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第二部 一幕 叛逆の狼煙
開戦
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僕たちはあの後、治療室に向かった。そしてそこには今回の作戦のメンバー全員が集合していた。
「リア、大丈夫だったか!!」
「大丈夫です、ネルさん。心配ありません。ネルさんこそ安静にしてなくて大丈夫なんですか?」
「……私のことはいいのだ」
ネルさん落ち込んでいる?アイギスさんと何かあったのかな?それとも別の――――。
そう考えているとやさしい声音が横から聞こえ、僕ははっとする。
「リア君が無事で良かった。エルちゃんも心配してたんだよ?」
「そうだよね?」という風にマーゴットさんは後ろにいるエアリエルにそう呼びかける。もうあだ名で呼ぶほど仲良くなったらしい。
「うん。それに少し罪悪感があったの。私がこのこと始めから知っていたら怪我することなかったかも知れないなあって。その腕、痛い?」
「ああ、これ。全然痛くないよ。だから大丈夫」
皇帝に先ほど斬られた腕を触りながらエアリエルは痛そうな表情を浮かべ、治癒の魔法を唱える。それにより僕の傷口は塞がった。そんなエアリエルに僕は罪悪感を抱いた。
「貴殿らに言わなくてはならないことがある」
その後治療室で雑談をしていた僕たちであったが、アイギスさんから場の空気を変えるような低い声が発せられた。
「事態が急変した。本当はこの試合が全て終わった後に実行するつもりだったがそうは言っていられない状況になった。だから今日作戦を実行する」
「どういうことだ?」
ラックさんの鋭く細められた瞳がアイギスさんを貫くような視線を送る。
「前々皇帝と四天王が動いた。おそらく私たちのことを感づかれた可能性が高い」
それは違う、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。それを言ってしまえば僕はこの場のみんなに疑わしい目を向けられる。それどころか最悪殺される可能性だってある。でも、その情報を渡した人は裏切り者の可能性が高いからほっとくわけにもいかない。疑わしき者を野放しにはできないと思う。だから僕は問うった。
「その情報をアイギスさんに渡した人は本当に信用できる人ですか?」
「信用できる」
真っ直ぐな瞳で僕を見据え、アイギスさんはそう断言した。それならもう僕は何も言えない。
「それで?俺たちは何をすればいい?感づかれたなら作戦を変えるだろう?」
「いや、変えない。もとより、変えない以外に私たちに選択肢はない」
つまり当初の予定通り、前々皇帝のいる城に乗り込むということか。
「アイギスさん、僕少し抜けてもいいですか?」
「構わない。ただ、早く戻ってきてほしい」
「分かりました」
「ロジェ、聞こえてる?」
エアリエルと一緒に治療室から出た後、赤い宝石を取り出し魔力を込める。そしてロジェへと電話をつなげた。
「聞こえてるよ」
「僕たち、今日実行することになった」
「……えっ?どういうこと?」
「アイギスさんの仲間だと思うんだけど、事態が急変したって連絡があったんだって」
「本当にその情報は信用できるの?」
「僕もそう思ってアイギスさんにみんなの前で聞いた。そしてアイギスさんは信用できると言った。でも僕はそれを聞いて信用できなくなった」
これはただ、同族嫌悪しているだけなのかもしれない。アイギスさんは多分無自覚でやっているんだろうけど、本質はおそらく僕と同じなような気がする。
「そうなんだ。僕もリアン兄ちゃんと同意見。そもそも始めからして怪しかった。リアン兄ちゃん。それでもアイギスさん達に協力するの?」
「本音を言えばさっきので、協力したくなくなっている。でもラックさん達が心配で……。あの人達だけ残して逃げるのはちょっとね」
「分かった」
「じゃあ、きるね」
「ちょっと待って」
「うん?」
「僕、今日だとリアン兄ちゃんのことバックアップできないかも知れない。ビルの中に今から乗り込むんだ」
「えっ?!大丈夫なの?」
「それでエアリエルをこっちによこしてほしいんだ。エアリエルの力が必要になる」
「それはいいけど……」
「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、僕の方でリンさんに頼んで助っ人を呼んでもらうから。またね」
……ぶつ切りされた。ロジェ大丈夫かな。ビルって、妖精たちが嫌がる、よね?ロジェの能力が使えなくなるんじゃあ……。
――でもロジェのことだから上手くやるかな。
「エアリエル、今の聞いてたよね。ロジェをよろしく。何かあったらエアリエルも僕を呼んでね」
「分かった。今の私じゃあ、リアンの役に立てなさそうだしね」
エアリエルのテンションがいつもより低い。少し手をもじもじさせてるし。
皇帝と戦ったときのこと落ち込んでるんだろうな。でもあれはエアリエルのせいじゃない。
「エアリエル」
僕は名前を呼んで、エアリエルの手を両手で包み込むように握った。
「うん?」
「僕はエアリエルが一緒にいてくれるだけで心強いんだ。最初の出会いは良くなかったけど……。僕ね、暴走してから自分が怖かったし、はっきり言って真実を知ることをやめようと思ったこともあった。自分が嫌いになってたんだ。でもね、エアリエルは僕のこと一度も否定はしたことなかったでしょ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。契約のときを除いて、いつだって僕に選択の余地っていうのかな?残してくれていたと思うんだ。それがうれしかった。僕は、本当は死んだ方がいいんじゃないかって思ってたから。尊重してくれて、僕はここにいてもいいんだって思いつつあったんだ。だから、エアリエルはとても役に立っているよ」
「リアン……」
「あ、もう、辛気くさいのは嫌だね。やめよう、やめよう。エアリエル、ロジェをよろしくね。大事な友達なんだ」
「うん。ロジェのことは任せて。リアンも気をつけてね」
エアリエルの手を放すと、エアリエルは姿を消し、ロジェの元へ向かった。僕もラックさん達のところに戻らないと。
そして僕たちは乗り込むことになる。
皇帝のいる城ではなくもう一つの前々皇帝が住む城。それはビルの隣に立っており、皇帝ですら近寄らない場所でもある。
アイギスさんの当初の作戦では、この目の前の城に遊撃隊が先に乗り込み、その混乱に乗じて僕たちは乗り込む予定だった。しかしそれはイレギュラーにより根底が覆される。
「待っとったよ。今日来ると思っとた」
僕たちの驚愕をよそにシエルさんは約束した遊び相手が来たみたいに微笑んだ。
「シエル、さん」
これでは最初から大将が現れるのと同じだ。通常の暗黙のルールを完全に度外視している。でもそうしたということはそれができるだけの力がシエルさんにあると言うこと。その証拠に最初に入った遊撃隊の人達は床に転がっている。僕たちはシエルさんの実力を見誤った。
「ここは俺に任せて行け」
「でも、それだと――」
僕の声を遮り、ラックさんは告げる。
「一緒にいたのは二日だけ。信頼し、背中を預けろというのは無理がある」
「何を言って……」
「だから自分の目を、見た事実だけを受け止めろ」
それは……、客観的に、そして理性的に、そこにある情報で判断しろということ?ラックさんがシエルさんと戦えるか見極めろということ?
「話は終わったん?」
「ああ、悪かったな、待たせて」
ラックさんがニヤリと笑い、槍を構える。そして妖術と槍の激しいぶつかり合いが始まった。
過酷な戦い。僕が入り込む余地もない程の苛烈を極めた戦い。戦うだけで精一杯のはずなのに僕たちを守るように自分の身を顧みず戦っている。それどころか床に転がっている、――もう死んでいる人達を傷つけないように気を使っている。ラックさんは、ラモラックさんは本当の騎士だったんだ。
「ねえ、5番!!この騎士格好いいよな。僕もこんな風にお姫様を助ける騎士になりたいなあ」
僕は12番と一緒に騎士の絵本を読んでいた。そしてその隣に僕より年上のお兄ちゃんである5番が難しそうな本を読んでいた。年は2歳しか変わらないはずなのになあ。ちなみに12番は僕より1歳年下の女の子だ。
「8番、変な希望を持つのはやめろ。オレ達がそんなことを考えたって意味のないことだ。それに、オレ達が誰かを助ける?そんなの無理に決まってんだろう?一緒に破滅するのがオチだ」
「夢を見るのは悪いことなの?それにこの本のお姫様、幸せそうだよ?」
12番が悲しそうに僕たちを見る。12番の悲しそうな顔は見たくないなあ。
「12番、そんなに悲しそうな顔するなよな。僕が12番の騎士になってやる」
「おい8番、聞いてなかったのか?」
5番はさっきからどこか怒っているような感じがする。どうしてそんなに怒るんだろう?そんなに夢を持つことは悪いことだとは思わないんだけどなあ。
「いいだろ?それで一時でも幸せになれるなら」
「そういうことじゃあ、ねぇんだよ。もう、知らねえ。勝手にしろ」
5番は読んでいた本に当たるように強く閉じた。そしてどこかへ行ってしまった。
その後、5番とは二度と会えなかった。騎士は僕たちを見つけ、助けてはくれなかったのだ。
今、僕が見ている光景は、僕が小さい頃に憧れ、そして僕の元には来てくれないと諦めた騎士だ。でも今ここに騎士はいる。こんなにも格好良く、強く、頼もしい存在だった。
僕は目を閉じた。この光景を忘れないように。まぶたに焼き付けるんだ。そしてゆっくり目を開け、ラックさんに今の思いを告げる。
「ラックさん!!僕はラックさんを信じます。だから、僕たちは先に行きます。早く追いついてきてくださいね!!」
「待ってリア君。私も残るわ。ラックを一人にさせたくない」
「でも……」
「リア、マーゴットを頼んだ」
ラックさんのやさしい声が聞こえた。そして、一瞬僕の方を見てふっと笑ったような気がした。
僕はマーゴットさんを肩に担ぎ、走る。その後ろと横をネルさんとアイギスさんが走る。
「待って!!私を置いて行ってリア君!!私も戦える。だからっ!!」
「嫌です!!絶対に置いて行きません!!!」
マーゴットさんは目を見張り、二人の間に少しの沈黙が流れる。そして沈黙を破るようにマーゴットさんは僕の背中を容赦なく叩く。マーゴットさんの嗚咽が耳に鳴り響く。
それでも止まるわけにはいかない。ラックさんが生き残るためにも、マーゴットさんを死なせないためにも。僕はラックさんが戻ってくるまでマーゴットさんを絶対に守り、傷つけさせない、死なせない。死なせるわけにはいかないっ!!
「アイギスさん、ネルさん、二人とも早くこの戦いを終わらせましょう!!」
「本当にいいのか」
「ネルさんは、何も感じませんでしたか?」
「そんなことは……。でも……」
「これから何が待ち受けているか分かりません。今ので、最初から相手は普通じゃないと分かったでしょ!!なら、僕たちは進まないと」
ネルさんの曖昧な言葉に僕はキレた。僕だってラックさんを置いて行くのは嫌だ。でも、ここで全員がくたばるわけにはいかない。
「リアの言うとおりだ。今は進むしかない」
アイギスさんは僕と同じ意見のようで僕の隣で頷いている。
「行きましょう!!」
「リア、大丈夫だったか!!」
「大丈夫です、ネルさん。心配ありません。ネルさんこそ安静にしてなくて大丈夫なんですか?」
「……私のことはいいのだ」
ネルさん落ち込んでいる?アイギスさんと何かあったのかな?それとも別の――――。
そう考えているとやさしい声音が横から聞こえ、僕ははっとする。
「リア君が無事で良かった。エルちゃんも心配してたんだよ?」
「そうだよね?」という風にマーゴットさんは後ろにいるエアリエルにそう呼びかける。もうあだ名で呼ぶほど仲良くなったらしい。
「うん。それに少し罪悪感があったの。私がこのこと始めから知っていたら怪我することなかったかも知れないなあって。その腕、痛い?」
「ああ、これ。全然痛くないよ。だから大丈夫」
皇帝に先ほど斬られた腕を触りながらエアリエルは痛そうな表情を浮かべ、治癒の魔法を唱える。それにより僕の傷口は塞がった。そんなエアリエルに僕は罪悪感を抱いた。
「貴殿らに言わなくてはならないことがある」
その後治療室で雑談をしていた僕たちであったが、アイギスさんから場の空気を変えるような低い声が発せられた。
「事態が急変した。本当はこの試合が全て終わった後に実行するつもりだったがそうは言っていられない状況になった。だから今日作戦を実行する」
「どういうことだ?」
ラックさんの鋭く細められた瞳がアイギスさんを貫くような視線を送る。
「前々皇帝と四天王が動いた。おそらく私たちのことを感づかれた可能性が高い」
それは違う、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。それを言ってしまえば僕はこの場のみんなに疑わしい目を向けられる。それどころか最悪殺される可能性だってある。でも、その情報を渡した人は裏切り者の可能性が高いからほっとくわけにもいかない。疑わしき者を野放しにはできないと思う。だから僕は問うった。
「その情報をアイギスさんに渡した人は本当に信用できる人ですか?」
「信用できる」
真っ直ぐな瞳で僕を見据え、アイギスさんはそう断言した。それならもう僕は何も言えない。
「それで?俺たちは何をすればいい?感づかれたなら作戦を変えるだろう?」
「いや、変えない。もとより、変えない以外に私たちに選択肢はない」
つまり当初の予定通り、前々皇帝のいる城に乗り込むということか。
「アイギスさん、僕少し抜けてもいいですか?」
「構わない。ただ、早く戻ってきてほしい」
「分かりました」
「ロジェ、聞こえてる?」
エアリエルと一緒に治療室から出た後、赤い宝石を取り出し魔力を込める。そしてロジェへと電話をつなげた。
「聞こえてるよ」
「僕たち、今日実行することになった」
「……えっ?どういうこと?」
「アイギスさんの仲間だと思うんだけど、事態が急変したって連絡があったんだって」
「本当にその情報は信用できるの?」
「僕もそう思ってアイギスさんにみんなの前で聞いた。そしてアイギスさんは信用できると言った。でも僕はそれを聞いて信用できなくなった」
これはただ、同族嫌悪しているだけなのかもしれない。アイギスさんは多分無自覚でやっているんだろうけど、本質はおそらく僕と同じなような気がする。
「そうなんだ。僕もリアン兄ちゃんと同意見。そもそも始めからして怪しかった。リアン兄ちゃん。それでもアイギスさん達に協力するの?」
「本音を言えばさっきので、協力したくなくなっている。でもラックさん達が心配で……。あの人達だけ残して逃げるのはちょっとね」
「分かった」
「じゃあ、きるね」
「ちょっと待って」
「うん?」
「僕、今日だとリアン兄ちゃんのことバックアップできないかも知れない。ビルの中に今から乗り込むんだ」
「えっ?!大丈夫なの?」
「それでエアリエルをこっちによこしてほしいんだ。エアリエルの力が必要になる」
「それはいいけど……」
「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、僕の方でリンさんに頼んで助っ人を呼んでもらうから。またね」
……ぶつ切りされた。ロジェ大丈夫かな。ビルって、妖精たちが嫌がる、よね?ロジェの能力が使えなくなるんじゃあ……。
――でもロジェのことだから上手くやるかな。
「エアリエル、今の聞いてたよね。ロジェをよろしく。何かあったらエアリエルも僕を呼んでね」
「分かった。今の私じゃあ、リアンの役に立てなさそうだしね」
エアリエルのテンションがいつもより低い。少し手をもじもじさせてるし。
皇帝と戦ったときのこと落ち込んでるんだろうな。でもあれはエアリエルのせいじゃない。
「エアリエル」
僕は名前を呼んで、エアリエルの手を両手で包み込むように握った。
「うん?」
「僕はエアリエルが一緒にいてくれるだけで心強いんだ。最初の出会いは良くなかったけど……。僕ね、暴走してから自分が怖かったし、はっきり言って真実を知ることをやめようと思ったこともあった。自分が嫌いになってたんだ。でもね、エアリエルは僕のこと一度も否定はしたことなかったでしょ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。契約のときを除いて、いつだって僕に選択の余地っていうのかな?残してくれていたと思うんだ。それがうれしかった。僕は、本当は死んだ方がいいんじゃないかって思ってたから。尊重してくれて、僕はここにいてもいいんだって思いつつあったんだ。だから、エアリエルはとても役に立っているよ」
「リアン……」
「あ、もう、辛気くさいのは嫌だね。やめよう、やめよう。エアリエル、ロジェをよろしくね。大事な友達なんだ」
「うん。ロジェのことは任せて。リアンも気をつけてね」
エアリエルの手を放すと、エアリエルは姿を消し、ロジェの元へ向かった。僕もラックさん達のところに戻らないと。
そして僕たちは乗り込むことになる。
皇帝のいる城ではなくもう一つの前々皇帝が住む城。それはビルの隣に立っており、皇帝ですら近寄らない場所でもある。
アイギスさんの当初の作戦では、この目の前の城に遊撃隊が先に乗り込み、その混乱に乗じて僕たちは乗り込む予定だった。しかしそれはイレギュラーにより根底が覆される。
「待っとったよ。今日来ると思っとた」
僕たちの驚愕をよそにシエルさんは約束した遊び相手が来たみたいに微笑んだ。
「シエル、さん」
これでは最初から大将が現れるのと同じだ。通常の暗黙のルールを完全に度外視している。でもそうしたということはそれができるだけの力がシエルさんにあると言うこと。その証拠に最初に入った遊撃隊の人達は床に転がっている。僕たちはシエルさんの実力を見誤った。
「ここは俺に任せて行け」
「でも、それだと――」
僕の声を遮り、ラックさんは告げる。
「一緒にいたのは二日だけ。信頼し、背中を預けろというのは無理がある」
「何を言って……」
「だから自分の目を、見た事実だけを受け止めろ」
それは……、客観的に、そして理性的に、そこにある情報で判断しろということ?ラックさんがシエルさんと戦えるか見極めろということ?
「話は終わったん?」
「ああ、悪かったな、待たせて」
ラックさんがニヤリと笑い、槍を構える。そして妖術と槍の激しいぶつかり合いが始まった。
過酷な戦い。僕が入り込む余地もない程の苛烈を極めた戦い。戦うだけで精一杯のはずなのに僕たちを守るように自分の身を顧みず戦っている。それどころか床に転がっている、――もう死んでいる人達を傷つけないように気を使っている。ラックさんは、ラモラックさんは本当の騎士だったんだ。
「ねえ、5番!!この騎士格好いいよな。僕もこんな風にお姫様を助ける騎士になりたいなあ」
僕は12番と一緒に騎士の絵本を読んでいた。そしてその隣に僕より年上のお兄ちゃんである5番が難しそうな本を読んでいた。年は2歳しか変わらないはずなのになあ。ちなみに12番は僕より1歳年下の女の子だ。
「8番、変な希望を持つのはやめろ。オレ達がそんなことを考えたって意味のないことだ。それに、オレ達が誰かを助ける?そんなの無理に決まってんだろう?一緒に破滅するのがオチだ」
「夢を見るのは悪いことなの?それにこの本のお姫様、幸せそうだよ?」
12番が悲しそうに僕たちを見る。12番の悲しそうな顔は見たくないなあ。
「12番、そんなに悲しそうな顔するなよな。僕が12番の騎士になってやる」
「おい8番、聞いてなかったのか?」
5番はさっきからどこか怒っているような感じがする。どうしてそんなに怒るんだろう?そんなに夢を持つことは悪いことだとは思わないんだけどなあ。
「いいだろ?それで一時でも幸せになれるなら」
「そういうことじゃあ、ねぇんだよ。もう、知らねえ。勝手にしろ」
5番は読んでいた本に当たるように強く閉じた。そしてどこかへ行ってしまった。
その後、5番とは二度と会えなかった。騎士は僕たちを見つけ、助けてはくれなかったのだ。
今、僕が見ている光景は、僕が小さい頃に憧れ、そして僕の元には来てくれないと諦めた騎士だ。でも今ここに騎士はいる。こんなにも格好良く、強く、頼もしい存在だった。
僕は目を閉じた。この光景を忘れないように。まぶたに焼き付けるんだ。そしてゆっくり目を開け、ラックさんに今の思いを告げる。
「ラックさん!!僕はラックさんを信じます。だから、僕たちは先に行きます。早く追いついてきてくださいね!!」
「待ってリア君。私も残るわ。ラックを一人にさせたくない」
「でも……」
「リア、マーゴットを頼んだ」
ラックさんのやさしい声が聞こえた。そして、一瞬僕の方を見てふっと笑ったような気がした。
僕はマーゴットさんを肩に担ぎ、走る。その後ろと横をネルさんとアイギスさんが走る。
「待って!!私を置いて行ってリア君!!私も戦える。だからっ!!」
「嫌です!!絶対に置いて行きません!!!」
マーゴットさんは目を見張り、二人の間に少しの沈黙が流れる。そして沈黙を破るようにマーゴットさんは僕の背中を容赦なく叩く。マーゴットさんの嗚咽が耳に鳴り響く。
それでも止まるわけにはいかない。ラックさんが生き残るためにも、マーゴットさんを死なせないためにも。僕はラックさんが戻ってくるまでマーゴットさんを絶対に守り、傷つけさせない、死なせない。死なせるわけにはいかないっ!!
「アイギスさん、ネルさん、二人とも早くこの戦いを終わらせましょう!!」
「本当にいいのか」
「ネルさんは、何も感じませんでしたか?」
「そんなことは……。でも……」
「これから何が待ち受けているか分かりません。今ので、最初から相手は普通じゃないと分かったでしょ!!なら、僕たちは進まないと」
ネルさんの曖昧な言葉に僕はキレた。僕だってラックさんを置いて行くのは嫌だ。でも、ここで全員がくたばるわけにはいかない。
「リアの言うとおりだ。今は進むしかない」
アイギスさんは僕と同じ意見のようで僕の隣で頷いている。
「行きましょう!!」
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