88 / 120
【最終章 地炎激突】
リーフェルニア領の戦い①
しおりを挟む
一方、アースとフレアルドが戦いを始めた頃、空が白みはじめる中滅戯竜隊はいよいよ街と目鼻の先にある林へと侵入を果たす。
ゴラウンの予想とは裏腹に、ここまでの道中には罠らしい罠は何一つとして確認できなかった。それどころか、道中人っ子一人見当たらない。
「各員、ここからは慎重に動け。何があるかわからないぞ」
ここからは敵の本拠地だ。ここまで何もなかったからといって、このまま上手いこといく筈もない。
ゴラウンは気を引き締めて、これまで以上に慎重に歩を進めるよう指示する。
「しかし隊長、あまり時間をかけすぎてはフレアルド様が……!」
隊員の一人が、フレアルドが戻ってきた時のことを恐れてゴラウンに抗議する。別れ際に釘を刺されたことを気にしているのだろう。
フレアルドは強い。ゴラウンはそれをよく知っていた。
対峙するあの男、元四天王であるアースの実力の程は推し測れないでいたが、魔王亡き今、魔王軍最強との呼び声の高いフレアルドに到底敵うものではないだろうとも予想していた。
「…………」
「――もう我慢できないです! ゴラウン隊長! 俺が先陣を切ります!」
ゴラウンが判断に迷い沈黙していると、一人の隊員が飛び出していってしまう。
「リューグ!? 待て!」
飛び出して行った隊員の名はリューグ。
彼は部隊の中で最年少であり、入隊してからまだ1年程度の新人であった。
とはいえ、滅戯竜隊に入隊できるだけあって、その能力は高く、そしてまだ若い分伸び代もある。
しかしその若さ故に今のような軽率な行動を起こしがちであるのと、自分の力を過信しがちなのが玉に瑕だ。
「くっ、仕方ない……全軍突撃! リューグを追いながらまずは主要施設と思われる建物を占拠せよ!」
ゴラウンは一人で突撃してしまったリューグを一人行かせる訳にもいかず、仕方なく部隊を突撃させる。
しかし、そのすぐ後にそれは誤った判断であったことを痛感させられる。
「うわっ!」
「おおっ!?」
部隊の両翼に位置取っていた隊員二人が、地面にある何かを踏み抜き、その途端煙幕のようなものが辺りに拡がる。
「煙幕か!? ……いや、この匂いは……まずい! 全員息を止めて煙から離れろ!」
ゴラウンが何かに気付き指示を出し、部隊は煙を避けるように散開するが、煙の発生源にいた二人は退避が間に合わずに、フラフラとした様子であった。
「くっ、間に合わなかったか! フレイムバレット!」
ゴラウンは宙に漂う煙に向け炎の魔法を放つ。
すると炎が一瞬の間燃え広がり、消えた頃には煙は跡形もなくなっていた。
「これで一先ずは安心か……しかし、この二人はもうしばらくは戦えないだろう」
ゴラウンは地面に倒れる二人の様子を伺うと、苦しんだ様子もなく、むしろすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
「やはり、か」
ゴラウンが辺りを注意深く見回すと、予想通りのものがそこかしこに点在していた。
その正体は、『スリープマッシュ』と呼ばれるキノコの一種で、刺激すると誘眠効果のある胞子を噴出し、身を守る習性を持つキノコだ。
毒性は無く、胞子を吸引しても死に至ることはないが、一定量吸って一度眠ってしまえば、短くとも半日は何をしても起きることはないだろう。
「しかし……この胞子の量は異常だ。大きさも知っているものとはかけ離れている。似ているが別の種類なのか……?」
ゴラウンの知る誘眠茸とは違う特徴に疑問を覚えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
まるで地雷原のように点在するこのキノコに気を付けながら先に進まねばならないのだ。
「リューグは……先に行ってしまったか。この罠にかからないとは、運が良いのか悪いのか。――誰か2名は眠ってしまった者を、看護のため残してきた隊員の元へと運んでくれ。残りの者はこのまま進むぞ。いいか? 地面のキノコに気を付けて進むんだ」
幸か不幸か、先行したリューグはトラブルのあったゴラウン達に気付くことなく、誘眠茸に触れずに走り抜けていったようだった。
さらに隊員を失ったゴラウンだが、リューグを一人置いていくわけにもいかないので、仕方なしに進まざるを得ない。
この先に何が待ち受けていようとも。
ゴラウンの予想とは裏腹に、ここまでの道中には罠らしい罠は何一つとして確認できなかった。それどころか、道中人っ子一人見当たらない。
「各員、ここからは慎重に動け。何があるかわからないぞ」
ここからは敵の本拠地だ。ここまで何もなかったからといって、このまま上手いこといく筈もない。
ゴラウンは気を引き締めて、これまで以上に慎重に歩を進めるよう指示する。
「しかし隊長、あまり時間をかけすぎてはフレアルド様が……!」
隊員の一人が、フレアルドが戻ってきた時のことを恐れてゴラウンに抗議する。別れ際に釘を刺されたことを気にしているのだろう。
フレアルドは強い。ゴラウンはそれをよく知っていた。
対峙するあの男、元四天王であるアースの実力の程は推し測れないでいたが、魔王亡き今、魔王軍最強との呼び声の高いフレアルドに到底敵うものではないだろうとも予想していた。
「…………」
「――もう我慢できないです! ゴラウン隊長! 俺が先陣を切ります!」
ゴラウンが判断に迷い沈黙していると、一人の隊員が飛び出していってしまう。
「リューグ!? 待て!」
飛び出して行った隊員の名はリューグ。
彼は部隊の中で最年少であり、入隊してからまだ1年程度の新人であった。
とはいえ、滅戯竜隊に入隊できるだけあって、その能力は高く、そしてまだ若い分伸び代もある。
しかしその若さ故に今のような軽率な行動を起こしがちであるのと、自分の力を過信しがちなのが玉に瑕だ。
「くっ、仕方ない……全軍突撃! リューグを追いながらまずは主要施設と思われる建物を占拠せよ!」
ゴラウンは一人で突撃してしまったリューグを一人行かせる訳にもいかず、仕方なく部隊を突撃させる。
しかし、そのすぐ後にそれは誤った判断であったことを痛感させられる。
「うわっ!」
「おおっ!?」
部隊の両翼に位置取っていた隊員二人が、地面にある何かを踏み抜き、その途端煙幕のようなものが辺りに拡がる。
「煙幕か!? ……いや、この匂いは……まずい! 全員息を止めて煙から離れろ!」
ゴラウンが何かに気付き指示を出し、部隊は煙を避けるように散開するが、煙の発生源にいた二人は退避が間に合わずに、フラフラとした様子であった。
「くっ、間に合わなかったか! フレイムバレット!」
ゴラウンは宙に漂う煙に向け炎の魔法を放つ。
すると炎が一瞬の間燃え広がり、消えた頃には煙は跡形もなくなっていた。
「これで一先ずは安心か……しかし、この二人はもうしばらくは戦えないだろう」
ゴラウンは地面に倒れる二人の様子を伺うと、苦しんだ様子もなく、むしろすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
「やはり、か」
ゴラウンが辺りを注意深く見回すと、予想通りのものがそこかしこに点在していた。
その正体は、『スリープマッシュ』と呼ばれるキノコの一種で、刺激すると誘眠効果のある胞子を噴出し、身を守る習性を持つキノコだ。
毒性は無く、胞子を吸引しても死に至ることはないが、一定量吸って一度眠ってしまえば、短くとも半日は何をしても起きることはないだろう。
「しかし……この胞子の量は異常だ。大きさも知っているものとはかけ離れている。似ているが別の種類なのか……?」
ゴラウンの知る誘眠茸とは違う特徴に疑問を覚えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
まるで地雷原のように点在するこのキノコに気を付けながら先に進まねばならないのだ。
「リューグは……先に行ってしまったか。この罠にかからないとは、運が良いのか悪いのか。――誰か2名は眠ってしまった者を、看護のため残してきた隊員の元へと運んでくれ。残りの者はこのまま進むぞ。いいか? 地面のキノコに気を付けて進むんだ」
幸か不幸か、先行したリューグはトラブルのあったゴラウン達に気付くことなく、誘眠茸に触れずに走り抜けていったようだった。
さらに隊員を失ったゴラウンだが、リューグを一人置いていくわけにもいかないので、仕方なしに進まざるを得ない。
この先に何が待ち受けていようとも。
0
お気に入りに追加
528
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
最悪から始まった新たな生活。運命は時に悪戯をするようだ。
久遠 れんり
ファンタジー
男主人公。
勤務中体調が悪くなり、家へと帰る。
すると同棲相手の彼女は、知らない男達と。
全員追い出した後、頭痛はひどくなり意識を失うように眠りに落ちる。
目を覚ますとそこは、異世界のような現実が始まっていた。
そこから始まる出会いと、変わっていく人々の生活。
そんな、よくある話。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
【連載版】異世界に転生した少女は異世界を満喫する
naturalsoft
恋愛
読書様からの要望により、短編からの連載版になります。
短編では描き切れ無かった細かい所を記載していきたいと思います。
短編と少し設定が変わっている所がありますがご了承下さい
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふと目が覚めると赤ちゃんになっていた。Why?私を覗き込む金髪美人のお母さんを見て、あ、異世界転生だ!と気付いた私でした。前世ではラノベを読みまくった知識を生かして、魔力?を限界まで使えば総量が増えるはず!
よし、魔力チートを目指してエンジョイするぞ♪
これは神様にあった記憶もない楽天家な少女が前世の知識で異世界を満喫する話です。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる