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【無視できない招待状】
窮地に立つ
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「――? ――ス! アースっ!!」
耳元で自分を呼ぶ声に、怒りに染まったアースの意識が引き戻される。
アースが我に返り気が付くと、エレミアがアースの耳元に顔を近付けて、心配そうな表情で呼び掛けてくれていたのだった。
こんなに近くからの声でないと気が付かないほどに、アースの意識が怒りに支配されていたのだ。
「ん……エレミア、どうしたんだ?」
エレミアの声を聞き、さっきまでのどす黒い感情が嘘だったかのように霧散し、平静を取り戻したアースは何事もなかったのように言葉を返す。
「どうしたんだじゃないでしょ。アース……大丈夫? すごく怖い顔してたわよ……?」
「心配かけてすまなかった。少し考え事をしていてな……もう大丈夫だ」
「もう……心配させないでよね。今はエドモンド様を助けるために、キサラを援護しなくちゃいけないんだから」
「――そう、だな。そうだった」
キサラがエドモンドへ薬を届けるために、衛兵を引き付けている最中であったことをアースは思い出した。
(いかんな……本来の目的を忘れるぐらいに気を散らしてしまうとは、まだまだ修行が足りないな)
アースがそう考えていると、甲高い金属音が鳴り響いたと同時に、アースの作り出した壁が真っ二つに両断され崩れ落ちた。
「おやおや、立ち話とは余裕ですねぇ……随分と舐められたものです。こんなちっぽけな壁一つで安心してもらっちゃあ……困るんですよねぇ」
崩れた壁の奥から、統一された防具を装備した衛兵達とは異なる装い、やたらとひらひらした布の服を纏った痩身の男が立っていた。
その男の手に握られているのは刀身に反りのある剣で、一般的に普及している両刃の剣と異なり片側だけに刃が付いている。その剣は薄く細い刀身を持ち、どこか妖しげに煌めいていた。
その形状から、切断することに特化してしている剣……極東の地で作られている武器、『刀』であるとアースは推測した。
アースの強化によって鉄に匹敵する強度を持つ壁を一刀のもとに切り伏せたのだ。壁の切断面が綺麗なことから、その一振がかなりの業物だと伺える。
だがその立ち振舞いから、持ち主の技量も相応に高いことが窺える。
(こいつ……できるな。あの時感じた強者の気配はこいつのものだったのか……?)
アースは瞬時に敵の力を見定め、警戒を強める。
しかしアースが気を引き締めた直後、敵の姿が揺らめいたと思った次の瞬間、突如としてアースの眼前に現れ剣を振りかぶっていた。
「――くっ、速い!」
「キエエェェェッッ!!」
空を切り裂くような斬擊がアースの眼前をかすめる。
咄嗟に身を躱すことには成功したが、エレミアを抱えたこの状況では、続けて同じ技を使われたら避けきれない可能性がある。
しかし、加減をしているのか連続の使用が出来ない技なのか、どちらかはわからないが男は斬擊を放った後、数瞬ではあるが硬直していたため、アースは即座に距離を取る。
「奥義『神速斬り』を躱すとは……なかなかどうして、賊にしておくには惜しい男ですねぇ」
「お褒めいただき光栄だ。しかし、追撃をしてこないところを見ると、連発はできないようだな?」
「――いえいえ、その必要がなかったまでのことですよ」
男はニヤリと笑みを浮かべると、近くの部屋へと身を隠す。アースがそれを不思議に思っていると、違和感に気付くのが遅れてしまった。
刀使いの後ろに居たはずの衛兵達の姿がいつの間にか消えていたのだ。
「アースっ! 後ろ!」
エレミアが叫んだ直後、アースは背後から強力な魔力の反応を感じる。
「――しまっ――」
「喰らいなさい! 『ライトニングストーム』!」
通路一面を覆い尽くす程の雷の奔流がアースを襲った。
耳元で自分を呼ぶ声に、怒りに染まったアースの意識が引き戻される。
アースが我に返り気が付くと、エレミアがアースの耳元に顔を近付けて、心配そうな表情で呼び掛けてくれていたのだった。
こんなに近くからの声でないと気が付かないほどに、アースの意識が怒りに支配されていたのだ。
「ん……エレミア、どうしたんだ?」
エレミアの声を聞き、さっきまでのどす黒い感情が嘘だったかのように霧散し、平静を取り戻したアースは何事もなかったのように言葉を返す。
「どうしたんだじゃないでしょ。アース……大丈夫? すごく怖い顔してたわよ……?」
「心配かけてすまなかった。少し考え事をしていてな……もう大丈夫だ」
「もう……心配させないでよね。今はエドモンド様を助けるために、キサラを援護しなくちゃいけないんだから」
「――そう、だな。そうだった」
キサラがエドモンドへ薬を届けるために、衛兵を引き付けている最中であったことをアースは思い出した。
(いかんな……本来の目的を忘れるぐらいに気を散らしてしまうとは、まだまだ修行が足りないな)
アースがそう考えていると、甲高い金属音が鳴り響いたと同時に、アースの作り出した壁が真っ二つに両断され崩れ落ちた。
「おやおや、立ち話とは余裕ですねぇ……随分と舐められたものです。こんなちっぽけな壁一つで安心してもらっちゃあ……困るんですよねぇ」
崩れた壁の奥から、統一された防具を装備した衛兵達とは異なる装い、やたらとひらひらした布の服を纏った痩身の男が立っていた。
その男の手に握られているのは刀身に反りのある剣で、一般的に普及している両刃の剣と異なり片側だけに刃が付いている。その剣は薄く細い刀身を持ち、どこか妖しげに煌めいていた。
その形状から、切断することに特化してしている剣……極東の地で作られている武器、『刀』であるとアースは推測した。
アースの強化によって鉄に匹敵する強度を持つ壁を一刀のもとに切り伏せたのだ。壁の切断面が綺麗なことから、その一振がかなりの業物だと伺える。
だがその立ち振舞いから、持ち主の技量も相応に高いことが窺える。
(こいつ……できるな。あの時感じた強者の気配はこいつのものだったのか……?)
アースは瞬時に敵の力を見定め、警戒を強める。
しかしアースが気を引き締めた直後、敵の姿が揺らめいたと思った次の瞬間、突如としてアースの眼前に現れ剣を振りかぶっていた。
「――くっ、速い!」
「キエエェェェッッ!!」
空を切り裂くような斬擊がアースの眼前をかすめる。
咄嗟に身を躱すことには成功したが、エレミアを抱えたこの状況では、続けて同じ技を使われたら避けきれない可能性がある。
しかし、加減をしているのか連続の使用が出来ない技なのか、どちらかはわからないが男は斬擊を放った後、数瞬ではあるが硬直していたため、アースは即座に距離を取る。
「奥義『神速斬り』を躱すとは……なかなかどうして、賊にしておくには惜しい男ですねぇ」
「お褒めいただき光栄だ。しかし、追撃をしてこないところを見ると、連発はできないようだな?」
「――いえいえ、その必要がなかったまでのことですよ」
男はニヤリと笑みを浮かべると、近くの部屋へと身を隠す。アースがそれを不思議に思っていると、違和感に気付くのが遅れてしまった。
刀使いの後ろに居たはずの衛兵達の姿がいつの間にか消えていたのだ。
「アースっ! 後ろ!」
エレミアが叫んだ直後、アースは背後から強力な魔力の反応を感じる。
「――しまっ――」
「喰らいなさい! 『ライトニングストーム』!」
通路一面を覆い尽くす程の雷の奔流がアースを襲った。
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