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第四章 魔人襲撃
56.時を止める器用貧乏
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「ふっ……さあ、次はどうするのだ?」
魔人は余裕の笑みを浮かべながら、幾重にも絡みつく鎖をまとめて引きちぎり、悠々と立っている。
向こうから仕掛けてこないのは余裕の表れか、それとも慎重さゆえか。
……おそらくはその両方だろう。俺の一手を打ち破り、確実に俺を仕留められるタイミングでのカウンターを狙っているに違いない。
――――考えろ、考えろ考えろ。
どんな方法なら奴を倒せる。
土と水の合成魔法で足場をぬかるませる?
……いやダメだ、奴は空を飛べる。
光魔法で光源を作り目を眩ませる?
……これもダメだ。さっきの拘束と同じで、効果があるかどうかが判断しにくい。
ならもう一度【深淵領域】を使うか?
……いや、あれは発動に数秒かかる。それに、一度破られた技が通用するとは思えない。却下だ。
くそ、頭をフル回転させても、いい手がひとつも浮かばない。
手札の多さが器用貧乏の武器だってのに、数ある手札をどう重ねても、どう組み合わせようとも届かないとは……。
「ははっ……」
思わず苦笑が漏れるほど絶望的な状況、その刹那――ふと、視界の端に空が揺らいだ。
その正体は、師匠から餞別で貰った空色の石がついたネックレスだ。
師匠の瞳の色をそのまま写したかのようなその石は、不規則に陽光を反射し、俺の気を引くかのようにその存在感を示す。
こんなとき、師匠ならなんて言うだろうか。そう思いながら、俺は石を握りしめる。
「まあ、間違っても慰めの言葉じゃないだろうな……」
あの人は、俺がどんなに弱音を吐いても、決して甘やかしたりはしなかった。
常に厳しく、だが真っ直ぐにこちらを見て、『少年ならできるさ、あたしが保証する』などと、根拠の欠片もない言葉を俺へと投げ掛けていた。
――他人から見たら冷たく見放されているように感じるかもしれない。でも俺はそれでよかった。たったそれだけで、嬉しかったんだ。
だから俺は、師匠の期待に応えられるように、そしていつの日か、あの人みたいになれるようにと、必死で努力をしてきた。
――あの人みたいに?
「は……ははっ」
「なんだ、とうとう頭がおかしくなったか?」
「悪い悪い……こんな単純なこと、思い付かなかったのが可笑しくてな」
「何ィ……?」
どれだけ速かろうと、どれだけの妨害を無効化されようと、簡単に攻撃を当てられる方法がひとつ、俺の脳裏をよぎった。
ただ、この方法を試行するのは初めてであり、ぶっつけ本番で挑むのは合理的じゃないが……なぜだか俺には確実に成功するという自信があった。
八年もの間に何度も見て、体感して、憧れて……自分がこのスキルを使うのを、ずっと心の中で思い描いていたから……というのが自信の源なのかもしれない。
そう、それはこの世の理をも揺るがす、超越せしスキル――
「いくぜ魔人……超越スキル【時魔法】の力、存分に味わえ」
「なっ、【時魔法】だと!? それはあの魔女と同じ――――」
――瞬間、俺を除いた世界は色を失っていた。
それと同時に、俺の身体には底無し沼にでもはまってしまったかのように、重く、ぬめっとした感覚が纏わりつく。
「成功……したみたいだな」
どうやら【時魔法】による時間の停止は成功したらしい。その証拠に、あれだけ素早い動きを見せていた魔人は微動だにせず、その顔には驚きが貼り付いたままだ。
時間の停止――その中で自分だけが動けるというメリットは絶大だ。
どれだけ速く動けようとも、どれだけ警戒していようとも、止まった時間の中では、動くことはおろか、知覚することですらできないのだから。
――だが、何の代償もなくこの力を振るえるわけではなかった。
魔人は余裕の笑みを浮かべながら、幾重にも絡みつく鎖をまとめて引きちぎり、悠々と立っている。
向こうから仕掛けてこないのは余裕の表れか、それとも慎重さゆえか。
……おそらくはその両方だろう。俺の一手を打ち破り、確実に俺を仕留められるタイミングでのカウンターを狙っているに違いない。
――――考えろ、考えろ考えろ。
どんな方法なら奴を倒せる。
土と水の合成魔法で足場をぬかるませる?
……いやダメだ、奴は空を飛べる。
光魔法で光源を作り目を眩ませる?
……これもダメだ。さっきの拘束と同じで、効果があるかどうかが判断しにくい。
ならもう一度【深淵領域】を使うか?
……いや、あれは発動に数秒かかる。それに、一度破られた技が通用するとは思えない。却下だ。
くそ、頭をフル回転させても、いい手がひとつも浮かばない。
手札の多さが器用貧乏の武器だってのに、数ある手札をどう重ねても、どう組み合わせようとも届かないとは……。
「ははっ……」
思わず苦笑が漏れるほど絶望的な状況、その刹那――ふと、視界の端に空が揺らいだ。
その正体は、師匠から餞別で貰った空色の石がついたネックレスだ。
師匠の瞳の色をそのまま写したかのようなその石は、不規則に陽光を反射し、俺の気を引くかのようにその存在感を示す。
こんなとき、師匠ならなんて言うだろうか。そう思いながら、俺は石を握りしめる。
「まあ、間違っても慰めの言葉じゃないだろうな……」
あの人は、俺がどんなに弱音を吐いても、決して甘やかしたりはしなかった。
常に厳しく、だが真っ直ぐにこちらを見て、『少年ならできるさ、あたしが保証する』などと、根拠の欠片もない言葉を俺へと投げ掛けていた。
――他人から見たら冷たく見放されているように感じるかもしれない。でも俺はそれでよかった。たったそれだけで、嬉しかったんだ。
だから俺は、師匠の期待に応えられるように、そしていつの日か、あの人みたいになれるようにと、必死で努力をしてきた。
――あの人みたいに?
「は……ははっ」
「なんだ、とうとう頭がおかしくなったか?」
「悪い悪い……こんな単純なこと、思い付かなかったのが可笑しくてな」
「何ィ……?」
どれだけ速かろうと、どれだけの妨害を無効化されようと、簡単に攻撃を当てられる方法がひとつ、俺の脳裏をよぎった。
ただ、この方法を試行するのは初めてであり、ぶっつけ本番で挑むのは合理的じゃないが……なぜだか俺には確実に成功するという自信があった。
八年もの間に何度も見て、体感して、憧れて……自分がこのスキルを使うのを、ずっと心の中で思い描いていたから……というのが自信の源なのかもしれない。
そう、それはこの世の理をも揺るがす、超越せしスキル――
「いくぜ魔人……超越スキル【時魔法】の力、存分に味わえ」
「なっ、【時魔法】だと!? それはあの魔女と同じ――――」
――瞬間、俺を除いた世界は色を失っていた。
それと同時に、俺の身体には底無し沼にでもはまってしまったかのように、重く、ぬめっとした感覚が纏わりつく。
「成功……したみたいだな」
どうやら【時魔法】による時間の停止は成功したらしい。その証拠に、あれだけ素早い動きを見せていた魔人は微動だにせず、その顔には驚きが貼り付いたままだ。
時間の停止――その中で自分だけが動けるというメリットは絶大だ。
どれだけ速く動けようとも、どれだけ警戒していようとも、止まった時間の中では、動くことはおろか、知覚することですらできないのだから。
――だが、何の代償もなくこの力を振るえるわけではなかった。
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