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【無視できない招待状】

ダストンの策略

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「おやぁ? エレミア嬢、体調が優れないようだが大丈夫かい? 」

 ダストンは更に醜悪さを増した笑みで、エレミアの体調を心配するが、それは本心から出た言葉ではなく、どうも芝居がかった印象がある。

 この態度を見たアースは、ある可能性を推測する。
 ダストンが意図的に、先程の飲み物にであろうという事を。

「あ、はい。……ご心配をおかけしました。少し立ち眩みしてしまったようで。――では、行きましょうか」

 一瞬よろけたものの、その後何事もなかったようにすっと姿勢を正し、エレミアはその体を支えるアースの手から離れる。
 その肩からは、先程と同様に淡い光がうっすらと見えた。

「ん……あれ? 何ともないのか?」

 期待していたものと違う反応をしていたせいか、ダストンは首をかしげる。

「……? ええ、大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます」

「――チッ、あいつめ……しくじりやがったか……!?」

 エレミアの何ともない様子を見て、ダストンは誰にも聞こえないようにアース達に背を向け小声で呟いたのだが、アースにははっきりと聞こえていた。

 この瞬間、アースは自分の推測は正しかったのだと確信する。何を飲ませたのかはわからないが、ろくなものではないだろう。

 とりあえず、エレミアは少しふらついた程度で大きな変化が無いことにアースは安堵した。
 どうやら、事前に服用していたポーションがきちんと効力を発揮してくれたようだ。

 宿を出る前に万が一に備えて、エレミアに全ての状態異常回復のポーションを飲んでもらっていた。
 アースの改良が施されたこのポーションは、飲んだ瞬間だけでなく、その後数時間は状態異常に対する耐性が持続する特別製だ。

 エレミアの肩辺りから淡い光が見えていたのは、状態異常の元となる毒素などを中和する時に発生する光であった。
 光が現れたタイミングを考えると、間違いなく出されたお茶を飲んだのが原因だ。
 意図的にこちらを陥れようとしたダストンを、アースは『要注意人物』として認識を改めた。

「…………」

 機嫌を悪くしたのか、それ以降ダストンは一言も発することなく歩き続けた。
 道中、踏むと発動する魔法陣の罠や、事故を装って物が倒れてきたりと色々とあったのだが、そのことごとくをアースが人知れず無力化してきた。
 その度にダストンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
 
「……ここが祖父の別邸だ。話は通してあるので後は勝手にやってくれ。僕は用事があるので失礼するよ」

「あ……はい。ありがとうございました、ダストン様」

 声の調子を落としたダストンは、案内だけするとそそくさと立ち去ってしまう。
 表にこそ出ていなかったが、内心では怒り狂っていたのかもしれない。
 
「エレミア……気付いていたかもしれないが、あの男は危険だ。早くここを立ち去った方がいい」

「そうね……ご挨拶が終わったら宿に戻りましょうか」

 エレミアもダストンが何かを仕掛けていたことは薄々感じていたようで、危機感を抱いていた。
 
「そうだな。――案内はしてもらったんだ。さすがに祖父が養生しているこの別邸にまで何か仕掛けてはいないと思うが……とにかく行くとしよう」
 
 そう言ったアースの眼前には、舞踏会の会場に使われていた建物に引けを取らないほど大きな館がそびえ立っていた。
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