガッチリとハートを掴んできなさいな」

「お父様……お母様……ありがとうございます!」

 反対されるものだとばかり考えていましたが、両親はすんなりと受け入れてくれました。
 お母様に至っては秘めていたはずの私の想いを見透かされていたようで、少し気恥ずかしいです。

「ケイタ・サガミ……ヴァイシルト家にとって彼は大恩人だ。そしていずれ大きなことを成し遂げる……そう思わせてくれる人物だ。私に異論はないよ」

「そうね。……ああ、でもシルヴィアが出ていっちゃうとヴァイシルト家を継ぐ子がいなくなるわねぇ。ケイタくんとの子供は何人つくる予定なのかしら?」

「こ……子供!? ま、まだそんなこと考えてないですよ、お母様! それに、まだケイタさんの承諾も得られていませんし……」

 私は一人娘ですから跡継ぎの問題が出てくるのはわかりますが……子供だなんて気が早いですよ。
 それにケイタさんが私を受け入れてくれるかは未知数です。嫌われてはいないと思うのですが……ああ、これから伝えると思うと心臓が張り裂けそうです……!

「大丈夫よシルヴィア。ケイタくんもシルヴィアのこと好きだと思うわよ」

「ほ、本当ですかお母様……」

「ええ、女の勘よ」
 
 ――その後、勇気を出してケイタさんに私の気持ちを伝えると、お母様の予想通りケイタさんは私を受け入れてくれました。

 こうして、私とケイタさん、そしてフラムローゼ様との共同生活が始まったのです。
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