上 下
71 / 120
【迫り来る危機】

皇帝との謁見

しおりを挟む
「ふむ……ようやく到着か」

 長旅を終え、馬を降りたレオナルドはため息混じりに呟いた。
 アースとエレミアをコンクエスター家に送り出した後に、皇帝陛下との謁見のため、レオナルド自身もすぐさま帝都へと向かい出発していた。

「エレミア達はそろそろ帰路に就いている頃合いだろうか……?」

 自慢の駿馬で駆けてきたものの、距離の関係でアース達の乗る馬車よりも到着まで時間がかかってしまっている。
 予定どおりであれば、アース達はリーフェルニア領へと帰っている途中であろうと、レオナルドは遠く離れた愛娘に想いを馳せる。

「――それにしても、何度見てもこの景色は壮観だな」

 ガンドルヴァ帝国の首都『帝都ドライゼス』、世界最大の都市であるその都市は遠くから見ても視界に収まらないほどの広大な面積を誇り、その光景を見ると自分の統治するリーフェルニアの街がいかに発展途上なのかが改めて感じられる。

 もちろん広さだけではなく、施設の数や質、領民の生活水準までもがまるで別物と言えるだろう。
 国中の最高の学者達が集まる研究機関や、騎士になるための教育機関など、非常に充実していた。

「さて、謁見を済ませて早く帰ろう。まだまだ仕事が山積みだからな……」

 世界一の大都市と比較するだけ時間の無駄だと思い直したレオナルドは、早々に入国の手続きを終え皇帝の居城へと足を運ぶ。

 広大な敷地故に、入口の門からガンドルヴァ城までの道程も長いものだった。
 しかし、城まで続く一本道はかなり道幅を広く取られており、馬に乗っての移動が可能であったため、歩いて行くより遥かに早く辿り着くことができた。
 
 そして諸々の手続きを済ませ、謁見の間に到着したレオナルド。
 そこには、玉座に腰掛ける老齢の男性が佇んでいた。
 年老いているにも関わらず若き頃と変わらぬ鋭い眼光を放ち、口回りには立派な髭を蓄えている。
 彼こそがこの世界の覇者に最も近い男、皇帝コーネリウス・ガンドルヴァその人である。

「お目にかかれて光栄です、陛下。レオナルド・リーフェルニア、陛下の召集に応じ只今馳せ参じました」

 レオナルドは入室した扉より数歩前に進み、膝をつきこうべを垂れながらそう挨拶をした。
 謁見の間には皇帝の他にも宰相と思わしき人物や、護衛の騎士が数名待機しており、それら全員からの視線がレオナルドに集中していた。

 視線を一身に集める緊張感で、レオナルドの頬を一筋の汗が伝う。

「うむ、遠路遙々ご苦労であった。おもてを上げよ」

 コーネリウスの低く重みのある声が部屋に響く。
 しばらく間を開けたあと、レオナルドはゆっくりと頭を起こす。
 
「さて、レオナルド・リーフェルニア辺境伯よ。此度は新たな鉱山資源の獲得並びに良質な物品の生産に成功したようだな。土地の開拓に尽力したこと、誉めて遣わす」

「はっ! ありがたき幸せにございます」

 呼び出されどんな事を言われるのかと身構えていたレオナルドであったが、案外好意的な話にひとまず安堵した。
 しかし、宰相と思わしき人物が会話に割って入り、レオナルドにとって衝撃的な宣告をする。

「ウオッホン! それにあたりリーフェルニア領にはこの書状にある物を帝都へ毎月納めてもらう」

 レオナルドは書状を渡され、すぐさまに目を通す。

「――なっ!」

 その書状に記されたものは、法外とも言える条件での徴収内容だった。
 金銭はもちろんのこと、薬や武具、食料品など現在交易のため輸出している分と同等の量を要求されている。

 もちろん他の領地からも一定の金額を徴収してはいるが、リーフェルニア領に課された条件はとても素直に飲み込めるようなものではなかった。
 
「こ、これでは領民の生活がままなりませぬ! お考え直しください!」

「フン、何を言っている! 今は魔族との戦争中だぞ! 国のために貢献するのは当然であろう? 派兵できるだけの兵力を持たない貴殿らの事情を鑑みての条件だ。感謝したまえ」

 上に跳び跳ねた口髭を弄りながら、その男はレオナルドの意見を頭ごなしに却下する。
 書状の内容にも不満はあるが、それ以上にその理不尽な物言いから容姿まで、気に食わない男だとレオナルドは感じた。
 以前にレオナルドか帝都に滞在していた際には見かけない顔だったので、おそらくここ数年で今の座に就いたのだろうが、よくこんな男を重職に置いているものだと少々憂いてしまう。

 しかし、彼の言うことにも一理あり、戦時中における特例として同様なことを行ってきた前例がある。
 少なくとも今行われている戦いが終息するまで、レオナルド程度の権力しか持たない貴族には拒否権などない。

「ぐっ……」
 
 何の支援もなく辺境へ追いやった過去など、忘れてしまっているのか。
 冒険者あがりの貴族に与えられた任務など、数撃てば当たると思っていた内の一つだったのか。
 どんな条件だろうと甘んじて受け入れるしかない、そんな自分が情けなくて、レオナルドはぎりりと歯を噛み締める。

 その時、背後の扉が勢いよく開かれ、何者かが謁見の間へと入室してきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください

黄舞
ファンタジー
クライエ子爵家の長男として生まれたアークは、行方不明になった両親に代わり、新領主となった。 自分になんの才能もないことを自覚しているアークは、優秀すぎる双子の弟妹に爵位を譲りたいと思っているのだが、なぜか二人は兄を崇め奉る始末。 崇拝するものも侮るものも皆、アークの無自覚に引き起こすゴタゴタに巻き込まれ、彼の凄さ(凄くない)を思い知らされていく。 勘違い系コメディです。 主人公は初めからずっと強くならない予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

処理中です...