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【最終章 地炎激突】

喪失

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 エレミアは、脇目も振らずに駆け出していた。

 アースがいるであろう方向は、何故だか感覚でわかったのだ。そこへと向かって一直線に駆ける。
 地上は燦々たる状況であったが、運がいいことに降り注ぐ火球は一時的に収まっていた。エレミアは何事もなく荒廃した地を走り抜ける。

 爆散した家屋、たくさんの思い出が詰まった屋敷の跡地を横目に森へ入り、爆風で倒れた木々を乗り越えながら、息を切らしつつも森を抜ける。
 そして、開けた視界の先には探し求めた人物の姿があった。

「――っ! アースっ!」

 ボロ雑巾、そう形容するのが適切だろうか。エレミアが目の当たりにしたのは、出血や火傷で所々が赤黒く変色し、その手足は炭化したのだろうか、肘や膝から下が崩れ落ちたようにボロボロだった。

 エレミアが辛うじてアースと認識できたのは、その目だけは死んでおらず、真っ直ぐにもう一人そこに居合わせた人物を睨み付けていたからである。
 しかしエレミアの声を聞いたアースは、視線をエレミアへと送る。

「エ――ミア――な――ぜ」

 アースは既に声を出すことすら危うい状況だった。フレアルドの気まぐれによってかろうじて命を繋いでいただけであり、いつ命を失ってもおかしくはない。

「アース! あなたのおかげで皆は無事よ! 待ってて、今薬を持っていくから!」

「ダメ――く――な」

 エレミアは自分の持っている薬さえあれば、アースを救えると信じ、アースの元へと駆け寄る。
 だが、それをあの男が黙って見過ごすはずがなかった。

「なんだァ、アース。あれはお前の女か? 惨めだなァ! 一人では何も出来ないから、女に助けてもらうなんてな! ハッハッハ!」

「ゴフッ! ガ……ァ……逃げ――ろ――」

 口から大量の血液を吐き出しながらも必死に呼び掛けるアースの姿を見て、にやりとフレアルドは歪な笑みを浮かべる。

「随分と必至だなァ、それほどあの女が大切なのか? よォし……最後の仕上げだ。いい顔、見せてくれよ?」

 フレアルドは右手の掌をエレミアへと向ける。
 すると瞬く間に火球が生じ、ぐんぐんとその大きさを増し、やがてフレアルドの身長と同じぐらいまでに肥大化した。

「――! や――め――!」

 アースの声にならない叫びも虚しく、フレアルドは攻撃を止める気配はない。
 エレミアは眼前の巨大な火球の矛先が自分であることを察するも、回避する術はなかった。

「灰となれ」

 放たれる火球。猶予は刹那。
 アースは天与ギフトを使いエレミアを助けようとするも、発動に必要なその手足は既に焼け落ちていた。
 為す術はないかと思われたが、アースはある可能性に気が付く。

(エレミアに渡した指輪……あれには防御の刻印が施されている。フレアルドの攻撃を防げるかは未知数だが、そこに賭けるしかない……!)

 しかし、アースの希望は儚くも断たれる。アースが自ら指輪をはめたエレミアのその手には、宝石の輝きは見られなかったのだ。

「な――――!!」

 アースがそれを認識したのと同時に爆音が轟く。エレミアが立っていた場所、その辺り一帯が瞬く間に焦土と化したのだった。

 僅かな希望を打ち砕くように、そこに彼女の姿は無かった。
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