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第一部 新しい居場所
宰相登場
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「ユースティア様、今朝は早かったので皆様との朝食にはまだ時間があります。お茶でも入れましょうか」
「お願いしようか」
「はい。任せてください」
ガッツポーズをし、張り切っているメアリー。メアリーはお茶の準備をしようと、移動しようとしたそのとき、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「何かあったんでしょうか? ユースティア様、少々お持ちください。話を聞いてきます」
メアリーは怪訝そうに眉をひそめ、扉の方に向かう。だが、扉を開ける前に外から扉を豪快に開けられた。
「何事ですか? ウィルソン侯爵。いくらあなたと言えど、好き勝手に入っていい道理はないはずですが? それも兵士を連れて」
目だけで殺せそうなほどの眼差しをウィルソン侯爵に向けるメアリー。表情は笑顔だけど、怖い。
ウィルソン侯爵もユースティアと同じ事を思ったのか、メアリーの気迫に圧倒され、後ずさる。しかし、腐っても貴族。咳払いし、持ち直した。
「私は、陛下のためにそこの女の身柄を拘束しに来たまでです。そこをどいてもらおうか。どかないのなら貴様も共犯と見なす!」
「理由も分からず、ここをどくわけにはいきません。私はアラン様にユースティア様を守るように仰せつかっておりますので」
「アラン様ですか……。あのどこの血とも知れない男が陛下より偉いとでも言うつもりですか?」
馬鹿にしたように卑しく笑うウィルソン侯爵。
(この人、アルをバカにした!! 許せない! でも……)
今、ユースティアがウィルソン侯爵に殴りかかったら、メアリーに迷惑掛ける。それに、アランがもっとひどく言われる。
ユースティアは手を強く握った。その手には爪が食い込んでいる。
「あなたは何も知らないのですね。それは、それは、素晴らしい頭の持ち主でいらっしゃる」
「貴様、この私に向かって無礼だぞ!! メイド風情がっ!!」
顔を真っ赤にするウィルソン侯爵を見て、胸が少しスカッとした。さすがメアリー。でも、メアリーは大丈夫だろうか。
「それで? なぜ、ユースティア様に乱暴な真似をしようとなさっているのですか?」
「ふざけるなよ!!」
ウィルソン侯爵が怒りに操られ、そばにいる兵士の剣を抜き取った。
(まずい、メアリーが斬られる!!)
それからの行動は早かった。ユースティアは自身に身体強化の魔法をかけ、メアリーの前まで一瞬で距離を詰める。そして――――
「度が過ぎているのではないでしょうか?」
ウィルソン侯爵の剣を片手で受け止めた。
手から血がぽたり、ぽたりとこぼれ落ちる。
「なん、だと?!」
驚愕に染まる侯爵と後ろにいる複数人の兵士。そして、メアリー。
ユースティアはただ一人、俯き、メアリーの教えを思い出していた。
それは舞踏会のために貴族のマナーを学んでいるときの休憩中のこと。
「メアリー、貴族と話す練習はしないのか?」
自分から話すつもりはないが、話しかけられる可能性は十分にあると考えたユースティアはメアリーにそう尋ねていた。
「そうですね……。教えたいのは山々ですが、今からだと間に合いそうにありません」
「そうか」
ティーカップの紅茶を口に含む。メアリーも紅茶を口に含んだ。そして少し間を置いて、
「ですが、一つだけ教えておきましょうか。――――いいですか、ユースティア様。貴族とは感情を表に出してはいけないのですよ。足を引っ張られますからね。人は足を引っ張ることは得意なのです。貴族ならなおさらです」
と言った。それに対し、ユースティアは首をかしげて、
「じゃあ、どういう顔でいればいいんだ? 真顔か?」
と不思議そうに赤い瞳をメアリーに向けた。
「面白いこと言いますね、ユースティア様。真顔も悪くないですが、一番は笑顔です。自分が目の前の人物を操るぐらいの心意気でいるんです」
「バレたら、まずいんじゃないか?」
「逆に言えば、バレなければいいんです。覚えておいてくださいね」
顔を上げ、ユースティアは微笑んだ。
感情は表に出さない。怒りは隠す。笑顔で対応!!
メアリーの教えはユースティアに残っていた。
「ウィルソン侯爵、あなたは聡明だと聞いています。だからこそ、このやり取りが無駄だと分かりますよね?」
ユースティアはこの国のほとんどの貴族について知らないも同然だった。しかし、嘘でも褒めとけば少しは冷静になるだろうと考えた。道をふさげばなおさらだ。
もし、このやり取りを続けるならば、ウィルソン侯爵は自分でバカだと言ってるのと同じだ。
「くっ、そうだな」
「剣を降ろしてくださいますね?」
「ああ、降ろそう。大人しく貴様が付いてくるならな」
「それは話にもよります」
「ユースティア様、ダメです。こんな不当な命令に従う必要ありません!」
「メアリー……」
メアリーはユースティアの両肩を掴み、ユースティアを止めようとする。行かせてなるものかという強い気迫を感じる。でも、このままでは埒があかない。
「メイドは黙っておれ。貴様に用はない。邪魔立てするなら――――」
「何の騒ぎだ」
「「宰相様?!」」
メアリーと兵士が動揺する。
この人は前に見たダンディな人!! この国の宰相だったのか。
「これは、これはレヴィ侯爵。どうしてあなたがここに?」
ウィルソン侯爵は舌打ちでもしそうな勢いで忌々しい顔をしたかと思えば、笑顔でレヴィ侯爵を迎えた。
「私は何の騒ぎかと聞いた。ウィルソン卿は耳が悪いとお見受けする」
ウィルソン侯爵の顔が再び怒りで真っ赤に染まる。今にも地団駄を踏みそうな勢いだ。兵士が必死にウィルソン侯爵をなだめている。
「私から説明しましょう。レヴィ侯爵」
先を促すようにレヴィ侯爵は首を動かした。メアリーは促され、これまでの経緯を話し始める。
「事情は分かった。ウィルソン卿が陛下を心配するあまり事を急いだようだな。強引な真似をしたウィルソン卿に代わって私が謝罪しよう」
レヴィ侯爵がユースティアとメアリーに向かって頭を下げる。メアリーは慌てて、
「頭をあげてください。そもそも、レヴィ侯爵は何も悪くないではないですか!」
とレヴィ侯爵の謝罪を止めさせる。そして、ウィルソン侯爵をキッと睨み付けた。
「そうか。それでは、頭をあげよう」
「レヴィ侯爵はどうしてここに?」
ユースティアは恐る恐る尋ねる。レヴィ侯爵は帯を直した後、口を開いた。
「私がどこにいようと関係ないのでは?」
「それは……」
確かに、ユースティアには関係がなかった。ユースティアは言葉を間違えたとシュンとした顔になる。
「少し、意地悪が過ぎたようだ。――――ユースティア様、私と一緒に陛下の元に来てくださいますか?」
「それは、……はい」
返答に迷ったが、助けてもらったこともあり、ユースティアはこくりと頷いた。
「ウィルソン卿、そういうことだ。ここは私に任せてもらおうか」
「ちっ、任せたぞ」
「はい」
ウィルソン侯爵は屈辱に歪んだ顔でレヴィ侯爵を睨み付けた後、兵士を連れ、そそくさとこの場を後にした。
この場に残ったのは三人だけ。
「メアリー、君も一緒に来てもらおう。扉は直しておく」
「はい!」
メアリーはぱっと顔を上げ、微笑んだ。扉を壊されたことを気にしていたらしい。
「それでは、行こうか」
そして、ユースティアとメアリーはレヴィ侯爵の後に続いた。
「お願いしようか」
「はい。任せてください」
ガッツポーズをし、張り切っているメアリー。メアリーはお茶の準備をしようと、移動しようとしたそのとき、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「何かあったんでしょうか? ユースティア様、少々お持ちください。話を聞いてきます」
メアリーは怪訝そうに眉をひそめ、扉の方に向かう。だが、扉を開ける前に外から扉を豪快に開けられた。
「何事ですか? ウィルソン侯爵。いくらあなたと言えど、好き勝手に入っていい道理はないはずですが? それも兵士を連れて」
目だけで殺せそうなほどの眼差しをウィルソン侯爵に向けるメアリー。表情は笑顔だけど、怖い。
ウィルソン侯爵もユースティアと同じ事を思ったのか、メアリーの気迫に圧倒され、後ずさる。しかし、腐っても貴族。咳払いし、持ち直した。
「私は、陛下のためにそこの女の身柄を拘束しに来たまでです。そこをどいてもらおうか。どかないのなら貴様も共犯と見なす!」
「理由も分からず、ここをどくわけにはいきません。私はアラン様にユースティア様を守るように仰せつかっておりますので」
「アラン様ですか……。あのどこの血とも知れない男が陛下より偉いとでも言うつもりですか?」
馬鹿にしたように卑しく笑うウィルソン侯爵。
(この人、アルをバカにした!! 許せない! でも……)
今、ユースティアがウィルソン侯爵に殴りかかったら、メアリーに迷惑掛ける。それに、アランがもっとひどく言われる。
ユースティアは手を強く握った。その手には爪が食い込んでいる。
「あなたは何も知らないのですね。それは、それは、素晴らしい頭の持ち主でいらっしゃる」
「貴様、この私に向かって無礼だぞ!! メイド風情がっ!!」
顔を真っ赤にするウィルソン侯爵を見て、胸が少しスカッとした。さすがメアリー。でも、メアリーは大丈夫だろうか。
「それで? なぜ、ユースティア様に乱暴な真似をしようとなさっているのですか?」
「ふざけるなよ!!」
ウィルソン侯爵が怒りに操られ、そばにいる兵士の剣を抜き取った。
(まずい、メアリーが斬られる!!)
それからの行動は早かった。ユースティアは自身に身体強化の魔法をかけ、メアリーの前まで一瞬で距離を詰める。そして――――
「度が過ぎているのではないでしょうか?」
ウィルソン侯爵の剣を片手で受け止めた。
手から血がぽたり、ぽたりとこぼれ落ちる。
「なん、だと?!」
驚愕に染まる侯爵と後ろにいる複数人の兵士。そして、メアリー。
ユースティアはただ一人、俯き、メアリーの教えを思い出していた。
それは舞踏会のために貴族のマナーを学んでいるときの休憩中のこと。
「メアリー、貴族と話す練習はしないのか?」
自分から話すつもりはないが、話しかけられる可能性は十分にあると考えたユースティアはメアリーにそう尋ねていた。
「そうですね……。教えたいのは山々ですが、今からだと間に合いそうにありません」
「そうか」
ティーカップの紅茶を口に含む。メアリーも紅茶を口に含んだ。そして少し間を置いて、
「ですが、一つだけ教えておきましょうか。――――いいですか、ユースティア様。貴族とは感情を表に出してはいけないのですよ。足を引っ張られますからね。人は足を引っ張ることは得意なのです。貴族ならなおさらです」
と言った。それに対し、ユースティアは首をかしげて、
「じゃあ、どういう顔でいればいいんだ? 真顔か?」
と不思議そうに赤い瞳をメアリーに向けた。
「面白いこと言いますね、ユースティア様。真顔も悪くないですが、一番は笑顔です。自分が目の前の人物を操るぐらいの心意気でいるんです」
「バレたら、まずいんじゃないか?」
「逆に言えば、バレなければいいんです。覚えておいてくださいね」
顔を上げ、ユースティアは微笑んだ。
感情は表に出さない。怒りは隠す。笑顔で対応!!
メアリーの教えはユースティアに残っていた。
「ウィルソン侯爵、あなたは聡明だと聞いています。だからこそ、このやり取りが無駄だと分かりますよね?」
ユースティアはこの国のほとんどの貴族について知らないも同然だった。しかし、嘘でも褒めとけば少しは冷静になるだろうと考えた。道をふさげばなおさらだ。
もし、このやり取りを続けるならば、ウィルソン侯爵は自分でバカだと言ってるのと同じだ。
「くっ、そうだな」
「剣を降ろしてくださいますね?」
「ああ、降ろそう。大人しく貴様が付いてくるならな」
「それは話にもよります」
「ユースティア様、ダメです。こんな不当な命令に従う必要ありません!」
「メアリー……」
メアリーはユースティアの両肩を掴み、ユースティアを止めようとする。行かせてなるものかという強い気迫を感じる。でも、このままでは埒があかない。
「メイドは黙っておれ。貴様に用はない。邪魔立てするなら――――」
「何の騒ぎだ」
「「宰相様?!」」
メアリーと兵士が動揺する。
この人は前に見たダンディな人!! この国の宰相だったのか。
「これは、これはレヴィ侯爵。どうしてあなたがここに?」
ウィルソン侯爵は舌打ちでもしそうな勢いで忌々しい顔をしたかと思えば、笑顔でレヴィ侯爵を迎えた。
「私は何の騒ぎかと聞いた。ウィルソン卿は耳が悪いとお見受けする」
ウィルソン侯爵の顔が再び怒りで真っ赤に染まる。今にも地団駄を踏みそうな勢いだ。兵士が必死にウィルソン侯爵をなだめている。
「私から説明しましょう。レヴィ侯爵」
先を促すようにレヴィ侯爵は首を動かした。メアリーは促され、これまでの経緯を話し始める。
「事情は分かった。ウィルソン卿が陛下を心配するあまり事を急いだようだな。強引な真似をしたウィルソン卿に代わって私が謝罪しよう」
レヴィ侯爵がユースティアとメアリーに向かって頭を下げる。メアリーは慌てて、
「頭をあげてください。そもそも、レヴィ侯爵は何も悪くないではないですか!」
とレヴィ侯爵の謝罪を止めさせる。そして、ウィルソン侯爵をキッと睨み付けた。
「そうか。それでは、頭をあげよう」
「レヴィ侯爵はどうしてここに?」
ユースティアは恐る恐る尋ねる。レヴィ侯爵は帯を直した後、口を開いた。
「私がどこにいようと関係ないのでは?」
「それは……」
確かに、ユースティアには関係がなかった。ユースティアは言葉を間違えたとシュンとした顔になる。
「少し、意地悪が過ぎたようだ。――――ユースティア様、私と一緒に陛下の元に来てくださいますか?」
「それは、……はい」
返答に迷ったが、助けてもらったこともあり、ユースティアはこくりと頷いた。
「ウィルソン卿、そういうことだ。ここは私に任せてもらおうか」
「ちっ、任せたぞ」
「はい」
ウィルソン侯爵は屈辱に歪んだ顔でレヴィ侯爵を睨み付けた後、兵士を連れ、そそくさとこの場を後にした。
この場に残ったのは三人だけ。
「メアリー、君も一緒に来てもらおう。扉は直しておく」
「はい!」
メアリーはぱっと顔を上げ、微笑んだ。扉を壊されたことを気にしていたらしい。
「それでは、行こうか」
そして、ユースティアとメアリーはレヴィ侯爵の後に続いた。
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