僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

文字の大きさ
上 下
69 / 102
二幕 願い

二人の関係

しおりを挟む
「二人とも寝たわ」

 疲労を含んだ声をしながら僕の部屋に入ってくるなり、シアは僕のキングベッドの上に寝転がった。日記の書く手が止まる。

 アズとツクヨと遊んでから数時間が経過していた。僕は途中で自室に帰ったが、その後もシアは二人の相手をしていたらしい。今はもう、夜がふけている。

「寝るなら自分の部屋で寝なよ。……というか、危機感が足りないんじゃないの? 僕一応男なんだけど?」

「あら、そもそもこの部屋が今もホコリをかぶらず使えているのは誰のおかげかしら?」

「…………君は僕の母ちゃんかっての」

 ボソリと小さな声で独り言のように呟き、日記をパタリと閉じた。そして、シアのいるベッドの方へと足を向け、隣に腰を下ろした。

「少し一人でいたいんだけど。君なら魔法でここにいなくても監視できるでしょ。今までだってどうせ魔法で僕たちのこと見てたんじゃないの? 自分の部屋に帰れ」

 笑みを浮かべながら僕はシアに言い聞かせるように言い放つ。もちろん、目は笑っていない。

「魔法を使い続けるのは疲れるのよ。――それに、実際に近くにいるからこそ分かるものも多いもの。恨むなら私に命令したディラン様を恨むことね」

「別に、逃げも隠れももうしない。だから夜ぐらい自分の部屋でゆっくり疲れでもとれって言ってるんだけど。このままいるなら襲うぞ?」

「……できないくせに……」

 シアは枕を抱きしめながら顔を埋めた。

「聞こえているんだけど?」

「もういいわ。はっきり言ってあげる。あなたは私に手出しできない。だって私の方が強いもの」

「はあ?」

「それを除いたとしてもあなた――――人間が嫌いでしょ」

「…………気づくものなのか」

 リアンは目を見開いたまま、ノートからシアへと振り返った。

 ここでリアンは少しばかりシアに興味を示した。

「見る人が見れば気づくわよ。そもそもあなた隠そうとしていなかったじゃない」

「ああ、それはそうだったな」

「あなたは危うすぎる。一人にしたら絶対ろくなことしかしないわ」

「ひどい言い草だ。会って数時間しか経ってないのに」

「さっきあなたが言ったんじゃない。どうせ見てたんじゃないのって。これが答えよ」

「もういいよ。好きなだけ僕の部屋にいれば?」

 日記を閉じ、僕はベッドに横たわった。どうせ今日も寝られない臆病者のくせに。

(思い通りにいかない)

「……シアは僕が昔使っていた刀知らない?」

 気づけば、口を開けていた。
 八年前に紛失した刀。
 知っている可能性の方が低いだろうに。

「どんな刀?」

「妖刀・貪る刀イペタム。血を与えないと暴れる刀だ」

「だからね。その刀がずっと暴れているのは。本当にとっておくんじゃなかった。私が異空間で保管しているわ」

「なんでシアが持っているの?」

「捨てられそうになっていたから私がしまっておいたのよ。業物だったから、何かに役立つかと思って。あなたのだとは思わなかったけど」

「明日返して。それと、どのくらい時間が残っている?」

「最短で一ヶ月よ」

「ならまだ時間があるか」

「そうね。……ディラン様に言伝を預かっているわ。――『残り時間でやり残したことを全てやり遂げろ』ってね」

 金の瞳が見開かれる。後ろを振り向くとシアは背を向いていた。視線に気づいたようにシアは僕の方に体を向ける。

「もちろん私は監視役としているのが条件よ」

「はは、本当にディラン様には叶わないや」

「もう寝なさい。私が寝かせてあげるわ」

「何言っているの? ガキじゃないんだから一人で寝れるし」

「年上の言うことは聞くものよ」

 シアは僕のおでこにやさしく触れる。

「やめろっ!!」

 振りほどこうとするが体が硬直したように動かない。これは石化の魔眼か!!

「大丈夫よ、軽く魔眼を発動しただけだから。完全に石化することはないわ」

 そういうことじゃないっ!!
 そう思うのに、意思に反してだんだんまぶたが重くなっていく。そうして眠りへと誘われてしまった。





 私はリアンが完全に寝たのを確認すると、ベッドから起き上がった。そしてリアンの頭をなでる。
 こうしてみると本当にただの子供ね。クマはひどいけど。
 ロジェと一緒にいたときはできる限り隠していたからなおさら悪化しているように思える。

「今日は、悪夢は見ないから安心しなさい」

 本当に難儀な能力を得たものだ。よりにもよって人間を恨んでいる能力を引き当てるなんて。元からそういう資質はあったのだろうけど。

 それにしても、ディラン様とはどこで会ったのかしら。ディラン様はリアンを大切にしている。武器と言いながらも人として。そうでなければ私に頭を下げてこの子に力を貸してほしいだなんて言わないわ。

 リアンが先ほどまで日記を書いていたデスクの前へと歩く。そして日記を手に取った。

「日記を書くなんてマメな人」

 正直、人の日記を開くのは気が引ける。でも、本人が頑固で自分から話しそうにないからいいわよね。バレたらそのとき考えましょう。

 私はリアンの日記を開く。そして読み始めた。比較的、新しいノートに見えたから最近のことしか書かれていないだろう。実際、折り目的に開かれたのはここ最近のページだった。これはこの国に来てからのページね。それよりも、気になるのはその日の内容の後に少しづつ書き綴られているもの。この内容―――――

「……悪夢の内容かしら、これ」

 魔法で空間に映像としてリアン達を映し出して時々見ていたからリアンがうなされていたのは知っている。鬼退治の後からそれが顕著になり、里を出る頃には寝れなくなったことも。竜族の血が流れているからそんな無理を通せていたのも。

 どんどん読み進めていく。そして最新のページにまで到達した。日記を握る手の震えが止まらなかった。

「何よ、これ……」

 息をするのを忘れる。
 もし、ここに書かれている内容が過去に本当に起こったことなのだとしたら――――

「英雄伝説がひっくり返る。――――うっ……」

 突然の頭痛に膝から崩れ落ちる。
 否、ただの頭痛なんてものじゃない。
 自分にかけていた魔法が反応し、己を守ろうとしている。
 攻撃されている。

 シアは痛みでその場にうずくまりながらも冷静にこの現状を切り抜ける魔法を創造する。

 これはリアンの意趣返しではない。第三者によるもの。そして、相当複雑で用意周到に準備された!!

 攻撃の条件を調べ上げ、相手にバレないように攻撃対象を机へと誤認させる。
 そうすることで攻撃が通ったことにする。
 下手にすべてを跳ね返せば相手が黙っていないからだ。

「どうやら誰かさんにとって余程知られたくなかった情報のようね。でも、この攻撃は悪手だったわ」

 攻撃している時点で真実だと言っているようなものだ。一般人ならともかく、私に対しては悪手以外の何物でもない。
 
「ハァ、ハァ、終わった」

 乱れた呼吸を整える。

 日記に書かれている内容はすべて把握した。改めて読む必要はない。だが、机は処分しないといけなくなった。机を媒介にして報復してくる可能性がある。

「仕事が増えてしまったわ」

 シアは大きくため息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

異種族ちゃんねる

kurobusi
ファンタジー
ありとあらゆる種族が混在する異世界 そんな世界にやっとのことで定められた法律 【異種族交流法】 この法に守られたり振り回されたりする異種族さん達が 少し変わった形で仲間と愚痴を言い合ったり駄弁ったり自慢話を押し付け合ったり そんな場面を切り取った作品です

処理中です...