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【天災との遭遇】

出立

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 夜の暗闇が朝焼けに染まり始めた頃、アースとコハクは館の門の前に集合していた。

 この日ばかりは、アースはいつものきっちりとした使用人の服を脱ぎ、動きやすい服装に、急所のみを守るための、革製の軽装防具を身につけた状態で調査へと向かう。

「おっ、来ましたね! 今回案内役に任命された騎士団員のガウェインっていうッス。よろしくおねがいするッス!」

 門へ到着すると、若い男性の騎士がアース達を出迎える。
 以前簡単に顔合わせはしたものの、こうやって対面して話すのは初めてである。

「おー、よろしゅうな坊主。ウチはコハクや」

「ぼ、坊主って……一応お嬢ちゃんより年上だと思うッスよ?」

「お? 聞いとらんのか? ウチはドワーフや、ちっこいように見えるけどもう二十歳なんやで」

「うぇぇっ!?」

 コハクの発言にガウェインは目を丸くする。コハクの身長は一般的な十二歳前後の女性の平均ぐらいしかなかったからだ。
 しかもコハクはかなりの童顔である。その容姿からして、ガウェインが勘違いするのも無理はないだろう。

「お、俺より五つも上……し、失礼しましたッス! コハク姉さん!」

「お、おう……」
 
 あまりにもの変わり身の早さに若干引き気味なコハクであった。
 しかし静観しているアースも、事前に説明を受けていなければ間違えていただろう。

「成程、鉱山の探索なのでドワーフであるコハク姉さんが同行するんスね。納得ッス」

 どうやらガウェインは、同行人であるアースとコハクのことについては何も聞かされていないようだ。

 レオナルドが杜撰ずさんなのか、ガウェインが能天気なのか、どちらかはわからないが幸先が不安である。

「俺はアースだ、よろしく頼む」

「あ、どーも。使用人の方ッスよね? 荷物運びよろしくッス」

「ん……? あ、ああ」

 ガウェインはアースのことを荷物持ちかなにかと勘違いしているようだ。どうやら、知識豊富なコハクの補助役かなにかだと思い込んでいる。

 それに心なしかアースに対する態度がそっけないように感じられた。
 しかし使用人と騎士では身分が違うので、下の身分である者に対する態度としては別段おかしなことではなかったので、アースは特に言及せずにいた。

「では早速出発するッスよ。鉱山までの道は整備されてないので最短距離の森の中を突っ切ることになるッス。なので移動は徒歩になるので森の中では警戒を怠らないように! まぁお二人とも俺が守りますんで心配ご無用ッス! ナハハハハ! それじゃあ、レッツゴー!」

 ガウェインを先頭に、アース達は歩を進める。街の近くは比較的安全なので、問題は森に入ってからだ。
 平原と違い視界が悪く、どこから魔物が襲ってきても不思議ではないので全方位の警戒を怠れない。

 数時間ほど歩いたところで、アース達は何事もなく森の入り口まで辿り着く。
 ずっと歩き詰めで、身体の小さなコハクは体力的に大丈夫だろうかと心配していたが、終始存外に平気そうにしていた。
 そのおかげで、アース達は思ったよりも速いペースで進んでいた。

「よーし、じゃあちょっと早いッスけど、森に入る前に食事休憩しましょうかー」

「おー、ええなぁ! ウチちょうどお腹すいてきたところやってん」

 アース達は近くにあった切り株に腰掛け、昼食をとることにした。

 アースはマジックバッグから全員分の携帯食料を取り出すと、二人へと手渡す。

 エレミアから貰った料理は、三日は持つと言っていたのだが、実はアースの持つマジックバッグに入れられた物は時間の影響を受けないので、少しずつ食べようと思い今回はこっそり取っておくことにした。

「ほえーやっぱり便利やなあ。おかげで荷物も少なくて助かるわ。重さも感じないんやっけ?」

 その様子を見たコハクが感嘆の声をあげる。
 今回の旅に必要な荷物のほとんどはアースのマジックバッグに入れてあるので、三人は最低限の装備以外は身に付けていない。
 彼らの足が速いのには、そういった理由もあった。
 
「ああ、この中に入れた物は重さを感じなくなるんだ。貰い物だから理屈はわからないんだけどな」

「ほーん。まっ、便利なのには変わりないしええやん」

「まあそうだな」

「……いいッスね、便利な物を持っているだけでお嬢に目をかけてもらえるなんて」

 ガウェインの言葉には少し棘があるように感じた。
 出発際もそっけない態度を取られたことから、どうやらアースの事をあまりよく思っていないようだがその理由まではわからない。

「ん? ああ……そうかもな」



 その後、なんだか険悪な雰囲気になり、黙々と食事を続けた三人。
 コハクが持ち前の明るさでなんとか場を繋いでいなければ、まるで葬式のようだった。

「……それじゃあ、そろそろ行くッスか」

 アースの態度に気分を悪くしたのか、声のトーンを少し落としたガウェインが出発を告げる。
 少し棘を残した空気のまま、アース達は森の中へと入っていくのであった。
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