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【領主の帰還】
不思議な人
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館に帰ったエレミアは、厨房に入り早速昼食の準備に取りかかる。
父が予定より早く帰ってきてしまったため、諸々の準備が整っていなかったが、自分が一番に父を労いたいと思い有り合わせになるが何か作ることにしたのだ。
「まったく、お父様ったら急に帰ってくるんだもの、料理の仕込みがまだできてないし今日はいつものにしようかしら。……それにしても、お父様がアースの事気に入ってくれたみたいでよかったわ」
食材を選びながら、ふと先程の出来事がエレミアの脳裏をよぎる。
アースは少しぶっきらぼうな言動であるので、そのことで父親の怒りを買わないかがエレミアの懸念するところであった。
実際にはレオナルドはアースのことをいたく気に入った様子で、今は自室に招待して色々と話を聞いているようだ。
「まあ……実際にはそんなに心配ではなかったのかもね。アースもああ見えて良いとこあるし」
エレミアはアースと過ごす一月あまりで、彼の内面に触れる機会が多くあった。
時折街の子供たちと一緒に遊んでいたのも見かけたことがあるし、力仕事なども積極的に引き受けているのも見たことがある。
ぶっきらぼうな態度なのは誰に対しても同じだが、その言動の端々に優しさが滲み出ているのを感じていた。
レオナルドもそれを感じたからこそ、気に入ったのであろう。
もっとも、貴族になる前は冒険者であったのでそのあたりは元々寛大ではあったが。
「ふふっ、それにしても、アースには驚かせられっぱなしね……」
アースがここに来てからというもの、エレミアの日常は驚きの連続であった。
今日も、錬金術師でありながら元Aランク冒険者である父に勝る実力を見せ付けられたばかりである。
始まりは、傷だらけの体で川辺に倒れていたアースを見つけた時だ。
今にも息を引き取りそうなほどの重体で、慌てて助けを呼んだのを覚えている。
目覚めたと思ったら、次の日には初めて会った人を救うために伝説の霊薬を惜しげもなく提供したことにも驚いた。
後から聞いた話だが、彼曰くその時に使った薬は文献をもとに独自でその効力を限りなく再現したいわば模造品であり、本物ではないらしい。
エレミアからしてみれば本物であろうがなかろうが、空想の産物であったエリクサーとほぼ同等の効果を得られるというだけで驚愕に値する。
そして、それを作ることができる錬金術師など、それこそ伝説上の人物以外に聞いたことがなかった。
「『天与』あっての成果なんでしょうけど……それにしたって知識量が凄かったわね。帝都の研究機関でも解明されてないことを知ってたりするし……亡くなった母親に錬金術を教わったと言っていたけれど、どんな方だったのかしら?」
エミリアが生まれる前、帝都の錬金術師育成機関には学生ながらたった一人で錬金術の研究を数十年は進歩させたと言われている、天才錬金術師の女生徒が在籍していたという話を思い出す。
その女生徒は学校を卒業すると同時に学会から姿を消し、行方が知れずにいた。
一説には彼女の存在が驚異となる事を恐れた魔族に誘拐されたとも言われていた。
もしあのまま研究を続けていたら世界のパワーバランスをも変え、魔族は滅んでいたかもしれない。
「――まさか、ね……」
エレミアは一瞬、アースの母親がその女性だったのではと考えたが、仮に魔族に誘拐されたとしたのならば、その後に結婚し、子を産むことはありえないだろうと思い直す。
などとエレミアがあれこれ考えている間に切り終えた食材を鍋に入れ、煮込み始める。
煮込んでる間に、別の料理を作るための準備をしていた時、以前アースが美味しいと褒めてくれたものばかりを無意識に作っていた事にふと気付く。
「――た、たまたまよね。別にアースのためだけに作ってる訳じゃないんだから……!」
レオナルドに恋愛関係であると勘ぐられたのを思い出したからか、エレミアは顔を赤くしながら否定するように首を左右に振る。
「……でも、きっと喜んでくれるよね」
普段感情の起伏が少ないアースが、食事の時に見せる笑顔を想像して自然と笑みがこぼれる。
いつの間にか、エレミアにとってアースの存在が大きなものになっていたのだが、彼女自身はまだその事を自覚していないのだった。
父が予定より早く帰ってきてしまったため、諸々の準備が整っていなかったが、自分が一番に父を労いたいと思い有り合わせになるが何か作ることにしたのだ。
「まったく、お父様ったら急に帰ってくるんだもの、料理の仕込みがまだできてないし今日はいつものにしようかしら。……それにしても、お父様がアースの事気に入ってくれたみたいでよかったわ」
食材を選びながら、ふと先程の出来事がエレミアの脳裏をよぎる。
アースは少しぶっきらぼうな言動であるので、そのことで父親の怒りを買わないかがエレミアの懸念するところであった。
実際にはレオナルドはアースのことをいたく気に入った様子で、今は自室に招待して色々と話を聞いているようだ。
「まあ……実際にはそんなに心配ではなかったのかもね。アースもああ見えて良いとこあるし」
エレミアはアースと過ごす一月あまりで、彼の内面に触れる機会が多くあった。
時折街の子供たちと一緒に遊んでいたのも見かけたことがあるし、力仕事なども積極的に引き受けているのも見たことがある。
ぶっきらぼうな態度なのは誰に対しても同じだが、その言動の端々に優しさが滲み出ているのを感じていた。
レオナルドもそれを感じたからこそ、気に入ったのであろう。
もっとも、貴族になる前は冒険者であったのでそのあたりは元々寛大ではあったが。
「ふふっ、それにしても、アースには驚かせられっぱなしね……」
アースがここに来てからというもの、エレミアの日常は驚きの連続であった。
今日も、錬金術師でありながら元Aランク冒険者である父に勝る実力を見せ付けられたばかりである。
始まりは、傷だらけの体で川辺に倒れていたアースを見つけた時だ。
今にも息を引き取りそうなほどの重体で、慌てて助けを呼んだのを覚えている。
目覚めたと思ったら、次の日には初めて会った人を救うために伝説の霊薬を惜しげもなく提供したことにも驚いた。
後から聞いた話だが、彼曰くその時に使った薬は文献をもとに独自でその効力を限りなく再現したいわば模造品であり、本物ではないらしい。
エレミアからしてみれば本物であろうがなかろうが、空想の産物であったエリクサーとほぼ同等の効果を得られるというだけで驚愕に値する。
そして、それを作ることができる錬金術師など、それこそ伝説上の人物以外に聞いたことがなかった。
「『天与』あっての成果なんでしょうけど……それにしたって知識量が凄かったわね。帝都の研究機関でも解明されてないことを知ってたりするし……亡くなった母親に錬金術を教わったと言っていたけれど、どんな方だったのかしら?」
エミリアが生まれる前、帝都の錬金術師育成機関には学生ながらたった一人で錬金術の研究を数十年は進歩させたと言われている、天才錬金術師の女生徒が在籍していたという話を思い出す。
その女生徒は学校を卒業すると同時に学会から姿を消し、行方が知れずにいた。
一説には彼女の存在が驚異となる事を恐れた魔族に誘拐されたとも言われていた。
もしあのまま研究を続けていたら世界のパワーバランスをも変え、魔族は滅んでいたかもしれない。
「――まさか、ね……」
エレミアは一瞬、アースの母親がその女性だったのではと考えたが、仮に魔族に誘拐されたとしたのならば、その後に結婚し、子を産むことはありえないだろうと思い直す。
などとエレミアがあれこれ考えている間に切り終えた食材を鍋に入れ、煮込み始める。
煮込んでる間に、別の料理を作るための準備をしていた時、以前アースが美味しいと褒めてくれたものばかりを無意識に作っていた事にふと気付く。
「――た、たまたまよね。別にアースのためだけに作ってる訳じゃないんだから……!」
レオナルドに恋愛関係であると勘ぐられたのを思い出したからか、エレミアは顔を赤くしながら否定するように首を左右に振る。
「……でも、きっと喜んでくれるよね」
普段感情の起伏が少ないアースが、食事の時に見せる笑顔を想像して自然と笑みがこぼれる。
いつの間にか、エレミアにとってアースの存在が大きなものになっていたのだが、彼女自身はまだその事を自覚していないのだった。
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