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三章 依頼任務

裏側

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 ユースティアはリアンをオリヴィアの元へ送り届けた後、戦争の裏についての証拠隠滅に動き回っていた。

 そのため、時間はすっかり深夜をまわっていた。

 魔王城の目の前まで来たユースティアは、大きな扉の取っ手を掴み、押そうとした瞬間。
 扉が内側から開けられた。
 前に重心をかけていたユースティアはバランスを崩すが、すぐに体勢を整えた。

(転ぶところだった……!)

「ティアたん、帰ってきたんだね」

「ああ、ただいま。傷の具合はどうだ?」

 ユースティアは内心バクバクしながらも、胸に手を当て、平然を装った。

「僕は数日休めば大丈夫だと思うけど、パルウェの奴がな……」

「そうか。二人ともゆっくり休め。その間私が仕事をしよう」

「いいの?」

「ああ」

 頷いたところで、ユースティアは何かを感じ取り、動きを止める。

(この感覚は……)

 ルシファーは動きを止めたユースティアを不思議そうにのぞき込む。

「どうしたの? ティアたん」

「いや、何でもない」

 ユースティアは首を左右に振ると異空間からあるものを取り出した。

「少し夜風にあたってくる」

「気をつけてね」

 扉が完全に閉じるまで、ルシファーは笑みを浮かべながら、ユースティアを見送った。

(あの獲物をもつなんて久しぶりだな、ティアたん。本当、相手がかわいそうになるよ)





◆◇◆◇

 シネラリア国のお城の近郊にヒエロニウスとリリアンはいた。

「リリアン、まだリュカ王子生きているよね?」

「はいなのです。今はシネラリア国の王城にいるのです」

「はは、だったら取り戻さないとね。魔法陣は壊されてしまったけどリュカ王子がいればなんとかなるもんね」

 そうしてシネラリア国のお城に向かおうとヒエロニウスが足を一歩踏み出した瞬間――――

「かはっ」

「主様!」

「やってくれたね!! ユースティアの奴」

 ヒエロニウスは血を吐き出すと、顔をしかめ、体の中に手を突っ込んだ。

「主様、大丈夫なのです?! 肺に弾丸が刺さっているのです」

 リリアンは手をあわあわさせながら心配の声をあげる。ヒエロニウスはそんなリリアンに苦笑いを浮かべた。

「ああ、大丈夫だよ」

 ヒエロニウスは険しい顔をしながら、肺に刺さっている弾丸を自力で取り出すと、弾丸を地に落とす。

「弾丸が飛んできた方角的に魔王城からかな」

「なっ?! そんなことあり得るのです? ここからどれだけ離れていると思って」

「これが全力じゃないって言うんだからふざけてるよ。本当に。今回は諦めるしかないかな……」

「諦めてしまうのです? 方角が分かっているなら別に大丈夫なのでは?」

「無理だよ。多分だけどこのまま行ったら直接こっちに来るよ。今の俺たちにはかなわない」

「悔しいけど、しょうがないのです。今回は諦めるのです。主様、肩貸してあげるのです」

「ありがとな。リリアン」

「はいなのです」





◆◇◆◇

 魔王城のてっぺんにユースティアは銃を構えて立っていた。

 銃口からは煙が立ち上っている。

「当たったか。これでも動くというなら心臓を貫くしかないな」

「師匠、ただいま帰りました。相変わらず射撃の腕がすごいですね」

 師匠の能力に『武神』と呼ばれるものがあるが銃は近代でつくられた物でありこの能力は意味をなさない。扱えないのだ。

 ではどうして師匠は標的に当てられたのか。

 師匠の実力である。

 『真実眼』によってある程度補助はしているがそれだけでは当たらない。師匠の実力があって初めて狙い通りに射撃可能になる。

「俺も、射撃やろうかな」

 レオナはユースティアの隣に立つと、銃をまじまじと見つめた。

「レオナには向いてないさ。戦闘になると冷静でいるの苦手だろ?」

「それならルシファー様に稽古頼むか……」

「ルシファーは今怪我をしているからな。相手なら私がするぞ」

「だって師匠、ものすごく強くて俺、ただのサンドバックになるじゃん。それにしてもルシファー様が怪我しているなんて珍しいですね?」

「相手がヒエロニウスだったからな」

「へぇ~、そうなんですね。もしかして師匠が射撃した相手は……」

「そうだ。ヒエロニウスだ」

「ヒエロニウス様、ご愁傷さまです」

 レオナは射撃の方向に顔を向けると、目を閉じ、手を胸の前で合わせた。

「もう戻るんですか?」

 再びレオナがユースティアの方を見ると、師匠は銃をケースに仕舞っていた。

「そうだな。警告はした。それにヒエロニウスも警告の意味を悟ったようだしな」

(師匠のつけているペンダント、揺れてるな)

「とうとう、割ったか。私は少し用事ができたから少し出かけてくる。ルシファーにもそう言っといてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

 そうして師匠は一瞬のうちに姿を消した。

「アリス、部屋に入るぞ」

「は~い」

 レオナの体に隠れていたアリスと呼ばれた黒猫は背中を伸ばすとレオナの肩に飛び乗った。
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