僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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四章 討伐

路地裏

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 オリヴィアさんは強風が収まった後、僕たちをかばうかのようにエアリエルの前に出た。

「ロジェが傷つけられたのに黙って帰ると思っているの?」

「やっぱりそうなるよね……。一応、聞いただけ」

 反対の手で肘を掴みながら目をさま寄らせるエアリエル。
 その様は迷っているようにも、心配しているようにも見える。

 オリヴィアさんはそれに気づいていないのか、それとも気づいているけど、あえて気づかないふりをしているのか。

 オリヴィアさんの態度は変わらず、エアリエルに冷酷な眼差しを向けたままだった。

「今のあなたのことは信用できない。それに、リンが合図したにもかかわらず、ここにいないことも気がかり」

 オリヴィアさんは僕とロジェをいちべつすると、僕に向かって薬を投げた。

「リアン君、その薬ロジェに飲ませてあげて。それで回復すると思うから。そしてこの場から離れて」

 背を向けたまま言うオリヴィアさん。背中越しでも怒りが伝わってくる。

 僕はオリヴィアさんの言うとおりロジェを抱え、この場から離れた。



 エアリエルは二人が行ったのを見るとオリヴィアに視線を向けた。

「オリヴィア、薄々気づいてはいたんでしょ?」

「何が?」

 弱々しい声で言うエアリエルにオリヴィアは冷酷な声で問い返した。

「リンが普通じゃない、ってこと……」

 オリヴィアは目を閉じ、

「そうだね」

 肯定する。

「なら――――」

 身を乗り出し、期待した瞳を向けるエアリエル。
 だが、オリヴィアはゆっくりと水色の瞳を開け、

「――――でも、だから何? 普通じゃないことなんて出会った時から分かってた。今更、そのことに口出すつもりもない。リンが隠したいと思っていることを無理に暴く必要もない」

 期待を壊す。そしてもう話すことはないと能力を発動させる。

能力発動『聖女』

 オリヴィアは自分とエアリエルの周りに結界を展開させる。

「そう。オリヴィアがそう来るなら私も本気でいくから」

 エアリエルが結界内に強風を巻き起こす。
 さっきの強風とは比にならないくらいの破壊力。
 それでもオリヴィアの結界は破られない。オリヴィア自身も傷ついてはいない。
 おそらく、自分自身にも結界を展開しているのだろう。

「エアリエル、覚悟して」

 二人の戦いが始まった。





◆◇◆◇

 後ろから聞こえた大きな音。
 僕は思わず後ろを振り向く。

 ああ、戦いが始まったんだ。

 僕はもう一度前を向き走り出す。できるだけ離れたところにいけるように。

 そうして離れた路地裏に入り込んだ。
 僕はそこでロジェを座らせ薬を渡す。

「ロジェ、大丈夫? 飲める?」

「大丈夫」

 回復薬を飲むとロジェの傷口は塞がれていった。
 僕は飲み終わったのを見計らうと、あのときの言葉の意味を尋ねた。

「殺してはいけなかったってどういうことなの?」

 下を向いていたロジェは顔をあげ、僕を見るが、再び下を向いた。そして言いづらそうに言葉を発する。

「リアン兄ちゃんたちが殺した吸血鬼。つまり、義叔父さんね。義叔父を殺してしまうとリャナンシーが吸血鬼にした吸血鬼が目覚めるの。そしてその吸血鬼はね、リンさんって言う人の義父なんだよ」

 僕は一瞬何を言っているのか分からなかった。

 リャナンシーが吸血鬼にした? それにリンさんの義父が吸血鬼? リャナンシーは妖精じゃなかったのか?

 頭が疑問でいっぱいになる。
 そんな僕を構うことなくロジェは淡々と話し始めた。

「吸血鬼にはね仮死休眠って言うのがあるんだって。仮死休眠って言うのは吸血鬼自身が決めた特定の条件が破られるまで仮死状態で眠ること。リンさんの義父は仮死休眠をしていたんだけどさっきので破られちゃった」

「仮死休眠の条件がカイルさんを殺すことだったってこと? でもそれなら同じように討伐すれば……」

 僕はまたしても意味が分からなくて首を傾げる。

「リンさんって言う人が義父や義叔父のことをどう思っているかは分からない。でも、もし大切に思ってたら殺してはいけないんだよ」

「つまりどういうこと?」

「リンさんが破滅にむかわされてるってことだよ。リャナンシーっていう妖精は気に入った人を魅了して破滅に向かわせる妖精なんだって。魅了に応じなかったら破滅に向かわないらしいんだけどね。でも、リャナンシーは振り向いてくれるまで愛を乞い続ける。ずっと一緒にいたら情はわくものでしょ? だから人はいずれ応じちゃう」

「リンさんはリャナンシーに応じちゃったってこと?」

 ロジェの言っていることは分かるけど、それが今回のこととどう結びつくのかやっぱりよく分からない。

「リャナンシーの話だとまだ応じていないみたい。でも、義父や義叔父を殺すことでリンさんがリャナンシーを心の拠り所にする可能性があるでしょ? 今回のことはリャナンシーがリンさんを破滅に向かわせるための舞台だったってことさ」

 僕はうつむき、手を握る。手には力を入れすぎて血がにじんでいた。
 
 リャナンシーの手のひらの上だったことに腹が立つ。
 でもそれ以上にリンさんがそんな目にあっていたことに気づけなかった自分に腹が立つ。

「ロジェ、リンさんの元に行こう。これ以上、リャナンシーの好き勝手にはさせない」

「うん」
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