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第一部 新しい居場所
遅い戻り
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「お嬢さん。それ、意味ないよ。少しは休んだ方がいい」
あれからずっと、ユースティアはシュウと離れようとしなかった。城の自室に立てこもり、ずっと回復魔法をかけ続けていた。
こうしてアランがユースティアの自室に入れたのも、アランが無理矢理部屋に入ったからだ。
王から連絡があり、大峡谷から急いで帰ってきたアランは汗と土で汚れていた。
あらかじめメアリーには、部屋に誰も入れないように言ってある。
この光景を見たら騒ぎになるのは分かりきっているからだ。
今のユースティアは真っ赤に染まっている。もはや誰の血かも分からない。
白いベッドも赤いベッドへと変貌を遂げてしまっている。
「……今更なんのようだ。今頃帰ってきて――――」
シュウの手を握りながら、背後にいるアランを非難しようとして、唇を強く噛みしめた。
アランがシュウの近くにいればシュウは今も元気な姿だったと思わずにはいられなかった。でもそのことを責める資格がないことも分かっていた。
シュウにとどめを刺したのは他ならないユースティア自身だったのだから。
「ごめん、八つ当たりだった。――出て行ってくれないか? これ以上、あたりたくない」
「嫌だ」
アランは魔法をやめさせようとユースティアの血みどろな手首をやさしく掴んだ。だがユースティアは
「出て行って!!」
怒鳴り声があげ、アランの手を振り払った。
「お嬢さんも分かっているんでしょ? シュウの心臓が止まっていること。お嬢さんがいくら自分にかけている回復魔法の魔力までもシュウにつぎ込んでも意味がないんだよ。お嬢さんは死ぬ気なの?」
アランは目を一瞬見開いたが、すぐに目を細め、事実を述べる。まるで子供に言い聞かせているようにユースティアには思えた。だけど、その事実を認めたくなくて、
「聞きたくない! 聞きたくないよ、そんなこと!!」
両手で耳をふさぐ。だが、アランは聞け、とばかりにユースティアの両手首を掴み、正面に向き合った。
「事実を受け入れろ。俺はそんな弱い君を救った覚えはない。そんなに死に急ぐなら――――」
「私のせいなんだよ!! 私がシュウを殺した!! 私がドアを開けなければ……、私があのとき大人しく死んで、シュウと出会わなければシュウは死ななかった!!」
「……」
「シュウと友達になんてならなければよかった。シュウと出会わなければこんな感情に揺れ動かされることもなかった。幸せの中にこんな苦しみがあるなら幸せなんて知りたくなかった!!」
叫んだことで、ユースティアの体の限界が来たのか、ユースティアは血を出しながら咳き込んだ。
アランはユースティアの両腕を放すと、自身が血で汚れるのもいとわずに抱き込んだ。
「まだ、シュウ君を救える方法はある。だからさ、そんなこと言わないでよ。神鳥族はあらゆる種族の中で最も生命力が強いんだよ? あとは俺に任せて。絶対にシュウ君を救って見せるからさ。ティア、今までよく頑張ったね」
アランから離れようともがいていたユースティアの動きが止まる。そして、嗚咽をあげた。
そんなユースティアをアランはなで続けた。今まで耐えてきたことを褒めるように。
「アルの鼓動は聞こえるね」
「そりゃあ、そうでしょ。生きているんだからさ。おやすみ、ティア」
限界はとうの昔に超えていた。ユースティアはアランと出会った頃を思い出しながら、眠りへについた。
アランはユースティアをシュウの隣に寝かせると、メアリーに声をかける。
「メアリー、俺が動く。二人をこの部屋から守り切れ。捕まえた三人はまだ死なせるな」
「はい。始祖の仰せの通りに」
「――――ああ、最後に聞きたいことあるんだけど……」
思い出したかのようにドアの前で立ち止まったアランはメアリーに尋ねる。
「何でしょう?」
メアリーは表情を変えずに真顔のままで先を促した。
「俺さ、なんかドSに目覚めそうなんだけど、どう思う?」
「アラン様は元からドSですよ?」
何を今更、といった顔のメアリーにアランは衝撃を受けたような顔を見せる。
「うっそだ。俺、元からSだったの? ノーマルかと思ってた……」
「今、さりげなくドを抜きましたね? SではなくドSです。つまらないこと言ってないで早く行ってください。本当に締まらない人ですね」
メアリーは大きくため息を吐くと、早く行け、とアランを蹴飛ばした。アランはそんなメアリーを怒りもせず、苦笑する。
「よく言われるよ」
そして姿を一瞬で消した。
あれからずっと、ユースティアはシュウと離れようとしなかった。城の自室に立てこもり、ずっと回復魔法をかけ続けていた。
こうしてアランがユースティアの自室に入れたのも、アランが無理矢理部屋に入ったからだ。
王から連絡があり、大峡谷から急いで帰ってきたアランは汗と土で汚れていた。
あらかじめメアリーには、部屋に誰も入れないように言ってある。
この光景を見たら騒ぎになるのは分かりきっているからだ。
今のユースティアは真っ赤に染まっている。もはや誰の血かも分からない。
白いベッドも赤いベッドへと変貌を遂げてしまっている。
「……今更なんのようだ。今頃帰ってきて――――」
シュウの手を握りながら、背後にいるアランを非難しようとして、唇を強く噛みしめた。
アランがシュウの近くにいればシュウは今も元気な姿だったと思わずにはいられなかった。でもそのことを責める資格がないことも分かっていた。
シュウにとどめを刺したのは他ならないユースティア自身だったのだから。
「ごめん、八つ当たりだった。――出て行ってくれないか? これ以上、あたりたくない」
「嫌だ」
アランは魔法をやめさせようとユースティアの血みどろな手首をやさしく掴んだ。だがユースティアは
「出て行って!!」
怒鳴り声があげ、アランの手を振り払った。
「お嬢さんも分かっているんでしょ? シュウの心臓が止まっていること。お嬢さんがいくら自分にかけている回復魔法の魔力までもシュウにつぎ込んでも意味がないんだよ。お嬢さんは死ぬ気なの?」
アランは目を一瞬見開いたが、すぐに目を細め、事実を述べる。まるで子供に言い聞かせているようにユースティアには思えた。だけど、その事実を認めたくなくて、
「聞きたくない! 聞きたくないよ、そんなこと!!」
両手で耳をふさぐ。だが、アランは聞け、とばかりにユースティアの両手首を掴み、正面に向き合った。
「事実を受け入れろ。俺はそんな弱い君を救った覚えはない。そんなに死に急ぐなら――――」
「私のせいなんだよ!! 私がシュウを殺した!! 私がドアを開けなければ……、私があのとき大人しく死んで、シュウと出会わなければシュウは死ななかった!!」
「……」
「シュウと友達になんてならなければよかった。シュウと出会わなければこんな感情に揺れ動かされることもなかった。幸せの中にこんな苦しみがあるなら幸せなんて知りたくなかった!!」
叫んだことで、ユースティアの体の限界が来たのか、ユースティアは血を出しながら咳き込んだ。
アランはユースティアの両腕を放すと、自身が血で汚れるのもいとわずに抱き込んだ。
「まだ、シュウ君を救える方法はある。だからさ、そんなこと言わないでよ。神鳥族はあらゆる種族の中で最も生命力が強いんだよ? あとは俺に任せて。絶対にシュウ君を救って見せるからさ。ティア、今までよく頑張ったね」
アランから離れようともがいていたユースティアの動きが止まる。そして、嗚咽をあげた。
そんなユースティアをアランはなで続けた。今まで耐えてきたことを褒めるように。
「アルの鼓動は聞こえるね」
「そりゃあ、そうでしょ。生きているんだからさ。おやすみ、ティア」
限界はとうの昔に超えていた。ユースティアはアランと出会った頃を思い出しながら、眠りへについた。
アランはユースティアをシュウの隣に寝かせると、メアリーに声をかける。
「メアリー、俺が動く。二人をこの部屋から守り切れ。捕まえた三人はまだ死なせるな」
「はい。始祖の仰せの通りに」
「――――ああ、最後に聞きたいことあるんだけど……」
思い出したかのようにドアの前で立ち止まったアランはメアリーに尋ねる。
「何でしょう?」
メアリーは表情を変えずに真顔のままで先を促した。
「俺さ、なんかドSに目覚めそうなんだけど、どう思う?」
「アラン様は元からドSですよ?」
何を今更、といった顔のメアリーにアランは衝撃を受けたような顔を見せる。
「うっそだ。俺、元からSだったの? ノーマルかと思ってた……」
「今、さりげなくドを抜きましたね? SではなくドSです。つまらないこと言ってないで早く行ってください。本当に締まらない人ですね」
メアリーは大きくため息を吐くと、早く行け、とアランを蹴飛ばした。アランはそんなメアリーを怒りもせず、苦笑する。
「よく言われるよ」
そして姿を一瞬で消した。
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