元四天王は貧乏令嬢の使用人 ～冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます～

【天災との遭遇】

魔法の道具

　あれから魔物に襲われることもなく、無事に朝を迎えた一行。目覚めたコハクがテントからひっこりと顔を出した。

「ふぁーあ、おはようさん。よう眠れたわ～」

「おはようございますッス、コハク姉さん」

「おはよう、コハク」

　二人はコハクと朝の挨拶を交わす。
　するとアースどガウェインの間の雰囲気が柔らかくなっているのを感じ取り、コハクはにやりとした顔つきで喋りだした。

「お、なんやお二人さん。ウチ抜きで男同士の内緒話でもしとったんかいな？　随分仲良うなったみたいやん」

「ハハ……まあそんなとこッス」

「なんや、ウチは仲間外れかいな。寂しいなぁー」

「フッ、また今度な」

　話し込みたいのも山々だが、あまり悠長にもしていられない。アース達はいよいよ鉱山の中へと侵入することになるのだ、気を引き締めなければならない場面だ。

「よっしゃ！　こっからはウチの出番やな！　まかしとき！」

　ようやく自分の得意な分野がやってきたと、コハクはここぞとばかりに張り切った。
　アースはコハクから預かっていた荷物を渡し、コハクの指示通り装備を整えていく。

「まぁ当たり前やけど、鉱山の中はあまり光が入らないんで、道中真っ暗闇なことが多いんや。そこでこれや！　デデーン！」

　コハクが取り出したのは、拳大の石が中央に設置された鳥籠のような形をしたランプだった。

「ランプか？　それなら俺も一応用意してあるぞ？」

「チッチッチ。これが普通のランプとはちゃうねん。これは魔道具の一種で白閃灯はくせんとう言うてな、この真ん中の石は白光石びゃっこうせきっていう、一定量以上の魔力を通すと白く輝く性質がある鉱石なんや。普通のランプの数倍は光量があるんで山で暮らすドワーフの必需品やな」

「ほう、これが……」

　知識としては知っていたが実際目の当たりにしたのは初めてである。
　錬金術師としての知的好奇心を刺激されたアースは白光石を食い入るように凝視する。

「興味あるんか？　帰ったら好きなだけ見せたるさかい、今は先に進もうか」

「あ、ああ……すまない。そうだな」

　コハクは籠の下部にある部品を引き抜き、それに魔力の込められた石、『魔石』をはめ込むと、引き抜いた部品を元に戻す。

　すると石が光り始め、辺りを眩く照らし出す。

「おっし、これで三時間はもつで。松明なんかより明るいし持続時間も長い。もう一度魔石を入れ替えれば同じだけもつ。どや？　便利やろ？」

「ふむ……あの部品に魔力を流して……魔力を蓄積させる仕組みと、白光石に魔力を流す仕組みがあるのか……？　いや、そうなると――」

「あーもう！　早く行くッスよ！」

　ガウェインは顎に手を添えながらブツブツと独り言を言い始めるアースの肩を叩き、自分の世界に入ってしまったその意識を現実へと引き戻す。

「――む、すまない。つい興味をそそられてな……」

　魔道具の技術はここ十年で大きな進歩を遂げている。
　アースは基本一人で研究を続けていたので最新の技術には疎いところがあるし、そもそもの技術力が人間族と魔族とで大きな差があった。

　故に最新鋭の技法には興味津々であったので、帰ったらコハクに根掘り葉掘り聞いてやろうと心に誓うアースであった。

　一行は鉱山の中へと入り、歩を進める。

　道中ロックバットという体表が岩で覆われた蝙蝠型の小型の魔物が数匹居ただけで、それ以外は特に大きな危険はなかった。

　手付かずの鉱山の中はあちらこちらに鉱床が多く散見できた。これだけの量があればかなり有用な鉱山資源になるだろう。

「うぉぉぉぉーーーーっ！　すごいでこれ！　宝の山や！」

　コハクの異様な興奮ぶりも頷けるほどの埋蔵量であり、その価値は計り知れない。
　しかもこれは中に入って数分歩いた程度の距離での話で、まだまだ道は奥へと続いている。
　
「俺にはよくわかんないッスけど、姉さんが言うんであればよっぽどすごいんでしょうねぇ。どうします？　ここで調査を終わりにして一旦報告に戻るのもアリだと思うッスけど」

「何言うとんねん！　こんだけの色々な種類の鉱物が一つに集まっているなんてこと滅多にないで……もしかしたら希少な金属とかもあるかもしれん！　絶対奥まで行くべきやって！」

「……うーん、じゃあもっと行ってみるッスか？　危険とかはなさそうな感じッスかね」

「手付かずはずやのに、こんな坑道みたいなのが長く続いてるのはちょいと不自然な気はするんやけど……いや、でも詳しく調査したほうが絶対ええって！」

　興奮気味でまくし立てるコハクであったが、ガウェインも専門家のコハクげ言うなら危険はないと判断したのか特に反対する様子ではない。
　アースとしても希少金属に興味があり、特に反対する者はおらず一行は更に奥へと歩を進めることに決めた。