僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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二幕 願い

返納と新たな相棒

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 長く眠っていたように思う。

 時間を確認しようとベッドの隣の机に置いてある時計を手に取る。時間は九時を少し過ぎた頃だった。

 ここは地下なため午前なのか午後なのかは分からなかったが午前だと思いたい。

 隣で寝ているシアを起こさないように静かに布団から起き上がろうとしたそのとき、シアが僕の腕をがっちりつかんでいることに気づいた。腕を抱き枕にされていたのだ。

「起きているの?」

 疑問がこぼれ落ちる。返事はない。あるのはすやすやという吐息だけだった。

 起こすのもあれだから、シアから腕をゆっくりと抜こうとする。だが振りほどけなかった。しょうがなく、僕はシアを揺らし、起こした。

「起きろシア。出かける。刀返して」

 その声で眠そうに目をこすりながらもゆっくりとシアは起き上がった。眠いとき目をこするのはロジェと一緒か。

「もう少し寝る」

「出かけるところがここから遠い。できるだけ早く到着したい」

「転移で送ってあげるからもう少し寝なさい」

 そう言い残し、再び寝ようとするシア。そんなシアに向かってデコピンをおみまいする。

「痛い」

 おでこを抑え、恨めしそうに見るシアを無視し、僕は刀とオリヴィアさんからもらった剣、そして銀の剣、計三つを腰に差した。

「転移できるなら好都合。早く行くことに越したことはない。時間は有限なんだから」

「それはそうだけど……」

「ダメか?」

「分かったわよ。眠気もとんでしまったしね」

 呆れを含んだため息とともに、シアもベッドから起き上がった。そして――――

 能力発動『魔女』

 発動とともにシアの服と髪型が一瞬で変わった。長い金の長髪は後ろでくくられ、サイドにはエルフの里のときからつけているだろうと思われる青い鳥と青紫色の花が一緒になっている髪飾りが差し込まれた。

「便利な能力だ」

「それはどうも」

「あの二人と似た髪飾りはつけないんだね。昨日、誘われていたよね?」

「この髪飾りと似合わないでしょ? この髪飾りは外したくないの。大事なものだから」

 髪飾りを大切そうに触れる。その顔はとてもじゃないけど見ていられなかった。

「ふ~ん。聞くんじゃなかった。転移先はレーフ国で」

 レーフ国。それは僕が記憶を失い、こっちに来てから最初に滞在した国。オリヴィアさん達と初めてあった場所でもある。この国には各国にあるギルドの本部がある。つまり、冒険者が最も多い国だ。

「裏ギルドに用があるの?」

「違う。この三つの武器を返しに行くんだ」

「好きにして。私はただ、着いていくだけだから」

 シアは妖刀を能力による魔法で浮かせ、僕の方へと放り投げた。それを片手でつかむ。

「それじゃあ、頼んだ」

 シアが転移門を開く。シエルとはまた異なった転移の仕方だ。僕とシアはその転移門をくぐり抜け、レーフ国へと向かった。

 到着したのはレーフ国でも賑わっている表通りから少し離れた通りだった。

「転移ってやっぱりすごいな」

「感心するのはいいけど早く行くんでしょ?」

「ああ」

 前に進もうと足を踏み出した時、後ろから足音が聞こえた。振り向こうとすると、曲がり角からフードを深くかぶった人たちとぶつかった。どちらも地面に尻餅をついていて、フードが外れてしまっている。一人は女性、もう一人は少年だった。

「大丈夫ですか? お姉さんたち」

 二人に問いかける。女性は今ので、フードが外れていることに気づいたのか、慌てて自分と少年のフードをかぶせた。

「あの?」

「見逃してください。お願いします!!」

 女性の言っていることがよく分からなかった。僕の正体を知っているのか。でも、灰色の瞳は僕に対する恐怖を映してはいないように見える。

「どこに行った、あいつら。絶対に取り戻せ。そうじゃないとこっちの命がねえ!!」

 女性達が来た曲がり角から野郎の声がする。二人の顔は先ほどよりも青白く染まり、カタカタと震えている。

 裾もがっちりつかまれているし、しょうがないか。

「シア、できるでしょ? お願い」

「別にいいけど、貸し一つよ」

 シアの魔法による緑のヴェールがドーム状に四人を包み込む。

「クソ、見失ったか。そっちはいたか?」

「こっちにはいねえ」

「見つかるまで探せ!!」

 これは、……僕たちが見えていない?

 野郎どもがこの場から離れるとシアは魔法を解いた。

「場所を移しましょうか」





「ミカゲさんいますか?」

「ミカゲならそこにいる」

 声の主は初めて見る顔だった。青い髪の青年は口で転がしていた棒付き飴を取り出し、カウンターの方へ向ける。

「誰だ、こんな時間に」

 カウンターの下でしゃがんで何かをしていたらしいミカゲさんは立ち上がり、僕の方に視線を向けた。

「武器を取りに来るの遅かったじゃねえか。オリヴィアやチビはどうした。それと後ろにいる奴らは……」

 シア達のことを言っているのだろう。僕も詳しくは分かっていないけど。後ろに視線をやると、シアは壁際にあるイスに二人を座らせていた。シアは世話好きなのか。こういう所もロジェと似ているような気がする。――いや、お節介というべきか。

「オリヴィアさんは能力の使いすぎで倒れました。ロジェは…………」

「そんなことよりよ、お前、何者だ? お前から姉貴達のにおいがプンプンするぜ?」

 男はいつの間にか僕の目の前にまで来て、飴を顔の前に突き出していた。

「何を言っているか分からないんですが?」

 ここに来るまでに表通りを通ったため人が多かった。そのときにぶつかった人達に紛れていたのだろうと思うけど僕が知ったことではない。

「そう言うならそういうことにしといてやるよ。ただ、気をつけろよ?」

 面白がるようにニヤニヤと笑いながら男は元々座っていたイスにドサリと座った。そして思い出したかのように口を開いた。

「自己紹介がまだだったな。オレはサノだ。お前は?」

「僕はリアンと言います」

「それにしても物騒な刀を持っていやがるな」

「サノ、それくらいにしとけ。――リアン、二つ作ったからどちらか選べ」

 カウンターに二本の武器が置かれる。一つは刀。もう一つは両刃剣だ。

「両方はダメなんですか?」

「ダメだ。俺が特別に作った武器は特殊でな。意思を持っている。それと、特殊な効果が付与してある。お前が今腰に差している二本の刀のようにな。あいにくこの二つは相性が悪くてな」

 つまり二本の剣は反発するということか。

「分かりました。なら、これにします」

 漆黒の鞘におさまっている刀を手に取る。

「ほう、それを選ぶか」

「はい――――今更なんですけど、今手持ちが少ないので今持っている三本の剣で手を打ってもらえませんか?」

「先にオリヴィアからお代はもらっている」

「お代の件とは別にしてミカゲさんに預かって欲しいです。五本も腰に差すわけにもいきませんから」

 妖刀とミカゲさんから受け取った刀以外を僕はカウンターの上に並べた。

「そこまで言うなら預かってやるよ。それとその妖刀、少し俺に預けろ。打ち直してやるよ。なに、そんなに時間はかからない」

「それではお言葉に甘えさせてもらいます」

「そこにいるサノとでも新しい刀、試すといい」

 そう言い残し、ミカゲさんは奥の部屋へと入っていった。

「それじゃあ、いっちょやるか」

 サノは飴を舌の上で転がしながらニヤついている。不気味というより悪ガキみたいな感じがする。

「シア、二人から情報聞き出しといて。最初の…………いや、何でもない。あとでこの借りは返す」

 シアからの返事はなかった。でも、シアならきっとやってくれるだろうという謎の安心感があった。だから僕はシアの返事を待たずして、サノと一緒に武器の性能を試すべく裏庭へと足を踏み入れた。

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