スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶

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【一章】異世界でプラモデル

14.決闘当日

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「おー! ここが会場か!」

 俺はヴァイシルト家の皆様方と共に、二時間ほどかけ魔動決闘マギアデュエルが行われる会場へと辿り着いた。

 コロシアムとか野球場みたいな感じの建物だな。円形の競技場を中心に、それを取り囲むように客席が設置されている。
 特筆すべきはその大きさだ。なんとなくの目算だけど東京ドーム4個分ぐらいはある。マジでかい。
 まあ10メートル級の機体同士を戦わせるんだ、これぐらいの広さは必要なんだろうな。

「平和になった今の時代、魔動決闘は市民の娯楽としても盛んに行われているんですよ。客席には障壁も展開されますし、闘技場内では魔動人形を破壊されても試合終了後には元に戻るんです。もちろん操縦者の安全も確保されています。……その分建造にかかる費用が高くて、闘技場自体の数は少ないですけどね」

 なんというご都合主義……だがそれがいい。
 シルヴィアの説明を受けて、辺りを見回すと確かに人が多い。それだけ人気の娯楽なんだな。俺も暇さえあれば来たいところだ。

「でも今日は特に人が多く感じます……やはり今日は王家公認の試合があるからなのでしょうか……いえ、それにしたって……」

 確かに……満員御礼とはいかないが、だだっ広い会場なのにも関わらずかなり席が埋まっている。
 俺は初めてなのでよくわからないが、シルヴィアの口振りからして普通の事じゃないのだろう。

「やあ、皆様方! よく逃げずにここまで来たね。その度胸だけは認めてあげるよ」

 完全におのぼりさんな俺の前に、因縁の男……ザッコブ・カマセーヌが忽然と姿を現した。

「カマセーヌ……! 貴様……よくも我らの前に顔を出せたものだな!」

 おお、エドワルドさんが怒っている。あんな優しそうな人にこんなに睨み付けられるとは、ザッコブの奴だいぶ嫌われているな。

「……はて、なんのことかな? 変な言いがかりはよしてくれたまえ」

「くっ……!」

「ああ、そうそう。君たちとの決闘は方々に宣伝させてもらったよ。なんせヴァイシルト家が久々に戦うんだ。注目度は非常に高いよ」

 年齢は俺やシルヴィアと同じぐらいだろうに、完全に目上のエドワルドさんにすらあの態度。つくづくいけすかない野郎だ。
 そして、この大勢の客を呼び寄せたのはザッコブだと言う。そんなことをして何の意味があるんだ……?

「この決闘、下馬評ではヴァイシルト家の圧倒的有利。……まあそうだろうね。なんてったって、かつての英雄の家系なんだ。大したことないポクの家なんか、相手にすらならないと思ってることだろうよ」

 ヴァイシルト家はかつての戦争で名を揚げた家系だとは聞いている。そうか……ザッコブの目的はこの決闘に勝つことでヴァイシルト家の全てを手に入れるだけではないのか。
 それだけでは飽き足らず、公の場でかつての英雄を打ち倒すことで自らを英雄たらしめんとしているのだろう。

 俺は眉をひそめながら一連のやり取りを見ていたのだが、ふとザッコブと目が合った。

「やあやあ、君はあの時の……! よく逃げずに来たね。このポクを侮辱したこと、しっかりと覚えてるよ……!」

「ふん! お前なんて俺が作った魔動人形マギアドールでボコボコにしてやるよ! 今に見てろ!」

「ほう……お前、人形技師ドールマイスターだったのか。ま、どうせどこも雇ってくれないほど最底辺の人間だろう? そんな奴にとはいえ大事な人形を任せるとは、ヴァイシルト家も落ちぶれたものだ! ヒャヒャヒャ!」

 何故あいつはこちらの魔動人形の等級を把握しているんだ!?
 まさか、そこまで奴の手が回っていたと言うのか……?

「冥土の土産に教えてやろう。今回ポクの陣営の魔動人形は銀等級シルバーグレードだ。そして操縦者はこのポク! もはや死角はないんだよ!」

 ザッコブが操縦者だとどう有利なのかは知らないが、銀等級の機体が相手となると、かなり厳しい戦いになるだろう。
 実際に目にしたわけではないが、かなりの性能差があるらしいし。

 相手が銀等級だと知ったシルヴィアらは、とたんに険しい表情へと変わる。
 一縷の望みが断たれた。そんな表情だ。

「どうしたんだよ皆! まだ始まってもいないんだ、結果がどうなるかなんてまだわからないじゃないか!」

「ケイタさん……。そう……ですね。諦めたらそこで終わりですものね。お父様、お母様、あとは操縦者の方を信じて全力で応援いたしましょう」

 シルヴィアが俺の言葉に同調してくれた。そうだ、諦めなければ可能性はあるはずなんだ。白髪仏もそう言ってた。

「シルヴィア……そうね。――あら? そういえば操縦者をお願いしていた方はまだ到着してないの?」

「む? そうだな、腕利きを雇ったのだが……まだ来ていないようだ。登録の時間に間に合えばよいが」

 カトリーヌさんがまだ操縦者の人が来ていないことを不安に思い、辺りを見回すも、それらしき人物は見当たらなかったようだ。
 俺はまさかと思いザッコブを見ると、案の定したり顔でこの状況を見て楽しんでいるようだ。

「ヒャヒャッ! そういえば、こちらに向かう馬車が野盗に襲われたって話をさっき小耳に挟んだなぁ! 幸い乗客の命に別状はなかったみたいだけど、意識不明でしばらく動けそうもないらしいよ!」

「なっ……!? まさか、その馬車に私の雇った者が!? ――くっ、下衆めが!」

「ヒャヒャッ! まったく、野盗ってのは最低の下衆野郎だねぇ! ポクもそう思うよ。……さて、間もなく操縦者と魔動人形の出場登録の時間だ。これで失礼させてもらうよ」

「ま、待ってくれ。これは王家公認の決闘。事前に申請した操縦者の変更には相手側の許可が必要なのだ……。お願いだ、変更の許可を出して頂きたい!」

 そうなのか……ここでザッコブが断ろうものならその時点で詰みもあり得るってことだな。
 ようし、ならばここは俺の巧みな話術で……!

「やいザッコブ! まさか変更を認めないなんてことないよな!?」

「はあ? 何を言ってるんだ、それはポクが決めることであって、お前には何の決定権はないだろ」

「……ははーん。まさか、怖いのか? そうなんだろ! まともにやったら勝てないからって逃げるつもりなんだな!」

「チッ……! 言わせておけば! ――いいだろう、変更を認めるよ。もともとそのつもりだったしね」

 よし。認めさせたぞ!
 これで首の皮一枚繋がった!

「ただし……決闘にはお前が出ることが条件だ! それ以外は断固認める気はない!」

 ザッコブはビシッと俺を指差してそう宣言した。
 ……え? 俺っすか?

「――いやいやいやいや! ちょ、ちょっと待て! 俺はド素人だぞ!? ふざけるな!」

「なんだ、さっきまで大口を叩いていたのはお前じゃないか。それなりの自信があったんだろう? なら問題ないじゃないか」

 いやそれは単純にお前がむかつくからであってだな……。

「とにかく! ポクはそれ以外の変更は認めないよ! ああ、もちろんそいつに魔力が無ければ君らの不戦敗ってことになるからね。それじゃ、失礼するよ」

 そう言い残して、今度こそザッコブは去っていった。
 
 『俺が出場する』という、とんでもない条件を残して。
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