僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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四章 討伐

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 ここは町で一番大きな図書館。壁を覆うようにして本棚が置かれている。

 ロジェは階段をのぼると、背伸びをして、ある本を取り出した。

「ロジェ、何調べてるの?」

 後からのぼってきたオリヴィアはロジェの持っている本をのぞき込み、尋ねる。

「妖精についてかな。僕、妖精について詳しくは知らないし、ちょっと気になることがあってね」

 目次を開き、真剣に調べ始めるロジェ。オリヴィアはその様子にしばし黙り込む。

(聞きそびれた……)

 タイミングを逃したオリヴィアだったが、迷った末に、口を開いた。

「リャナンシーがどこに行ったか知ってる?」

「リャナンシーにはもう少し観光してきなよって言ったんだ」

 本をめくる手を止めず、ロジェはそう答える。
 今ので意図を汲み取ったオリヴィアは確認をこめて、

「リャナンシーがいない方が都合良かったから?」

 口に出す。
 ロジェは本のページをめくる手を止めると、水色の瞳をまじまじと見つめた。

「オリヴィア姉ちゃんも、違和感感じてる?」

「違和感っていうか、エアリエルが少し変だった気がして……」

「エアリエル?」

 オリヴィアはロジェの視線に耐えられなくなり、視線をそらす。
 ロジェは再び本に目を向けながら、会話を続ける。

「うん。エアリエル、なにか魔術がかかってた気がして。気のせいかも知れないけど」

「そうなんだ。僕はリャナンシーから普通の妖精と違う気配がしてね。そこまで変な訳じゃないんだ。僕たちと会う前にその気配の人と会っていただけかも知れないし」

「そうなんだ」

 本を読んでいたロジェは、あるページにいたると、オリヴィアの方をパッと振り向いた。

「どうしたの?」

「オリヴィア姉ちゃん、吸血鬼の本もってきてくれない?」

「いいけど……」

 オリヴィアは吸血鬼の本が置いてある本棚の所へ向かうと、何冊か取り出した。
 その間、ロジェはなにか考え込んでいる様子だった。

「ロジェ、これでいい?」

「うん」

 ロジェは吸血鬼の本を手に取ると、パラパラと高速で見始めた。
 そして、目当てのページを見つけたのか、動きを止め、じっくりと読み始めた。
 オリヴィアはロジェのその必死な様子に首を傾げながらも、邪魔しないように口をつぐんだ。





◆◇◆◇

 リンさんが宿をとった部屋の一室。僕はオリヴィアさんと合流した後、すぐに別れ、リンさんと合流していた。

 リンさんと夕飯を早めに一緒に取ろうと思ったけどリンさんは水だけでいいらしい。もちろん僕はハンバーガーを食べるけどね。

「リンさん、僕ずっと気になっていたんですけど不完全な吸血鬼ってなんですか?」

 僕は首をかしげ、リンさんに尋ねる。
 ずっと銀をもっていれば大丈夫だと思っていたけど、不完全な吸血鬼にはもしや効かないのでは? と思ったからだ。

「俺の義叔父であるカイルが吸血鬼の心臓を食べたのは聞いたか?」

「はい」

「その心臓は、上位の吸血鬼のもので、生体を調べるためにカイルが管理していたものだった」

 優しい声が止まる。
 しばらくの間、部屋が静寂に包まれた。
 僕は固唾をのみ、リンさんの言葉を待った。
 やがて意を決したのか、リンさんは語気を強め話し始める。

「カイルは吸血鬼の心臓を食べたことでその吸血鬼に自我を乗っ取られた。つまり、今この町で切り裂きジャックと言われているのはカイルの皮を被った吸血鬼だってことだ」

「それじゃあ、吸血鬼そのものじゃ……」

「そうとも言える。だが、満月の夜の次の日だけは必ずカイルの自我に切り替わる。だから不完全なんだ」

「だったら、今回吸血しないんじゃないですか?」

「そうだったら良かったんだがな……。カイルは心臓を食べる前、リャナンシーを怒らせたんだ」

 リャナンシーを怒らせることと今回なにか関係あるのだろうか。
 そういえばリャナンシー、呪いをかけたって言ってた。それに心臓食べたのも執着だとも。

「リャナンシーは怒ってカイルに呪いをかけた。精神狂化の呪いを。それでどんどん精神がおかしくなって今や立派な無差別殺人鬼だ」

 リンさんは飲んでいた水を一気に流し込む。

「怒らせた原因って分かっているんですか?」

「リャナンシーは、俺の義父であるハリーのことを気に入っていたんだ。それをカイルが暗殺しようとしたから……」

「そういうことですか」

 たぶん、権力争いとかだろうな。

「そういえば、オリヴィアとロジェはどこに行ったんだ?」

「町の図書館に行きましたよ? それがどうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。そろそろ討伐の準備をしないとな」

「そうですね。もうそろそろ夜になりますしね」





◆◇◆◇

 外はすっかり暗くなり、街灯が街を照らす。

「リアン君、作戦通りに囮よろしく。私はそこを暗殺するから」

「うっ、嫌ですけどしょうがないですね。リンさんは大丈夫なんですか?」

 リンさんも若い男の人に入るよね? リンさん大丈夫なのかな?

 リンさんとはあの後、別行動を取っていた。作戦では挟み打ちをすることになっている。

「もし、吸血鬼がリンの元に来たら合図を出すことになっているから」

「そうですか」

 ニンニクは許されなかったけど銀の武器は持つこと許されたもんね。たぶん大丈夫。きっと大丈夫。

 ああ、足が震える。
 あれ、ロジェ? なんで物陰から出てきたんだろう?

 ロジェが僕にしゃがんでっと言ってきた。僕は何かなと思いながらしゃがむ。

「リアン兄ちゃん、銀の銃、僕に預けてくれない?」

 耳元で内緒話するように小声で言われた。僕も小声でかえす。

「どうして?」

「もし僕の考えていることが当たっているなら僕が持っていた方がいい気がするんだ」

「まあ、僕には銀の剣があるからいいよ。ロジェは杖しか武器持っていないしね」

 ロジェも物陰に戻ったみたいだし、歩くか。





◆◇◆◇

 作戦を実行してから二時間が経過していた。しかし――――

「なんか来ませんね? 新聞の記事デマだったんでしょうか?」

「今日は現れないのかな?」

 あれ? 急に霧が深くなった? 気のせいかな?

「この気配。リアン君後ろ!」

 迷わず僕は素早く銀の剣を抜刀する。

 避けられた?!

 オリヴィアさんがすぐにリンさんに合図を出すために銃を上に向けて撃つ。空に赤い煙が立ち上った。

 まずい、吸血鬼がオリヴィアさんの方に!

「行かせない」

 吸血鬼に向かって剣撃をうがち、距離をとる。

 かわされた?! でも敵はこっちを獲物と定めた。これでいい。

 能力発動『聖女』

 オリヴィアさんの体に聖なる気がまとわれる。

 あれ? オリヴィアさんこっちに向かってきてる?
 まさかの飛び膝蹴り!!

 僕は思わずしゃがむ。

 えっ、なんか今、金属音した?
 あ、やばい吸血鬼がこっちに向かってきてる。

 吸血鬼のもつ鎌と僕の剣がぶつかる。

「リアン君、この吸血鬼、能力使ってる。たぶん念力、周囲に気をつけて」

「はい!」

 鎌との実戦したことないからやりづらい。間合いが分かりづらい。

「――っ!」

 鎌がかすった。痛い、ものすごい激痛が二の腕に走る。

 どういうこと?! かすり傷なはずなのにここまで激痛走るなんてあるのか? 毒? でもそれなら全身にまわるんじゃないか?

「俺の邪魔をするな。兄貴は俺が殺さなきゃいけないんだ。そんなことはどうでもいい。血を吸わせろ。この体は効率が悪い」

 言動がおかしい。これがリンさんの言っていた精神狂化の影響!!

「オリヴィアさん、この鎌から攻撃を受けると傷の痛みがひどくなります。気をつけてください」

「十中八九、能力のせいだと思う。私はさっきリアン君に能力で回復したけどそれが治らないなら」





◆◇◆◇

 やっぱり、僕の推測通りだった。こうじゃなければ良かったのに。

 ロジェは銀の銃弾が入った銃を向ける。一発で絶命すればいいんだけど。
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