上 下
93 / 120
【最終章 地炎激突】

リーフェルニア領の戦い⑥

しおりを挟む
 ガウェインが一騎討ちにて勝利を収めた一方で、レオナルドとゴラウンの戦闘は未だに続いていた。
 戦いは苛烈さを増し、気が付けば館を離れ、近くの林の中へと突入していた。
 
「おおおっ!」

「くっ、まずい……この林の中は罠が……!」

 つばぜり合いをしながら、レオナルドの腕力に押し込まれる形で林の中に誘導されたゴラウンは焦りを感じる。
 林の中には先刻煮え湯を飲まされたスリープマッシュがあるのだ。
 さすがのゴラウンもこれの胞子を受けては眠りに落ちてしまう。

(しかし条件は相手も同じ筈だ……! 敵に地の利があるとは言え、戦闘中に足下を気にする余裕は無いだろう)

 スリープマッシュはゴラウンの見立てではおそらくはランダムな位置にあり、地の利があるとはいえその位置全てを把握するのは不可能に近く、お互い足下に気を配らざるを得ないだろう、とゴラウンは予測を立てる。
 しかしその予測とは裏腹に、レオナルドの動きは鈍ることはなく、むしろ積極的に攻撃を仕掛けている節さえある。

「まさか、罠の場所を全て把握していると言うのか……!? いや、違うな……全く気にしていない……のか?」

 レオナルドの視線は常にゴラウンを捉えており、周囲の状況など歯牙にもかけていない。
 その時、レオナルドがスリープマッシュを踏み抜き、胞子が辺りに充満した。

「捨て身の戦法であったか……しかし、これで決着のようだな」

 素早く胞子から距離を取り、ひょんなことから決着が着いてしまったことに拍子抜けしてしまったゴラウンは、構えを解き、リューグやその他の部下達を心配し、館のある方向へと振り向く。
 その刹那、闘気を感じたゴラウンは、未だ胞子が舞う方へと向き直る。

「せぇぇぇいっ!」

「なっ! ぐうっ!」

 向き直った時には既にレオナルドは眼前まで迫っており、ゴラウンは対応しきれずに右腕に大剣の一撃を受けてしまう。
 焦り腕の状態を確認するが、剣の一撃を受けたにも関わらず、切断されてはいなかった。
 しかし攻撃を受けた箇所は赤黒く腫れ上がっており、まともに動かすことは叶わない。恐らくは骨折、軽くても骨にヒビがあるなど、戦闘にかなり影響があるだろう。
 
「すまんな。奇襲こういうのは我輩の趣向に合わないのだが、状況が状況だ。悪く思わんでくれ」

「ぐっ……胞子を無効化する手段があったとはな……いや、それを想定出来なかった私の失態だな」

「我が領地には優秀な錬金術師がいるのだ、状態異常を無効化するポーションを作るぐらい訳はないさ」

 そんなわけないだろう、とゴラウンは心の中で愚痴をこぼす。
 状態異常を予防できるポーションなど超が付くレベルの高級品だ、それをこのような僻地で作成できる人物がいるなどとは到底思えない。
 だがゴラウンにはそれよりも気掛かりなことがあった。

「……刃を潰していたのか? 敵に情けをかけるとは、随分と甘いな」

 思い返せばレオナルドの攻撃は手足などを狙ったものが多かった。
 元々殺すつもりはなかったのだろう。

「心優しい娘を持つと、親は苦労するものさ」

「何……? どういう意味――――」

 瞬間、ゴラウンの背筋に冷たいものが走る。

「この感覚……どうやら最悪の事態に陥ったようだな」

「何? どういうことだ? 妙な圧力を感じるが、何か関係があるのか?」

「……こうなってしまえば間違いなく死ぬ。お前達はおろか、我々も含むこの近辺にいる全員がだ」

「いったい何なんだ、説明しろ!」

「触れてはいけないものに触れてしまった。ただそれだけだ」

 ゴラウンの要領を得ない説明に、レオナルドは怪訝な表情になる。
 しかし、ゴラウンの言葉が何を意味するのかは、時を待たずして知ることとなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください

黄舞
ファンタジー
クライエ子爵家の長男として生まれたアークは、行方不明になった両親に代わり、新領主となった。 自分になんの才能もないことを自覚しているアークは、優秀すぎる双子の弟妹に爵位を譲りたいと思っているのだが、なぜか二人は兄を崇め奉る始末。 崇拝するものも侮るものも皆、アークの無自覚に引き起こすゴタゴタに巻き込まれ、彼の凄さ(凄くない)を思い知らされていく。 勘違い系コメディです。 主人公は初めからずっと強くならない予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

処理中です...