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第一部 新しい居場所

新たな出会い

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 ユースティアはレナードを見送った後、気配を消してミラー公爵邸を探索した。何度か見回りの使用人にバレそうになりながらも目的の書庫にたどり着いた。

 さすが公爵邸と言うべきか。たどり着いた書庫は一軒家が建ちそうなぐらいの広さの空間を保有していた。本が壁にぎっしりと並んでおり、全部読むのは難しいのではないかと思うくらいの量だった。

 本来ならミラー公爵の許可なしに入れない場所であり、実際にユースティアが来たときには鍵が閉まっていた。

 ではなぜ、ユースティアは侵入できたのか。それは、ユースティアがピッキング行為をしたに他ならない。新たに目覚めた能力を使ってちょこっといじくりまわしたのである。当然、完全に使いこなせていないので頭痛がひどくなったが。

「ここになら、きっと妖精に関する本があるはず。妖精に力を貸してもらえばシュウの居場所が分かる……!」

 精霊は高潔であり、種族特有の特殊な能力を持っているというのはこの世界の常識だ。だからこそ、精霊に力を貸してもらうのは無理難題である。だからユースティアは精霊ではなく、妖精に力を貸してもらおうと考えた。

 妖精は精霊と同じで特殊能力を保有している。しかし、妖精には精霊と決定的に違う気質がある。それは気分屋なところだ。
 妖精は興味を持てば協力してくれる。それが仮に残虐なことだったとしても、だ。
 他に興味のあることを持ち出されれば妖精はすぐにそっちに行ってしまう。つまり、長く協力させたりするのには向いていない。

 もう一つ、精霊と妖精に違いがあるとしたら、実体があるかどうか。精霊は実体がなく、霊のような存在で、国を築いている。一方で妖精は実体が人のようにあれど、国は築いておらず、自由気ままに暮らしている。

 ユースティアはお目当ての本を探ろうと能力を駆使しながらも、己の手でも本を探す。こんなに本があるのだ。妖精召喚の本、つまり、魔導書と呼ばれる類いの本もあるはずだ。

 一冊、一冊、それっぽい本を慎重に開いていく。こういう本はいきなり、攻撃してくる物もあるらしいので気をつけないといけない。

 あれこれ探すこと一時間。

 ユースティアはなかなか妖精に関する魔導書を見つけることができなかった。少し疲労を感じ始め、床へと座り込んだ。

「ミラー公爵家の書庫は広すぎる……!」

 能力である程度の場所は絞り込めたが、それにしても量が多すぎる。メアリーにも手伝ってもらおうか、と一瞬脳をよぎったがすぐさま、首を左右に振った。
 メアリーにこのことがバレたら説教は確実だ。ただでさえ、夕食前に説教をくらったのだ。また長時間正座させられるなんてたまったものではない。

 ユースティアはため息を吐いた。
 どうしようかと悩んでいると、誰かがユースティアの肩に冷たい手を置いた。通常のユースティアだったら気づいていただろうが、それほどユースティアの気は緩んでいたのだろう。こんなに近づくまで気配を感じ取れなかった。
 ユースティアはビクリと体をはねさせる。

(幽霊?!)

 カタカタと体が震え出す。肩に置かれた手はおおよそ人とは思えないほど、凍えるように冷たかった。やましいことをしている自覚もあり、罪悪感がよりいっそう仰ぎ立てられる。まさか、お仕置きされる?!

(ど、どうしよう。振り向いて普通に何事もなかったようにあいさつするべき? それとも、このまま背負い投げして逃げるべき?)

 頭の中がぐるぐると回る。そのまま混乱していると、相手の方から声がかかってきた。

「白い君、君は泥棒さん……?」

 冷たい手の主の吐息がユースティアの耳にあたる。その吐息は人間のものとは思えないほど冷気を帯びていた。
 ユースティアが悲鳴をあげるが、冷たい手の主が咄嗟にユースティアの口を押さえた。
 そして、指を自身の口元に当て、

「静かに。今はみんな寝ている時間だからね? ばらされたくなかったら僕の言うとおりにするんだよ?」

 微笑んだ。ユースティアは目を閉じたまま、コクコクと首を上下に振る。
 ユースティアが叫ばないことを確認すると、手をユースティアの口元から放した。

「よろしい。――ところでどうして目を閉じたままなの?」

「幽霊さんだから?」

「……僕が幽霊だって? はは、そんなわけないじゃない。取って食ったりはしないから目、開けなよ。それじゃあ、不便でしょう?」

 笑いながら言うその声はひどく中性的だった。
 ユースティアはその声の主の言うとおり、おそるおそる目を開いた。

 視界に映ったのは神秘的な雰囲気を醸し出す人だった。声と同じでその顔はひどく中性的で、女か男か分からない。
 そのきれいな白い肌は血の気をあまり感じられなかった。
 ユースティアが白髪と見間違う銀髪だとしたら、目の前の人物は寒色系の銀髪と言える髪だった。神秘的な髪は背中まで伸びており、後ろで二つにくくられている。聖職者のような服を着ているのもあって、よりいっそう清廉さを引き立てていた。

「あなたは、誰?」

「う~ん。君は僕のこと知らないんだね? この国の人はみんな知っていると思っていたんだけど、僕の思い上がりだったかな……」

「?」

 ユースティアは首をかしげ、目の前の人物の青い瞳をじっと見つめた。アランの目が吸い込まれそうな青だとしたら、この人の瞳は儚い青だ。ユースティアはアランの瞳の方が好きだと思った。

「今、誰かと比べた? 失礼だな、君は」

「エスパー?!」

「本当だったんだ? 僕と比べる人なんていないのに君はたいしたものだ」

 笑ってはいたが、目は笑っていなかった。不満だと言うのが目で分かってしまったユースティアは素直に謝った。

「ごめんなさい……」

 シュンとしたユースティアの頬に手が触れる。その手が冷たくて、ユースティアの体はピクリと反射のように震えた。
 中性的な人はパッと手を離す。

「誰と比べたのか聞いてもいい? 興味があるな?」

「うん……。アルと比べた。ごめん。そんなつもりはなかったんだが、無意識に比べてた」

「アルというと、アラン様かな? 君、アラン様と会ったことあるんだ? 会うのが難しい人なのに……。まあ、アラン様ならしょうがないかな。アラン様はかっこいいしねえ?」

「あなたも会ったことがあるの?」

「たまにね。――まあ、君がアラン様と会って生きてここにいるなら、今回は見逃してあげようか、泥棒さん?」

「私はユースティアだ。あなたはなんて言うの?」

 泥棒と言われるのが嫌で、ユースティアは目の前の人物に名乗った。
 目の前の人物は青い瞳をぱちくりさせると、そうだね、そうだったといった風に、頷いた。

「自己紹介してなかったね? 僕の名前は、ネロ・ミラー。ネロ・ミラーだ」

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