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二幕 願い
腐敗
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悪霊の手は止まらない。
僕を認識すると、真っ先に追いかけてきた。
――まるで、ずっと待っていた獲物が来たかのように。
あれはやっぱりフレイさんだ。だけど、なんで、どうしてアーノルドさんが持っていた面をつけているの?
「っ――――!!」
咄嗟に後ろを振り向き、防御する。そして、庭園の方へと跳び退いた。
息が荒れる。
まだ応戦して数分も経っていないのに、すでに刀を握る手が汗ばんでいる。
一度あの手に捕捉されれば何もかもお終いだ。待つのは腐りはてるのみ。
実際、庭園の草木が、彼女が触れたそばから枯れ始めてる。
ルイスさんには斬ると堂々と言ってしまったけど、どこを狙えば、確実に消せるのか検討もつかない。こんなとき『剣神の加護 霊鳥剣』が使えれば、どこを斬ればいいのか分かるのに、さっきから発動しない。鳥さんの言われたとおり、強く思っても鳥さんは来やしない。
今は攻撃していって急所を見つけるしかない。この 神影月下は腐らないようだし。
そう思ったとき、耳朶に音色がもたらされる。
『私は帰る、黄泉の国。あなたも帰る、奈落へと――――』
魔法? でも、何の魔法か分からない。呪術か?
詠唱が終わる前に距離をとった方がいい。何が来るか分からない。
足に魔力を込め、爆発的な速さを持って目一杯距離をとる。
彼女本体の動きは遅い。でも、そこから伸びる手が速く、厄介だ。
ある程度距離を稼ぎ終わり、刀を前に構える。
だが、手はここが限界のようでそれ以上伸びては来なかった。
後ろに下がりながら本体に目を向ける。
本体はほとんど動いていない。それどころか、庭園に足を一歩も踏み入れてはいない。つまり、日陰から出ていないということ。
この庭園の日は本物?!
でも、不思議なことに、手は普通に庭園まで伸びている。
手は本体とはあまり関係ない?
彼女の超長文詠唱が終わる。
この場が闇に包まれると同時に黒い犬らが出現する。
頭を三つ持つケルベロスに、二つ頭のオルトロス!!
新たに産まれたことの歓びを伝えるように二匹の雄叫びが轟く。
耳がやられる!!
耳を塞ぐ手段はなかった。
左腕で耳まで腐敗させるわけにはいかない。何より、刀を動かす手を止めれば手に捕捉され、ジ・エンド。
二匹の犬が数多の手を引き連れるように。口から毒という名の煙を吐き出しながら、噛みつかんと襲いかかる。
能力発動『嫉妬』
「アヴィオール」
禍々しい強風が僕の前に壁のように吹き荒れ、数多の手が外へと吹き飛ばされる。
しかし、禍々しい強風を以てしても黒い影は襲いかかる。
僕は刀でケルベロスの首を薙ぎ払い、左腕でオルトロスを受け止める。
左腕が引き千切られる寸前まで陥れられる。ケルベロスの首も二つしか落とせなかった。
痛みで顔を歪めながら、竜化の態勢に入る。
超回復を以て怪我を回復させる。
牙突を以て、オルトロスの目を潰す。
オルトロスが痛みで口を開いたのを見逃さず、左腕を引き抜き、距離を取る。
そして――――――――跳躍する。
オルトロスが痛みで下を向いたのを利用し、足場にしたのだ。
全身に黒風を纏い、突進する。全体重を以て、剣突を彼女の心臓に向かって穿つ。
「ごほぉ――――」
彼女の口から血が大量に噴き出した。数多の手が消え失せ、彼女の動きが止まったかのように思えた。
しかし再び彼女は動き出した。
「心臓じゃないのか。いや――――」
確かに効果はあったように見える。悪霊の動きが遅くなっているし、手の数が減ったように思える。
風を纏ったまま、後ろに向かって刀を振り払う。
「復活してる……」
心臓を刺したとき、二匹の黒犬も動きを止めたかのように思えたけど、落としたはずの首が元に戻っている。
手を風で吹き飛ばしつつ、刀で再び黒犬の首を落とす。
だが、首を離れた頭部に近づけると再生を始めた。
犬の方は頭部をどうにかすれば弱体化できるか……。
この犬は魔法で産まれたものだろうから、彼女をやらないと犬は何度でも復活するんだろうな。
僕は頭部を蹴り上げ、体と頭部を離す。犬は頭の方へと走り出し行く。
犬の対応は今はこれでいい。あとは、彼女をどうするか。
紅炎剣 が彼女の顔を串刺しにしたときは効果バツグンのように見えた。
やっぱり、聖遺物で攻撃しないと意味がないのか?
「ッッ――――!!」
手の数が元に戻ってきてる。殺意がさらにこもってるし、それどころか丈夫になってる!!
僕は風を強めつつも、それでもこちら伸び始めてきている数本の手を削ぎ落とす。
そこへ、大砲声。
足に力を込めるが、衝撃波に巻き込まれ、後ろへと吹き飛ばされる。
音の場所を見やると、そこには彼女の体だけが呆然と立っていた。そして、離れたところにバズーカを持ったルイスさん。
あの人、僕ごと殺る気だった。
僕が殺意をマシマシになっていると、殺意を向けられた当の本人は、
「いや、威力足りなかったッスかね」
嫌な笑みを浮べていた。
能力で触覚以外の五感が鋭くなっている僕にははっきりと見えたし聞こえた。
このサディスト!!
心のなかで叫びながら、重い膝を上げ、前へと進もうと思ったそのとき、足が何かを踏んだ。
これは紅炎剣 !!
僕は刀を鞘に納め、一歩下がった。そして、右手に紅炎剣 を装備する。今は熱くない。
停止している彼女との距離を一気に詰め、聖遺物でひたすら斬撃の嵐を降らせようとしたそのとき、聞き覚えのある声が彼女の前に現れた。
「アーノルド、さん……?」
先ほど別れたはずのアーノルドさんが片手に面を持ち、彼女の顔が再生するのを待つと、すぐに面を被せた。
暴れまわる彼女をアーノルドさんが引き連れた面の集団が抑え込む。だが、触れたものからすぐに腐敗していく。それでも面の集団の動きは落ちない。
アーノルドさんが何かの呪文を唱えると彼女の動きがピタリと止む。
僕はただ一人、異常の中の異常を凝視する。
ただの人間のはずのアーノルドさんがなぜ、普通に彼女に近づけているのか? 近づいただけでただの人は腐敗してしまうのにもかかわらず、アーノルドさんは腐敗せずに立っている。それどころか笑みさえ浮かべているように思える。
嫌な予感がする。
そして嫌な予感は的中する。
「捕まえろ。生死は問わない」
彼の命令に従うように面をつけられた集団は彼女から離れ、僕の方に襲いかかってくる。その光景はまさにゾンビ映画。それよりも酷いかもしれない。
身体強化をかけているのか、早い動きで僕に向かってくる。しかも、後ろには銃を持った人たちもいる。
あの銃、とてつもなく見に覚えがある。片面の男が使っていた銃。威力がやばい方じゃないけど、それを抜きにしても数が多すぎるってだけで脅威だ。
しかも、刀に変えてる時間はない。頭の流れはゆっくりで冷静なのに、現実の流れは早い。
僕は短剣を構えるのだけで精一杯だった。
ルイスさんの叫ぶ声がするのとほぼ同時だったか。面の連中を二匹の黒犬が噛みちぎる。
そして僕の前に刀を構えた一人の男。
ケルベロスに、オルトロス。それとアーノルドさんに噛みつこうとしているもう一匹の黒犬……。
「ブラックドッグ……。ライリー、それにサノまで!!」
間一髪のところで僕ははぐれた二人と合流したのだった。
僕を認識すると、真っ先に追いかけてきた。
――まるで、ずっと待っていた獲物が来たかのように。
あれはやっぱりフレイさんだ。だけど、なんで、どうしてアーノルドさんが持っていた面をつけているの?
「っ――――!!」
咄嗟に後ろを振り向き、防御する。そして、庭園の方へと跳び退いた。
息が荒れる。
まだ応戦して数分も経っていないのに、すでに刀を握る手が汗ばんでいる。
一度あの手に捕捉されれば何もかもお終いだ。待つのは腐りはてるのみ。
実際、庭園の草木が、彼女が触れたそばから枯れ始めてる。
ルイスさんには斬ると堂々と言ってしまったけど、どこを狙えば、確実に消せるのか検討もつかない。こんなとき『剣神の加護 霊鳥剣』が使えれば、どこを斬ればいいのか分かるのに、さっきから発動しない。鳥さんの言われたとおり、強く思っても鳥さんは来やしない。
今は攻撃していって急所を見つけるしかない。この 神影月下は腐らないようだし。
そう思ったとき、耳朶に音色がもたらされる。
『私は帰る、黄泉の国。あなたも帰る、奈落へと――――』
魔法? でも、何の魔法か分からない。呪術か?
詠唱が終わる前に距離をとった方がいい。何が来るか分からない。
足に魔力を込め、爆発的な速さを持って目一杯距離をとる。
彼女本体の動きは遅い。でも、そこから伸びる手が速く、厄介だ。
ある程度距離を稼ぎ終わり、刀を前に構える。
だが、手はここが限界のようでそれ以上伸びては来なかった。
後ろに下がりながら本体に目を向ける。
本体はほとんど動いていない。それどころか、庭園に足を一歩も踏み入れてはいない。つまり、日陰から出ていないということ。
この庭園の日は本物?!
でも、不思議なことに、手は普通に庭園まで伸びている。
手は本体とはあまり関係ない?
彼女の超長文詠唱が終わる。
この場が闇に包まれると同時に黒い犬らが出現する。
頭を三つ持つケルベロスに、二つ頭のオルトロス!!
新たに産まれたことの歓びを伝えるように二匹の雄叫びが轟く。
耳がやられる!!
耳を塞ぐ手段はなかった。
左腕で耳まで腐敗させるわけにはいかない。何より、刀を動かす手を止めれば手に捕捉され、ジ・エンド。
二匹の犬が数多の手を引き連れるように。口から毒という名の煙を吐き出しながら、噛みつかんと襲いかかる。
能力発動『嫉妬』
「アヴィオール」
禍々しい強風が僕の前に壁のように吹き荒れ、数多の手が外へと吹き飛ばされる。
しかし、禍々しい強風を以てしても黒い影は襲いかかる。
僕は刀でケルベロスの首を薙ぎ払い、左腕でオルトロスを受け止める。
左腕が引き千切られる寸前まで陥れられる。ケルベロスの首も二つしか落とせなかった。
痛みで顔を歪めながら、竜化の態勢に入る。
超回復を以て怪我を回復させる。
牙突を以て、オルトロスの目を潰す。
オルトロスが痛みで口を開いたのを見逃さず、左腕を引き抜き、距離を取る。
そして――――――――跳躍する。
オルトロスが痛みで下を向いたのを利用し、足場にしたのだ。
全身に黒風を纏い、突進する。全体重を以て、剣突を彼女の心臓に向かって穿つ。
「ごほぉ――――」
彼女の口から血が大量に噴き出した。数多の手が消え失せ、彼女の動きが止まったかのように思えた。
しかし再び彼女は動き出した。
「心臓じゃないのか。いや――――」
確かに効果はあったように見える。悪霊の動きが遅くなっているし、手の数が減ったように思える。
風を纏ったまま、後ろに向かって刀を振り払う。
「復活してる……」
心臓を刺したとき、二匹の黒犬も動きを止めたかのように思えたけど、落としたはずの首が元に戻っている。
手を風で吹き飛ばしつつ、刀で再び黒犬の首を落とす。
だが、首を離れた頭部に近づけると再生を始めた。
犬の方は頭部をどうにかすれば弱体化できるか……。
この犬は魔法で産まれたものだろうから、彼女をやらないと犬は何度でも復活するんだろうな。
僕は頭部を蹴り上げ、体と頭部を離す。犬は頭の方へと走り出し行く。
犬の対応は今はこれでいい。あとは、彼女をどうするか。
紅炎剣 が彼女の顔を串刺しにしたときは効果バツグンのように見えた。
やっぱり、聖遺物で攻撃しないと意味がないのか?
「ッッ――――!!」
手の数が元に戻ってきてる。殺意がさらにこもってるし、それどころか丈夫になってる!!
僕は風を強めつつも、それでもこちら伸び始めてきている数本の手を削ぎ落とす。
そこへ、大砲声。
足に力を込めるが、衝撃波に巻き込まれ、後ろへと吹き飛ばされる。
音の場所を見やると、そこには彼女の体だけが呆然と立っていた。そして、離れたところにバズーカを持ったルイスさん。
あの人、僕ごと殺る気だった。
僕が殺意をマシマシになっていると、殺意を向けられた当の本人は、
「いや、威力足りなかったッスかね」
嫌な笑みを浮べていた。
能力で触覚以外の五感が鋭くなっている僕にははっきりと見えたし聞こえた。
このサディスト!!
心のなかで叫びながら、重い膝を上げ、前へと進もうと思ったそのとき、足が何かを踏んだ。
これは紅炎剣 !!
僕は刀を鞘に納め、一歩下がった。そして、右手に紅炎剣 を装備する。今は熱くない。
停止している彼女との距離を一気に詰め、聖遺物でひたすら斬撃の嵐を降らせようとしたそのとき、聞き覚えのある声が彼女の前に現れた。
「アーノルド、さん……?」
先ほど別れたはずのアーノルドさんが片手に面を持ち、彼女の顔が再生するのを待つと、すぐに面を被せた。
暴れまわる彼女をアーノルドさんが引き連れた面の集団が抑え込む。だが、触れたものからすぐに腐敗していく。それでも面の集団の動きは落ちない。
アーノルドさんが何かの呪文を唱えると彼女の動きがピタリと止む。
僕はただ一人、異常の中の異常を凝視する。
ただの人間のはずのアーノルドさんがなぜ、普通に彼女に近づけているのか? 近づいただけでただの人は腐敗してしまうのにもかかわらず、アーノルドさんは腐敗せずに立っている。それどころか笑みさえ浮かべているように思える。
嫌な予感がする。
そして嫌な予感は的中する。
「捕まえろ。生死は問わない」
彼の命令に従うように面をつけられた集団は彼女から離れ、僕の方に襲いかかってくる。その光景はまさにゾンビ映画。それよりも酷いかもしれない。
身体強化をかけているのか、早い動きで僕に向かってくる。しかも、後ろには銃を持った人たちもいる。
あの銃、とてつもなく見に覚えがある。片面の男が使っていた銃。威力がやばい方じゃないけど、それを抜きにしても数が多すぎるってだけで脅威だ。
しかも、刀に変えてる時間はない。頭の流れはゆっくりで冷静なのに、現実の流れは早い。
僕は短剣を構えるのだけで精一杯だった。
ルイスさんの叫ぶ声がするのとほぼ同時だったか。面の連中を二匹の黒犬が噛みちぎる。
そして僕の前に刀を構えた一人の男。
ケルベロスに、オルトロス。それとアーノルドさんに噛みつこうとしているもう一匹の黒犬……。
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