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【二章】爆・炎・王・女

14.圧倒的火力

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 煙がうっすらと晴れてくると、そこには大きな影が一つ。ガレオニクスの僚機が、身の丈ほどの大盾を両手に構え立ちはだかっていたのだ。
 フルフェイスの西洋兜のような頭部の隙間からは、メインカメラの光が漏れ、「それで終わりか?」などと言っているように感じられた。

 どうやら全ての攻撃はあの大盾に防がれたらしい。

『なんと、あれだけの攻撃を受けても無事なようです! さあ、ここから両陣営はどう動くのかぁ!?』

「くっ、ノーダメージかよ……! シルヴィア、プランBだ!」

「わかりました、先行します!」

 相手はこちらが魔力を使い果たして攻めて来ないと思っているはずだ。その隙を突くように、機動力に優れた二機で一気に間合いを詰める作戦がプランBである。

 まずは俊敏性が高いワルキューレが先行し、その後にシルバライザーが続く。二機共に、既に武装は初期のものに持ち変えていた。
 
 スラスターを惜しみなく噴かして、盾を構えた機体を迂回し、その背後にいるであろうガレオニクス目掛けて接近する。

 しかし、予測していた場所にはガレオニクスの姿はなかった。

「――っ!? とこだ!?」

 ガキィィィンッ!!

 金属がぶつかり合う音が響く。音のした方角を見ると、ワルキューレとガレオニクスがお互いの武器をぶつけ、つばぜり合いをしていた。

「くっ、動きが読まれていたのか!? いや……」

 普通だったらあれだけの攻撃の後であれば、しばらく様子を伺ったりして慎重になってもおかしくないと考えていたのだが、その考えは甘かったようだ。
 あの王女様ときたら、勇猛なのか動物的勘が働いたのかどちらかなのかはわからないが、爆煙が晴れきる前に攻勢に出たのだ。そして旋回して近づくワルキューレとかち合ったというわけだ。

 だがやはりと言うか……ワルキューレがぐいぐいと押し込まれている。純粋な機体パワーでは完全に相手に分があるようだ。

「シルヴィア!」

 ガレオニクスに照準を合わせ射撃するも、予測していたのか、余裕をもって回避されてしまう。しかも回避した後、即座にワルキューレに向かって剣を振りかぶっていた。

「あなた、なかなかやりますわね!」

「フラムローゼ様にお褒めいただけるとは、光栄です……!」

 ワルキューレとガレオニクスは何合か打ち合い、近接戦を繰り広げている。しかし、ワルキューレはなんとか凌いでいるといった感じだ。素人目には操縦者の技量には大差がないように見えるが、その分機体の性能差が顕著に現れている。

「援護しなくちゃ……くそっ、位置取りが上手い!」

 シルヴィアを助けようとライフルを構えるも、巧みな位置取りで、俺の射線上にワルキューレを置くようにコントロールして戦っている。
 照準補助があるとはいえ、発射のタイミングは俺次第だ。最悪の事態を考えると、俺は引き金を引くことができなかった。

「――ああっ、クソっ!」

 盾持ちの機体が俺の前へと立ち塞がる。重装騎士のような見た目どおりに動きは遅いが、俺が躊躇っている間に完全に射線を切られてしまった。

「シルヴィア! 一旦退こう、下がれるか!?」

「大丈夫です、いけます!」

 シルバライザーとワルキューレは仕切り直しのためその場から踵を返し、敵と距離を取った。

『ケイタ・サガミ陣営、たまらず後退していきます! やはり実力差は歴然なのかぁ!?』

 しかし、おかしなことにガレオニクスからの追撃はない。それどころか剣を収め威風堂々と佇んでいるだけだ。

「――? なんだあの余裕は」

「わたくしから距離を取るなど、愚の骨頂ですわ。今からそれを証明してみせましょう!」

 なんだ……何をするつもり――――っ!?

 ガレオニクスの胸部にある獅子の目が光を帯びていた。まるで、魔力を収束しているかのように、粒子が獅子へと集中している。

「まさか……これがあの……!?」

 たったの一撃で数百もの魔物を屠ったとされる技が来るのか!?

 射撃して発動を妨げようとしたものの、スラスター全開で急接近と急速離脱をした影響で、機体の魔力残量が心許ない。
 残弾式の武器はすべて撃ち尽くしてしまった。もし無理して射撃した場合、妨害に成功すればいいが、もし失敗した場合は回避行動に使う魔力が無くなってしまうのだ。

 ワルキューレの方もこっちと同じ状況だろう。一歩間違えば全滅もありうる状況なので危険な賭けには出られない。

「さあ、いきますわよっ!」

 魔力の充填が完了したのだろう。獅子の口が開き、蓄えられた魔力が今にも溢れだしそうだった。

「受けなさい、アークフレアブラスター!!」

「全力回避だっ!」

「はいっ!」

 シルバライザーとワルキューレは同じ方向へとスラスターを噴かし、ガレオニクスの射線から外れた。その直後、強大な魔力の奔流がさっきまで俺たちがいた位置へと流れ込む。

「よし、躱したぞ!」

 ……と、思っていたのだがそう甘くはなかった。回避に成功したと思いきや、魔力の奔流は止むこと無いどころか、こちらを追従してきている。

「――っ!? うっそだろ、照射型のビームかよ!?」

 シルバライザーのライフルとは違い、照射型の攻撃は一定範囲に魔力波を照射し、その間ダメージを与え続ける。しかも僅かではあるが機体を旋回させることができるみたいで、一度避けられたとしても追ってくる怖さがある。

 これならば数百の魔物を屠ったと言われても納得だ。圧倒的な高威力に加え攻撃範囲を持つ、いわば広域殲滅兵器だからな。

「って、そんなこと考えてる場合じゃねぇな!」

 ぐいぐいと魔力波が迫り来る。距離を取ってしまったのが仇になったな……。近距離なら相手の後方に回り込むのは簡単なんだけど、この距離だと横に避けるので手一杯だ。

「まだか……! まだ続くのか!?」

 時間の感覚が引き伸ばされている。この一秒一秒が永遠のようにも感じられた。
 ふと後方を見ると、ちょうど魔力が切れたのか、ワルキューレが不意に失速したのだ。

「シルヴィアっ!」

「ケイタさんっ!」

 シルバライザーの手がワルキューレの手を掴んだ。

 お互い、無意識のうちにとっさに手を伸ばしたのが功を奏した。この高速移動の中で手を掴めたのは奇跡に近いだろう。

 失速するワルキューレを引き寄せ、残る僅かな魔力を全て注ぎ、必死で逃げる。
 途中、バランスを崩して倒れ込みそうになるが、操縦補助の効果で自動的に体勢を立て直したところで、魔力を使い果たした。

 高速移動による慣性で、砂塵を巻き上げながら地面を滑る俺たちの機体は、やがてその動きを止めた。
 それと同時に、すれすれのところでアークフレアブラスターの照射が終了した。本当にギリギリだった。

「はぁ……はぁ……」

 俺自身が体を動かしていたわけではないにも関わらず、息が上がってしまう。それほどまでの圧力、危機を感じていたのだ。

 その威力たるや、地形を変えるほどの凄まじさだった。
 直接ビームを照射されていたわけでもない地面が赤熱し、辺り一面の地表が溶岩のような状態に変化している。

 天変地異とも呼べるその驚くべき光景に、俺は思わず息を飲んだ。
 
 
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