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第一部 新しい居場所

食事会

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「まあ、ユースティア様。とても素敵です」

「そうなんだろうか。少しやり過ぎではないのか?」

 ユースティアは軍服のようなデザインのドレスに着替えさせられていた。それだけではなく、香油やらメイクやらいろいろとやられすぎてユースティアは疲れ切っていた。それが声にも表れていた。

「あの、アラン様はどこにいますか?」

 一人でも大丈夫なユースティアだが見知らぬ場所で見知らぬ人に囲まれているのは少し不安がつのる。過ごしたのは少しの間だけだが一人でも知っている人が近くにいて欲しいと思ったのだ。

「アラン様は先に今回の食事会に行っていると思います。すぐに会えますよ」

「そうなのか……」

 メアリーがにこやかに微笑みながら、ユースティアの靴を履かせる。すでに風呂場で全部見られたから今更恥ずかしさなんてなかったが申し訳なさと慣れなさがある。

「それでは食事会に行きましょうか。案内します」

 メアリーに手を差し出され、イスから立ち上がる。

「いってらっしゃいませ」

 他のメイドが列になり、頭を下げる。やっぱりこういうのは苦手だと思った。メアリーと一緒に少し歩いたところでメアリーに尋ねられた。

「ユースティア様。ユースティア様は今の自分の状況、どう思っていますか?」

「分不相応だと思っている。私にはこの場所は華やかすぎる。それに――」

「それに?」

「いや、何でもない。後どのくらいで着くんですか?」

「もうすぐですよ。扉が見えてきました」

 言葉の続きが言えなかった。メアリーはユースティアの心情を察してか、深くは聞いてこなかった。ユースティアは安心した。

「ここです。私は近くで控えていますので、具合が悪くなったら何かしらの合図を送ってください」

「分かりました」

 メアリーが扉を開ける。扉の向こう側には王様と王妃、そしてシュウとアランがいた。ユースティアが最後だったらしい。4人の前と、アランの隣のイスの前だけに食事の準備がされている。

「遅くなって申し訳ありません。王様達にご挨拶を――」

「ああ、よい。今回、堅苦しいのはなしにしよう。早く席に座りなさい」

 戸惑いながらもユースティアはアランの隣に座った。

「お嬢さん、その服似合っているね」

「ドレスじゃなくて良かったのだろうか。この服、スカートが短いし正装じゃない気が……」

「だってお嬢さんそういうの好きじゃないかなって思って。機能性重視の方が好きそうな気がしたから。うん、似合っている。俺が選んだだけのことはある」

 誇らしげに自賛しているアランをシュウが一刀両断する。

「お前の趣味の間違いじゃないのか?」

「そんなこと言ってシュウ君、お嬢さんが入ってきたとき絶対領域に目がいっていたでしょ?」

「そ、そんなことはないぞ。目がいっていたのはアランの方じゃないのか?!」

「えっ、何その慌てよう……。ただのはったりのつもりだったのに、本当に見てたんだ」

 引き気味にアランはシュウを見る。ユースティアは顔を真っ赤に染め、スカートを下に下げるような仕草を机の下でする。

「何でそんな目で見るんだ?! そもそも、アランがこの服を選んだんだろうが!! 俺だけが変態みたいじゃないか。変態はアラン、お前だっ!!」

「ええ、俺は単純にお嬢さんに喜んでもらえるかなって思っただけなのに。純粋に選んだのに」

「嘘つけ、絶対下心あって選んだだろ!!」

「まあまあ、似合っているし何だっていいじゃない。それに男は皆、変態よ」

 王妃が手を前後にひらひらさせながら笑顔で言ったかと思えば、真剣な顔で爆弾発言をする。

「母上!!」

「ゴホン。話を進めたいのだが……」

 アランとシュウのやり取りを王様が咳払いで中断させる。そして手で近くのメイドに食事を持って来るように合図を送る。

「あら、あなた恥ずかしいのね。あなたはむっつりですからね」

「私のことはいいのだ。それよりアラン、このお嬢さんについて詳しい説明を頼む。帰ってきてからお嬢さんから離れず、ろくに話さないからよく分からないのだが」

 笑いながら言う王妃に王様は咳払いをして誤魔化そうとする。耳がかすかに赤くなっている気がする。

「お嬢さん、お嬢さんのこと話してもいい?」

「ああ。ここまで世話になっていて言わないのも失礼にあたると思うからな」

 アランはユースティアがかすかに揺れているのに気づき、机の下で手を握る。大丈夫と言っているようだった。体の緊張がどこか抜けた気がする。

 それからアランは王様達にユースティアの事情を話していった。ユースティアに気遣ってかは分からないが手短に話した。それがユースティアにとってありがたかった。あんまり思い出したくないことだったから。

「気の済むまでこの国に滞在しなさい。よく頑張ったね」

「ありがとうございます」

 食事が運ばれてくる。ユースティアのところはみんなと違う食事が運ばれてくる。二年もまともな食事を取ってなかったからアランが気遣ったのだろう。

「無理はしなくて大丈夫だから」とアランに耳打ちされた。

「私、女の子がいなかったから楽しみだわ。後で女子会をしましょう。ね、ティアちゃん」

「あ、はい」

 王妃の押し具合に思わず頷いてしまう。それにいきなり愛称で呼ばれて驚きだ。

「それいいね。俺もティアって呼ぼう。いいよね? ティア」

「わ、分かった」

 その後、雑談をしながら食事を進める。

 そして食べ終わって解散した直後、シュウに呼び止められた。

「おい、女。俺と勝負しろ」

「ちょっとシュウ君、いきなり何言うのさ。ティアはまだ怪我とか治ってないんだから無理させないでよ」

「私は勝負してもいい」

「なっ、お嬢さん?!」

「ついてこい」

「分かった。――アラン様、心配しなくても大丈夫だから」

「本当にやばいときは止めるからね」

 シュウの後ろを歩く。練習場にたどり着くと、騎士団長らしき人がシュウに気づき、走ってきた。

「シュウ様、それにアラン様?! 皆の者、練習やめ!!」

 騎士団長の声で、練習場にいた騎士の人達が一斉にこちらを振り向く。シュウの後ろにいたユースティアをいぶかしげに見たり、不満そうに見たりする者、そして興味深そうに見る者の視線が集まる。

「少し、ここを貸してくれないか? この女と試合をする」

「ですが……」

「すぐ終わる。それに皆の者にも試合を見てもらおう。お前達にもやってもらいたいことがあるからな」

「分かりました。皆、聞いた通りだ。これからシュウ様が試合を行う。端によるように」

 騎士の人達がぞろぞろと端による。ユースティアに緊張が走る。

「お前の武器は?」

 シュウがユースティアに尋ねる。しかしユースティアは応えられなかった。

 なんて言えばいいのか分からない。

 そんなユースティアにアランは二本ある刀のうちの一本をユースティアに渡した。騎士達の動揺がこちらにまで伝わってくる。アランが刀を貸すことに驚いているのかも知れないとユースティアは思った。

「審判は俺がやるよ。シュウ君。いいよね?」

「ああ、よろしく頼む」

「ちなみに能力と魔法を使うのは有り?」

「有りだ」

 ユースティアとシュウは位置に着く。そして二人とも刀を構える。

「それじゃあ、始めようか。試合開始!!」

 結果から言うと一瞬で勝負はついた。ユースティアが能力を発動したことでシュウが立つことすらできなかったからだ。アラン以外、みんな何が起こったのか分からなかった。勝った当の本人も驚いていた。

「何をしたんだ?」

 そう言った声が周りから発せられる。

「アラン様、私、能力が強くなっている?」

「そうだね。お嬢さんは能力を覚醒させたから。結果は始めからなんとなく分かっていたよ。でも、目から血、出てるよ」

「えっ……」

 ユースティアの体が今になって倒れる。それをアランがすかさず受け止め、抱きかかえる。

「なんかお嬢さんとはこういうの多い気がするな。早く、休ませないと。シュウ君、シュウ君にはあとで詳しく話すから、後は分かっているよね?」

「ああ」

 しばしの間呆然としていたシュウはアランの声で元に戻る。アランはユースティアを連れてそのまま部屋に戻ってしまった。

「今の見たよな。あの女はこの城に滞在するが手出し無用だ。もし手出しをすれば出世はないと思え。さすがに今の見た後にこの城にふさわしくないという奴はいないよな?」

「はっ、シュウ様の望みの通りに」

  騎士達は先ほどのざわめきを消し、シュウに頭を下げる。シュウはそれを見た後、気づいたかのように付け加えた。

「自分の婚約者とかにもあの女と会う機会があるようならそう言い含めておけ。分からないようなら城の敷居をまたぐな。あの女の前に現れるな」

 そう言い残し、シュウはアラン達を追いかけた。

 シュウが行ったのを見計らうと騎士達は騒ぎ出した。

「アラン様やシュウ様が気にかけるなんて二人にも春が来たのかしら」

「でも、あの子まだ幼いじゃない?」

「あの強さ、何者なんだ?」

「小さいのに格好良かった」

「そうか?」

 いろいろな意見がはびこる中、騎士団長が大声を上げ、皆の声が静まる。

「お前達、あの方に害がないように陰ながら守るように。王子妃になるかもしれないお方だ。分かったな」

「「はい」」

 騎士団長は勘違いをしたまま、それが騎士にも波及するのだった。

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