109 / 120
【最終章 地炎激突】
気付いていたこと
しおりを挟む
「おらぁっ!」
ズン、と大地を揺るがすほどの一撃。その一撃が身動きのとれないフレアルドの顔面へと叩き込まれる。
「まだまだぁっ!」
「カアッ――クハッ――」
二度、三度とアースの拳が振り下ろされる度に、大地は揺れ、血飛沫が舞う。
フレアルドには反撃する体力も残っていなければ、逃げ出すだけの力も残っていなかった。
もっとも、仮に逃げられるだけの力が残っていようとも、アースに敵わず逃げ出すなどフレアルドのプライドが許さなかっただろう。
「――ハァ……ハァ……どうした? もう終わりかよ、アース……」
「まだ意識を保っているとは……頑丈な野郎だな。まあ安心しろよ、まだまだお楽しみはこれからなんだからよ……!」
アースはあえて能力を使わずにフレアルドを殴り続ける。『天地喰尽』であればフレアルドの存在そのものを奪うことは容易であったが、そうしなかった。
それはフレアルドを死なない程度に痛め付けて、泣いて詫びさせようという単純な憂さ晴らしであったが、フレアルドがなかなか折れずにいたので、アースは苛立ちを覚えた。
「――ガハッ! グッ……!」
もはや言葉を発することすらなく、うめき声を上げるのみなったフレアルドであったが、ついぞ心が折れることはなかった。
「――はぁ、もういい。……お別れだ、フレアルド」
思惑通りにいかなかったのを不快に思いながらも、アースは右手にエネルギーを集中させる。
それは、受ければ確実に命を奪うであろう一撃。その一撃を放つための準備だった。
フレアルドの息の根を止める、それだけの力と意志が拳に宿ったその時だった。
「やめて! アースっ!」
「――!!」
アースの背後から声が届く。
途端、右手に集中していたエネルギーが霧散し、アースは拳を下ろした。
アースは立ち上がり背後へと振り返る。
「……エレミア」
声の主は爆炎に巻き込まれ姿を消した少女、エレミア・リーフェルニアだった。
かすり傷などは見られたが、大きな負傷は見られない。彼女はどういうわけかフレアルドの炎の直撃から生き延びていたのだ。
「アース、もうやめて! これ以上続けたらこの人が死んでしまうわ」
エレミアはアースの元へと駆け寄り、そう言った。
「……いいのか? こいつのせいで街は壊滅したんだぞ。お前だって殺されかけたんだ。こんな奴殺してしまった方が良いに決まってる」
「そんなことない! 確かに彼は悪いことをしたかもしれないわ。でもだからって無闇に命を奪うだなんてこと、あなたにはして欲しくないの!」
エレミアはアースの腕にすがり付きながら必死で訴えた。
しかし、今のアースはアースではない。彼女の言い分など、聞く道理はないのだ。
「何を言われようと知ったことじゃないが……そもそもお前は人違いをしている。俺はアースだが、お前の知るアースじゃねえ。お前の言葉は、俺には届かないんだよ」
人格も違えば、外見も大きく異なる。
しかし顔付きは変わっていないので、それでエレミアはアースであると判断できたのであろう。
しかし、エレミアの言葉は主人格たるアースに向けられたものであるはずなので、魔族としての人格である今のアースに向けられたものではないのだ。
当然、そんな言葉が届くはずはない。もう一人のアースもこの時までは、そう思っていた。
「アース……いいえ、もう一人のアースと言った方がいいかしら? 私はあなたに向けて言っているのよ」
「――っ!?」
その言葉にもう一人のアースは心底驚いた。主人各のアースでさえ全く気付いていなかったと言うのに、エレミアは心の裏に潜む自分の存在に気付いていたような言葉を放ったのだ。
「……なんのことだ?」
「馬鹿にしないで。私がアースのことをどれだけ見てきたか、知らないでしょう?」
(知っている……あいつは鈍感だから大して気にしていなかったみたいだが、俺はあいつの中からずっと見てた。そしてその意味も気付かないほど馬鹿じゃない)
「あなたの存在はなんとなくだけど気付いていたわ。コンクエスター家でアースがピンチの時に助けてくれたのよね?」
(あいつが死ぬと俺が困るからな……それに天与の使い方がなってないあいつの成長に手を貸したこともある。だがそれは、俺がこうして表に出るための一助になるかと思ってやったことだ)
「ありがとう。私やアースを気にかけてくれて。……だから、そんな優しいあなたには誰かの命を奪うようなことはして欲しくないの」
「――ああ、そうかよ」
アースはその右手でエレミアの首を掴む。
エレミアは苦しみで一瞬体を強張らせたが、すぐに体から力を抜いた。まるでアースに全てを委ねるかのように。
「よくわかったよ。だからこれでお別れだ」
「アース……」
ゆっくりと、エレミアの首を掴む腕に力が込められる――
ズン、と大地を揺るがすほどの一撃。その一撃が身動きのとれないフレアルドの顔面へと叩き込まれる。
「まだまだぁっ!」
「カアッ――クハッ――」
二度、三度とアースの拳が振り下ろされる度に、大地は揺れ、血飛沫が舞う。
フレアルドには反撃する体力も残っていなければ、逃げ出すだけの力も残っていなかった。
もっとも、仮に逃げられるだけの力が残っていようとも、アースに敵わず逃げ出すなどフレアルドのプライドが許さなかっただろう。
「――ハァ……ハァ……どうした? もう終わりかよ、アース……」
「まだ意識を保っているとは……頑丈な野郎だな。まあ安心しろよ、まだまだお楽しみはこれからなんだからよ……!」
アースはあえて能力を使わずにフレアルドを殴り続ける。『天地喰尽』であればフレアルドの存在そのものを奪うことは容易であったが、そうしなかった。
それはフレアルドを死なない程度に痛め付けて、泣いて詫びさせようという単純な憂さ晴らしであったが、フレアルドがなかなか折れずにいたので、アースは苛立ちを覚えた。
「――ガハッ! グッ……!」
もはや言葉を発することすらなく、うめき声を上げるのみなったフレアルドであったが、ついぞ心が折れることはなかった。
「――はぁ、もういい。……お別れだ、フレアルド」
思惑通りにいかなかったのを不快に思いながらも、アースは右手にエネルギーを集中させる。
それは、受ければ確実に命を奪うであろう一撃。その一撃を放つための準備だった。
フレアルドの息の根を止める、それだけの力と意志が拳に宿ったその時だった。
「やめて! アースっ!」
「――!!」
アースの背後から声が届く。
途端、右手に集中していたエネルギーが霧散し、アースは拳を下ろした。
アースは立ち上がり背後へと振り返る。
「……エレミア」
声の主は爆炎に巻き込まれ姿を消した少女、エレミア・リーフェルニアだった。
かすり傷などは見られたが、大きな負傷は見られない。彼女はどういうわけかフレアルドの炎の直撃から生き延びていたのだ。
「アース、もうやめて! これ以上続けたらこの人が死んでしまうわ」
エレミアはアースの元へと駆け寄り、そう言った。
「……いいのか? こいつのせいで街は壊滅したんだぞ。お前だって殺されかけたんだ。こんな奴殺してしまった方が良いに決まってる」
「そんなことない! 確かに彼は悪いことをしたかもしれないわ。でもだからって無闇に命を奪うだなんてこと、あなたにはして欲しくないの!」
エレミアはアースの腕にすがり付きながら必死で訴えた。
しかし、今のアースはアースではない。彼女の言い分など、聞く道理はないのだ。
「何を言われようと知ったことじゃないが……そもそもお前は人違いをしている。俺はアースだが、お前の知るアースじゃねえ。お前の言葉は、俺には届かないんだよ」
人格も違えば、外見も大きく異なる。
しかし顔付きは変わっていないので、それでエレミアはアースであると判断できたのであろう。
しかし、エレミアの言葉は主人格たるアースに向けられたものであるはずなので、魔族としての人格である今のアースに向けられたものではないのだ。
当然、そんな言葉が届くはずはない。もう一人のアースもこの時までは、そう思っていた。
「アース……いいえ、もう一人のアースと言った方がいいかしら? 私はあなたに向けて言っているのよ」
「――っ!?」
その言葉にもう一人のアースは心底驚いた。主人各のアースでさえ全く気付いていなかったと言うのに、エレミアは心の裏に潜む自分の存在に気付いていたような言葉を放ったのだ。
「……なんのことだ?」
「馬鹿にしないで。私がアースのことをどれだけ見てきたか、知らないでしょう?」
(知っている……あいつは鈍感だから大して気にしていなかったみたいだが、俺はあいつの中からずっと見てた。そしてその意味も気付かないほど馬鹿じゃない)
「あなたの存在はなんとなくだけど気付いていたわ。コンクエスター家でアースがピンチの時に助けてくれたのよね?」
(あいつが死ぬと俺が困るからな……それに天与の使い方がなってないあいつの成長に手を貸したこともある。だがそれは、俺がこうして表に出るための一助になるかと思ってやったことだ)
「ありがとう。私やアースを気にかけてくれて。……だから、そんな優しいあなたには誰かの命を奪うようなことはして欲しくないの」
「――ああ、そうかよ」
アースはその右手でエレミアの首を掴む。
エレミアは苦しみで一瞬体を強張らせたが、すぐに体から力を抜いた。まるでアースに全てを委ねるかのように。
「よくわかったよ。だからこれでお別れだ」
「アース……」
ゆっくりと、エレミアの首を掴む腕に力が込められる――
0
お気に入りに追加
529
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―
ぽへみやん
ファンタジー
魔王城への結界を維持する四天王を倒すべく、四属性の勇者が選ばれた。【地属性以外完全無効】の風の四天王に対抗すべき【地の勇者】ドリスは、空を飛び、高速で移動し、強化した物理攻撃も通用しない風の四天王に惨敗を喫した。このままでは絶対に勝てない、そう考えたドリスは、【大陸一の賢者】と呼ばれる男に教えを乞うことになる。
// 地属性のポテンシャルを引き出して、地属性でしか倒せない強敵(主観)を倒そう、と色々試行錯誤するお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する
大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。
少年の名はユーリ・グランマード。
剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。
先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。
生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。
その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。
しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。
ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。
有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。
【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。
そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。
ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。
そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。
魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。
その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる