僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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第二部 一幕 叛逆の狼煙

襲撃

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「もういいのか?」

「うん。リアン兄ちゃんは一人でもきっと大丈夫だから。ものすごいスピードで成長してるしね」

 二人はビルの近くにいた。そして今はリアンにロジェが電話をしたところであった。そして次はリンに電話をしようとロジェが赤い宝石にもう一度魔力を込めるところだ。

「リンさん?聞こえてる?」

「聞こえている。何かあったのか?」

「うん。リアン兄ちゃんがガザニア国の前々皇帝と四天王に叛逆した。だから誰かよこしてくれない?ボスの次に偉いんだからなんとかできるでしょ?別に、リンさんでもいいけど」

「まあ、できるといえばできるが……。ガザニア国か」

「それがどうかしたの?」

「おそらくボスが来ていると思う。お目付役を振り切ったみたいで今俺のところにそのお目付役がいる。話を聞く限り高確率でその国にいる」

「そうなんだ。別にリアン兄ちゃんを死なせないようにできる人なら誰でもいいよ」

「分かった。こちらでボスに電話して……、――――誰か里に侵入した」

「は?そこは大抵の人から里を認識できないようになっているでしょ?いったい誰が……」

「この力、…………まさか勇者か?!」

「勇者?!リンさんふざけているの?勇者はすでに……」

「悪いが君の方でボスに言っといてくれ」

「まっ――」

 ……切られた。普段本気で怒らないロジェの周りの温度が下がる。レオナにもロジェが本気で怒っているのが明らかに分かる程に。

「僕、ボスのこと知らないんだけど?!本当にリンさん適当すぎる!!」

「そんなにカリカリすんなよ。俺がお前らのボスに手紙を送ってやるから」

 ロジェの頭に手を置き、レオナはそう告げる。ロジェは頭を上げ、半信半疑の目でレオナを見た。

「……できるの?」

「まあな。――とりあえずロジェ、手紙書け。それからだ」

「分かった」

 袋からメモ用紙を取り出し、手紙を書き始めた。

 一通り書き終わったのを確認するとそのメモ用紙をレオナに渡した。

「これでいいの?」

「ああ。――こい、アリス」

 黒猫がレオナの陰から飛び出してくる。そしてアリスと呼ばれたレオナの使い魔はレオナに甘えるように足下にすり寄った。

「使い魔……。レオナさんは魔族なの?」

「気づいていなかったのか?」

「うん」

 レオナはアリスの首輪に手紙を縛り付け、アリスの頭をやさしくなでた。

「アリス、これを裏ギルドのボスの元に頼めるか?」

「うん。帰ったら思いっきり甘やかしてね」

「ああ。ちゃんと仕事こなせたらな」

「約束」

「約束だ」

 黒猫は再びレオナの陰に入り、姿を消した。それをロジェは惜しそうに手を伸ばしていた。

「触りたかったのか?」

「うん。だってかわいかったし。猫に会ったの初めてだったから」

「この件が終わったらな」

「本当に!!」

 年相応に目をキラキラとさせ、レオナを見上げるロジェ。ロジェはレオナといるのが心地よいのか年相応な行動に無意識になっていた。レオナもそれに気づいていたが言う必要はないなと言わずにいた。

「それじゃあ、さっさと行くか」

「うん」

 そうして二人はビルの中へと乗り込んだ。





 暗殺者の里。今は復興中であり、唯一壊されていなかった家にリン達はいた。現在は休憩に入ったばかりであったのだが……。

「ハリーにも分かるよな?」

「ええ。分かります」

「ハリーは――」

「分かっています。私は今回おそらく力になれないでしょう。しかしリンは別です。精霊に近いリンにはきっと聖剣の力が強く現れないはずです。だからといって油断も禁物ですけどね」

「ハリー、オリヴィア達を頼む。それとルナ、君は俺と来い」

「はあ、分かったわ。どうせあいつらの目的オリヴィアだろうしね。――ノア、あんたはボスの首輪握っていられなかったんだから後で訓練だからね?」

 リンにルナと呼ばれた女性はゴスロリの服を身につけ、グレー色のハイツインテールをしている。ルナはグレーの髪を揺らし、後ろの物陰に隠れている自分の片割れを冷酷な眼差しで見下ろす。

「ひえ」

 傘を向けられたノアという男は怒っている姉が怖いのか肩を震わせる。

「それじゃあ行くぞ、ルナ」

「はーい」

 リンとルナは一瞬にしてこの家から出て行ってしまった。

「ノア君、これから万が一に備えて準備をします。手伝ってくれますよね?」

「はいっ!!」

「そんなに緊張しなくてもいいですよ。あなたを殺すなんてこと、しませんから」

「?!?!」

「あらら、冗談が通じませんでしたか」

 今の明らかに本気の殺気だったとノアは思ったが口には出さなかった。言ってもやぶ蛇である。

「それでは私たちも準備を開始しましょうか」

 肩に手を回すとノアはハリーに部屋の奥へと連れて行かれたのであった。





「この里にのこのこと入ってきてどういうつもりだ?」

 リンは言葉だけで底冷えさせるような声を響かせた。リン達は自分たちの目の前にいる勇者達をにらみつけている。そして勇者達もリン達をにらみつけていた。

「どういうつもりかだと?!俺たちの仲間、聖女オリヴィアを取り返しに来たに決まってんだろう!!」

 勇者パーティーの仲間の一人である拳闘士の男はリンの言いように憤慨する。しかしそれを制止するように勇者は男の前に手を伸ばす。

「おい、なんで止めるんだよっ!!」

「少し黙っていろ」

 勇者の一声で拳闘士は苦虫を潰したような顔した。そして拳を力強く握り絞めると押し黙った。納得はしていないのだろうが逆らう気はないようだ。

「オリヴィアはどこにいる?」

「私たちが大人しく返すと思っているの?もし本気で思っているならあんた、病院で頭見てもらった方がいいんじゃない?」

 自分の頭を指で指しながらバカにしたようにルナは鼻で笑う。それでも勇者に怒った様子はない。

「心配ありがとう。だが俺は、病院は嫌いだ」

 勇者は聖剣を鞘から抜き出す。そして告げる。

「力尽くで、返させてもらう」

 勇者が真っ先に攻撃に転じる。リンもルナもそれに相対する。2対4。数字的にリン達の方が不利。しかしそれはあくまでリンが金鳥から血を飲まなかった場合である。今のリンの実力は四天王に匹敵する。

「?!」

 勇者の顔が驚愕に染まる。聖剣がリンに効かないことに驚いている表情である。しかし、リンは敵に塩を送るほどやさしい人ではない。吸血鬼なのである。だから聖剣が効かない理由を教えてあげる義理はないが、争いをやめさせ帰らせたいというのが本音である。

「今、大人しく帰るというならこの里の記憶を消すだけにしといてやる。どうする?」

「帰るわけがない」

 押されているにも関わらず勇者はニヤリと笑う。

「ルナ、君には魔法使いを任せる。後は俺が引き受ける」

「殺しちゃってもいいんでしょ?」

「ああ、生死は問わない。どちらでもいい」

「オーケー、派手にやっちゃうね!!」

 傘を派手に振り回し、魔法使いの元へと走る。リンはそんなルナを遠い目で眺めた。

 連れてくる人選を間違えたかとため息をもらす。復興したところまで壊さないといいんだがと思ったがそれは無理だなとリンの目はより遠くなるのだった。





 金色の鳥が窓から魔王城の執務室へとすり抜ける。

 執務室には大量の書類に挟まれ、居眠りしている銀髪の女性の姿があった。

 金色の鳥は執務室に入るやいなや人の姿へと変容し、輝かしいほどの金の髪をした男になった。男はソファにかかっていたブランケットを手に取り、女性の肩にそっとかける。しかし、肩の重みで女性は目を覚ましてしまったようだ。

「起こしたか」

「構わない。まだ書類が終わっていなかったからな」

「ほどほどにしとけよ」

「ああ」とユースティアは呟くと、机の上にある薬の入った瓶を手に取ろうとした。しかし男に腕をつかまれる。

「放してくれないか?」

 男の赤い瞳が細められる。そして、男は腕をつかむ力をさらに強めた。

 ユースティアは痛みで眉をひそめ、男を睨みつけた。男の方も負けじと睨みつける。

 少しの間の攻防。

 先に折れたのはユースティアだった。男はユースティアの力がぬけたのを確認すると腕から手を放した。そして尋ねた。

「いつからその薬を飲んでいる?」

 彼女は俯いていてどんな表情をしているのか分からなかった。だから男はてっきり諦めたと思い、油断した。

「飲んだのは、――最近だ!!」

 ユースティアはすかさず瓶を手に取り、大量の薬を口に含む。

「やめっ」

 男があわてて彼女に手を伸ばすが遅かった。彼女からゴクリという音が鳴る。そして少しの間、静寂が訪れた。静寂を破るように男は金色の髪を揺らし、ため息をついた。

「その薬が危険なものだと分からないわけではあるまい。それにその薬はあくまで遅らせるだけだ。後からその代償を倍で支払うことになる」

「そんなことは分かっている。だがこうするしかなかった」

 そこで二人の会話が途切れた。部屋に気まずい空気が漂う。そんなとき、執務室のドアがノックされた。

「ティアたん、入るよ」

 この城の主、魔王ルシファーだった。ルシファーは返事を聞く前に部屋に入り、ソファに足を組んで座った。そして異空間からティーセットを取り出し、優雅に紅茶を飲み始めた。

 ユースティアは薬の入った瓶をルシファーにばれないように異空間へと隠す。そんなユースティアを男は横で不満げに見ていた。ユースティアは不満げな視線に気づいていないふりをする。

「もう、怪我は大丈夫なのか?」

 ユースティアはルシファーの反対側に座ると自分も異空間から紅茶を取り出し、飲み始めた。その横に男も座る。

「ああ、もう大丈夫だ。パルウェはまだもう少し療養が必要だけどな。――それにしても、誰かが部屋に入った気配がして来てみればあなただとは思わなかった」

「ふん、白々しい」

 鼻を鳴らしそう言うと男も紅茶を飲み始めた。その口角はお互いに少し上がっている。

 二人はいつも会うとこんな感じだった。仲が悪いわけでは無いが仲がいいとは決して言えない関係。でも、お互いこの間柄を気に入っているような節がある。

「ルシファーに聞こうと思っていたことがあるんだった」

 ユースティアはそういえばと、思い出したかのように話を切り出した。 

「なになに、何でも言って」と言わんばかりにルシファーはユースティアの方へ耳を傾ける。

「レオナがどこへ行ったか知らないか?お前に稽古頼もうかなと言ったきり会ってないから少し心配になってな」

「僕はティアたんが出かけた、って聞いてから会ってないかも。ああでも、あのときまた戻ってきて、レオナも出かけるって言ってたな。なんでも日和って子を殺しに行くとかなんとか」

 銀色の髪が揺れ、赤い瞳が見開かれる。それを二人は不思議そうに見ていた。

「本当に日和って言ったんだな?」

「えっ、そうだけど」

 鬼気迫るような物言いにルシファーは押されながらもそう言った。

「何か問題でもあるのか?」

「日和って子はレオナには殺せない」

「それはレオナより強いってこと?」

 首を振りながらユースティアは否定する。

「私の言い方が悪かった。通常の殺し方で彼女は死ねないんだ」

「そういう能力って認識でいいんだよね?」

「ああ。ルシファーも聞いたことがあるだろ?死んだはずの人間を見たって前に話題になっていたのを」

「その話は知っているよ。でもその死んだ人間って男だったよね?それが何か関係あるの?」

 日和という名は女性名だからか、ルシファーはあまりピンときていない様子だった。それに対し、もう一人の男は気づいたようだった。

「身代わりか」

 男は髪を耳にかけながら言った。ユースティアは頷き、肯定する。

「そうだ。彼女は死を代行する者」

 死を代行する者、それを聞いてルシファーも理解したようだった。

「話には聞いたことあったけど単なる噂だと思っていたよ。でもそう言う事ならちょっと厄介だね。まあでもレオナのことだし無事にケロッと帰ってくるよ」

「本当にそうなればいいんだが……」

 ルシファーはそう言うがユースティアは不安だった。信じていないわけではないが万が一のこともある。

「大丈夫だって。本当にやばかったら連絡してくると思うし」

「それもそうだな」

 強引にユースティアは自分を納得させた。そして、本来なら始めに聞くはずだったことを二人に尋ねた。

「そういえば二人とも何のようで来たんだ?私に会いに来たわけじゃないだろ?」

「僕は、ティアたんに書類を任せっぱなしにしているのもあれだなって思ってきたのさ。怪我も治ったしね」

「私はアランの様子を見に来た。守護の力がかなり弱まっている気がしたから肉体の方も心配になってな」

「それなら僕が残りの書類やるから二人でアランの様子を見てきなよ。ついでにティアたんも休むといい」

「それじゃあお言葉に甘えようか。病み上がりなのにすまんな」

「気にしなくていいよ。暇だったから」

「では行くか、ティア」

 こうして二人は執務室を後にした。そして魔王城の地下へと向かう。

 普段、入ることを禁じられているフロア。それが魔王城の地下である。魔王城の地下は廃墟になった教会を彷彿とさせる場所であり、アランの肉体はそこに保管されている。

 ユースティアは棺を開け、中を確認する。

「まだ、大丈夫なようだな」

「私が守っているからな、当然だ」

 ユースティアは髪を後ろに払い、誇らしげな表情を浮かべる。

「アランよりティアの方が大丈夫じゃなさそうだな」

 先ほどの誇らしげな表情はどこに行ったのか。何も言えずユースティアは押し黙った。

「あの薬について何か弁明することはないか?」

「だって……、ああしないと均衡を保てなかったから」

 ユースティアは座ったまま、ふてくされたように言葉を漏らす。それを男は一刀両断した。

「昔から抱え込む癖をやめろと言っているだろ。それに報連相を知らないのか?」

「……知ってる」

「何だって?」

「知ってるもん。でも言ったところで代わりをしてくれる人いないと思うし、何より任せられないもん!!」

 子供のように怒るユースティア。もしこれを初めて見る人がいればものすごく驚くだろう光景。だが、男は知っていたので特段驚くことはない。

 男はめんどくさそうにユースティアをなだめた。

「ああ、分かった。分かった。私が悪かった。とにかく、薬を飲むのは控えること」

「……」

「返事は?」

「……はい」

「じゃあ、戻るか」

 男は座っている彼女に手を差し出す。それを彼女は掴み、立ち上がった。

「今日、魔王城に泊まってくの?」

「なんだ、心細いのか?」

「うん。それに、少し、疲れた」

 前髪で隠れ、表情は分からなかったが声を聞けば誰だって察せられた。

「そうか」

「……ありがとう」

「ああ」

 男は彼女の今までの頑張りを褒めるように頭をやさしくなでた。

 その後、二人は棺を閉め、地下室を後にした。

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