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【二章】爆・炎・王・女
2.果たし状
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「ケイタさん、ケイタさん! 起きていますか? 至急執務室まで来ていただけますか」
「――んぁ!?」
ある日の朝、惰眠を貪っていた俺は、扉を叩く音で目が覚めた。
「な、なんだなんだ!?」
慌てて飛び起きて扉を開けると、シルヴィアが狼狽えた様子で俺の部屋の前に立っていた。
やっべ、働かない俺にしびれを切らして、追放を宣言しに来たのか!?
「ケイタさん、お休みのところ申し訳ございません。火急の用件がありますので、執務室までお越しください」
どうやら追放宣言ではなかったようだ。俺はひとまずほっと胸を撫で下ろす。
でも口ぶりからしてあまり良いことではなさそうだな。嫌な予感しかしない。
「ああ、わかったよ。着替えたらすぐ行く」
そのあとぱぱっと着替えて、シルヴィアと二人でエドワルドさんが待つであろう執務室へと入室した。
「お父様、失礼します。ケイタさんを連れてまいりました」
「うむ。ご苦労だった」
「おはようございます。エドワルドさん。それで……俺に何か用件があるんですか?」
どんな話があるのだろうか。緊張のあまり早鐘のように心臓が高鳴る。
こっちの世界に来てから数日は慌ただしく過ぎていったが、ここしばらくは平穏な日々を送っていたので完全に油断していた。
「うむ……実はな、王宮よりサガミ殿宛に書状が届いていてな。これだ。差出人はフラムローゼ様だ、王族の書状を勝手に確認するわけにもいかなかったので中身はまだ見ていない。だから受け取り人であるサガミ殿に確認してもらいたのだ」
俺はエドワルドさんから書状を受け取り、さっと目を通した。
「えっと、なになに……『サガミ・ケイタを賭けた魔動決闘を申し込みます』だって!? なんじゃこりゃ!?」
「ケイタさんを……!? いったいどういうことですか!?」
それは俺も聞きたい。人物そのものを賭けた決闘なんて、本人の同意無しに成立するものなのか?
まぁ……多分俺を引き抜こうって話だよな。あの王女様別れ際に怖いこと言ってたし。
「あー……多分、前に王女様が俺を王宮専属の人形技師へ引き抜こうとしてたんだ。その時は断ったんだけど、どうやらまだ諦めてなかったらしい」
「そんな……ケイタさんはここを出ていかれてしまうのですか!?」
「いや、俺にはそのつもりはないんだけどね」
あの王女様……しばらく音沙汰が無いと思ってたんだが、果たし状を送りつけてくるなんてだいぶ強引な手段をとってきたな。人道的にいかがなものだろうか。
い……いや、最後に『冗談でーす』とか書いてるかもだし、とりあえず全部きちんと読んでみよう。
「――決闘は10日後。対戦形式は二対ニのタッグマッチ。サガミ・ケイタは必ず出場すること。俺が勝てばなんでも願いを叶える……か」
ふーん。魔動決闘にはタッグマッチ戦もあるんだな。面白そうだ……っていやいや! 勝ったら願いを叶えてくれると破格の報酬を提示したとはいえ、相手は王族だ。どうせ金に物を言わせた戦力で来るんだろ。
そんなん負けるに決まってるじゃん。俺を専属の人形技師にするための予定調和じゃん!
「ちなみにこれ……断ったりってできます?」
書状に『冗談』の文字は一切なく、ガチの果たし状だった。
でもこれは相手が一方的に取り決めたことであって、俺が応じる必要はないんじゃないかと、そう思った。
「うむ。本来ならこういった大きなものを賭けるような正式な決闘は、お互いの同意のもと執り行うのが普通だ。だが、今回は相手が悪い……第二王女たっての願いとあらば、無下にはできんだろう」
やっぱそうなるよね……。はぁ、これで俺も王宮行き確定か。ストレスに耐えられるかな……。
「そんなの横暴です! ケイタさんは物じゃありません! 王族だからって好き勝手にさせられないです!」
おおう、シルヴィアが珍しく怒っているな。
そうだよな……シルヴィアたちともせっかく仲良くなれたんだ、俺だってこんな形で別れたくはない。
……よし、勝ちにいこう。決めたぞ、勝ってあの高慢ちきな鼻をへし折ってやる。
「大丈夫だよシルヴィア。俺、絶対勝つからさ」
「ケイタさん……」
手元には銀等級の魔動人形であるシルバライザーもある。
前の決闘より確実に戦力は上がっているんだ。また下克上を見せてやろうじゃないか。
「ようし、そうと決まれば特訓だ! エドワルドさん、闘技場って貸し切れたりします?」
新しく試したいこともある。そのためには魔動人形に乗る必要があった。しかしその辺で乗るわけにもいかない。
当たり前だが市街地で魔動人形を起動させるのは、法律的に禁止されているのだ。
それに、闘技場内であれば万が一があっても怪我はしないし、魔動人形も元通りになる。特訓するにはもってこいだ。
「うむ……使わせてやりたいのは山々なのだが、闘技場は国営の施設なのだ。私の一存ではどうにもならないのだよ」
「そ、そんなぁ……」
最悪ぶっつけ本番になる可能性が高い。俺の操縦技術もまだまだだし、勝つのは厳しいかもな……。
「サガミ殿、特訓もいいが……それより、もう一人のメンバーはどうするのだ?」
「――――あっ」
俺は、自分の事で精一杯で、今回の決闘の勝利の鍵となる重要な要因。タッグパートナーのことがすっぽりと頭から抜け落ちていたのだった。
「――んぁ!?」
ある日の朝、惰眠を貪っていた俺は、扉を叩く音で目が覚めた。
「な、なんだなんだ!?」
慌てて飛び起きて扉を開けると、シルヴィアが狼狽えた様子で俺の部屋の前に立っていた。
やっべ、働かない俺にしびれを切らして、追放を宣言しに来たのか!?
「ケイタさん、お休みのところ申し訳ございません。火急の用件がありますので、執務室までお越しください」
どうやら追放宣言ではなかったようだ。俺はひとまずほっと胸を撫で下ろす。
でも口ぶりからしてあまり良いことではなさそうだな。嫌な予感しかしない。
「ああ、わかったよ。着替えたらすぐ行く」
そのあとぱぱっと着替えて、シルヴィアと二人でエドワルドさんが待つであろう執務室へと入室した。
「お父様、失礼します。ケイタさんを連れてまいりました」
「うむ。ご苦労だった」
「おはようございます。エドワルドさん。それで……俺に何か用件があるんですか?」
どんな話があるのだろうか。緊張のあまり早鐘のように心臓が高鳴る。
こっちの世界に来てから数日は慌ただしく過ぎていったが、ここしばらくは平穏な日々を送っていたので完全に油断していた。
「うむ……実はな、王宮よりサガミ殿宛に書状が届いていてな。これだ。差出人はフラムローゼ様だ、王族の書状を勝手に確認するわけにもいかなかったので中身はまだ見ていない。だから受け取り人であるサガミ殿に確認してもらいたのだ」
俺はエドワルドさんから書状を受け取り、さっと目を通した。
「えっと、なになに……『サガミ・ケイタを賭けた魔動決闘を申し込みます』だって!? なんじゃこりゃ!?」
「ケイタさんを……!? いったいどういうことですか!?」
それは俺も聞きたい。人物そのものを賭けた決闘なんて、本人の同意無しに成立するものなのか?
まぁ……多分俺を引き抜こうって話だよな。あの王女様別れ際に怖いこと言ってたし。
「あー……多分、前に王女様が俺を王宮専属の人形技師へ引き抜こうとしてたんだ。その時は断ったんだけど、どうやらまだ諦めてなかったらしい」
「そんな……ケイタさんはここを出ていかれてしまうのですか!?」
「いや、俺にはそのつもりはないんだけどね」
あの王女様……しばらく音沙汰が無いと思ってたんだが、果たし状を送りつけてくるなんてだいぶ強引な手段をとってきたな。人道的にいかがなものだろうか。
い……いや、最後に『冗談でーす』とか書いてるかもだし、とりあえず全部きちんと読んでみよう。
「――決闘は10日後。対戦形式は二対ニのタッグマッチ。サガミ・ケイタは必ず出場すること。俺が勝てばなんでも願いを叶える……か」
ふーん。魔動決闘にはタッグマッチ戦もあるんだな。面白そうだ……っていやいや! 勝ったら願いを叶えてくれると破格の報酬を提示したとはいえ、相手は王族だ。どうせ金に物を言わせた戦力で来るんだろ。
そんなん負けるに決まってるじゃん。俺を専属の人形技師にするための予定調和じゃん!
「ちなみにこれ……断ったりってできます?」
書状に『冗談』の文字は一切なく、ガチの果たし状だった。
でもこれは相手が一方的に取り決めたことであって、俺が応じる必要はないんじゃないかと、そう思った。
「うむ。本来ならこういった大きなものを賭けるような正式な決闘は、お互いの同意のもと執り行うのが普通だ。だが、今回は相手が悪い……第二王女たっての願いとあらば、無下にはできんだろう」
やっぱそうなるよね……。はぁ、これで俺も王宮行き確定か。ストレスに耐えられるかな……。
「そんなの横暴です! ケイタさんは物じゃありません! 王族だからって好き勝手にさせられないです!」
おおう、シルヴィアが珍しく怒っているな。
そうだよな……シルヴィアたちともせっかく仲良くなれたんだ、俺だってこんな形で別れたくはない。
……よし、勝ちにいこう。決めたぞ、勝ってあの高慢ちきな鼻をへし折ってやる。
「大丈夫だよシルヴィア。俺、絶対勝つからさ」
「ケイタさん……」
手元には銀等級の魔動人形であるシルバライザーもある。
前の決闘より確実に戦力は上がっているんだ。また下克上を見せてやろうじゃないか。
「ようし、そうと決まれば特訓だ! エドワルドさん、闘技場って貸し切れたりします?」
新しく試したいこともある。そのためには魔動人形に乗る必要があった。しかしその辺で乗るわけにもいかない。
当たり前だが市街地で魔動人形を起動させるのは、法律的に禁止されているのだ。
それに、闘技場内であれば万が一があっても怪我はしないし、魔動人形も元通りになる。特訓するにはもってこいだ。
「うむ……使わせてやりたいのは山々なのだが、闘技場は国営の施設なのだ。私の一存ではどうにもならないのだよ」
「そ、そんなぁ……」
最悪ぶっつけ本番になる可能性が高い。俺の操縦技術もまだまだだし、勝つのは厳しいかもな……。
「サガミ殿、特訓もいいが……それより、もう一人のメンバーはどうするのだ?」
「――――あっ」
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