僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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第二部 一幕 叛逆の狼煙

連携習得

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「ただいま」

 僕は音を立てないように扉をゆっくりと開ける。しかしその必要はなかったようだ。

「お帰りなさい、リアン兄ちゃん」

 どうやらエアリエルとチェスをやっていたみたいだ。将棋なら知っているんだけどな。

「ロジェ、起きてたんだね。それにエアリエルも帰ってきてる」

「もう、リアン遅かった。私結構待ってたんだから」

 エアリエルはムッとしながら頬を膨らませる。ロジェはそんなエアリエルを「まあまあ」となだめた。

「ごめん、ごめん。思ったより大変なことになっちゃって」

 僕はチェスの盤面を覗く。将棋とチェスは似ているって聞くけど……。うん、分からん。

「今勝ってるのはロジェかな?」

 なんとなくそんな気がする。ロジェって頭いいし、エアリエルは見た目に反して子供っぽいから。

「そうだけど、ほとんど大差ないね。かろうじて僕が勝ってるってとこかな」

「先手はどっちなの?」

「先手は僕だよ。まあ、始めたばかりだしまだどちらが勝つか分からないね。――エアリエル、この勝負の続きはまた明日ね」

「うん」と言いながらエアリエルは最後に駒を置いた。続きはロジェからか。

 将棋だと先手の方が有利で勝率55%だったような気がする。チェスも将棋と似ているって言われるくらいだしチェスも先手の方が有利なのかな。もしそうなら結構エアリエルは健闘している方だと思う。

「リアン兄ちゃん?」

「ああ、ごめん。僕将棋は知っているんだけどチェスは知らなくて。少し気になったんだ」

「そうなんだ。――それで大変なことって何かな?」

 うっ、上手くスルーできたと思ったのに。でもどちらにせよ言わなきゃいけないことだから反って良かったのかも知れない。

「えっと、ですね。実は――――――――」

 僕はロジェと分かれた後の出来事を二人に大まかに話した。シエルさんと話したことは言わなかった。単純に、言いたくないなって思ったのだ。ロジェは話していく内にどんどん笑顔が抜けていき、エアリエルは最初、興味深そうに聞いていたけど酒場での話を始めたら心底嫌そうな顔に変わっていった。

「それでですね。二人にはその、先にリンさん達のところに帰ってもらうのがいいかな~なんて思っていまして」

「言いたいことはそれだけ?」

 俯いたせいでロジェの金髪が前に垂れ下がる。そのせいで表情が見えない。でも怒ってる気がする。静かに怒ってるよね!!しかもそのセリフ、ヤンキーとかが殴る前に言いそうなセリフだ。「最後に言い残すのはそれだけか?」みたいな。

「すみませんでした!!」

 僕は迷った末に土下座した。ロジェとエアリエルはそんな僕を冷めた目で見下ろす。……これは思ったよりきついぞ。相談もなしに決めたのは悪かったとは思っているけども!

 上からため息がする。おそらくロジェだろう。僕は恐る恐る顔を上げた。

「ロジェ?」

「うん、これははめられたね。アイギスさんはおそらくラモラックさんが狙いで協力させるためにわざとマーゴットさんとついでにリアン兄ちゃんを呼んだ。そしてマーゴットさんのことは始めから知っていてその性格を利用したってとこかな」

「怒ってない?」

「怒ってはないけど呆れてるかな」

「リアンのバ~カ。相談ぐらいすれば良かったのに」

 呆れ笑いを浮かべるロジェ。そしてからかうように言うエアリエル。

 二人とも本気で怒ってはいないみたいだ。ひとまず安心。僕は立ち上がり、ベッドに座った。

「ねえ、リアン兄ちゃんはアイギスさんとネルさんのこと、どう思ってる?」

 それは、ロジェは二人を信用できないってことだよね……。

「僕は……、さっきのロジェの話聞いて少し分からなくなったかも。そう言われると、ネルさんがラックさんと組んだのは本当に偶然か?って思うし。でももしかしたら腐れ縁って言ってたから二人とも考えることは同じで、話し合っていないからそう見えるだけかもっても思うし」

「可能性はゼロじゃないね。まあ、私は今回どう転ぼうとリアンと契約してるから一緒にいる~」

 そう言ったエアリエルは僕の肩に腕を乗せ、寄りかかる。そして僕の頭に顎を乗せた。妖精だからか重くはなかった。

「とりあえず今更断れないだろうし、様子見かな。エアリエルは人から姿をできる限り視認できないようにすること。ラモラックさんはおそらく見えてしまうだろうけど。――マーゴットさんも多分姿を見せても大丈夫だと思う」

「は~い」とエアリエルは子供のように片手を上げ、僕の後ろで返事をする。

「リアン兄ちゃんは失敗したときのことを考えて極力目立たないこと。僕は別行動で、リアン兄ちゃんをできるだけ助けつつ、古代の魔導具を探しに行くよ」

「古代の魔導具は僕も探りながら動くよ。――ありがとうロジェ」

「僕はリアン兄ちゃんに助けられたからね。このくらいはやらないと」

「もうこんな時間だし早く寝ないと朝起きれなくなっちゃうね」

 僕は大丈夫だけどロジェは寝ないと疲れとれないと思う。

 エアリエルは僕と同じで寝なくても大丈夫みたい。エアリエルだけじゃなく、妖精は、寝るのはどっちでもいいらしい。必須ではないようだ。

「そうだね」

「じゃあ、おやすみロジェ」

「おやすみ、リアン兄ちゃん」

 ロジェが寝るまで僕は布団に入り、寝たふりをしていた。ロジェはやっぱり疲れていたみたいですぐに寝てしまった。

「エアリエル、起きてる?」

 僕は小声で、隣で横になっているエアリエルを呼びかけた。

「起きてるよ」

 エアリエルも小声で返す。

「少し付き合ってくれない?」

 そうして僕たち二人は静かに外に出た。

「何するの~?」

「練習に付き合ってほしいんだ」

「練習?」

 エアリエルは不思議そうに首をかしげていたが練習と聞き、さらに不思議そうに僕を見ていた。

「契約したときにエアリエルができることなんとなく分かったけど、実際見たことないものばかりだし、連携もしたことなかったからやっておきたいなあって思って」

「そういうことならまっかせて!」

 今回、四天王と前々皇帝と僕も戦うかも知れない。そのときにぶっつけ本番は少し怖い。

 アイギスさんが前々皇帝、そしてラックさんが四天王と戦うって話だったけど、心のざわつきが収まらないのだ。他にも協力者がいるみたいだけど遊撃隊などを担当するらしい。僕は二人をできるだけ温存させる役割だ。

「エアリエルは風を司る妖精だったよね?」

「うん」

「だったら風を僕に纏わせることってできたりするの?」

「できるけど、能力で気を纏わせることができるからあんまり意味ないんじゃないかな?」

「それもそうかも?――――エアリエルは今まで契約した人っていなかったの?もしいたらそのときどういう使い方していたか教えてほしいな」

 ぜひ参考にさせてもらいたい。

 エアリエルは考えるような仕草をしたかと思えば、何か思い出したような表情になった。

「えっとね、風を吹かせてスカートめくり?をよくしていたよ。何が楽しいのか分からなかったけど」

 スカートめくりだと?!多分、小学生くらいの子、だよね……。それ以外だと……、うん、正直考えたくないな。

「他には?」

「他には~、空気を操ろうとしていたかな。あまりにもうまくできないから諦めちゃったけど……」

「空気を操る?」

「その人は真空状態にさせたり、気圧を変えたりしたかったらしいんだけど、一度も成功しなかったんだ~」

 成功しなかったのか。できたらものすごく強くなりそうだけど……。今はそんなに練習する時間もないし、他の考えた方がいいよね。

 う~ん、と首をかしげる。

 ダメだ。何も思いつかない。やっぱり風を纏わせる方法しか攻撃で使えそうなの思いつかないな。ああ、でも、僕はこの国の人に対して能力を誰にも見せてないからあえて能力を発動させないとか?切り札的に使う感じ?相手は僕が何の能力を持っているか分からないはずだから、相手はいつ能力発動させるか気を張ることになる、か?

 僕はエアリエルにこのことを言ってみた。

「うん、案外悪くないかも。あとはそうだな――能力の出力を今リアンができる最高以上に出したいときに威力をバックアップする感じで風を纏わせるとかかな。そうじゃないなら能力で戦った方が慣れもあっていいと思うし」

 自分で出せる最高以上の力か。確かに、僕が仮に能力最高80%使えるとして、でもそのとき60%しか出していなかったとする。それを風を纏わせて80%とするより自分で80%出した方がいいか。

「それじゃあとりあえず、風を纏わせて戦う練習をしようか」

「りょうか~い。それじゃあリアン、行くよ!!」

「いつでも来ていいよ」



 練習は早朝まで行われた。時間にして2時間ぐらい?闘技場での戦いを控えているため、ギリギリまでやると体力が持たないのもあって早めに切り上げたのだった。

 でも、風を纏って戦うコツはなんとなくつかめた気がする。時間が足りないのもあって能力と一緒に使うところまではいかなかったけど。ロジェに能力を使うなって言われてるから、今日は風を纏うだけで戦ってみようと思う。実戦練習にもなると思うし。

「エアリエル、付き合ってくれてありがとうね。――部屋に戻ろうか」

「うん。今日の朝ご飯は何かな~」

「あはは、まだ朝ご飯まで結構時間あるよ」

「そっか~。お腹すいたな~」

 隣でお腹の音が鳴る。僕もお腹の音は鳴るほどじゃなかったけど、少しお腹がすいてしまった。

「冷蔵庫に何かあるか見てみようか。僕も何か軽く食べたいし」

「それじゃあ、早く部屋に戻ろう!!」

 エアリエルに手を引かれ、急ぎ足で部屋に戻るのだった。

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