僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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二幕 願い

違和感

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「なんかどっと疲れた」

「栄養ドリンクでも飲むか? それともお菓子がいいか?」

 懐からたくさんのものを出すサノ。もうツッコミも疲れた。僕はもうつっこまないぞ。

「サノの兄さん、四次元ポケットでも持ってるの? たくさん出てくるね」

「ライリー……」

 好奇心が刺激されたのか、ライリーはしゃがんでいるサノの懐を興味深そうにのぞき込んでいる。フレイさんは僕が怖いのか、僕と目線を合わせようとしなかった。それどころかさりげなく僕とライリーとの距離をとろうとしている。

 慣れていると思ったけど結構心にくるものがある。

「そろそろ移動しましょう。時間を無駄にしすぎました」

 体力はまだ完全に回復したわけじゃないけど怪我も麻痺もすでに治った。なら体力の回復を待つよりも時間を有効に使った方がいい。

「そうですね」

 確か、当初の使うはずだったからくりの場所はここだったはず。

 壁を押そうと手を伸ばす。

 ――――その直後。全身の毛が逆立ち、思わず手を止めた。

 これは、……誰かに殺意を向けられている? フレイさん、ではないよな。なんだ、これ。冷や汗が止まらない。殺意だけじゃない。今、腕を切断される感覚があった。ただの錯覚というには生々しい感覚だった。

 切断されたと思わされた腕を押さえ、ゆっくり顔を上げる。そして殺意の、視線の方向を見た。しかし、そこには何もない。みんなの顔を見るとただ不思議そうに僕を見ているだけだった。みんなは気づいてない?

「リアン、どうした? 押さないならオレが押すぞ」

 サノが壁を押す。すると、殺意が消えた。

「僕たち殺意を向けられたよね?」

「オレは何も感じなかったが……」

「私も感じなかったわ」

「どうかしたの?」

 サノにシア、ライリーは何も感じ取っていなかった。フレイさんは――――

 フレイさんの方を見ると、フレイさんもサノ達に同意するように頷いていた。

 僕だけに向けられた? でも、サノがそれに気づかないのはおかしい。サノは刀を試しているときも視線に敏感だった。そのサノが気づかないなら、……僕の勘違いか?

「リアン兄さん、顔真っ青だよ! 大丈夫?」

「ライリー……。僕は大丈夫だよ。ただ、少し疲れているみたいだ」

「それならいいけどよ。しっかりしろよ? リアン」

 サノに背中をバシッと叩かれる。でも今はそれがありがたかった。少し痛いけど。

 そうこうしている内にからくりが作動する。壁が開かれ、上へと続く階段が出現した。

「一番乗り、もらったぜ」

「僕、二番乗り」

 サノは先ほどのでは懲りなかったのか、気にしてないのか、階段を上り始めた。二人に続いて、フレイさんも上り始める。シアも後に続くと思われたが、階段の前で歩みを止めた。

「行かないの?」

「リアン、先に言っておくわ」

「どうしたの改まって」

「ここでは転移門が使えないみたいだわ」

 僕は目を細め、

「どういうこと?」

 とシアの背後に警戒しながら尋ねた。
 それに対し、シアは何かを見極めようとする瞳で、

「私にも正確には分からないわ。ただ私の中で二つの予測があるとだけ言っておくわ」

 と静かな声で言い放った。

「教えてはくれないの?」

「不確かな情報を教えるのは好きじゃないわ」

「不確かでも、――――」

 言葉を続けようとして上からの「おーい」と言うライリーとサノの小さな声で遮られる。上を見上げると手を振っていた。

「リアン兄さん達、早く早く」

「置いて行っちまうぞ」

 二人とも元気だなと、そんなことを思っていると、

「リアン、確信が持てたら言うわ。とにかく気をつけなさい」

 そうシアは言い残し、階段を上り始めた。今、言うつもりは微塵もないらしい。僕は予測でも聞いておきたかったが本人が言いたくないならしょうがない。無理矢理聞いても絶対に言わなさそうだし。

「今行く」

 僕もシアの後に続いて階段を上り始めた。中のボタンも押し忘れずに押す。
 隠し階段の扉とも言える壁を元に戻さないとね。



 壁が元に戻り、辺りは薄暗くなった。というのも、階段に沿うように所々灯がともったからだ。
 上に上がっているはずなのに下に進んでいる。そんな変な感覚を感じる。
 階段は狭くはなく、人二人がギリ横に並んで歩けるスペースがある。僕はサノが先頭を歩くのが不安でサノの前まで歩みを進めていた。

「ライリーには母ちゃん以外に家族はいるのか?」

 サノは世間話をするような声音でライリーに聞く。僕はため息を吐きながら、

「余計な事聞くなよ」

 と小さな声でサノに言った。
 二人でいる時点で察せよと視線で訴える。
 サノは僕の視線に気づきながらも華麗に無視し、ライリーに

「どうなんだ?」

 と笑いながら聞き返した。

「いるよ。でも……」

「でも?」

 僕たちが先を促すと、ライリーはこっちこっちと手招きをする。僕たちはライリーの言うとおりに、ライリーに近づくと、ライリーは小声で

「お姉ちゃんがいたよ」

 と言い、笑みを浮かべた。

「どうして普通に言わないの?」

 別にこんな風に言うことでもないと思い、ライリーに尋ねるとサノが稀に見る真面目な顔で、

「いたってことは、今はいないってことか?」

 と言った。その言葉に僕ははっとした。
 だが、それでも不可解さが残っていた。

「う~ん、少し違うかな。いたけどいなくなって、いるんだと思う」

 歩みを進めながら、なぞなぞみたいなことを言うライリー。

 あいにく、僕はなぞなぞが得意ではないのだ。

 当てにならなさそうだが一応サノを見る。すると、サノは何か分かったみたいな顔をし、口に新しい棒付き飴を含んだ。

「ライリー、どういうことか聞いてもいい?」

 サノに聞くのはなんだか癪なのでライリーに直接尋ねる。すると、ライリーは僕の隣に来て、後ろを気にしながら小声で、

「ママには絶対に言わないで欲しいんだけど……」

 と前置きし続けた。

「僕の本当のお姉ちゃんは死んでるんだけど、ママはそれを受け入れられなかったんだ。だから、パパが新しく連れてきたんだけど……」

「だけど?」

「サノ、お前もやっぱり分からないんじゃないか」

 僕たちに近づいてきたサノに僕は肩をすくめた。

「ちげえよ。答え合わせだ、答え合わせ」

「そういうことにしといてやるよ」

「普通じゃなかったんだ。パパも普通じゃないからそこはまあいいんだけど」

「いいんだ」

「問題はそこじゃなくて――――僕、前に死んだはずのお姉ちゃんを見たんだ」

「幽霊ってこと?」

 まさか怪談話っぽいながれにいくとは思わなかった。今いる場所の雰囲気も相まって、恐怖が倍増しそうである。

「違うと思う。確かにあのとき、手に触れたし、声を聞いたから。でも、ママにはさすがに聞けなくて、他の人に聞いたら、哀れみの目を向けられた」

「そりゃあ、そうなるわな」

 まあ、サノの言うとおりそうなるよね。何も知らない人からみたら姉の死を受け入れられない弟に見えるだろうし、フレイさんが受け入れられてないからなおさら他の人からはそう見えるよな。

 でも触れたってことは実体があるということ。つまりはライリーが見たのは確実に生きている人物。だけど、だからと言って本人とは言い切れない。そら似の可能性も万が一にもあると思うし。

「ライリーはお姉さんが生きてると思っているんだ?」

「うん」

「お姉さんに会いたい?」

「会えるなら会いたいな。お姉ちゃん、とってもやさしかったんだよ」

「会えるといいね」

「うん」

 しばしの静寂が訪れる。その静寂を破ったのはサノだった。

「面白い話ないのか?」

「お前からこの話題振っといてそれを普通言うか?」

「いやあ、オレも話題間違えたとは思ってるぜ? ――そうだ、幽霊の話聞かせてくれよ。ここ、幽霊出るって話だったろ?」

 ニヤリと僕の方を見て笑うサノ。

 こいつわざとだな!! 僕が幽霊嫌いなの知ってるくせに!!

「ライリー、サノのことは無視していいからね」

「ええ、どうしよっかな~」

 いたずらっ子のように笑うライリー。

「ライリーまで!!」

 ライリーにSっけあるとは思わなかった。とりあえず、全力でこの話題を止めるのみ!!
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