元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶

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【最終章 地炎激突】

避難所での出来事① リューグ視点

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「今だ! 全員中に入るぞ、急げ!」

 誰かの大声に意識が覚醒する。
 手は動かすことができない。どうやら拘束されているようだ。

(そうか……負けたんだな、俺は)

 ガウェインとか言ったか。あのガキ……いやあの男に負けるだなんて想像もしてなかった。
 勝手に先走って、あげくたった一人に打ちのめされて、敵の捕虜になるだなんて情けなさすぎる。ゴラウン隊長に合わせる顔がないな……。
 まあ、敵の捕虜になったんだ。もう会うことはないと思った方が現実的か。

 ゆっくり目を開くと、領主を名乗っていた男と、数名の騎士が駆け込んできた。さっきの声はあいつだったのか?
 俺が捕らわれているこの場所は薄暗く、ランプの灯りだけが辺りを照らしていた。地下の牢屋か何かなのだろうか。

「ガウェイン……! こやつをここに連れてきたのか……!?」

「いや……その、あそこでほっといたら危ないと思ったッス……」

「そうか……確かにそうだな。それにしてもよく勝った、ガウェイン。我輩はお前を誇りに思う」

「レオナルド様……! 身に余る光栄ッス!」

 俺の事を話しているのだろうか。別に捕虜を牢屋に連れてくるのは普通じゃないのか?
 いや、違うな。視界には入っていないが、周りに大勢の人の気配を感じる。この空間も牢屋にしては広すぎるし、疑問は深まるばかりだ。
 しかしこのまま寝転がっていても埒が明かないので、直接聞いてみることにした。

「――おい、ここは何処だ?」

「……目が覚めたか。ここは我々の避難所だ。暴れられると困るのでな、悪いが拘束させて貰っているぞ」

「避難所……? そんな所に敵である俺を連れて来るだなんて、どうかしてるんじゃないのか?」

 体を上手く使って上体を起こすことに成功した俺は、そのまま辺りを見回すと、領民と思われる人々が遠巻きにこちらを見ているのを確認する。
 避難所というのは嘘ではないようだ。女子供の姿もちらほらと見える。しかしそうなると、いよいよもって俺がここへ連れてこられた意味がわからない。

「まあ、緊急事態だっんで仕方なく……って感じッスかね」

「本来ならお前の身柄は部隊長に引き渡すところなのだが、今外に出るのは危険だ。こうなってしまったからにはしばらくここで大人しくしてもらうぞ」

「危険? 何を言って――」

 ゴォォォン!

 地を揺さぶる音が響き、激しい揺れに襲われる。それも一度や二度ではない。音が遠かったり近かったりと違いはあるが、それは断続的に鳴り響いていた。

「何だ!? この音は……攻撃を受けているのか?」

「おそらくな。――その様子だと、お前は何も知らないようだな」

「使えない奴ッスねぇ」

「なんだと!? ――あ、いや……」

 そういえばゴラウン隊長から聞いたことがある。「フレアルド様を本気で怒らせてはならない」と。
 俺は直接目にしたことはないけど、かなり昔に、戦闘中に怒り狂ったフレアルド様は、その圧倒的な力を以て自分の周りに見えるもの全てを殺し、壊し尽くしたことがあるらしい。

 敵も、味方もだ。

「どうした? 心当たりがあるのか?」

「ああ、多分うちの大将の仕業だと思うぜ。どうやらあんたらは、『獄炎の魔将』を本気で怒らせちまったみたいだな。多分だが、ここら一体を壊滅させるまで止まらないんじゃないか?」

「やはりそうなのか……まさか四天王の力がこれ程とはな」

 まあこのぐらいの情報は話しても構わないだろう。どっちにしろここにいる全員、助かりっこないのだから。
 そこには自分の命も含まれているけど、俺も戦士だ。戦いに敗れ捕虜になった時点で死ぬ覚悟はできている。

「それにしても、俺のことなどそのまま見捨ててくればよかったものを、わざわざ本拠地に連れてくるとはな。俺がここで暴れだしたらどうするつもりなんだ?」

 まあ、実際は魔力が尽きているし、武器もなく拘束されている状態ではどうしようもない。
 馬鹿な奴がのこのこと近付いて来るのであれば、人質として使えるかもしれないがな。

「それは……その、たまたま俺が助けられる状況にいたんで、あのまま見捨てたら見殺しにしたみたいで気分悪いじゃないッスか」

「――は? 馬鹿なのかお前は? 俺はお前たちにとっての敵だぞ。自分の命も危ないって時に、敵の兵士なんざ構わずに放っておけばいいじゃないか」

「まあ、そうなんスけどね。色々と影響を受けたと言うか……」

 この男は奥にいる女の方へ目線を送りながらそう語った。その女の影響を受けたってことか?
 だがそんなのは俺には関係ない。

「――ふざけるな! 俺は戦士だ――――いや、怒るだけ無駄か……」

 もう怒る気力すら残っていない。俺は喋るだけ無駄だと悟り、口を閉ざした。
 奴らもこれ以上は聞くことが無くなったのか、俺に話しかけることは無くなった。

 しかし静寂が訪れることはなく、爆音とそれに伴う揺れが止むことはない。この場所も頑丈に作られているようだが、部屋全体が爆発によりみしみしと悲鳴を上げている。
 
 すると突然、ぐぅー、と腹の虫が鳴く。そういや、最後にまともな食事をしたのはいつだっただろうか。
 作戦中はあまり気にならなかったが、こうやってずっと動かないでいたからか、余計に空腹を感じる。

 するとその音を聞いたのか、一人の人間族のガキがこちらを見つめていた。
 そして何を血迷ったか、こちらに駆け寄ってくる。

(これはチャンスか……? 両手が塞がっていようとも、ガキ一人ぐらいなら人質に取ることができる。外にさえ出られればゴラウン隊長がなんとかしてくれるかもしれないしな……どうする……?)
 
 そう逡巡しているうちに、一人の少女が俺の前に立ったのだった。
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