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零章 旅人との出会い
犯人は?
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「君が盗んだとは思わなかったよ」
村人に囲まれている娘の肩にアランは後ろから手を置く。娘はアランの声でうれしそうに振り向いた。
「ガルーダ様? 私に会いに来てくれたのですね! うれしいわ」
娘のあまりの態度にアランは頬を引きつらせた。そして気を取り直すように娘に告げる。
「君が村長から盗んだものを返せ。返さないなら力ずくで返させてもらう」
「盗んだもの? 盗んだものなんてないわ。それより、私とデートしに来てくれたんでしょう? そんな誘い方するなんて恥ずかしがり屋ですね。さあ、行きましょう?」
娘はエスコートをするようにアランの前に手を差し出した。
この女は頭が沸いてるのか? …………いや、違うな。なんだ、この女は。前に会ったときと違う。朝会ったときは確かに前と変わっていなかったはずだ。
「そうか。返さないつもりか。穏便に済ませたかったんだがな」
見えない速さで抜刀する。そしてごく自然に、何が起こったのか分からない程の速度で娘に刃が届く……はずだった。しかしアランの向けた刃は娘の心臓の前で止まっていた。否、止めさせられた。
近くにいた村人は、いつのまにかアランの刀が娘の心臓に向かって差し向けられているという事実しか認識できなかった。そしてその状況は誤解を招くことが容易に想像できた。
今にもいたいけな娘が殺されそうになっているとしか思えない光景。それだけが村人にとっての事実であり、今のアランは村人にとって殺人鬼のように見えるだろう状況。
「きゃあぁぁぁぁ!」
誰が始めに上げた悲鳴かは分からない。驚きで固まっていた村人達はそれが引き金となって我先にと、その場から逃げ出した。
その場に残ったのはアランと娘だけ。娘の手には例の品が心臓の前で握られている。
「何が狙いだ?」
「何が狙いかって? おかしなことを言いますのね。私はアラン様と仲良くなりたいだけですわ」
娘を見る青い瞳は鋭く、目だけで人を殺せそうなほどの迫力を纏っていた。それに対し、娘は緊迫している事態にもかかわらず、この事態に似つかわしくない恋する乙女のように頬を赤く染める。それがより今の娘の不気味さを際立たせていた。
「盗んだら俺の印象が悪くなるのは考えなくても分かることだろう?」
「アラン様は勘違いしているのね。これは元々私のものよ? それに自分の物をいつ使おうが勝手よね?」
アランの目が見開かれる。そしてアランの探索の魔法が展開された。端から見たらただの風にしか見えない魔法。その魔法が何かを探知した。
「そうか、そうか。そういうことか」
俯いたかと思えば前髪をかきあげ、アランはクツクツと笑い出した。
「――君は何かを隠しているようだが、今回は見逃してやろう。その役目は俺じゃないんでね。それに君はただ利用されただけだと思うからな」
刀を鞘に収めるとアランは走り出した。それを娘は冷ややかな目で見ていた。
「アラン様は勘違いしているのね。――利用されたのではなく、私はあえて利用されていたのよ?」
心の底からそう言っているのか、それともただ強がって言っているだけか。それを尋ねる人は誰もいない。
村人に囲まれている娘の肩にアランは後ろから手を置く。娘はアランの声でうれしそうに振り向いた。
「ガルーダ様? 私に会いに来てくれたのですね! うれしいわ」
娘のあまりの態度にアランは頬を引きつらせた。そして気を取り直すように娘に告げる。
「君が村長から盗んだものを返せ。返さないなら力ずくで返させてもらう」
「盗んだもの? 盗んだものなんてないわ。それより、私とデートしに来てくれたんでしょう? そんな誘い方するなんて恥ずかしがり屋ですね。さあ、行きましょう?」
娘はエスコートをするようにアランの前に手を差し出した。
この女は頭が沸いてるのか? …………いや、違うな。なんだ、この女は。前に会ったときと違う。朝会ったときは確かに前と変わっていなかったはずだ。
「そうか。返さないつもりか。穏便に済ませたかったんだがな」
見えない速さで抜刀する。そしてごく自然に、何が起こったのか分からない程の速度で娘に刃が届く……はずだった。しかしアランの向けた刃は娘の心臓の前で止まっていた。否、止めさせられた。
近くにいた村人は、いつのまにかアランの刀が娘の心臓に向かって差し向けられているという事実しか認識できなかった。そしてその状況は誤解を招くことが容易に想像できた。
今にもいたいけな娘が殺されそうになっているとしか思えない光景。それだけが村人にとっての事実であり、今のアランは村人にとって殺人鬼のように見えるだろう状況。
「きゃあぁぁぁぁ!」
誰が始めに上げた悲鳴かは分からない。驚きで固まっていた村人達はそれが引き金となって我先にと、その場から逃げ出した。
その場に残ったのはアランと娘だけ。娘の手には例の品が心臓の前で握られている。
「何が狙いだ?」
「何が狙いかって? おかしなことを言いますのね。私はアラン様と仲良くなりたいだけですわ」
娘を見る青い瞳は鋭く、目だけで人を殺せそうなほどの迫力を纏っていた。それに対し、娘は緊迫している事態にもかかわらず、この事態に似つかわしくない恋する乙女のように頬を赤く染める。それがより今の娘の不気味さを際立たせていた。
「盗んだら俺の印象が悪くなるのは考えなくても分かることだろう?」
「アラン様は勘違いしているのね。これは元々私のものよ? それに自分の物をいつ使おうが勝手よね?」
アランの目が見開かれる。そしてアランの探索の魔法が展開された。端から見たらただの風にしか見えない魔法。その魔法が何かを探知した。
「そうか、そうか。そういうことか」
俯いたかと思えば前髪をかきあげ、アランはクツクツと笑い出した。
「――君は何かを隠しているようだが、今回は見逃してやろう。その役目は俺じゃないんでね。それに君はただ利用されただけだと思うからな」
刀を鞘に収めるとアランは走り出した。それを娘は冷ややかな目で見ていた。
「アラン様は勘違いしているのね。――利用されたのではなく、私はあえて利用されていたのよ?」
心の底からそう言っているのか、それともただ強がって言っているだけか。それを尋ねる人は誰もいない。
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