僕は幸せになるために復讐したい!

雨夜澪良

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三章 依頼任務

リュカ王子の独白

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 僕は昔、大の勉強嫌いだった。

 それである日城を抜け出した。

 だけど世の中のことを知らなさすぎて王子の格好のまま飛び出したもんだからスラム街に入ってしまって案の定身ぐるみ剥がされそうになった。

 そこを二人組の旅人に助けられた。そしてそのとき、僕はその旅人が数日滞在すると聞いて毎日のように城を抜け出し旅人の話を聞きに行った。英雄の話やこの国の外に海というものがあること。他には、王宮では教えてくれないことをたくさん教えてもらった。そして僕が悩んでいたことも相談に乗ってくれた。

「僕、勉強が嫌いなんだ。どうしたら好きになれる?」

 そう聞いたら旅人の人はこう言ったんだ。

「そうだな。好きになる必要はない。嫌いのままでいい」

「勉強しないと先生に怒られるよ? それも嫌なんだ」

「別に勉強しなくてもいいとは言っていない。嫌いでも世の中それ以上に嫌なことがあるものだ。それらを天秤にかけたときどっちが嫌か考えればいい」

 ドーナツを食べていた男の人が女の人にもドーナツを渡す。

「ティア、それじゃあ、分かんないさ。もっと簡単に言わないと」

「そうか」

「リュカ君、大切な人を守るためには知識をつけないと守れない場面が出てくるもんだよ。それに自分の身を守るためにも知識がないと守れないよ。リュカ君がスラムに入って身ぐるみ剥がされそうになったみたいにね」

「それはそうかもしれない」

「好きな人はいたりしないの?」

「いるよ」

 手で触れなくても顔に熱が集まってるのが分かった。きっと顔が赤くなっているに違いない。

「そうか、そうか。だったらなおさら頑張らないとな」

「うん」

「もし、本当にリュカ君が手に負えない状況になったら一度だけ助けてあげるよ。これも何かの縁だしね」

 男の人はそう言うと、青色に輝くペンダントを懐から取り出した。

「アル、いいのか、そんなもの渡して?」

「いいんだ。そうした方がいい気がするんだ。勘だけどな」

 首を傾げた女の人の疑問に男の人は穏やかな顔でそう答えると、僕の前にペンダントを突き出した。

「リュカ君、助けて欲しくなったらこのペンダントを割るんだ。そしたら駆けつけてやる」

 僕はペンダントの下に手を出し、受け取ると、首にさっそくかけた。そして、見えないように服の中に入れる。

「ありがとうお兄さん」

「あと、俺たちは今日この国から移動するよ。だから明日からここに来てもいないからな」

「行っちゃうの?」

「ああ、私たちはやらなきゃいけないことがあるからな」

「また会える?」

「きっと会えるさ」

 こうして僕たちは別れた。


 それから僕は一生懸命勉強した。国をより良くするために。大切な人を守れるように。

 だけどある日知ってはいけないことを知ってしまった。

 そこから人生が狂った。大切な人が憎くなった。でも嫌いにはなれなかった。大切な人の行動には暖かさがあったから。僕のことを大切に思ってくれているんだって分かっていたから。いっそのこと大切にしてくれなければ良かったのに。そしたら僕は楽になれたのに。

 この憎しみだけが僕の生きる活力だった。死ぬことを考えなかった訳じゃない。でも僕が死ねば大切な人を実験体にすると言われていた。それに僕は自分で死ぬ勇気がなかった。いっそのこと狂ってしまえば自分で死ねたかも知れないのに。

 ペンダントを割ろうと何度も思ったこともある。だけど、割っても助けが来なかったらって考えてしまって割れなかった。呼べば助けに来てくれるっていう希望を失いたくなかったのかもしれない。

 もし失えば完全に僕の心が折れると思ってしまったから。

 僕にはどうしていいか分からなかった。

 だから頼ることにした。シネラリア国に。あの国はとてもやさしい国だったから。きっと助けてくれると思った。

 そしてあの日僕は婚約破棄を実行し、大切な人を国外追放に追いやった。

 あわよくば誰かが僕のことを殺してくれるんじゃないかと期待を込めて。


 戦争が終わっても僕は皮肉にも生き延びてしまった。

 戦争で自分の国の人がたくさん死んだ。僕はその事実に耐えられなかった。

 シネラリア国の人は、僕は被害者だから新しい人生を歩んでもいいんだと言ってくれた。婚約破棄のときに王位剥奪されているから王族としての義務もないからと。だけどその優しさがかえって僕にはつらかった。

 だから、僕はペンダントを壊すことにした。僕を殺してもらうために。

 なぜか知らないけどこの日きっと来てくれるって確信があったから。

 案の定、来てくれた。ペンダントを渡したお兄さんではなくお姉さんだったけど。

 そしていきなり抱きしめられた。

 実験体になったあの日から感情を表に出すことはなかった。人生に絶望していたのもあるし、自分が自分でなくなってしまっているように感じていたから。

 だけどその暖かさに触れ僕は子供のように泣いてしまった。

「リュカ、お前は強くなった。あのときよりも。本当によくやった」

 僕の背中をお姉さんがあやすように優しくなでてくれた。こんなこと誰にもされたことなかった。

「本当にそうでしょうか。僕はうまくやれたんでしょうか。大切な人を守り切れたんでしょうか」

「ああ、お前はちゃんと守れたさ。今までよくやった」

「みんな、新しい人生を歩んでいいって言ってくれました。だけど僕には無理です。そんな資格ないんです。僕、実験のときに多くの人たちが死ぬのを見ました。あのときの叫び声が耳から離れないんです。僕の起こした戦争で多くの人たちも死にました。そんな命の上に生きるなんて僕には耐えられないんです」

 泣いているから聞き取りづらいのに最後まで僕の思いをお姉さんは受け止めてくれた。

「そうか」

 僕は涙を腕で拭って願いを口にする。

「はい。だから僕を殺してくれませんか。それが僕の最初で最後の願いです」

「本当にいいんだな。本当に後悔はないか」

「海を見てみたかったっていうのはあります。でもいいんです」

 そうして部屋は静かになった。

 メイドが部屋に入ってきたときには窓が開いており、リュカ王子の姿はなくなっていた。
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