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【最終章 地炎激突】
気付いていたこと
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「おらぁっ!」
ズン、と大地を揺るがすほどの一撃。その一撃が身動きのとれないフレアルドの顔面へと叩き込まれる。
「まだまだぁっ!」
「カアッ――クハッ――」
二度、三度とアースの拳が振り下ろされる度に、大地は揺れ、血飛沫が舞う。
フレアルドには反撃する体力も残っていなければ、逃げ出すだけの力も残っていなかった。
もっとも、仮に逃げられるだけの力が残っていようとも、アースに敵わず逃げ出すなどフレアルドのプライドが許さなかっただろう。
「――ハァ……ハァ……どうした? もう終わりかよ、アース……」
「まだ意識を保っているとは……頑丈な野郎だな。まあ安心しろよ、まだまだお楽しみはこれからなんだからよ……!」
アースはあえて能力を使わずにフレアルドを殴り続ける。『天地喰尽』であればフレアルドの存在そのものを奪うことは容易であったが、そうしなかった。
それはフレアルドを死なない程度に痛め付けて、泣いて詫びさせようという単純な憂さ晴らしであったが、フレアルドがなかなか折れずにいたので、アースは苛立ちを覚えた。
「――ガハッ! グッ……!」
もはや言葉を発することすらなく、うめき声を上げるのみなったフレアルドであったが、ついぞ心が折れることはなかった。
「――はぁ、もういい。……お別れだ、フレアルド」
思惑通りにいかなかったのを不快に思いながらも、アースは右手にエネルギーを集中させる。
それは、受ければ確実に命を奪うであろう一撃。その一撃を放つための準備だった。
フレアルドの息の根を止める、それだけの力と意志が拳に宿ったその時だった。
「やめて! アースっ!」
「――!!」
アースの背後から声が届く。
途端、右手に集中していたエネルギーが霧散し、アースは拳を下ろした。
アースは立ち上がり背後へと振り返る。
「……エレミア」
声の主は爆炎に巻き込まれ姿を消した少女、エレミア・リーフェルニアだった。
かすり傷などは見られたが、大きな負傷は見られない。彼女はどういうわけかフレアルドの炎の直撃から生き延びていたのだ。
「アース、もうやめて! これ以上続けたらこの人が死んでしまうわ」
エレミアはアースの元へと駆け寄り、そう言った。
「……いいのか? こいつのせいで街は壊滅したんだぞ。お前だって殺されかけたんだ。こんな奴殺してしまった方が良いに決まってる」
「そんなことない! 確かに彼は悪いことをしたかもしれないわ。でもだからって無闇に命を奪うだなんてこと、あなたにはして欲しくないの!」
エレミアはアースの腕にすがり付きながら必死で訴えた。
しかし、今のアースはアースではない。彼女の言い分など、聞く道理はないのだ。
「何を言われようと知ったことじゃないが……そもそもお前は人違いをしている。俺はアースだが、お前の知るアースじゃねえ。お前の言葉は、俺には届かないんだよ」
人格も違えば、外見も大きく異なる。
しかし顔付きは変わっていないので、それでエレミアはアースであると判断できたのであろう。
しかし、エレミアの言葉は主人格たるアースに向けられたものであるはずなので、魔族としての人格である今のアースに向けられたものではないのだ。
当然、そんな言葉が届くはずはない。もう一人のアースもこの時までは、そう思っていた。
「アース……いいえ、もう一人のアースと言った方がいいかしら? 私はあなたに向けて言っているのよ」
「――っ!?」
その言葉にもう一人のアースは心底驚いた。主人各のアースでさえ全く気付いていなかったと言うのに、エレミアは心の裏に潜む自分の存在に気付いていたような言葉を放ったのだ。
「……なんのことだ?」
「馬鹿にしないで。私がアースのことをどれだけ見てきたか、知らないでしょう?」
(知っている……あいつは鈍感だから大して気にしていなかったみたいだが、俺はあいつの中からずっと見てた。そしてその意味も気付かないほど馬鹿じゃない)
「あなたの存在はなんとなくだけど気付いていたわ。コンクエスター家でアースがピンチの時に助けてくれたのよね?」
(あいつが死ぬと俺が困るからな……それに天与の使い方がなってないあいつの成長に手を貸したこともある。だがそれは、俺がこうして表に出るための一助になるかと思ってやったことだ)
「ありがとう。私やアースを気にかけてくれて。……だから、そんな優しいあなたには誰かの命を奪うようなことはして欲しくないの」
「――ああ、そうかよ」
アースはその右手でエレミアの首を掴む。
エレミアは苦しみで一瞬体を強張らせたが、すぐに体から力を抜いた。まるでアースに全てを委ねるかのように。
「よくわかったよ。だからこれでお別れだ」
「アース……」
ゆっくりと、エレミアの首を掴む腕に力が込められる――
ズン、と大地を揺るがすほどの一撃。その一撃が身動きのとれないフレアルドの顔面へと叩き込まれる。
「まだまだぁっ!」
「カアッ――クハッ――」
二度、三度とアースの拳が振り下ろされる度に、大地は揺れ、血飛沫が舞う。
フレアルドには反撃する体力も残っていなければ、逃げ出すだけの力も残っていなかった。
もっとも、仮に逃げられるだけの力が残っていようとも、アースに敵わず逃げ出すなどフレアルドのプライドが許さなかっただろう。
「――ハァ……ハァ……どうした? もう終わりかよ、アース……」
「まだ意識を保っているとは……頑丈な野郎だな。まあ安心しろよ、まだまだお楽しみはこれからなんだからよ……!」
アースはあえて能力を使わずにフレアルドを殴り続ける。『天地喰尽』であればフレアルドの存在そのものを奪うことは容易であったが、そうしなかった。
それはフレアルドを死なない程度に痛め付けて、泣いて詫びさせようという単純な憂さ晴らしであったが、フレアルドがなかなか折れずにいたので、アースは苛立ちを覚えた。
「――ガハッ! グッ……!」
もはや言葉を発することすらなく、うめき声を上げるのみなったフレアルドであったが、ついぞ心が折れることはなかった。
「――はぁ、もういい。……お別れだ、フレアルド」
思惑通りにいかなかったのを不快に思いながらも、アースは右手にエネルギーを集中させる。
それは、受ければ確実に命を奪うであろう一撃。その一撃を放つための準備だった。
フレアルドの息の根を止める、それだけの力と意志が拳に宿ったその時だった。
「やめて! アースっ!」
「――!!」
アースの背後から声が届く。
途端、右手に集中していたエネルギーが霧散し、アースは拳を下ろした。
アースは立ち上がり背後へと振り返る。
「……エレミア」
声の主は爆炎に巻き込まれ姿を消した少女、エレミア・リーフェルニアだった。
かすり傷などは見られたが、大きな負傷は見られない。彼女はどういうわけかフレアルドの炎の直撃から生き延びていたのだ。
「アース、もうやめて! これ以上続けたらこの人が死んでしまうわ」
エレミアはアースの元へと駆け寄り、そう言った。
「……いいのか? こいつのせいで街は壊滅したんだぞ。お前だって殺されかけたんだ。こんな奴殺してしまった方が良いに決まってる」
「そんなことない! 確かに彼は悪いことをしたかもしれないわ。でもだからって無闇に命を奪うだなんてこと、あなたにはして欲しくないの!」
エレミアはアースの腕にすがり付きながら必死で訴えた。
しかし、今のアースはアースではない。彼女の言い分など、聞く道理はないのだ。
「何を言われようと知ったことじゃないが……そもそもお前は人違いをしている。俺はアースだが、お前の知るアースじゃねえ。お前の言葉は、俺には届かないんだよ」
人格も違えば、外見も大きく異なる。
しかし顔付きは変わっていないので、それでエレミアはアースであると判断できたのであろう。
しかし、エレミアの言葉は主人格たるアースに向けられたものであるはずなので、魔族としての人格である今のアースに向けられたものではないのだ。
当然、そんな言葉が届くはずはない。もう一人のアースもこの時までは、そう思っていた。
「アース……いいえ、もう一人のアースと言った方がいいかしら? 私はあなたに向けて言っているのよ」
「――っ!?」
その言葉にもう一人のアースは心底驚いた。主人各のアースでさえ全く気付いていなかったと言うのに、エレミアは心の裏に潜む自分の存在に気付いていたような言葉を放ったのだ。
「……なんのことだ?」
「馬鹿にしないで。私がアースのことをどれだけ見てきたか、知らないでしょう?」
(知っている……あいつは鈍感だから大して気にしていなかったみたいだが、俺はあいつの中からずっと見てた。そしてその意味も気付かないほど馬鹿じゃない)
「あなたの存在はなんとなくだけど気付いていたわ。コンクエスター家でアースがピンチの時に助けてくれたのよね?」
(あいつが死ぬと俺が困るからな……それに天与の使い方がなってないあいつの成長に手を貸したこともある。だがそれは、俺がこうして表に出るための一助になるかと思ってやったことだ)
「ありがとう。私やアースを気にかけてくれて。……だから、そんな優しいあなたには誰かの命を奪うようなことはして欲しくないの」
「――ああ、そうかよ」
アースはその右手でエレミアの首を掴む。
エレミアは苦しみで一瞬体を強張らせたが、すぐに体から力を抜いた。まるでアースに全てを委ねるかのように。
「よくわかったよ。だからこれでお別れだ」
「アース……」
ゆっくりと、エレミアの首を掴む腕に力が込められる――
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