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第二部 一幕 叛逆の狼煙
酒場 前編
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僕たちは店を出た後、アイギスさんの後ろに続き歩いた。そして裏通りのさらに奥、暗闇に包まれた場所にある酒場の前に到着した。
アイギスさんが扉を開けたことでカランカランという音が鳴り響く。その音を聞いた店の人はコップを磨くのを止め、僕たちを見た。
「いらっしゃい――それで今日は何のご用かしら?」
女口調で話す、サングラスをした男はアイギスさんを見るなり声のトーンを落とし、目を細めた。
「ジンバックは売り切れた。在庫はもうすぐ届く」
「そう。今日は店を開けないわね」
店の人は指をパチンと鳴らした。その音が引き金となって何かが店の中をめぐるのを感じた。
ラックさんと僕はこの店の中に閉じ込められたと直感的に理解した。マーゴットさんもなんとなく気づいたみたいでラックさんはマーゴットさんを守るように立っていた。
「大丈夫よ。そんなに怯えなくても。ただ外部からの干渉を受けない結界を張っただけだから。話が終わったら解除するわ」
店の人は僕たちを安心させるようにやさしく微笑んだ。そして、さあ座って座ってと言い、僕たちをカウンターへと案内した。僕たちは案内されるがまま、カウンターへと座った。
「それで?要件はあなたの奴隷――ネルちゃんのことかしら?」
僕は固唾を飲み、アイギスさんと店の人の動向を見ることにした。
なんとなくネルさんが奴隷であることは察していたけど、アイギスさんの奴隷だとは思っていなかったから内心驚きである。
「私は実行することにした。これ以上、私はネルをかばえない。それに今ほどあれを実行するのに好条件はない」
店の人はアイギスさんと話しながらも僕たちに何が飲みたいか聞き、飲み物を出してくれた。
「あなた以外の表情を見る限りちゃんと話をしていないみたいね」
「闘技場でネルがあれを見てしまった。最近、闘志がなくなってきていたから大丈夫だと思っていたが……」
「そこを見られていたというわけね」
「ああ。私たちはそのとき一緒にいたし、パーティーを組んだから目をつけられた可能性が高い。だったら巻き込んでしまった方がいっそ安全だと思った」
「あなたたち、アイギスが叛逆の手助けをさせようとしているわけだけど何か言いたいことあるんじゃない?」
ラックさんは席を立ちアイギスさんの前に立った。僕とマーゴットさんはそれを静かに見守っていた。
「アイギス様。この酒場に来る前、いくらでも殴ってもいいとあなたは言いました。でもそれじゃあ割に合いません。もし失敗すれば僕たちは罪人だ。そして処刑されるでしょう。あなたの勝手な都合に僕たちが巻き込まれる筋合いはない。僕には守りたい人がいる。本当に叛逆を起こすというのなら、僕たちはこの国を去りましょう」
ラックさんはアイギスさんに向けていた視線からマーゴットさんの方に視線を向け、そう締めくくった。
僕もラックさんに同意見でうなずいた。
「ラモラック卿、正直に話そう。本当は今からでも巻き込まれない方法はある。この酒場のオーナーならあなたたちを守ってくれるだろう。だがこの国の弱者のため、ネルを守るために私に力を貸して欲しい。その代わり、貴殿らの望む物は何でも手に入れて見せよう。私の首でもなんでも差しだそう」
アイギスさんはラックさんの目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「お前、俺の正体を知っていてわざと巻き込もうとしたな」
僕はラックさんの態度の豹変の仕方に驚いた。さっきもいつもと違う感じだったけど怒りでそういう態度なのかと思っていた。でもこれは違う。まるで別人のようだ。それに今、ラックさん、能力発動しているような?
「私はアイギス様に協力してもいいと思うわ」
僕は今まで静観していたマーゴットさんを見た。その姿は凜としていて女王を彷彿させた。
「マーゴット……」
「確かにラックの言うとおり私たちはあなたに巻き込まれる筋合いはない。でもネルちゃんを、一人の女性を守りたいという気持ちは伝わったわ。私はその気持ちを否定することはできない。だって否定してしまったら私はラックを否定することと同じだと思うから」
「でも、マーゴット。失敗したら僕たちは……」
「ラック。私はあなたがやり遂げられるって信じているの。あなたは誇り高き円卓の騎士だったでしょう?そして今は私の騎士でもある。騎士として弱者を守ってほしい。騎士の誇りをここで私のために捨てて欲しくないわ」
ラックさんはマーゴットさんの手を握り手の甲にキスを落とした。
「マーゴットの望みのままに」
円卓の騎士ってどういう?円卓は、ブリテンはとっくの昔に滅んだんじゃなかったっけ?それに時代が違うはず!!
「ここでお目にかかれるとは思わなかったわ。生きているってことは分かってはいたけれど……」
オーナーは僕とは違った感じで驚いていた。
「あの僕、ついていけてないんですけど。そのラックさんはどうして生きているんですか?ブリテンが滅んだのって……」
「リア君は知らないみたいだね。まあ、知っている人の方が少ないけれど。能力は通常最大限解放はできないんだ。命に関わるからね。でもまれに最大限解放したその先に行く者がいる。能力が開花、まあ覚醒とも言える現象だね。そのときに肉体は最盛期のままに、寿命は本来の寿命より長くなる。そしていつでも最大限解放が可能になるんだ」
ラックさんってそんなに凄い人だったんだ。それにアイギスさんより強い感じもする。先ほどまで全然そんな感じしなかったのに。
能力のことも初めて知った。リンさんとオリヴィアさんは物知りだから知っているんだろうなとは思うけど。僕はその二人から最低限のことしか教わっていないから知らなかった。
「リア君はどうするの?」
マーゴットさんにそう尋ねられ僕は返答に迷い、うつむいた。
僕はどうしたらいいんだろう。
一般的な正義感に従って動くならば、この国の奴隷制度が間違っていると思うから叛逆に手を貸すのが正しいんだと思う。でも失敗したら?僕たちは殺される。そしてもし、僕だけ手を貸さなかったとしたら、黙って知り合いが殺されるのを見ることになるだろう。
その光景を見ることになるのならば僕も協力した方がいいのかもしれない。
「リア、後悔のない選択をしなさい。二度と後悔しないためにもね」
みんなが僕を見守る中、オーナーは僕にそう告げた。
二度と後悔しない選択を。僕は……。
「僕も皆さんに協力します」
正義感ではない。きっと僕は本音ではこの国がどうなろうと構わないと思っている。だったら何のために協力するか。
それは僕自身のため。僕が傷つきたくないがため。そんな自分勝手な理由。多分それが今の僕に取って後悔しないだろう選択。
それに僕はこの手で友を――――。
「私の身勝手で巻き込んでしまって本当にすまない。そしてありがとう」
アイギスさんは僕達に頭を垂れた。アイギスさんの目からは涙が流れていた。
オーナーはこのしんみりとした空気を破るように手を叩く。その音で僕たちの視線はオーナーへと集まった。
「話がまとまったようね。では詳しい話をしましょうか」
そして本格的に話し合いが始まるのだった。
アイギスさんが扉を開けたことでカランカランという音が鳴り響く。その音を聞いた店の人はコップを磨くのを止め、僕たちを見た。
「いらっしゃい――それで今日は何のご用かしら?」
女口調で話す、サングラスをした男はアイギスさんを見るなり声のトーンを落とし、目を細めた。
「ジンバックは売り切れた。在庫はもうすぐ届く」
「そう。今日は店を開けないわね」
店の人は指をパチンと鳴らした。その音が引き金となって何かが店の中をめぐるのを感じた。
ラックさんと僕はこの店の中に閉じ込められたと直感的に理解した。マーゴットさんもなんとなく気づいたみたいでラックさんはマーゴットさんを守るように立っていた。
「大丈夫よ。そんなに怯えなくても。ただ外部からの干渉を受けない結界を張っただけだから。話が終わったら解除するわ」
店の人は僕たちを安心させるようにやさしく微笑んだ。そして、さあ座って座ってと言い、僕たちをカウンターへと案内した。僕たちは案内されるがまま、カウンターへと座った。
「それで?要件はあなたの奴隷――ネルちゃんのことかしら?」
僕は固唾を飲み、アイギスさんと店の人の動向を見ることにした。
なんとなくネルさんが奴隷であることは察していたけど、アイギスさんの奴隷だとは思っていなかったから内心驚きである。
「私は実行することにした。これ以上、私はネルをかばえない。それに今ほどあれを実行するのに好条件はない」
店の人はアイギスさんと話しながらも僕たちに何が飲みたいか聞き、飲み物を出してくれた。
「あなた以外の表情を見る限りちゃんと話をしていないみたいね」
「闘技場でネルがあれを見てしまった。最近、闘志がなくなってきていたから大丈夫だと思っていたが……」
「そこを見られていたというわけね」
「ああ。私たちはそのとき一緒にいたし、パーティーを組んだから目をつけられた可能性が高い。だったら巻き込んでしまった方がいっそ安全だと思った」
「あなたたち、アイギスが叛逆の手助けをさせようとしているわけだけど何か言いたいことあるんじゃない?」
ラックさんは席を立ちアイギスさんの前に立った。僕とマーゴットさんはそれを静かに見守っていた。
「アイギス様。この酒場に来る前、いくらでも殴ってもいいとあなたは言いました。でもそれじゃあ割に合いません。もし失敗すれば僕たちは罪人だ。そして処刑されるでしょう。あなたの勝手な都合に僕たちが巻き込まれる筋合いはない。僕には守りたい人がいる。本当に叛逆を起こすというのなら、僕たちはこの国を去りましょう」
ラックさんはアイギスさんに向けていた視線からマーゴットさんの方に視線を向け、そう締めくくった。
僕もラックさんに同意見でうなずいた。
「ラモラック卿、正直に話そう。本当は今からでも巻き込まれない方法はある。この酒場のオーナーならあなたたちを守ってくれるだろう。だがこの国の弱者のため、ネルを守るために私に力を貸して欲しい。その代わり、貴殿らの望む物は何でも手に入れて見せよう。私の首でもなんでも差しだそう」
アイギスさんはラックさんの目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「お前、俺の正体を知っていてわざと巻き込もうとしたな」
僕はラックさんの態度の豹変の仕方に驚いた。さっきもいつもと違う感じだったけど怒りでそういう態度なのかと思っていた。でもこれは違う。まるで別人のようだ。それに今、ラックさん、能力発動しているような?
「私はアイギス様に協力してもいいと思うわ」
僕は今まで静観していたマーゴットさんを見た。その姿は凜としていて女王を彷彿させた。
「マーゴット……」
「確かにラックの言うとおり私たちはあなたに巻き込まれる筋合いはない。でもネルちゃんを、一人の女性を守りたいという気持ちは伝わったわ。私はその気持ちを否定することはできない。だって否定してしまったら私はラックを否定することと同じだと思うから」
「でも、マーゴット。失敗したら僕たちは……」
「ラック。私はあなたがやり遂げられるって信じているの。あなたは誇り高き円卓の騎士だったでしょう?そして今は私の騎士でもある。騎士として弱者を守ってほしい。騎士の誇りをここで私のために捨てて欲しくないわ」
ラックさんはマーゴットさんの手を握り手の甲にキスを落とした。
「マーゴットの望みのままに」
円卓の騎士ってどういう?円卓は、ブリテンはとっくの昔に滅んだんじゃなかったっけ?それに時代が違うはず!!
「ここでお目にかかれるとは思わなかったわ。生きているってことは分かってはいたけれど……」
オーナーは僕とは違った感じで驚いていた。
「あの僕、ついていけてないんですけど。そのラックさんはどうして生きているんですか?ブリテンが滅んだのって……」
「リア君は知らないみたいだね。まあ、知っている人の方が少ないけれど。能力は通常最大限解放はできないんだ。命に関わるからね。でもまれに最大限解放したその先に行く者がいる。能力が開花、まあ覚醒とも言える現象だね。そのときに肉体は最盛期のままに、寿命は本来の寿命より長くなる。そしていつでも最大限解放が可能になるんだ」
ラックさんってそんなに凄い人だったんだ。それにアイギスさんより強い感じもする。先ほどまで全然そんな感じしなかったのに。
能力のことも初めて知った。リンさんとオリヴィアさんは物知りだから知っているんだろうなとは思うけど。僕はその二人から最低限のことしか教わっていないから知らなかった。
「リア君はどうするの?」
マーゴットさんにそう尋ねられ僕は返答に迷い、うつむいた。
僕はどうしたらいいんだろう。
一般的な正義感に従って動くならば、この国の奴隷制度が間違っていると思うから叛逆に手を貸すのが正しいんだと思う。でも失敗したら?僕たちは殺される。そしてもし、僕だけ手を貸さなかったとしたら、黙って知り合いが殺されるのを見ることになるだろう。
その光景を見ることになるのならば僕も協力した方がいいのかもしれない。
「リア、後悔のない選択をしなさい。二度と後悔しないためにもね」
みんなが僕を見守る中、オーナーは僕にそう告げた。
二度と後悔しない選択を。僕は……。
「僕も皆さんに協力します」
正義感ではない。きっと僕は本音ではこの国がどうなろうと構わないと思っている。だったら何のために協力するか。
それは僕自身のため。僕が傷つきたくないがため。そんな自分勝手な理由。多分それが今の僕に取って後悔しないだろう選択。
それに僕はこの手で友を――――。
「私の身勝手で巻き込んでしまって本当にすまない。そしてありがとう」
アイギスさんは僕達に頭を垂れた。アイギスさんの目からは涙が流れていた。
オーナーはこのしんみりとした空気を破るように手を叩く。その音で僕たちの視線はオーナーへと集まった。
「話がまとまったようね。では詳しい話をしましょうか」
そして本格的に話し合いが始まるのだった。
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