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【最終章 地炎激突】

恥ずべき行為

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 複数の人影の中から先陣を切って現れたのは、レオナルドだった。
 その後にガウェインやコハクなど、アースの見知った顔が続々と地上へと現れた。

「エレミア! よかった、無事だったんだな!?」

「お父様っ!? ちょ、皆見てるから……!」

 レオナルドはエレミアの顔を見るなり、一目散にエレミアへと抱きつく。

 二人が別れてから時間にして一時間程度であったが、最悪今生の別れになるかもしれなかったので、レオナルドは避難所の中でエレミアの無事を祈り続けていたのだ。
 その気持ちを考えれば、レオナルドが一目を憚らずこんな行動に及んだとしても致し方ないだろう。

「でも、我輩はお前のことが心配で心配で……!」

「――ごめんなさいお父様。でも、こうやって帰ってきたんだから落ち着いて、ね?」

 エレミアも無茶をした負い目があるので、多少恥ずかしくても特に強くは言えなかった。
 それに、純粋に心配してくれていたことは嬉しく思っている。

「おー、なんや領主様の威厳がどっかいってまったみたいやな?」

「あっ、兄貴! 勝ったんスね! さすがッス!」

 続いてやってきたコハクとガウェインが、思い思いに言葉を発する。この空気感から、皆は無事であることを察したアースは、ほっと胸を撫で下ろした。
 同時に、この安らぐ居場所へ帰ってこれたのだと実感する。

「ああ、勝つには勝った。まあ……俺の力ではないんだが……いや、ある意味俺なのか?」

 確かに勝利を収めたのだが、それは魔王因子の力によるところが大きい。自分の中にに眠る力だとはいえ、完全な勝利だとは言いきれないだろう。
 実質的にアース本来の実力では手も足も出なかったのだから。

「……? まあよくわかんないッスけど、ともかく皆無事で良かったッスね!」

「――ああ、そうだな。ガウェインもその様子だと活躍したみたいだな? さすがは俺の弟子だ」

 ガウェインの装備している鎧の損傷具合から、激しい戦いを制したのだとアースは判断した。

「――ウッス!」

 アースの言葉に対し誇らしげな表情で答えるガウェイン。アースに認められたことは、彼にとって何よりのご褒美である。

 そして、ガウェインらの後に続いてアースの思いがけない人物が現れたことにより、場の空気が一変する。

「リューグ!」

 二人の男に両肩を支えられながら、流血で顔が赤く染まったリューグが現れたのだ。
 ゴラウンはその様子を見て、リューグが拷問を受けていたのではと邪推する。そして、殺気を一帯に張り巡らせてしまったのだ。
 
 その張り詰めた空気に、殆どの者が口を結び、動きを止めた。
 大多数の者が固まる中、アースだけは即座に反応し、ゴラウンの動きに集中している。僅かでも攻撃的な行動を取ろうものなら、即座に制圧できるように身構えている。

「――ゴラウン隊長! 違うんです!」
 
 停滞したその空気を再び動かしたのは、リューグだった。治療を受けた後、気を失っていた彼の意識は回復していたのだ。
 そして、リューグの扱いのことで誤解をしているゴラウンに対して説明を始める。

「この傷は……その、崩落に巻き込まれただけなんです。この人間族たちはそんな俺の治療をしてくれました。血を拭くものがなくてこんな見た目ですが、傷はもう塞がっています」

「リューグ……そうだったのか」

 リューグの言葉を受け、ゴラウンの殺気が収まった。そして、そのままアース達に向け深く頭を下げた。

「――すまなかった。そうとは知らずに取り乱してしまった……! 仲間を救ってくれたこと、感謝する」

 先のフレアルドの件もあり、ゴラウンの頭の中は混乱状態であったため、思考が短絡的になってしまっていたのだ。
 その非を認め、心からの謝罪をした。
 
「ゴラウン隊長……すみませんでした。俺が突っ走ったばかりに……でも、そのおかげでわかったことがあるんです」

「リューグ……」

「俺は、人間族にも色々な事情を抱えている者がいるのを知りました。そんなこと今まで考えたこともなかったんです。そんなことも知らずに俺はただ与えられた任務をこなすだけ……いくら命令だからとはいえ、罪もない人々を手にかけるなんてことはしたくありません! この戦い、俺達に正義があるとは到底思えません!」

 リューグは若くしてエリート部隊に抜擢されたので、まだ戦争を経験していなかった。戦う意味なんて、ただ武功を上げて自らの価値を高めるためだけだと思っていたのだ。
 人間族は全員敵で、生かす価値もない者だと教えられてきたのだから、今までは人間族であれば誰であろうと命を奪うことに躊躇いなんてなかった。

 しかしリューグは敗北した。そしてそれが切っ掛けでこの街の人々の暖かさに触れた。
 そのことでリューグの価値観は大きく変わった。子供の頃執拗に教え込まれたことではなく、実際に触れて、見て、感じたことを信じたいと思ったのだ。

「ああ、リューグ。わかっている……わかっているさ……!」
 
 リューグに言われずとも、そんなことはゴラウンも重々承知だった。この戦いに正義はないことなどわかりきっていた。
 だがフレアルドにも何かしらの意図があるのだと、最終的にはこの行いが魔王軍にとっての利になるのだと信じていた。いや、そう信じていないと、とてもじゃないが剣を振るうことなど出来なかったのだ。

 しかし実際には違ったのだ。アースからフレアルドが魔王暗殺に関わっていたことを聞いた時、ゴラウンは確信した。
 フレアルドは国のこと、ひいては国民のことなどこれっぽっちも考えていない。自らのしたいように振る舞い、そのために生まれる犠牲など些細なこととしか思っていないことを。

「隊長っ!」

 ゴラウンはリューグの心からの叫びを聞いて決心した。
 国のためにすべきこと、そして自分の役割を全うするのだと。
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