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第一部 新しい居場所
取引
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王の命により、レヴィ侯爵から告げられた三人の犯人候補をそれぞれが手分けして探ることになり、レヴィ侯爵、ミラー公爵、アンドレウ大公が執務室を退出した。
それぞれが個別で動きはじめ、アンドレウ大公が一人になったところでメアリーはアンドレウ大公の後ろに現れた。
「わざわざ俺が気を遣って人影のないところに来てあげたわけだ。くだらねえ用だったら許さねえぞ」
アンドレウ大公の言うとおり、ここは人影のないところだった。
現在の場所は城の室内庭園。王妃がよく気分転換に来るところであり、その王妃は今、王と執務室にいる。王妃に気を遣って城の者はほとんど来ない庭園でもあり、話し合いにはある意味最適な場所だった。
「アンドレウ大公、取引しませんか?」
「あ?」
アンドレウ大公から強圧的な声が出される。だがメアリーは動じず、真っ直ぐとアンドレウ大公を見据えた。
アンドレウ大公はそんなメアリーにため息をつくと、
「どんな取引だ?」
と鋭い視線をメアリーに当てた。聞くだけ聞いてやると。鋭い視線と一緒にもたらされる気迫は自分の部下でさえ震え上がることが多いのだが、メアリーは動じず、取引内容を淡々と話し始めた。
「取引は二つ。一つはユースティア様にかけた能力を解除すること」
「解除したらまた暴走するんじゃあねえのか? それともお前一人でもどうとでもなるってか?」
薄ら笑いを浮かべながら言うアンドレウ大公にメアリーは
「無理でしょうね」
目を伏せ、否定する。
「ならこの取引は――――」
なしだ、とアンドレウ大公が言う前にメアリーは言葉を紡ぐ。
「ですから、手伝ってください」
「はっ?」
笑みを浮かべながら告げたメアリーの言葉がアンドレウ大公の脳内で繰り返される。だがすぐに冷静さを取り戻し、眉をひそめた。その表情はまさに、何言ってんだこいつ、である。
メアリーはそんなアンドレウ大公を見てさらに笑みを深めると強調して言ってのける。
「私と、あなた、二人の魔力でユースティア様の精神を落ち着かせるのです」
「……俺にメリットないだろ……」
「ありますよ。もしこの取引に応じてくれるならばリリアーヌ様の呪いを解くのを手伝ってあげましょう」
メアリーが出した名前、リリアーヌとはアンドレウ大公の妻の名前だった。つまり現大公夫人であり、リュシエンヌの実の母親の名前でもある。
アンドレウ大公の最愛であるリリアーヌは十年前から強力な呪いを受け続けており、目を覚まさない状態となっていた。そして最大の問題はリリアーヌに呪いをかけた人物がいまだに見つからないということ。解こうにも呪いが強力すぎて解くことができず、おそらく呪いをかけた本人しか解けない。そのため、アンドレウ大公は今もなお呪いをかけた人物を探し続けていた。
「どうして今まで黙っていた?」
アンドレウ大公はメアリーの胸ぐらを掴み、殺気立った。しかし、メアリーはアンドレウ大公の殺気も、底から出た低い声にも、目を細めるだけで動じず、冷静に問いの答えを返した。
「言う必要がなかったからです」
「ふざけてんのか?」
「彼女が現れるまでは呪いを解く方法が確かにありませんでした。ですが……」
「嬢ちゃんなら呪いが解けると? 馬鹿も休み休み言えよ。俺程度の祝福を防げない奴にリリアーヌの呪いが解けるわけないだろ」
「それはユースティア様が万全の状態じゃないからです。アラン様が今、ユースティア様の呪いを解く方法を探しに行っています。ユースティア様が万全な状態になれば、リリアーヌ様の呪いも解けることでしょう」
「嬢ちゃんの呪いが解けなかったら解けないって言っているようなものだろうが」
「仮に呪いが解けなかったとしても、ユースティア様の呪い以外の要素が取り除かれれば確実に解くことができます」
「断言するとはな。そこまで嬢ちゃんを買ってるってことか……。なら、今回だけはその口車に乗ってやるよ。――ただし、それが嘘だったらお前を殺す……!!」
アンドレウ大公はメアリーの胸ぐらを乱暴に突き放すと同時に睨み付けた。
メアリーは睨みをものともせずに、己の胸元の乱れを直すと、もう一つの取引内容を告げた。
「もう一つは、王宮に潜り込んでいるネズミの捕縛に協力すること」
「ネズミか……。そのぐらいならやってもいいが、その代わりにお前は何を差し出す?」
怒りを静めたアンドレウ大公は腕を組みながらメアリーに問う。
メアリーが取引を持ちかけるぐらいだ。相当厄介なネズミであることは明白だった。そもそも王宮外ならともかく王宮内のネズミ掃除はアンドレウ大公の仕事の範疇ではなかった。捕縛ならなおさらだ。
「応じてくれるなら、一度だけ力を貸してあげましょう」
「取引成立だ」
先ほどまでの緊迫感が消える。
しかしそこで気を緩めるメアリーではなかった。
「このことは他言無用でお願いします」
「そんなことは分かってるよ。嬢ちゃんのところに行くぞ」
アンドレウ大公がついてこいと歩みを進める。メアリーはその後ろ姿を見て、一息吐いたのだった。
それぞれが個別で動きはじめ、アンドレウ大公が一人になったところでメアリーはアンドレウ大公の後ろに現れた。
「わざわざ俺が気を遣って人影のないところに来てあげたわけだ。くだらねえ用だったら許さねえぞ」
アンドレウ大公の言うとおり、ここは人影のないところだった。
現在の場所は城の室内庭園。王妃がよく気分転換に来るところであり、その王妃は今、王と執務室にいる。王妃に気を遣って城の者はほとんど来ない庭園でもあり、話し合いにはある意味最適な場所だった。
「アンドレウ大公、取引しませんか?」
「あ?」
アンドレウ大公から強圧的な声が出される。だがメアリーは動じず、真っ直ぐとアンドレウ大公を見据えた。
アンドレウ大公はそんなメアリーにため息をつくと、
「どんな取引だ?」
と鋭い視線をメアリーに当てた。聞くだけ聞いてやると。鋭い視線と一緒にもたらされる気迫は自分の部下でさえ震え上がることが多いのだが、メアリーは動じず、取引内容を淡々と話し始めた。
「取引は二つ。一つはユースティア様にかけた能力を解除すること」
「解除したらまた暴走するんじゃあねえのか? それともお前一人でもどうとでもなるってか?」
薄ら笑いを浮かべながら言うアンドレウ大公にメアリーは
「無理でしょうね」
目を伏せ、否定する。
「ならこの取引は――――」
なしだ、とアンドレウ大公が言う前にメアリーは言葉を紡ぐ。
「ですから、手伝ってください」
「はっ?」
笑みを浮かべながら告げたメアリーの言葉がアンドレウ大公の脳内で繰り返される。だがすぐに冷静さを取り戻し、眉をひそめた。その表情はまさに、何言ってんだこいつ、である。
メアリーはそんなアンドレウ大公を見てさらに笑みを深めると強調して言ってのける。
「私と、あなた、二人の魔力でユースティア様の精神を落ち着かせるのです」
「……俺にメリットないだろ……」
「ありますよ。もしこの取引に応じてくれるならばリリアーヌ様の呪いを解くのを手伝ってあげましょう」
メアリーが出した名前、リリアーヌとはアンドレウ大公の妻の名前だった。つまり現大公夫人であり、リュシエンヌの実の母親の名前でもある。
アンドレウ大公の最愛であるリリアーヌは十年前から強力な呪いを受け続けており、目を覚まさない状態となっていた。そして最大の問題はリリアーヌに呪いをかけた人物がいまだに見つからないということ。解こうにも呪いが強力すぎて解くことができず、おそらく呪いをかけた本人しか解けない。そのため、アンドレウ大公は今もなお呪いをかけた人物を探し続けていた。
「どうして今まで黙っていた?」
アンドレウ大公はメアリーの胸ぐらを掴み、殺気立った。しかし、メアリーはアンドレウ大公の殺気も、底から出た低い声にも、目を細めるだけで動じず、冷静に問いの答えを返した。
「言う必要がなかったからです」
「ふざけてんのか?」
「彼女が現れるまでは呪いを解く方法が確かにありませんでした。ですが……」
「嬢ちゃんなら呪いが解けると? 馬鹿も休み休み言えよ。俺程度の祝福を防げない奴にリリアーヌの呪いが解けるわけないだろ」
「それはユースティア様が万全の状態じゃないからです。アラン様が今、ユースティア様の呪いを解く方法を探しに行っています。ユースティア様が万全な状態になれば、リリアーヌ様の呪いも解けることでしょう」
「嬢ちゃんの呪いが解けなかったら解けないって言っているようなものだろうが」
「仮に呪いが解けなかったとしても、ユースティア様の呪い以外の要素が取り除かれれば確実に解くことができます」
「断言するとはな。そこまで嬢ちゃんを買ってるってことか……。なら、今回だけはその口車に乗ってやるよ。――ただし、それが嘘だったらお前を殺す……!!」
アンドレウ大公はメアリーの胸ぐらを乱暴に突き放すと同時に睨み付けた。
メアリーは睨みをものともせずに、己の胸元の乱れを直すと、もう一つの取引内容を告げた。
「もう一つは、王宮に潜り込んでいるネズミの捕縛に協力すること」
「ネズミか……。そのぐらいならやってもいいが、その代わりにお前は何を差し出す?」
怒りを静めたアンドレウ大公は腕を組みながらメアリーに問う。
メアリーが取引を持ちかけるぐらいだ。相当厄介なネズミであることは明白だった。そもそも王宮外ならともかく王宮内のネズミ掃除はアンドレウ大公の仕事の範疇ではなかった。捕縛ならなおさらだ。
「応じてくれるなら、一度だけ力を貸してあげましょう」
「取引成立だ」
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「このことは他言無用でお願いします」
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