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【天災との遭遇】

ドワーフ族のコハク

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 レオナルドが帰還した次の日の正午、先日彼が言っていたとおり他の調査部隊の面々がリーフェルニア領へと帰還した。

 アースを含めた館にいる者たちは、帰還した隊員達を出迎えるため庭へと出る。
 三ヶ月に渡る長期間の遠征に、部隊員達はそれぞれ程度は違えど疲労の色が窺えた。

「カッカッカ! ようやく帰ってきよったか! 皆の者ご苦労だった!」

「お嬢に久しぶりに会えるからって飛ばしすぎっスよー、レオナルド様ぁ」

 レオナルドが労いの言葉をかけると、短く刈り揃えられた栗色の髪と、鼻の周りにあるそばかすが特徴的な青年が、いの一番に不満を垂れる。
 他の者が疲労困憊のなか、最年少と思われる彼だけは、軽口を言えるぐらい体力が残っているようだ。

「カッカッカ! ガウェインよ! まだ元気があり余ってるようだな! お前だけ休暇無しにするか?」

「ヒィィィ! そりゃ勘弁ッス!」

 レオナルドにガウェインと呼ばれた青年は、これ以上この場にいるとまずいと悟り、何処かへと走り去ってしまう。

「まったく……あやつは騎士になっても変わらんな」

 ガウェインはこのリーフェルニア領で産まれ育った青年だ。子供の頃から憧れていた騎士に任命されてからも、その飄々とした言動は子供のときのまま変わらず、レオナルドを度々呆れさせていたのであった。

「フム。……まあ、よいか。おーい、アース! 例のものを頼む!」

「了解した」

 レオナルドに名を呼ばれたアースは、用意していた疲労回復効果のある丸薬を取り出し隊員達に配っていく。
 これらは昨日レオナルドがアースの錬金術師としての腕を試すために依頼していたものである。

「ほう、まさか本当に一晩で仕上げてくるとはな。しかし、効果の方はどうかな? ……お前達、負傷のある者はポーションで回復させるといい。それ以外の者も丸薬を服用するのだ、疲労に効くらしいぞ!」

 レオナルドの言葉を受け、隊員達が恐る恐る丸薬やポーションを口にする。

「――おお、すごい! あんなに重くなっていた体が嘘みたいに軽いぞ!」

「――これは!? 折れていた腕が完治したのか!? ポーションにここまでの効果があるだなんて信じられん……!」

 薬を飲んだ途端に効果を発揮し、隊員達はそれぞれに驚愕の声をあげる。
 
「……ふむ、エレミアから貴公の腕前の事を聞いて、我が娘ながら突拍子のないことを言うもんだと思って少々疑っておったが、実際こうして目の当たりにすると信じざるを得んか」

「もう、信じてなかったの? お父様ったら!」

「いやあすまんすまん! エレミアを信じていなかったわけじゃないんだよぉ!」

 基本的に魔族は人間族と比べ体力が高く疲れ知らずなところがあるので、アースが魔王軍にいた頃は疲労に効く薬は作っていなかったが、レオナルドより急遽依頼があったため、昨晩急ぎで開発したところ思いがけないほどの傑作が完成したのだった。

 アースはこの薬を『リフレッシュタブレット』と名付け、母から受け継いだレシピ帳に新たに書きとめた。

「ふふ、今回の薬は自信作なんだ」

 アースは腕を組みながら、満足そうに頷く。

 このレシピ帳はアースが納得のいくものが出来ないと、新たに書き足すことはない。今回久々に新たなレシピが加わったことでやや上機嫌なアースであった。
 
「へー、アースがご飯以外で機嫌良さそうなのって初めて見たかも」

「カッカッカ! 善きかな善きかな!」

 しばらく高笑いしていたレオナルドだったが、一息つき改めて今回の成果を報告し始めた。

「さて、騎士諸君! 諸君らには10日間の休暇を与える! 協力してくれた領民達には報酬を出すので明日以降館へ受け取りにきてくれ。今回の遠征では鉱山を発見するという実りもあった! 鉱山をどうするかについては会議した後に告知するのでしばらく待ってほしい。次回も協力してくれると助かるぞ! では皆疲れているだろうしこれで解散とする!」

 部隊の面々が解散していくなか、一人ポツンと残された小さな人影がアースの視界に入る。

「……あのー、ウチはどないしたらええん?」

 身長はアースの腰あたりまでしかなく、作業服のようなダボっとしたオーバーオールを身にまとい、藍色の髪を頭の両端で結んだ見覚えなのい少女が、所在なさげに呟く。

 アースとエレミアはレオナルドに視線を向けると、まるで顔に「しまった」と書いてあるような表情で固まっていた。

「……ゴホン! い、いや忘れてたわけではないぞ、うん。あー、じゃあ自己紹介してもらおうか」

 レオナルドはしどろもどろしながらも、少女に自己紹介を促した。

「ウチの名前はコハクや。ドワーフなんやけど、ちょっとやらかしてしもて里から追放されて彷徨ってたんをこのデカイおっちゃんに拾ってもらったっちゅうワケや。二人ともよろしゅうな! あ、身長はこんなんやけど一応成人はしとるで」

「よろしくね、コハクさん。私はエレミア・リーフェルニア。そこのでっかいおっちゃんの娘よ」

「この館の使用人のアースだ。よろしく頼む」

「へへっ、コハクでええで。よろしくな、エレミア嬢ちゃんにアースのあんちゃん」

 ドワーフ族は特徴として全体的にがっしりとした体つきで、低身長である種族だ。
 それは女性でも例外ではないが、コハクは身長こそドワーフ族らしく低いものの、体つきに関しては細く引き締まった体型だった。

「……コハク。違ったら悪いんだが、もしかしてハーフなのか?」

「ちょっと、アース! 初対面でいきなりそんなこと聞くなんて失礼でしょ!」

「いたっ」

 アースのデリカシーの無い発言にエレミアは強めにアースの脇腹を小突く。

「ははっ、仲良いなお二人さん。……あー、うん。隠しててもしょうがないから言うんやけど、ウチのおとんがドワーフで、おかんがユースティア人なんや」

 コハクのようなドワーフ族も人間族に含まれるが、その九割以上は一つの種族で構成されている。
 この世界ユースティアの名を冠す種族、ユースティア人である。

 ドワーフやエルフも人間族として扱われるが、ユースティア人以外の種族は『亜人種』として一つ下の扱いを受けており、魔族のように敵対視されることはないが、基本的に共に暮らすことはなく同一種族同士で集まって生活しているのが普通だ。

 コハクはドワーフとユースティア人のハーフであり、どちらの種族からも腫れもの扱いを受け育ってきた苦い過去がある。
 偶然だがアースの素性と似通うところがあった。

「そうか……言いにくい事を言わせてしまってすまなかったな、コハク」

「ええて、ええて! ウチはたいして気にしてへんし、あんちゃんも気にせんといてや」

 亜人種の迫害の歴史を知っていたアースは、自分の配慮不足を素直に詫びる。
 コハクも根が明るい性格なようで、特に気にした様子もなく笑って謝罪を受け入れた。
 
「うむ、自己紹介は済んだようだな。コハクよ、お主は当面の間我が館で面倒を見よう。空き部屋を好きに使うと良い」

「おっ、太っ腹やなーおっちゃん! ウチ、じっちゃんにみっちり仕込まれたんで鍛冶全般が得意なんや、そっち方向で仕事探してみるさかいよろしゅうな」

 
 こうしてリーフェルニア領に新たにドワーフとユースティア人のハーフである鍛冶師コハクが加わり、街は更なる発展の兆しを見せるのだった。
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