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第一部 新しい居場所
これからのこと
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シュウと散歩をした後、シュウはユースティアを部屋まで送ると言ったがユースティアは断固として断っていた。
「シュウ、私はいい。そもそも、私がシュウを部屋へ送るべきだ」
「そこは男の俺がお前を部屋へ送る流れだろ」
「私の方が強い。だからシュウを部屋まで送る」
真っ直ぐな赤い瞳でシュウを見上げる。シュウはずっと見つめてくるユースティアに耐えきれず、首に手をまわし視線を外した。
「もういい。お前は頑固だからな。ここは年長者の俺が折れてやるよ」
「む、融通が利かないと遠回しに言っているのか?」
「そうだな」
先に歩き始めたシュウを追いかけ、シュウの服の裾をつかんだ。
「今日のシュウは年上ぶってる」
ユースティアは不満そうに頬を膨らませた。シュウはそんなユースティアをいちべつすると、懐のお菓子袋から飴を取り出しユースティアの口に突っ込んだ。
「甘い。おいしい」
「飴で目を輝かせてるお前はやっぱり子供だよ」
シュウは大切なものに触れるようにユースティアの頭をなでた。
「シュウも懐にお菓子ある時点で子供」
「一緒にするな。これは非常食かつ防犯用だ」
「非常食? 防犯用?」
「ああ、そうだ」
「?」
「分からないならそれでいい。子供のお前には裏の世界なんて早いからな」
「やっぱり今日のシュウは変だ」
「勝手に言ってろ」
シュウは鼻で笑いながら、自室のドアを開けた。
「送ってくれてありがとな。寄り道しないで帰るんだぞ」
「分かってる。おやすみ、シュウ」
「ああ、おやすみ」
シュウの部屋の扉が閉まる。ユースティアは身を翻し、自分の部屋まで長い廊下を駆け抜けた。そして、部屋に入るなり扉の前で座り込んだ。
「がっ」
口を咄嗟に押さえ、手に血を受け止める。
シュウにバレなくて良かったと安心する。シュウに見られたら、また迷惑を掛けてしまう。
「シュウはやさしいからな」
今日はいろいろと迷惑を掛けてしまった。それに、いろんな人にここにいるべきではないと言われてしまった。前にも言われてしまっているから、そろそろ本格的に身の振り方を考えなければならない。
「もっと早くにここからいなくなるべきだったのかもしれない」
シュウが独りにならないように一緒にできるだけいるべきだと今でも思っている。でもそれは私が一人になるのが怖かっただけだったのかも知れないと思っている私もいる。
アランがシュウを支えてくれるだろうか。――いや、アランはシュウが助けを求めない限り助けない。そしてシュウもアランを頼らない気がする。
今日会った令嬢や令息達は当たり前だが臣下としての対応だったように思う。
「どうすればいいんだろうな」
立ち上がり、手の血を魔法できれいに消す。そして、ドレスも魔法で脱ぎ、部屋着へと着替え、ベッドへと横になった。
「アル、早く帰ってきてくれないかな」
アルならきっと全てを教えなくても何かヒントをくれる。そんな気がするのだ。
これからのことをあれこれ考えている内にユースティアはそのまま深い眠りへとついた。
「ユースティア様、おはようございます」
カーテンが開けられ、ベッドへと朝日が差し込む。まぶしさに耐えられずユースティアは強く目を閉じた。
「メアリー?」
「はい、メアリーですよ」
「おはよう」
「はい、おはようございます。まずは顔を洗いましょうか」
メアリーはにこりと笑い、ユースティアから布団を取り上げた。その笑みは普通であって普通ではなかった。後ろに鬼がいるっ!!
「メアリー、怒ってる?」
恐る恐る、メアリーの機嫌を刺激しないように尋ねる。
「いえ、怒っていませんよ。ええ、怒っていませんとも」
(絶対嘘だ!! 絶対怒ってる。もしかして昨日舞踏会をシュウと抜けたのがバレてる?! それともドレスをソファに置いたから? まさか、廊下を走っていたのが見られていた?! 心当たりがありすぎて分からない!!)
「えっと、ごめんなさい」
「ユースティア様、何に怒られているか分からないのに謝るのは余計に人を怒らせるだけですよ?」
「メアリーは何に怒っているのか聞いてもいい?」
メアリーは無言で顔を洗う桶とは別の桶でタオルを絞るとユースティアの口元にその濡れたタオルを押しつけた。
「血、吐いたんですよね」
(口元に血が付いていたのか!)
「どうして私を呼んでくれなかったんですか? 私はそんなに頼りになりませんか?」
「ちがっ」
「ユースティア様が隠そうとした理由は分かります。私たちに迷惑になると思ったからですよね?」
コクコクとユースティアは上下に頷いた。
「これからはそんな気遣いは無用です。痛いときとは痛いと言っていいんです。苦しいときは苦しいって言っていいんですよ。私はユースティア様の傷のこと分かっていたのに……ふがいないです」
今にも泣いてしまいそうな声だった。
ユースティアにはメアリーがどうしてそんな声を、表情をするのか分からなかった。でもアランも前にこんな表情をしていたような……。
「メアリー、私は……」
「ユースティア様、これからは絶対に言ってください」
真っ直ぐな瞳でユースティアを見つめるメアリー。その瞳は少し潤んでおり、左手は強く握られていた。
「……分かった」
「顔を洗いましょうか。今日の――――」
その後のことはよく覚えていない。朝食のことについて話していたように思う。
メアリーにはお世話になっている。だからこそ言えなかった。メアリーがまた悲しむような気がしたから。自分でもメアリーがなんで悲しむと思ったのか分からないけど、きっと頷くのが最善だった、そう思ったから。
「シュウ、私はいい。そもそも、私がシュウを部屋へ送るべきだ」
「そこは男の俺がお前を部屋へ送る流れだろ」
「私の方が強い。だからシュウを部屋まで送る」
真っ直ぐな赤い瞳でシュウを見上げる。シュウはずっと見つめてくるユースティアに耐えきれず、首に手をまわし視線を外した。
「もういい。お前は頑固だからな。ここは年長者の俺が折れてやるよ」
「む、融通が利かないと遠回しに言っているのか?」
「そうだな」
先に歩き始めたシュウを追いかけ、シュウの服の裾をつかんだ。
「今日のシュウは年上ぶってる」
ユースティアは不満そうに頬を膨らませた。シュウはそんなユースティアをいちべつすると、懐のお菓子袋から飴を取り出しユースティアの口に突っ込んだ。
「甘い。おいしい」
「飴で目を輝かせてるお前はやっぱり子供だよ」
シュウは大切なものに触れるようにユースティアの頭をなでた。
「シュウも懐にお菓子ある時点で子供」
「一緒にするな。これは非常食かつ防犯用だ」
「非常食? 防犯用?」
「ああ、そうだ」
「?」
「分からないならそれでいい。子供のお前には裏の世界なんて早いからな」
「やっぱり今日のシュウは変だ」
「勝手に言ってろ」
シュウは鼻で笑いながら、自室のドアを開けた。
「送ってくれてありがとな。寄り道しないで帰るんだぞ」
「分かってる。おやすみ、シュウ」
「ああ、おやすみ」
シュウの部屋の扉が閉まる。ユースティアは身を翻し、自分の部屋まで長い廊下を駆け抜けた。そして、部屋に入るなり扉の前で座り込んだ。
「がっ」
口を咄嗟に押さえ、手に血を受け止める。
シュウにバレなくて良かったと安心する。シュウに見られたら、また迷惑を掛けてしまう。
「シュウはやさしいからな」
今日はいろいろと迷惑を掛けてしまった。それに、いろんな人にここにいるべきではないと言われてしまった。前にも言われてしまっているから、そろそろ本格的に身の振り方を考えなければならない。
「もっと早くにここからいなくなるべきだったのかもしれない」
シュウが独りにならないように一緒にできるだけいるべきだと今でも思っている。でもそれは私が一人になるのが怖かっただけだったのかも知れないと思っている私もいる。
アランがシュウを支えてくれるだろうか。――いや、アランはシュウが助けを求めない限り助けない。そしてシュウもアランを頼らない気がする。
今日会った令嬢や令息達は当たり前だが臣下としての対応だったように思う。
「どうすればいいんだろうな」
立ち上がり、手の血を魔法できれいに消す。そして、ドレスも魔法で脱ぎ、部屋着へと着替え、ベッドへと横になった。
「アル、早く帰ってきてくれないかな」
アルならきっと全てを教えなくても何かヒントをくれる。そんな気がするのだ。
これからのことをあれこれ考えている内にユースティアはそのまま深い眠りへとついた。
「ユースティア様、おはようございます」
カーテンが開けられ、ベッドへと朝日が差し込む。まぶしさに耐えられずユースティアは強く目を閉じた。
「メアリー?」
「はい、メアリーですよ」
「おはよう」
「はい、おはようございます。まずは顔を洗いましょうか」
メアリーはにこりと笑い、ユースティアから布団を取り上げた。その笑みは普通であって普通ではなかった。後ろに鬼がいるっ!!
「メアリー、怒ってる?」
恐る恐る、メアリーの機嫌を刺激しないように尋ねる。
「いえ、怒っていませんよ。ええ、怒っていませんとも」
(絶対嘘だ!! 絶対怒ってる。もしかして昨日舞踏会をシュウと抜けたのがバレてる?! それともドレスをソファに置いたから? まさか、廊下を走っていたのが見られていた?! 心当たりがありすぎて分からない!!)
「えっと、ごめんなさい」
「ユースティア様、何に怒られているか分からないのに謝るのは余計に人を怒らせるだけですよ?」
「メアリーは何に怒っているのか聞いてもいい?」
メアリーは無言で顔を洗う桶とは別の桶でタオルを絞るとユースティアの口元にその濡れたタオルを押しつけた。
「血、吐いたんですよね」
(口元に血が付いていたのか!)
「どうして私を呼んでくれなかったんですか? 私はそんなに頼りになりませんか?」
「ちがっ」
「ユースティア様が隠そうとした理由は分かります。私たちに迷惑になると思ったからですよね?」
コクコクとユースティアは上下に頷いた。
「これからはそんな気遣いは無用です。痛いときとは痛いと言っていいんです。苦しいときは苦しいって言っていいんですよ。私はユースティア様の傷のこと分かっていたのに……ふがいないです」
今にも泣いてしまいそうな声だった。
ユースティアにはメアリーがどうしてそんな声を、表情をするのか分からなかった。でもアランも前にこんな表情をしていたような……。
「メアリー、私は……」
「ユースティア様、これからは絶対に言ってください」
真っ直ぐな瞳でユースティアを見つめるメアリー。その瞳は少し潤んでおり、左手は強く握られていた。
「……分かった」
「顔を洗いましょうか。今日の――――」
その後のことはよく覚えていない。朝食のことについて話していたように思う。
メアリーにはお世話になっている。だからこそ言えなかった。メアリーがまた悲しむような気がしたから。自分でもメアリーがなんで悲しむと思ったのか分からないけど、きっと頷くのが最善だった、そう思ったから。
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