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二幕 願い
悪霊
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「これは、使用済みっと。――これとこれが使えそうッス。あとは指輪があれば……」
「指輪なら、先ほど僕がくすねました」
机に並んでいる呪具をあさっていたルイスさんは手を止め、僕がポケットから出した指輪を凝視した。
「ちょっと見せてもらうッスよ」
そう言ってルイスさんは指輪を手に取り、下からのぞき込むように指輪を観察し始める。
指輪の中の文字を見ているのか?
「この指輪と、この指輪は装備しといた方がよさそうッスね。残りの二つは、装備用じゃないッスね。――――リアン君、これつけるッス」
「つけても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ッスよ。邪魔だとは思うッスけど、少なくともこの建物内にいる間はつけて置いた方がいいッス」
ルイスさんが僕に指輪を渡そうと振り向いた直後、ルイスさんの顔が急激にこわばった。
「リアン君、後ろ、後ろ!!」
「えっ……」
それは一瞬の出来事だった。
僕は左腕を引っ張られ、引きずり込まれるように部屋を強制的に追い出される。
ミシミシと嫌な音をたてる左腕から体全体に這うように数多の手が包み込んだ。
体が冷気に包まれ、指の端からどんどん冷たくなっていく。
このままだと喰われる!!
体を動かそうとするが、重くて体が思うように動かない。
それでも、僕は刀に手を伸ばすことをやめなかった。
「リアン君、頭下げるッス!!」
僕は歯を食いしばりながら、ほぼ全ての魔力を身体強化に費やす。そして、かろうじて前に頭を下げることに成功する。
「あぁぁぁぁぁ――――!?」
短剣が顔面に突き刺さり、手の主が悲鳴をあげた。
圧倒的な熱量がこの場を包み込み、冷気が吹き飛ぶ。
僕を掴む手が緩んだことで僕の体は前のめりに倒れた。
「走るッス!!」
「言われなくても!!」
立ち上がり、ルイスさんの後を追いかけるように全力で足を動かす。
先ほどルイスさんは投げた短剣。
一瞬だけど見えた。
――あれは、僕が凍らせた短剣!!
「あれ、幽霊ですよね!? しかも、悪霊になってます!!」
分かってはいても叫ばずにはいられなかった。
顔は背後にいたから見えなかったけど、あの冷気、あの手触り、そして左腕の腐り様。間違いなく悪霊。しかも、僕が今まで見てきた悪霊より遙かにたちが悪い。
「今は、とりあえず逃げることが先ッス」
ルイスさんは襖を開け、畳を翻す。そして、畳の下にあったボタンを押し込んだ。
「こっちッス」
壁だったはずの場所から大きな扉が現れる。そして、僕たちは無我夢中でその中に飛び込んだ。
中に入った途端、扉はパタリと閉じ、消え失せる。
僕たちは息を荒げながら、床へとへたり込んだ。
「リアン君、この指輪、今からでもつけるッス」
ルイスさんは僕の右手を掴むと、中指に指輪をはめ込んだ。
「この指輪ってどういったものなんですか?」
「邪気を払うものッスよ。それにしても左腕、大丈夫ッスか? 最初の時からひどいとは思ってたッスけど……」
「触らない方がいですよ。――おそらく、うつります」
僕は左腕を後ろに庇い、ルイスさんから距離をとった。
「分かるんッスか?」
「幽霊とは一度やりあったことがあるので」
「経験談ってわけッスか」
両手を後ろに置き、上を向いたルイスさんは呆れたように笑う。
それにしても、あの幽霊の着ていた服……。下を向いたとき、足元の裾がかろうじて見えたけど、あれは今日、フレイさんが来ていた服と同じ柄だった。
「さっき投げた短剣、あれはなんなんですか?」
刺した瞬間、熱を帯びる短剣。悪霊に刺さったとき、かなり効果があったように見えた。
「あれは先代巫女が所持していた聖遺物、 紅炎剣ッス」
「聖遺物……」
「それよりも、ここも限界みたいッスよ」
異空間とも言えるこの部屋が地震が起きたように揺れ始める。
悪霊がこの部屋の存在に気づき始めたのだ。
今は小さな揺れだが、いずれ強い揺れになるだろうことが容易に予測できる。
「ルイスさん。――僕が斬ります」
僕は立ち上がり、ルイスさんに背を向け、告げる。
「左腕が使えないばかりか、肺もやられているッスよね? 会ったときから思っていたッスけど呼吸の仕方、不自然ッスよ」
「もう、完全に治りました」
「嘘つくの下手ッスか!!」
この人……、見ていないようで、よく人を見ている。
ルイスさんの言う通り、完全に治ってはいない。でも、あの悪霊に近づけるのはこの場に僕しかいない。
僕は神影月下を抜き、扉のあった場所の前に立った。
「とにかく、遠距離からの援護をお願いします」
「はあ、分かったッスよ。どのみち、倒さないと逃げられないッスからね」
ルイスさんがボタンを押すと、目の前に扉を出現する。
「座標はさっきより離れた場所に指定したッス。と言っても、座標が指定できるのは数十メートルといったところッスけどね。俺はリアン君とは別の場所から出るッス」
僕はルイスさんの言葉を聞きながら、サノから無理矢理持たされた回復薬を一気に口に流し込んだ。
そして、空のビンを床に捨て、扉を開ける。
「うまく持ちこたえるッスよ」
「指輪なら、先ほど僕がくすねました」
机に並んでいる呪具をあさっていたルイスさんは手を止め、僕がポケットから出した指輪を凝視した。
「ちょっと見せてもらうッスよ」
そう言ってルイスさんは指輪を手に取り、下からのぞき込むように指輪を観察し始める。
指輪の中の文字を見ているのか?
「この指輪と、この指輪は装備しといた方がよさそうッスね。残りの二つは、装備用じゃないッスね。――――リアン君、これつけるッス」
「つけても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ッスよ。邪魔だとは思うッスけど、少なくともこの建物内にいる間はつけて置いた方がいいッス」
ルイスさんが僕に指輪を渡そうと振り向いた直後、ルイスさんの顔が急激にこわばった。
「リアン君、後ろ、後ろ!!」
「えっ……」
それは一瞬の出来事だった。
僕は左腕を引っ張られ、引きずり込まれるように部屋を強制的に追い出される。
ミシミシと嫌な音をたてる左腕から体全体に這うように数多の手が包み込んだ。
体が冷気に包まれ、指の端からどんどん冷たくなっていく。
このままだと喰われる!!
体を動かそうとするが、重くて体が思うように動かない。
それでも、僕は刀に手を伸ばすことをやめなかった。
「リアン君、頭下げるッス!!」
僕は歯を食いしばりながら、ほぼ全ての魔力を身体強化に費やす。そして、かろうじて前に頭を下げることに成功する。
「あぁぁぁぁぁ――――!?」
短剣が顔面に突き刺さり、手の主が悲鳴をあげた。
圧倒的な熱量がこの場を包み込み、冷気が吹き飛ぶ。
僕を掴む手が緩んだことで僕の体は前のめりに倒れた。
「走るッス!!」
「言われなくても!!」
立ち上がり、ルイスさんの後を追いかけるように全力で足を動かす。
先ほどルイスさんは投げた短剣。
一瞬だけど見えた。
――あれは、僕が凍らせた短剣!!
「あれ、幽霊ですよね!? しかも、悪霊になってます!!」
分かってはいても叫ばずにはいられなかった。
顔は背後にいたから見えなかったけど、あの冷気、あの手触り、そして左腕の腐り様。間違いなく悪霊。しかも、僕が今まで見てきた悪霊より遙かにたちが悪い。
「今は、とりあえず逃げることが先ッス」
ルイスさんは襖を開け、畳を翻す。そして、畳の下にあったボタンを押し込んだ。
「こっちッス」
壁だったはずの場所から大きな扉が現れる。そして、僕たちは無我夢中でその中に飛び込んだ。
中に入った途端、扉はパタリと閉じ、消え失せる。
僕たちは息を荒げながら、床へとへたり込んだ。
「リアン君、この指輪、今からでもつけるッス」
ルイスさんは僕の右手を掴むと、中指に指輪をはめ込んだ。
「この指輪ってどういったものなんですか?」
「邪気を払うものッスよ。それにしても左腕、大丈夫ッスか? 最初の時からひどいとは思ってたッスけど……」
「触らない方がいですよ。――おそらく、うつります」
僕は左腕を後ろに庇い、ルイスさんから距離をとった。
「分かるんッスか?」
「幽霊とは一度やりあったことがあるので」
「経験談ってわけッスか」
両手を後ろに置き、上を向いたルイスさんは呆れたように笑う。
それにしても、あの幽霊の着ていた服……。下を向いたとき、足元の裾がかろうじて見えたけど、あれは今日、フレイさんが来ていた服と同じ柄だった。
「さっき投げた短剣、あれはなんなんですか?」
刺した瞬間、熱を帯びる短剣。悪霊に刺さったとき、かなり効果があったように見えた。
「あれは先代巫女が所持していた聖遺物、 紅炎剣ッス」
「聖遺物……」
「それよりも、ここも限界みたいッスよ」
異空間とも言えるこの部屋が地震が起きたように揺れ始める。
悪霊がこの部屋の存在に気づき始めたのだ。
今は小さな揺れだが、いずれ強い揺れになるだろうことが容易に予測できる。
「ルイスさん。――僕が斬ります」
僕は立ち上がり、ルイスさんに背を向け、告げる。
「左腕が使えないばかりか、肺もやられているッスよね? 会ったときから思っていたッスけど呼吸の仕方、不自然ッスよ」
「もう、完全に治りました」
「嘘つくの下手ッスか!!」
この人……、見ていないようで、よく人を見ている。
ルイスさんの言う通り、完全に治ってはいない。でも、あの悪霊に近づけるのはこの場に僕しかいない。
僕は神影月下を抜き、扉のあった場所の前に立った。
「とにかく、遠距離からの援護をお願いします」
「はあ、分かったッスよ。どのみち、倒さないと逃げられないッスからね」
ルイスさんがボタンを押すと、目の前に扉を出現する。
「座標はさっきより離れた場所に指定したッス。と言っても、座標が指定できるのは数十メートルといったところッスけどね。俺はリアン君とは別の場所から出るッス」
僕はルイスさんの言葉を聞きながら、サノから無理矢理持たされた回復薬を一気に口に流し込んだ。
そして、空のビンを床に捨て、扉を開ける。
「うまく持ちこたえるッスよ」
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