僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

文字の大きさ
上 下
64 / 102
第二部 一幕 叛逆の狼煙

一方その頃

しおりを挟む
「大地が悲鳴を上げている」

「ロジェ、それは本当か?」

 ロジェの額には冷や汗が浮かんでいた。嫌な予感が脳裏によぎってしょうがなかった。

 隣にいたレオナはロジェの様子が尋常じゃないと感じていた。それに、レオナも揺れを感じていたがこのビルだけが揺れていると思っていた。

「うん。このままだとこの国の大地が壊れる」

「この国が最初の崩壊の地だったというわけか。あの野郎は本気であれをやろうとして――」

「エアリエル、どうしたの?エアリエル!!」

 ロジェは放心しているエアリエルの肩を揺さぶる。そんなエアリエルの口からポツポツと言葉が発せられる。

「契約が、リアンとの契約が、強制的に破棄された。リアンが代償に選んだのは――」

「それって、リアン兄ちゃんに何かあったっていうこと?早く、リアン兄ちゃんの元に行かないと。まだ間に合うはず!!エアリエル、リアン兄ちゃんが今いる場所分かる?」

 緑の瞳を大きく見開かれた。ロジェの焦りと不安、どこか悲痛さを帯びた声が静かな部屋に響き渡った。今にも部屋を飛び出しそうな勢いのロジェ。それをレオナはロジェの肩を片手で押さえ、待ったをかけた。ロジェとエアリエルの視線がレオナに集まる。

「やめとけ」

「どうして……」

 ロジェは古代の魔導具を握りしめながら首を左右に振った。冷静さを取り戻すように深呼吸をした後、思ったことをレオナに静かにぶつけた。

「レオナさんはリアン兄ちゃんの友達じゃなかったの?それとも人に対して情がわかない人?」

「ロジェ、お前はリアンに希望を見過ぎている。リアンは人が希望を見るような存在じゃあねえ。そもそも、人に希望を託したり、見たりすることが間違いなんだよ」 

 どこか苛立ちを含んだ声音だった。

 レオナは床を見ていた視線を上げると二人を肩に担ぎ、道を戻るように走り出した。

「リアンのことより、今は崩壊を止めないとならねえ」

「……答えになってないよ」

 本当はロジェも分かっていた。でも、まだ心に残っていた幼心のせいか非情になれなかったのだ。誰かに頼りたかった。守ってくれたリアンなら次も自分を助けてくれるんじゃないかって思い込んでいたかったのだ。だけど、レオナはそんな思いは間違っていると言ったのだ。それは幼いロジェにとって残酷な答えに等しかった。

「しゃべってると舌をかむぞ」

 さらに加速する。下ろしてもらえるまで会話はなかった。



「ちっ、崩壊が早くなってやがる。――ロジェ、エアリエル、住民を避難させろ。俺の方でも皇帝にアリスを向かわせる」

 苛立ちを吐き出すように舌打ちを鳴らす。レオナは二人に指示を出しながら心の中でアリスに呼びかけ、アリスにも指示を出した。

「レオナさんはどこに行くの?」

「8年前の事件現場。おそらくそこが崩壊の開始地点だ。そこが終わりの土地だからな」

 そう言い残すとレオナは路地裏に入っていった。ロジェはレオナの後を追いかけるがそこにはもう姿はなかった。陰へと姿を消したのだ。

「まだ、聞かなくちゃいけないことがあったのに……」

 ロジェは切り替えるように自分の頬を叩いた。

「この魔導具も、解かないといけないかな」

 リアンと同年代、16歳ぐらいの見た目から本来の7歳の姿へと戻る。そして、リンからもらった体力を上げてくれる薬、ラスト一本を飲み込んだ。空のビンが地面に転がった。

「エアリエル、イグニスのいる場所に案内して。僕の力だけじゃあ、この国の住民は従ってくれない。だからイグニス達の力を借りる。あの人達は知名度も高いし、ある程度実力もある。だから――」

「分かった」とエアリエルは頷くと、両手をロジェに向けて風の加護をロジェに授けた。

「これで、今より速く動けるようになるはずだよ。ロジェ、しっかりついてきてね」



「師匠を呼んだ方がいいな」

 自分の中のプライドを壊すようにレオナは拳を強く握りしめた。自分の手に負えないのは分かっている。だが、悔しいのも事実だった。

 赤い宝石に魔力を込め、師匠へと電話をつなぐ。しかし、つながる前に、後ろから肩に手を置かれた。思わず後ろを振り向くと頬にユースティアの指が触れた。

「師匠、何する――」

 機嫌が悪いのも隠さず、ユースティアの腕をつかんだ。

 自分が思っていたよりユースティアの腕が細くなっていてレオナは驚きを隠せなかった。といっても端から見たら目が少し見開かれただけで驚いたように見えないのだが。ユースティアも摑まれている自分の腕を見ており、上を見上げていなかったからレオナが驚いていたことに気づいていなかった。

 最近、長袖を着ることが多くなっていたのは隠すためだったのかも知れない。

「肩の力を抜け。――レオナ、お前はよくやっている。本当に」

「いきなり何変なこと言うんだ。面と向かって褒めるなんて珍しいな。それも口に出してなんて」

「そうだったか? でも言っておきたくなったんだ」

 レオナにつかまれていない反対の手でレオナの頬をやさしくなでた。

 ユースティアは人を真っ向から褒めることはしない。遠回しに褒めるのだ。レオナも幼いときは褒められていると分からなく、ブスくれたことが多々あった。でもアラン様やルシファー様からユースティアは不器用だと聞いてレオナは師匠を観察し続け、分かったのだ。

 師匠は会話の途中に分かりづらく褒めたり、よくやったときはいつもより甘やかしてくれたりしていると。

「レオナ、魔王城に戻れ。後は私に任せろ」

「師匠は俺を置いていく気か?」

「今日は聞き分けがないな。いつもなら、って言って素直に帰るじゃないか」

「とにかく、今日は一緒にやる。別にいいだろう」

 レオナはユースティアの言葉に少し引っかかりを覚えながら、意地でもユースティアについていくことを告げる。
 胸騒ぎがするのだ。一人で生かせてはならないような……。

「分かった。でも、無茶はするなよ。アリス達も私も悲しむからな」

 ため息をつきながらもレオナのわがままをユースティアは了承した。

「分かってる」

「それじゃあ、行くぞ」

「ああ」



 はあ、はあ、と息を切らしながらロジェはイグニスのいる闘技場にたどり着いた。闘技場から歓声が聞こえる。闘技場での試合はアイギスさん達の起こした騒ぎで中止、もしくは延期のようなことが起こると思っていたから驚きである。もしかしてイグニスは試合をしているかもしれない。でも探さないと。

 エアリエルに視線を向けると了解といった様子で移動した。後をついていくとそこは控え室があるエリアのようだった。イグニス達の控え室だろう場所の前へと立つと、荒々しい声がドア越しから聞こえた。それでも構わずロジェは扉を開けた。

 一斉にロジェへと視線が集まる。

 みんなは突然扉が開けられたことによる驚きの宿った瞳だったが、アンだけは違った。ロジェの瞳を観察するように凝視していた。

「イグニスの皆さん、力を貸してください」

「君は森にリアン君たちと一緒にいた子供だったわね。何かあったの?」

「今はゆっくり説明してる時間はないんだ。この国の住民を国外に避難させてほしい」

「君は!!」

 アンは何かに気づいたように、口元をおさえ、頭を下げたロジェを見ていた。他のメンバーはそんなアンの様子を不思議に思っていた。

「どうしたのアン。何に驚いているの?」

「ソフィア、気づかない?この子はエルフの里の王子だよ。あのときは気づかなかったけど、いや、あのときはどうかしていたけど、あの緑の瞳と顔は王族の顔だよ」

「そら似かもしれないだろ」

 ブラッドはアイギスが試合を辞退したことで虫の居所が悪くなっていた。そのため、八つ当たりを含んでいるかのように、ぶっきらぼうにアンを疑う声を上げた。それでもアンはロジェを見たまま、断言した。

「違う。特に緑の瞳。緑だけだと他にもいるけどあの緑の色は確かに王族だよ。他の人は気づきにくいかもしれないけど」

「僕はアンの言うとおりだと思うよ。アンは人より記憶力いいし、色彩感覚に敏感だから正しいと思う」

「名前はロジェだったよね?私たちは君に協力するよ。エルフの里にはいろいろとお世話になっているし。王族が頭を下げたんだ。そこまでやられちゃあね。ここで断ったら面目立たないし、何より約束したからね。優先して依頼を受けるって」

「時間がないから動きながら話すね。イグニス、僕の頼みを聞いてくれてありがとう」

「いいってことよ」

 イグニスは親指を上げ、グーとやりながらロジェと共に控え室を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち
ファンタジー
引きこもりニート山岡勝介は、しょーもないバチ当たり行為が原因で異世界に飛ばされ、その世界を救うことを義務付けられる。罰として異世界勇者的な人外チートはないものの、死んだらステータスを維持したままスタート地点(セーブポイント)からやり直しとなる”死に戻り”と、異世界の住人には使えないステータス機能、成長チートとも呼べる成長補正を駆使し、世界を救うため、ポンコツ貧乳エルフとともにマイペースで冒険する。 ※『死に戻り』と『成長チート』で異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~から改題しました

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...