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第一部 新しい居場所
王子との出会い
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「勝手に入られては困ります」
「俺を誰だと思っている。王子だぞ。入ってはならないところなどあるものか」
茶色と白が混ざった髪、そしてオレンジ色の鋭い瞳。王子らしくない格好をした王子。それがこの男、シュウだった。
シュウは召使いを押し切り、乱暴にユースティア達のいる部屋の扉を開ける。
その音でユースティアはびくりと肩を揺らし、意識をはっきりと浮上する。
「本当に寝起き悪いな、こいつ。いい加減起きろ」
勢いよく布団をめくる。
シュウは知らなかったのかベッドにいる薄着のユースティアを見て目を点にした。
ユースティアも布団をめくられるとは思っておらず、驚きでシュウを見て固まっていた。
見つめあうこと数秒。
そんなユースティアの目を手のひらで隠し、自分に寄りかからせ、腕で隠すように少し遅れて起きたアラン。アランは不満げな顔を浮かべ、シュウを見た。
「なあに、シュウ君のエッチ」
「な、な、な、違う。俺は断じてそういう意図はないぞ。違うからな」
「それじゃあ、俺たちはもう少し寝るから。シュウ君帰って」
アランはユースティアに抱きついたまま、布団をかぶる。ユースティアは何がなんだか分からず、しばしの間思考を停止していたが、これは起きないといけないと思い直し、布団をめくった。
「アラン様、起きろ。そして放せ」
「アル」
「は?」
「だから、アルって呼んで。そしたら起きる」
ユースティアは脳内で頭を抱えたが、恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに愛称を口にする。
「アル。……これでいいんだろう」
だんだん小声になっていくユースティア。恥ずかしさが限界を超えたのか、ベッドの上でうずくまる。
「うん」
うずくまるユースティアの頭をアランはやさしくなでた。
「俺は何を見せられているんだ」
「まだいたの、シュウ君。――はあ、お嬢さんにも起きろと言われたし、そろそろ王様のところに行かないとな。ほら、お嬢さんはこれから着替えるんだから帰った帰った」
手をしっ、しっ、と振り、シュウを追い払うアラン。なぜ自分は大丈夫だと思っているのか、シュウはアランの手を引っ張り、引きずり下ろす。
「アラン。お前、嫁入り前の女の子の体を見るのは破廉恥だ」
「そんなこと考えているシュウ君の方が破廉恥じゃん」
部屋に鈍い音が鳴り響く。
「女、机にあるベルを鳴らせば召使いが支度をしてくれるから」
「げんこつすることないじゃん。本当にシュウ君はウブだよね――お嬢さん、逃げたらダメだよ?」
引きずられながら、手を振るアランをユースティアは扉が閉まるまで見ていた。
「いい加減、自分で歩け、バカ」
扉の外でケンカしている声が聞こえる。
ユースティアはとりあえず、シュウと呼ばれた男の言う通りに、机にあったベルを鳴らす。すると、メイドの格好をした人達が部屋にずらずらと入ってきた。
「私の名前はメアリーと申します。この城にいる間ユースティア様のお世話をさせていただきます。まずは、お風呂に入りましょうか」
このメイドの中で偉いだろうと思われるメアリーという女性が自己紹介をする。年は二十代といった見た目をしている。この世界では見た目は当てにならないことが多いのだが。
ユースティアは部屋に入ってきた他のメイドに両腕をつかまれ、半ば連行されるように風呂場へと連れて行かれた。拒否権はないようだ。
「それではユースティア様、服を脱がせてもらいますね」
メアリーにそう言われるがユースティアは服を脱がせられまいと対抗する。
「一人で入れる」
「いいえ、一人でできません。貴族のお支度は準備が大変なんですから」
「でも、やっぱり……」
「でもも、やっぱりもありません!!」
「あっ」という小さな呟きがユースティアの口からもれる。メアリーに服を脱がせられてしまった。メアリーは一瞬目を見張った後、何事もなかったように、ユースティアの風呂の準備を進める。
ユースティアも諦めたのか、目を伏せ、体から力を抜いた。その後、ユースティアはメアリー達にされるがままにされるのであった。
ユースティアの支度を他のメイドに一時的に任せ、抜け出したメアリーはアランの元に訪れていた。
「アラン様、少々お話よろしいでしょうか?」
シュウと一緒に雑談しながらお菓子を食べていたアランは、後ろから話かけてきたメアリーの方へとクッキーをくわえたまま振り向いた。
「なあに、メアリーちゃん」
「ユースティア様のことです。あれは何でしょうか?」
「あれって?」
「多くの怪我の痕です。回復薬で治しているみたいですが、見る人が見れば分かるものです。そして一番は体の内部ですね。アラン様の能力でそれ以上悪化しないようにしているみたいですが相当痛いはずです。直ちに、聖女に匹敵するほどの回復が必要かと思われます」
「そうだねえ。そうなんだけど、エリクサーにも限界があるしねえ。使われていたエリクサーも失敗した物を使われていたみたいだし。能力も無理矢理覚醒させちゃったしねえ。呪いもどうにかしないといけないし……。どうするべきだと思う、シュウ君?」
「俺に振るな。お前が連れてきた女だろ。自分でどうにかしろ」
「今代の聖女はまだ生まれたばかりで能力はろくに使えないだろうしな。俺の血をあげてもいいけど上下関係が生まれちゃうし。それは嫌だ。う~ん」
わざとらしく考える仕草をするアラン。そんな態度にむかついた二人は足をドスドスと、頭をパチンとはたく。
「二人して攻撃しなくても」
「お前が悪い」
「アラン様が悪いです。それともアラン様はユースティア様がこのままでいいんですか?」
「それは良くないけど。――というかメアリーちゃん、お嬢さんのことに好意的?」
「ユースティア様は磨きがいがありそうですので。とにかくなんとか治せるように準備しといてくださいね」
そう言い残すとメアリーはユースティアの元へと行ってしまった。
「アランはどうしてあの女を連れてきたんだよ。お前が女を連れてくるなんて珍しすぎるからな」
シュウは新たにクッキーをとり、口に運んだ。
「うん? 好きになっちゃったから?」
「どうして疑問形なんだ。というかお前が惚れたって。明日槍でも振ってくるんじゃあねえの」
「ひどい言い草だなあ」
「お前が興味を持つほどの女か。少し興味がわいてきた」
「ええ、マジ?」
紅茶を一気に飲み干し、立ち上がったシュウは手を振り、部屋を後にする。
「さて、どうやってお嬢さんを治すかな……」
「俺を誰だと思っている。王子だぞ。入ってはならないところなどあるものか」
茶色と白が混ざった髪、そしてオレンジ色の鋭い瞳。王子らしくない格好をした王子。それがこの男、シュウだった。
シュウは召使いを押し切り、乱暴にユースティア達のいる部屋の扉を開ける。
その音でユースティアはびくりと肩を揺らし、意識をはっきりと浮上する。
「本当に寝起き悪いな、こいつ。いい加減起きろ」
勢いよく布団をめくる。
シュウは知らなかったのかベッドにいる薄着のユースティアを見て目を点にした。
ユースティアも布団をめくられるとは思っておらず、驚きでシュウを見て固まっていた。
見つめあうこと数秒。
そんなユースティアの目を手のひらで隠し、自分に寄りかからせ、腕で隠すように少し遅れて起きたアラン。アランは不満げな顔を浮かべ、シュウを見た。
「なあに、シュウ君のエッチ」
「な、な、な、違う。俺は断じてそういう意図はないぞ。違うからな」
「それじゃあ、俺たちはもう少し寝るから。シュウ君帰って」
アランはユースティアに抱きついたまま、布団をかぶる。ユースティアは何がなんだか分からず、しばしの間思考を停止していたが、これは起きないといけないと思い直し、布団をめくった。
「アラン様、起きろ。そして放せ」
「アル」
「は?」
「だから、アルって呼んで。そしたら起きる」
ユースティアは脳内で頭を抱えたが、恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに愛称を口にする。
「アル。……これでいいんだろう」
だんだん小声になっていくユースティア。恥ずかしさが限界を超えたのか、ベッドの上でうずくまる。
「うん」
うずくまるユースティアの頭をアランはやさしくなでた。
「俺は何を見せられているんだ」
「まだいたの、シュウ君。――はあ、お嬢さんにも起きろと言われたし、そろそろ王様のところに行かないとな。ほら、お嬢さんはこれから着替えるんだから帰った帰った」
手をしっ、しっ、と振り、シュウを追い払うアラン。なぜ自分は大丈夫だと思っているのか、シュウはアランの手を引っ張り、引きずり下ろす。
「アラン。お前、嫁入り前の女の子の体を見るのは破廉恥だ」
「そんなこと考えているシュウ君の方が破廉恥じゃん」
部屋に鈍い音が鳴り響く。
「女、机にあるベルを鳴らせば召使いが支度をしてくれるから」
「げんこつすることないじゃん。本当にシュウ君はウブだよね――お嬢さん、逃げたらダメだよ?」
引きずられながら、手を振るアランをユースティアは扉が閉まるまで見ていた。
「いい加減、自分で歩け、バカ」
扉の外でケンカしている声が聞こえる。
ユースティアはとりあえず、シュウと呼ばれた男の言う通りに、机にあったベルを鳴らす。すると、メイドの格好をした人達が部屋にずらずらと入ってきた。
「私の名前はメアリーと申します。この城にいる間ユースティア様のお世話をさせていただきます。まずは、お風呂に入りましょうか」
このメイドの中で偉いだろうと思われるメアリーという女性が自己紹介をする。年は二十代といった見た目をしている。この世界では見た目は当てにならないことが多いのだが。
ユースティアは部屋に入ってきた他のメイドに両腕をつかまれ、半ば連行されるように風呂場へと連れて行かれた。拒否権はないようだ。
「それではユースティア様、服を脱がせてもらいますね」
メアリーにそう言われるがユースティアは服を脱がせられまいと対抗する。
「一人で入れる」
「いいえ、一人でできません。貴族のお支度は準備が大変なんですから」
「でも、やっぱり……」
「でもも、やっぱりもありません!!」
「あっ」という小さな呟きがユースティアの口からもれる。メアリーに服を脱がせられてしまった。メアリーは一瞬目を見張った後、何事もなかったように、ユースティアの風呂の準備を進める。
ユースティアも諦めたのか、目を伏せ、体から力を抜いた。その後、ユースティアはメアリー達にされるがままにされるのであった。
ユースティアの支度を他のメイドに一時的に任せ、抜け出したメアリーはアランの元に訪れていた。
「アラン様、少々お話よろしいでしょうか?」
シュウと一緒に雑談しながらお菓子を食べていたアランは、後ろから話かけてきたメアリーの方へとクッキーをくわえたまま振り向いた。
「なあに、メアリーちゃん」
「ユースティア様のことです。あれは何でしょうか?」
「あれって?」
「多くの怪我の痕です。回復薬で治しているみたいですが、見る人が見れば分かるものです。そして一番は体の内部ですね。アラン様の能力でそれ以上悪化しないようにしているみたいですが相当痛いはずです。直ちに、聖女に匹敵するほどの回復が必要かと思われます」
「そうだねえ。そうなんだけど、エリクサーにも限界があるしねえ。使われていたエリクサーも失敗した物を使われていたみたいだし。能力も無理矢理覚醒させちゃったしねえ。呪いもどうにかしないといけないし……。どうするべきだと思う、シュウ君?」
「俺に振るな。お前が連れてきた女だろ。自分でどうにかしろ」
「今代の聖女はまだ生まれたばかりで能力はろくに使えないだろうしな。俺の血をあげてもいいけど上下関係が生まれちゃうし。それは嫌だ。う~ん」
わざとらしく考える仕草をするアラン。そんな態度にむかついた二人は足をドスドスと、頭をパチンとはたく。
「二人して攻撃しなくても」
「お前が悪い」
「アラン様が悪いです。それともアラン様はユースティア様がこのままでいいんですか?」
「それは良くないけど。――というかメアリーちゃん、お嬢さんのことに好意的?」
「ユースティア様は磨きがいがありそうですので。とにかくなんとか治せるように準備しといてくださいね」
そう言い残すとメアリーはユースティアの元へと行ってしまった。
「アランはどうしてあの女を連れてきたんだよ。お前が女を連れてくるなんて珍しすぎるからな」
シュウは新たにクッキーをとり、口に運んだ。
「うん? 好きになっちゃったから?」
「どうして疑問形なんだ。というかお前が惚れたって。明日槍でも振ってくるんじゃあねえの」
「ひどい言い草だなあ」
「お前が興味を持つほどの女か。少し興味がわいてきた」
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