上 下
53 / 120
【無視できない招待状】

再びの冤罪

しおりを挟む
「ん? なんだ? ――ああ、少し待っておくれ。今日の薬を飲む時間だ」

 アースが取り出した薬を渡そうとした瞬間、鐘が鳴り響いた。
 何を報せる鐘の音なのかはアースとエレミアにはわからなかったが、エドモンドはいつもこの鐘が鳴る時間に薬を服用しているらしい。
 エドモンドは、ベッドの横に備え付けられた小さな水差しから薬を注ぐと、一口に飲み干した。

「――――むぐっ! がぁ――――ぐっ!!」

 すると、薬を飲んだエドモンドの様子が急変した。
 胸を押さえて苦しみ始め、その目は血走り真紅に染まり、やがて眼球から血が溢れだし涙を流したように頬を伝う。

「キャァァァァッ!! 誰か来てっ! エドモンド様がっ!」

 それと同時に、女性の悲鳴が館に響き渡った。
 その悲鳴を発したのはエレミアではなく、使用人のものであった。

「何事だっ! ――はっ! エドモンド様っ! エドモンド様ぁっ!」

 衛兵と思わしき人物が即座に駆けつけ、エドモンドの状態を見て大声をあげた。
 エドモンドが危険な状態であるのは誰が見ても明らかであり、そしてエドモンドがこの状態になったときに居合わせた人物はエドモンドを除けばアースとエレミアだけである。
 この状況から導き出される答えは一つ。

「エドモンド様が客人によって殺害された!! 皆のもの、出会え! 出会えーっ!」

「――なっ!?」

「――えっ!?」

 あまりにもの急な展開に、アースとエレミアは困惑していた。
 その間にも次々と衛兵達が押し寄せ、部屋は完全に包囲されてしまう。

「――待って! エドモンド様は死んでないわ! 早く治療をっ!」

「ええい、黙れ! 各部隊に命ずる! この不届き者を捕えよ!」

 エレミアの言うとおり、エドモンドは胸を押さえ苦しんでいるが、まだ息を引き取ったわけではない。こうなった原因は不明だが適切な処置さえできればまだ助かるだろう。
 しかし、そんなエレミアの悲痛な訴えもむなしく、衛兵達は聞く耳を持たずにアース達を捕えようとじりじりと近付いて来ていた。
 
「――くっ! エレミア、ここは一旦退くぞ! 『天地創造クリエイション』!」

 この包囲された空間でエレミアとエドモンドを守りながら闘うことはできないと判断したアースは、エレミアを抱き抱え『天与ギフト』を使い床に穴を空けて、そこから飛び降りた。
 更に飛び降りた直後に、再び『天与』で穴を閉ざす。

「――っ!? し、下の階に逃げたぞ! 追え! 追うんだ!」

 目の前で起きた超常的な現象に目を見開くも、すぐさまアースらを追いかける衛兵たち。
 幸いエドモンドの部屋は館の最上階に位置していたので、アースは同様の手段を用いて最下層まで降りた。これで衛兵が追ってくるにしても、相応に時間が稼げることだろう。

「アースっ! 早く戻らないと! エドモンドおじちゃんがっ!」

「……エレミアの気持ちはわかるが、俺達は今容疑をかけられ追われる身だ。戻るのは容易ではないだろう」

「――でもっ!」

 エレミアは諦めきれないといった様子で、拳が白くなるほど握りしめた。
 エレミアの気持ちを尊重したいのも山々だが、あれだけの人数に追われながらエドモンドに薬を飲ませるには少々無茶がある。

 アース一人であればなんとかなったかもしれないが、この状況でエレミアを一人にするわけにもいかない。

 そしてアースは、あの人混みの中にも数名腕の立つ者の気配を感じ取っていた。
 手練れを含めたあの人数を相手に立ち回るには、大きな館だとはいえ少々手狭だ。
 それに下手に暴れまわると、館に居る使用人などの無関係な者にも危害が及ぶ可能性がある。

「すまん……俺の力不足だ」

「…………ごめんね、アース。それでも、私は薬を届けに行くわ」

 エレミアは、覚悟を決めた面持ちでアースの目を真っ直ぐ見詰める。

 断固たる決意が、そこにあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップしない呪い持ち元神童、実は【全スキル契約済み】 ~実家を追放されるも呪いが無効な世界に召喚され、爆速レベルアップで無双する~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 代々宮廷魔術師を務める名家に庶子として生まれたリーノ、世界に存在する全ての”スキル”を契約し、一躍神童と持ち上げられたがレベルアップ出来ない呪いが 発覚し、速攻で実家を追放されてしまう。 「”スキル辞典”のリーノさん、自慢の魔術を使ってみろよ!」 転がり込んだ冒険者ギルドでも馬鹿にされる日々……めげないリーノは気のいい親友と真面目な冒険者生活を続けていたのだが。 ある日、召喚獣として別世界に召喚されてしまう。 召喚獣らしく目の前のモンスターを倒したところ、突然リーノはレベルアップし、今まで使えなかったスキルが使えるようになる。 可愛いモフモフ召喚士が言うには、”こちらの世界”ではリーノの呪いは無効になるという……あれ、コレってレベルアップし放題じゃ? 「凄いですっ! リーノさんはわたしたちの救世主ですっ!」 「頼りにしてるぜ、リーノ……ふたりで最強になろうぜ!」 こっちの世界でも向こうの世界でも、レベルアップしたリーノの最強スキルが大活躍! 最強の冒険者として成り上がっていく。 ……嫉妬に狂った元実家は、リーノを始末しようととんでもない陰謀を巡らせるが……。 訪れた世界の危機をリーノの秘儀が救う? 「これは……神の御業、NEWAZAですねっ!」 「キミを押さえ込みたいんだけど、いいかな?」 「せ、せくはらですっ!」 これは、神童と呼ばれた青年が、呪いの枷から解き放たれ……無数のスキルを駆使して世界を救う物語。 ※他サイトでも掲載しています。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

【連載版】異世界に転生した少女は異世界を満喫する

naturalsoft
恋愛
読書様からの要望により、短編からの連載版になります。 短編では描き切れ無かった細かい所を記載していきたいと思います。 短編と少し設定が変わっている所がありますがご了承下さい ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ふと目が覚めると赤ちゃんになっていた。Why?私を覗き込む金髪美人のお母さんを見て、あ、異世界転生だ!と気付いた私でした。前世ではラノベを読みまくった知識を生かして、魔力?を限界まで使えば総量が増えるはず! よし、魔力チートを目指してエンジョイするぞ♪ これは神様にあった記憶もない楽天家な少女が前世の知識で異世界を満喫する話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...