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【最終章 地炎激突】

指輪の行方

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 アースが扉を開けた瞬間、意識や感覚がまた別の場所へと移る。

 むせ返るような煙の臭い。それに混ざる血の臭い。先程まで感じなかったそれらが、この場所が現実の世界なのだとアースへと鮮烈に刻み込む。
 そして、魔王因子の力で強化されていた肉体が、その能力の持ち主がいなくなったことにより本来の姿へと戻っていく。

「アース……?」

 その声に導かれるように、アースは閉ざされた瞼をゆっくりと開く。
 そこには、心配そうにアースの目を覗き込むエレミアの姿があった。

「エレミアっ……!」

 アースは衝動的にエレミアを抱き締める。自分が現実に戻れたことよりも、彼女が生きていてくれたことがなによりも嬉しかった。その存在を確かめるように、もう二度と離さないかのように、万感の思いを込めて。

「ア、アース!? どうしたの!?」

「よかった……無事で本当によかった……!」

「アース……ごめんなさい。私が勝手なことをしたせいで心配かけちゃったよね。でも、私は……アースの助けになりたくて、でもやっぱり無謀で……」

 エレミアの目には涙が浮かんでいた。
 戦う力の無い自分の身勝手な行動がいかに愚かなのか自覚していたし、無謀だとも思っていた。
 しかしその心の奥にある『アースを助けたい』という衝動には抗えなかったのである。

 エレミアの行動は事前に立てた作戦には無いものであったが、アースは怒りよりも喜びの感情の方が勝っていた。
 エレミアは危険を冒してまで自分の元へ来てくれた、死と隣り合わせの状況でも自分の助けになりたいと思ってくれたのだ。
 無謀を叱咤するのはいつでもできる。ただアースは今、エレミアの温もりが腕の中にあることを何よりも喜んでいた。

「いいんだ……しかし、どうして無事だったんだ?」

 アースはエレミアが炎に包まれるのをはっきりと見ていた。
 それ故にアースは深く絶望していたのだが、それなのにエレミアが殆ど無傷の状態であるのが未だに信じられないでいた。頼みの綱であった指輪も身に付けていなかった筈であったのに。

「あ……多分、これのおかげかな。助けに来たつもりが、結局はアースに助けられちゃったみたい」

 そう言うと、エレミアは胸元から紐を引っ張り出す。
 その紐は首にかけられたものであり、そこにはアースの贈った指輪が通されていたのだった。
 しかし、その指輪に留められた宝石は役目を終えたかのように色を失い、ひび割れていた。

「その指輪は……! 身に付けていてくれたんだな。しかし、何故わざわざ首にかけていたんだ?」

「あ、えと……その……アースは知らなかったみたいなんだけどね、左手の薬指に指輪をはめるのは人間族の間では特別な意味があるの。だから、なんというかその……勘違いで贈られたものじゃなくて、本当の意味が込められた指輪がもし贈られてきた時のために空けておきたいなって思って……」

 一見指輪を身に着けていないように見えていたが、エレミアは指輪を手放してはいなかった。
 アースの勘違いにより贈られた指輪であったし、そういった関係ではないのに普段から身に着けるのは、周囲からあらぬ誤解を生みかねない。
 そのためエレミアは指輪をネックレスのように加工して着用していたのだ。

 指輪の効果によってエレミアは難を逃れていた。
 何故エレミアが無事だったかというと、運のいいことに宝石の属性は『水』であり、『炎』に対して有利な属性だったのが大きい。
 だが、それだけではフレアルドの青い炎は防ぐことは出来なかっただろう。

 もう一つの重要な要因としては、エレミアの持っていた『万能の霊薬イミテーション・模造品・エリクサー』だ。
 炎に包まれる直前、エレミアは薬だけは守ろうと胸に抱き抱えるようにして薬瓶を庇っていた。そしてそれは胸元にあった指輪とごく近い距離にあった。
 更には薬が水属性と親和性の高い液体であったことと、その薬が膨大な魔力を含有する『万能の霊薬・模造品』であったことが幸いした。炎に耐えるだけの出力に不足する魔力を、『万能の霊薬・模造品』から補うことで攻撃に耐えきることができたのだ。

 とはいえ衝撃を完全に殺しきることは出来ずに、エレミアはいくらかその場から吹き飛ばされてしまっていたため、攻撃の後、姿が見えなくなっていたのであった。
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