14 / 120
【領主の帰還】
魔王軍のその後②
しおりを挟む
フレアルドは激怒した。
戦争開始当初は連戦連勝であった魔王軍は徐々に勢いを失い、今では前線の後退を余儀なくされているほど帝国軍に押し込まれていた。
それも自分が指揮する陸軍のみが敗戦を続けているともなれば、その怒りにも熱がこもる。
「クソがァ! どうして負ける! 役に立たない雑兵共が……!」
フレアルドは険しい表情でギリギリと激しく歯ぎしりをし、その口の隙間からは炎が漏れ出していた。
フレアルドの『天与』『火竜の暴炎』によりその体は熱に対して高い耐性を持ち、炎を自在に放ち操ることができる。
その口から溢れる炎は、怒りを抑えられずにいるフレアルドの感情そのものだった。
「クソォ……このままでは次期魔王どころか敗戦の将として笑い者にされてしまう……!」
ガルダリィの指揮する空軍、ミストリカの指揮する海軍は海や空から攻撃を仕掛け、次々と戦果をあげながら敵軍の要所を制圧していた。
数では陸軍に劣りはするが、地の利を活かした巧みな戦術で部隊を勝利へと導く二人の将軍の武勇は魔王軍内にも広がっていて、その噂を耳にしたフレアルドの焦りが助長される結果となっている。
「おい! 陸軍の連中は何故負けているんだ! それを調べるのがお前の仕事だろう!」
フレアルドは控えていた秘書官の女性へと怒鳴りつける。
秘書官は焦っていた。今は条約が適応されており、魔王軍の進行は軍事施設のみにとどまっている。
だがこのまま敗北が重なればフレアルドはいずれなりふり構わず卑劣な手に出るのではないかと危惧していた。
フレアルドの性格をよく知る秘書官だからこそ、その行動原理を理解していた。
彼女も魔王と同じく平和を望んでいたので、そういった展開にぬらぬよう最善を尽くしている。
今回も事前に他部隊への聞き込み調査を行っていた。
「は、はい。聞き込みを行ったところ、装備の不足が深刻化していることが大きな要因ではないかと考えられます」
「あァ? 装備だァ!?」
「度重なる戦闘により装備を破損してしまった者が非常に多いです。手配はしているのですが間に合っていなのが現状です」
魔法や特殊能力を持たない種族にとって装備は非常に重要である。
人間族に比べ腕力に優れるので戦闘力は高いが、普通の鉄製の武器などはすぐ駄目にしてしまうなど弊害が多かった。
帝都に近付くにつれ帝国軍は優秀な武装を持つ軍勢が増えてきたので、身体能力に差があってもなまくらの武装では優位性を保てなくなってきていたのだ。
魔王軍は鍛冶の技術が帝国軍に比べかなり低いので、武装による差が大きく、地の利を活かせる空軍・海軍しか勝てなくなってきている。
「そこで間に合わせのため訓練用の武器を研ぎなおして使ってみたところ、予想外なことに非常に優秀な武器となりました。この武器を装備した部隊は局地的にですが勝利を収めています。そこでご提案なのですが、訓練所にあったものと同じ装備をご用意願えませんでしょうか?」
「あァん!? んなこと俺様に言われたって――」
何も知らない、と言いかけたフレアルドはふと思い出す。
陸軍の訓練用の装備補充はあのアースに押し付けていたことに。
実際アースが作った訓練用の武器は、とにかく壊れないようにとアースの能力によって念入りに強化されており、頑丈さだけで言えばその性能は帝国軍の最新鋭装備をも上回っていた。
しかしフレアルドは面倒な雑務を押し付けていただけであり、武器の出所は知らずにいた。
「クソ……またあいつか……クソッ――」
「――フレアルド様?」
歯切れの悪いフレアルドを心配した秘書官は、フレアルドの顔を覗き込む。
「うるさい! 装備は相手から奪えばいいだろう! 俺様の手を煩わせるんじゃねェ!」
「キャッ!」
フレアルドが近寄る秘書官を乱暴にはねのけ、その勢いで秘書官はバランスを崩し倒れてしまう。
打ち所が悪かったのか、気を失ってしまったようだった。
しかし多少暴力を振るった程度ではフレアルドの怒りは収まらない。
フレアルドの炎は収まることなく燃え続けていた。
戦争開始当初は連戦連勝であった魔王軍は徐々に勢いを失い、今では前線の後退を余儀なくされているほど帝国軍に押し込まれていた。
それも自分が指揮する陸軍のみが敗戦を続けているともなれば、その怒りにも熱がこもる。
「クソがァ! どうして負ける! 役に立たない雑兵共が……!」
フレアルドは険しい表情でギリギリと激しく歯ぎしりをし、その口の隙間からは炎が漏れ出していた。
フレアルドの『天与』『火竜の暴炎』によりその体は熱に対して高い耐性を持ち、炎を自在に放ち操ることができる。
その口から溢れる炎は、怒りを抑えられずにいるフレアルドの感情そのものだった。
「クソォ……このままでは次期魔王どころか敗戦の将として笑い者にされてしまう……!」
ガルダリィの指揮する空軍、ミストリカの指揮する海軍は海や空から攻撃を仕掛け、次々と戦果をあげながら敵軍の要所を制圧していた。
数では陸軍に劣りはするが、地の利を活かした巧みな戦術で部隊を勝利へと導く二人の将軍の武勇は魔王軍内にも広がっていて、その噂を耳にしたフレアルドの焦りが助長される結果となっている。
「おい! 陸軍の連中は何故負けているんだ! それを調べるのがお前の仕事だろう!」
フレアルドは控えていた秘書官の女性へと怒鳴りつける。
秘書官は焦っていた。今は条約が適応されており、魔王軍の進行は軍事施設のみにとどまっている。
だがこのまま敗北が重なればフレアルドはいずれなりふり構わず卑劣な手に出るのではないかと危惧していた。
フレアルドの性格をよく知る秘書官だからこそ、その行動原理を理解していた。
彼女も魔王と同じく平和を望んでいたので、そういった展開にぬらぬよう最善を尽くしている。
今回も事前に他部隊への聞き込み調査を行っていた。
「は、はい。聞き込みを行ったところ、装備の不足が深刻化していることが大きな要因ではないかと考えられます」
「あァ? 装備だァ!?」
「度重なる戦闘により装備を破損してしまった者が非常に多いです。手配はしているのですが間に合っていなのが現状です」
魔法や特殊能力を持たない種族にとって装備は非常に重要である。
人間族に比べ腕力に優れるので戦闘力は高いが、普通の鉄製の武器などはすぐ駄目にしてしまうなど弊害が多かった。
帝都に近付くにつれ帝国軍は優秀な武装を持つ軍勢が増えてきたので、身体能力に差があってもなまくらの武装では優位性を保てなくなってきていたのだ。
魔王軍は鍛冶の技術が帝国軍に比べかなり低いので、武装による差が大きく、地の利を活かせる空軍・海軍しか勝てなくなってきている。
「そこで間に合わせのため訓練用の武器を研ぎなおして使ってみたところ、予想外なことに非常に優秀な武器となりました。この武器を装備した部隊は局地的にですが勝利を収めています。そこでご提案なのですが、訓練所にあったものと同じ装備をご用意願えませんでしょうか?」
「あァん!? んなこと俺様に言われたって――」
何も知らない、と言いかけたフレアルドはふと思い出す。
陸軍の訓練用の装備補充はあのアースに押し付けていたことに。
実際アースが作った訓練用の武器は、とにかく壊れないようにとアースの能力によって念入りに強化されており、頑丈さだけで言えばその性能は帝国軍の最新鋭装備をも上回っていた。
しかしフレアルドは面倒な雑務を押し付けていただけであり、武器の出所は知らずにいた。
「クソ……またあいつか……クソッ――」
「――フレアルド様?」
歯切れの悪いフレアルドを心配した秘書官は、フレアルドの顔を覗き込む。
「うるさい! 装備は相手から奪えばいいだろう! 俺様の手を煩わせるんじゃねェ!」
「キャッ!」
フレアルドが近寄る秘書官を乱暴にはねのけ、その勢いで秘書官はバランスを崩し倒れてしまう。
打ち所が悪かったのか、気を失ってしまったようだった。
しかし多少暴力を振るった程度ではフレアルドの怒りは収まらない。
フレアルドの炎は収まることなく燃え続けていた。
0
お気に入りに追加
528
あなたにおすすめの小説
錆びた剣(鈴木さん)と少年
へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。
誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。
そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。
剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。
そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。
チートキタコレ!
いや、錆びた鉄のような剣ですが
ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。
不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。
凸凹コンビの珍道中。
お楽しみください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください
黄舞
ファンタジー
クライエ子爵家の長男として生まれたアークは、行方不明になった両親に代わり、新領主となった。
自分になんの才能もないことを自覚しているアークは、優秀すぎる双子の弟妹に爵位を譲りたいと思っているのだが、なぜか二人は兄を崇め奉る始末。
崇拝するものも侮るものも皆、アークの無自覚に引き起こすゴタゴタに巻き込まれ、彼の凄さ(凄くない)を思い知らされていく。
勘違い系コメディです。
主人公は初めからずっと強くならない予定です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる