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【無視できない招待状】

VS黒狼傭兵団

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「こ、『黒狼こくろう傭兵団』……! 噂で聞いたことがあるわ。構成人数は少ないながら個々の戦力が高く、それぞれが冒険者で言うところのAランク相当だとか……」

 彼らの名前を聞き、エレミアが戦々恐々とする。
 辺境の地に住むエレミアにも噂が伝わる程に『黒狼傭兵団』の名は轟いていた。
 もっとも、強さもさることながら、素行の悪さなど悪い意味でも名が通っているのだが。

「フフフ……お褒めいただき光栄だよ。どれ、冥土の土産に俺達の名を覚えておくといい。俺は『黒狼傭兵団』団長、『黒狼』のロウガだ」

 エレミアの反応を見て悦に入ったのか、黒狼傭兵団の面々は名乗りを上げる。

「同じく、『疾風はやて』のシバと申します」

「『迅雷じんらい』のヴァネッサよ」

「……『大山たいざん』……ノーブ」

「さあ、狼の牙がお前を食い散らかしてやるよ!」

 それぞれが名乗りをあげる中、アースの視線は傭兵団ではない別の場所に向けられていた。

「――――おいお前、どこを見ている!」

 
 アースの視線の先、取り囲む衛兵たちの奥には馬車のような出で立ちの何かの上に、黒光りする大きな甲冑を着込んだ人物がふんぞり返って座していたのだ。
 その兜の隙間から、愉悦に浸り歪んだ目がアース達を覗いていた。

 アースの知っている目、他者を陥れるのを楽しむ悪鬼のような目だ。
 
「見つけたぞ、ダストン……!」

 黒狼傭兵団をよそに、アースの目は後方で高みの見物をするダストンを捉えていた。
 今この場に現れたということは、自分が一連の騒ぎの黒幕だと言っているようなものだろう。

 ダストンは窮地に陥ったアース達の様子をわざわざ見に来て、勝利を確信して満足している様子だった。
 アースはエレミアのおかげで冷静さを取り戻してはいるものの、ダストンへの怒りは消えたわけではない。
 ダストンが現れたことで抑えがきかなくなっていた。

「――さて、まずは奴のところまでの道を開けないとな。エレミア、しばらくそこを動かないで待っていてくれ」

「え、ええ。アース……大丈夫なの?」

「問題ない。エレミアのことは俺が必ず守るから心配するな」

「え? あ……うん」

 エレミアが心配していたのは自分の安全ではなく、黒狼傭兵団と対峙するアースに対しての心配だったのだが、アースのどこか余裕を感じる言葉にこれ以上は何も言えなかった。

「――虚仮にしやがって! 余所見してんじゃねぇよォォッ!」

 自分を無視されたように感じたロウガが吠えると同時に、アースへ向かって走り出す。
 それに続く形で他の団員もほぼ同時に動き出した。
 すると、ロウガの眼前に捉えたアースの姿が急に一瞬ぶれたかと思うと、その姿を見失った。
 それはロウガだけではなく、その場に居た全員がアースがどこへ消えたかを把握できていない。
 
「――何っ!?」

「――消えた!? 私の目に追えない速度だと!?」

  アースの姿が消えたため、ロウガ達は動きを止め、辺りを見回す。
 しかし、いくら探してもアースの姿はどこにも見当たらない。
 
「で、出てきなさいよ卑怯者! ――ははーん? さては女を置いて逃げたのね? 逃げ足だけは立派な――え?」

 最後尾に位置していたヴァネッサは、何者かに肩を掴まれたので、恐る恐る後ろを振り返る。

「――じ、ジョッシュ!? あんたなんで……キャアッ!?」

 ジョッシュと呼ばれた男がヴァネッサの肩を掴んでいたのだが、そこで意識が途絶えたようで、そのままヴァネッサの方へと倒れ込む。

 ジョッシュは黒狼傭兵団最後のメンバーで、『潜影』の二つ名で呼ばれ、隠密を得意としている。
 彼ら黒狼傭兵団の常套手段として、他の4人で敵の気を引き、ジョッシュが敵の懐に潜り込み人質を取るといった作戦がある。
 しかし何故か気絶寸前の状態で現れ、何かを伝えようとしてヴァネッサの肩を掴んだのだろうか、それがわからないまま気を失ってしまった。

「ちょっ、どうなってるの!?」

 ドォォン!

 何か大な物がぶつかったような打撃音が響き、それと同時にアースが姿を見せる。

「お前っ! ジョッシュに何かしたのね!? 一体どんな汚い手を――え? い、いや……嘘でしょ!?」

 アースの姿を確認したヴァネッサは、アースがジョッシュに何かをしたのだと判断し罵声を浴びせるが、ふと、街灯の明かりで照らされているはずの自分が、影でで覆われていることに気付いた。
 その影は、ノーブが自身に倒れ込んで来て出来た影であると気付いたときには既に遅く、魔法使い故にたいして体を鍛えてもいないヴァネッサが、ジョッシュを支えた状態で回避できるはずもなかった。
 結果、ジョッシュと共に3メートル近い巨漢であるノーブの下敷きとなったヴァネッサは、一瞬で意識を失ってしまう。

「な……なんだと!? 隠密を得意とするジョッシュを容易く仕留め、タフさでは団員随一なノーブが一撃だと!? この一瞬で仲間が3人もやられたというのか……!?」

「安心しろ、全員死んではいない。しばらくは寝ててもらうがな」

「――糞野郎がッ! 絶対に殺す! 『獣の咆哮ビーストレイジ』ッッ!」

「なっ!? ロウガ、それは……!」

 姿では敵わないと判断したロウガがそう叫ぶと、一瞬にしてその体躯は膨れ上がり、全身を黒い体毛が覆い、頭部に至っては完全に獣のような変貌を遂げ、まさしく『黒狼』と呼ぶに相応しい、二足歩行の黒い狼の姿へと変わっていた。
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