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【無視できない招待状】

再会の約束

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「――それで、俺達を呼んだのは何故だ? あまり時間の余裕はないんだが」

 アースの言うことは事実ではあったが、会話の流れを無視したあまりにも淡白な言動に、エレミアは動揺してしまう。

「ち……ちょっとアース! 失礼でしょ!?」

「ハハハ! よいよい。無理して呼びつけたのは此方じゃからな。本来ならワシの方から行くべきなのだが、この状況でな。すまなかった」

 その言葉を切っ掛けに、エドモンドの表情が真剣なものに切り替わる。
 
「まず一つは、ダストンの件じゃ。処遇についてはアース君から預かっておるし気になると思ってな。あやつは領地を預かる者として取り返しのつかないことをした。あやつとは縁を切った、もう二度とコンクエスターの名を名乗ることはない。罪人としてしばらくの間禁固刑にし、状況が落ち着いたらあやつが言う『下級民』とやらと同等の扱いで、この領地のために馬車馬のように働いてもらうつもりじゃよ」

「……そうか、わかった。それで構わない」

「原因はダストンも暴挙を見ないふりをしていたワシの息子にもある。当主の座を返上させ、しばらくはワシが当主に戻る形となろう」

 自らが定めた法律で自らの首を締める結果になるとは、ダストンも思っていなかっただろう。
 税金を納められない領民がどんな気持ちでいたかを知るいい機械だ。
 アースとしてもこれ以上の罰は求めていないので、この件に関しては納得をし、了承する。

「あの傭兵団はどうなった?」

「うむ、汚れ仕事を好んで引き受けていたこともあってな、調べたらボロボロと罪状が出てきよった。天与持ちもおるし、危険性を考えればこいつらは帝都の牢獄行きじゃな」

「そうか」

「そしてもう一つ、どちらかと言うとこれが本題じゃな。今回の件でリーフェルニア領を悪目立ちさせてしまったからのぅ。こいつを渡しておこうと思ってな」

 エドモンドは懐からペンダントを取り出し、エレミアへと手渡す。
 受け取ったペンダントは、豪華な装飾が施され、コンクエスター家の家紋が刻まれていた。

「エドモンドおじちゃん……これは……?」

「うむ、それは当家と懇意の関係である者に渡しているペンダントでな、それを持つことでコンクエスター家からの庇護下にあることが証明されるのじゃ。三個しか作られてなくて、これが最後の一個じゃがの」

「そんな凄いもの貰えないわ! だって、これがあれば……」

「うむ。コンクエスター公爵家の庇護下にあれば、位の低い貴族連中は下手に手出しできなくなるだろう。なあに、もともとレオナルドの奴が領地を発展させて一人前になった時に渡すつもりで取っておいたのじゃ。気にせんでええわい。今がその時なんじゃよ」

「そっか……じゃあ、受け取っておくね。エドモンドおじちゃん、ありがとう」

 エレミアは大事そうにペンダントを首にかけると、感慨深いのか少し涙ぐみながら微笑んだ。
 今回の件が知れ渡れば、コンクエスター公爵家の名は多少落ちてしまうだろうが、それでも皇帝に次ぐ権力を持つ大貴族の一角を担っているのだ。

 その公爵家に守られたリーフェルニア家に、余計な干渉をする者は激減するだろう。
 今後のことを杞憂していたアース達にとっては、非常にありがたい贈り物だった。

「うむ。また落ち着いたら遊びにくるといい。その時を楽しみに待っておるぞ」

「ええ、必ずまた会いにくるわ。キサラにもよろしく伝えておいてね」

「アース君もエレミアちゃんのこと、くれぐれもよろしく頼んだぞ? もし彼女を泣かせるようなことがあればすっ飛んで行くからな?」

「任せてくれ。エレミアは俺が命に代えても守ってみせるさ」

 エレミアの気持ちに気付いていたエドモンドが言った『よろしく頼む』には、様々な意味が込められていたのだが、やはりと言うか、目の前のこの男はそっち方面に恐ろしく鈍感な様子だったので、苦笑いしながら握手を求めて手を差し出す。
 アースはその手を取り、がっしりと握手を交わした。

(これ程の力を持った男が付いていてくれるのは、心強くもあるが、不安材料が無い訳ではない。しかし、彼らを見ているとどんな困難も乗り越えて行けそうなそうな気がするわい。……しかしこの男の鈍感具合は筋金入じゃの。いや、どこか心を閉ざしているような気もするが……まあそこは時間が解決するじゃろ)

 エドモンドは心の内でそう考えていたが、老人があまり口出しすることではないことかと思い、そのままアース達を送り出した。

 こうしてエドモンドと別れたアース達は、リーフェルニア領への帰路に着く。
 彼らのすぐ近く、小さいなにかがその後ろ姿を見張っているのに気付かないまま。
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